25:俺は……女神を恨む。
別れ際に老婆は言った。
「本当の娘の魂はもう逝ってしまったのかもしれない……けれど、年を取っておぼつかない手つきのわたしに……優しく鶴の折り方を教えてくれたあの子に世界を壊してほしくない……そう願ってしまうんだよ」
雨が降った後の森の匂いは、緑が濃く、どこか清々しくも感じる。
ポプリを持っているだけ、ただ道をまっすぐ進んでいるだけなのに、同じところを巡ることはなく、順調に森の出口に向かえているようだ。
いつもなら次の町にはなにがあるんだろう?なにを食べる?……他愛ない話をしながら歩くふたりなのだが、なぜか今は、無言でゆっくりと歩いているだけだった。
「…………」
「なにか言いたい事があるかんじですか?グラウ様」
グラウはどこかソワソワとして、時々唸っていた。イサネはそれに気付いて、口を開いた。
「……イサネは……【紫炎の魔女】?」
「違いますよ?」
不思議そうな顔でイサネを見るグラウに、イサネは笑ってしまった。
「聞き耳立ていらしたのに、やっぱり理解しきれてない感じですか?確かにややこしい話になっちゃってますから気持ちは分かります」
「昔から……おとぎ話を知っている……から……なにが正しいのか……理解が追い付かない」
「理解なんてここにきて日の浅い私なんかもっと出来てないです……そうですね……私はあのおばあさんの気持ちと思いを、今【ウェスト】の王都にいる娘さんに会ってぶつけてやる!ってだけですね」
いつものように鼻息を荒くするイサネに目を丸くする。
「……もっと……悩んでいるかと思った」
「なんですかその言い方!グラウ様ほどぽやぽやしてませんからね私!」
「それは少し……傷つくな……そうだな……俺は……」
すっと……イサネの手に自分の手を重ねるグラウ。
「俺は……イサネを守るよ」
「……主がなにを言ってるんですか……ふふ……お言葉に甘えちゃおうかな?」
「……うん……うん??」
なぜか必要以上ににぎにぎにぎにと……イサネの手をにぎりまくるグラウ。
「ぐ……グラウ様?ちょっと……ちょっとなに……どうし――」
「イサネ……小さい」
「あ……わ……わかりますか……」
元々身長差があり、イサネが小さいことは理解していたグラウだが……イサネの体の大きな変化に、気づいてしまった。
「やっぱりみんなと違うみたいです、私の体」
【聖女】の力を使うことで獣化が進んでいくイサネの体は、他の獣人の特殊な力と違って、自分の意志で獣になっているわけではない。
「女神様もたぶん……【紫炎の魔女】の本当の姿を奪ってしまったことにうしろめたさがあったんじゃないでしょうか?だから【聖女】として語られてている存在が持つ力を簡単に使えないようにするための代償を私に課したのかもしれないですね……あ、でもちょっとした手違いてしたとかの場合もあるかもですけど……」
「……だとしたら……俺は……女神を恨む……」
出口が近いのだろう……ピンク色の花が咲き誇る桜の木のトンネルに入った。少し、雨粒に濡れた花びらが風に舞っている。
「ダメですよ恨んだりしたら……よく考えてくださいグラウ様?女神様がいなかったら私は……私は貴方と出会うことは無かったんですから」
イサネはグラウにしがみつくように抱きついた。
「……私がキツネさんになっても……そばに置いてくれますか?」
手だけではなく、ひと回り小さくなっているイサネの体をグラウは抱きしめ返す。
「どんな姿でも……絶対に……」
「ふふ……グラウ様よりふかふかになっちゃうかもしれませんけど」
「それなら尚更、離すことはない」
「よし!」と……イサネはいつも通り、にかっと笑い、グラウから離れ駆け出す。森をでたら王都まではあと数日の距離……【聖女】としての役目の意味を、今一度考えながらイサネは、グラウの隣りを歩くこの時間を楽しみながら、進んでいく。




