21:頭を冷やして……だ。
宿探しをしながら街を見て回っている途中、町にある一番大きな宿に泊まっている金持ち客に声をかけられ、「いい試合を見せてもらった」と……部屋を用意してくれ、しかも、代金まで支払ってくれた。
「……この町に滞在している人たちも熱いパッションで生きてるんですね……ありがたいことですけど……」
金細工のドアノブを回して中に入ると、ピカピカと目が痛くなるほどの部屋の豪華さに驚き、声が漏れる……が、
「いい部屋……用意してもらっ……ゎぁ」
「グラウ様はベッドで……私はソファで十分です」
変な気遣いをされたようで……部屋は恐らくスイートルーム。相応しい広さと、設備が整っていたのだが……寝床はキングサイズのベッドのみ。
「俺が……ソファで……いい」
「なにいってんですか!今日いちでがんばったのはグラウ様です!ソファも割と大きいですけどグラウ様じゃはみ出ちゃいますよ!」
「……じゃあ床でいい」
「大人しくベッドで寝てください!確か……代金全部あの人に付くんですよね?ルームサービス頼みまくって嫌がらせしちゃりましょ……従業員さーん!!」
感謝はすれど、余計なお世話。
イサネはテーブルに置かれたメニュー表の上から下までをしっかりと注文し、しっかりと嫌がらせをした。
しばらくしてノックの音が聞こえ、ワゴン2つ分の料理や飲み物が運ばれてきた。
「……こちら……温かいうちにドウゾ」
やけに前髪の長い従業員。サービス業ではなかなか見ない人を雇っているんだなぁと、ちょっと不思議に思いながらすすめられたスープに直ぐに口を付けるイサネ。
「おぉ……さすが高級宿、料理の質がちがいますね」
「……うん……うまい」
「……ごゆっくり」
品数はあるものの、一品一品の量はそこまで多くは無かった為、小一時間で食べ終え、食後のティータイムへ。
再び、先ほどの従業員がティーセットを持って部屋にきた。
「お味はいかがでしたか?」
「申し分ない……素晴らしかった」
「それはそれは……おふたりの最後の晩餐……お気に召していただきなによりです」
制服を掴み脱ぎ捨て、本来の姿を現した。
「見事な早着替えだあ……漫画でしかみたことないなぁ」
「あぁ……やはり……か」
「な、なんでそんなに冷静なんだ……舐めてるのか!!」
ソファにゆっくりと腰を下ろし、リラックスした状態で、ナイフを構えて登場した蛇の獣人をぼーっと見ているグラウとイサネ。
「さっきの時点で怪しかったですから……ねぇ?」
「……臭いが……違った」
「チッ……ふん!冷静でいられるのも今のうちだ!そろそろ食事に混ぜた毒が……」
「あ、むだですよー」
グラスの影に置いていた解毒薬の入った空瓶を指で転がしながら、蛇の獣人に見せつける。
「そ、そんな……どう……どうしよう……」
自分の仕掛けた策がひとつもハマらなかったことにショックを受けてへたり込んでしまった。
「えー……たぶんあなた刺客に向いてないです……さ……元の自分に戻ってください」
「……え」
そっと両肩に手を置いてイサネは祈り、浄化する。
「……大丈夫……か?」
「ヴァルロス王の時より浸食は浅いみたいです……言い方が良くないかもしれませんけど……捨て駒だったんじゃないでしょうか」
「あ……あれ?僕は……あぁぁぁ……なんてことを!ごめんなさい!ごめんなさい!!!」
頭を床に何度も打ち付けて謝っている蛇の獣人の名はバイパー……まだ、16歳の少年であった。
「そんなに自分を痛めつけないでくださいね?あなたのせいじゃないんですから……よしよし……」
「あ……お優しいんですねイサネさん……それにとてもかわいい女性だ」
「へ?」
頭を撫でられ、デレたバイパー。前髪の隙間から覗く金色の瞳を輝かせ、頬を染めてイサネの手をギュッと握った。
「あ、あははは……そんなこと言われたの初めてです……と、とりあえず手を離してもらえるとぉ……」
「ああ!ごめんなさい!僕、美しいものを見るとまわりが見えなくなっちゃって……あぁ……でも本当にありがとうございました」
「(……術をかけるのも簡単だっただろうなぁ)」
いつの間にかバイパーの後ろに立っていたグラウは、バイパーの首根っこを掴んで持ち上げ運び、廊下に落とした。
「あたっ!!……お、怒ってますか?怒ってますよね?!……申し訳ありません」
「……明日……もう一度ここへ来い……頭を冷やして……だ」
「は、はひ」
眼光鋭くバイパーを睨み、乱暴に扉を閉めてソファにドンっと座り、腕を組んで黙るグラウ。
「食事の毒は危なかったですけどちょっとおまぬけさんで助かりましたね……?あれ、グラウ様?」
「……」
「ありゃ……こりゃ朝までダメだ」
ご機嫌斜めのグラウ。
断固としてソファから動かず……ベッドは結局イサネが使うことになり、朝を迎える。




