18:……なぜ泣くの?
夜明け間近――一瞬だけ深い眠りに落ちていたグラウ。窓からすうっと……少しだけ冷たく感じる風を感じ、目を覚ました。隣のベットでイサネが薄い毛布に包まって、丸くなって寝ているのを確認してふっと息が漏れる。
「…………ゆっくり休んで……イサネ」
起こさないようにそっと髪を撫で、追加で購入したシャツを着てグラウは宿を出る。
「(朝の……屋台か……いい匂い……朝食を買って………)」
朝日が昇る前から働き始める民たち。合間を見て食事をとる者が多い【ヴィヴァの町】では、片手間で腹を満たせる軽食を提供する屋台が町の中に数時間だけ並ぶ。
「おや珍しい!こんな時間に旅人がくるなんてねぇ」
「……いい匂いがした」
「はは!うれしいねぇ!サービスするから買っておいき!」
「……ありがとう……ご婦人」
いつも常連客におばちゃんと呼ばれていた店主は、ご婦人と呼ばれたことにさらに喜び、両手で持ちきれないくらいの出来立ての食べ物を持たせてくれた。もう少し見て回りたかったグラウだったがそうもいかず、落とさないように慎重に宿へ持ち帰った。
「ど、どどどど!どこいってたんですか!!!」
「……朝食を」
「は、はじめてのおつかい……!」
目覚めてグラウがいないことに気が付いたイサネ、慌てて着替えて外に出ようとドアを開けたところにちょうどグラウが戻ってきていた。ひとりで買い物をしたことの無いグラウの成長にイサネはちょっとだけ驚いていた。
「黙って出ていったら心配しちゃうんですから…………それにしてもいい匂いですね」
「……気を付ける……でも……これくらいのことならできるから……冷めないうちに食べようイサネ」
「ご当地グルメの魅力には勝てないですね……いただきます、グラウ様!」
テーブルの上に山のように積まれた屋台の料理を食べながら、あらためて今後の事を話し合う。
「【サウス】の今後はもう心配ないですし【ウェスト】に入るのもヴァルロス王の口添えでコソコソとしなくても大丈夫ですし……もう1日くらいゆっくりしたいところですね」
「……まだ体も……あの薬……毒……?」
「あははは!そうかもですねぇ……私に効き目が薄かったのは私がちゃんとした獣人じゃなかったからみたいですし……あれ……私【聖女】なのにデバフ多すぎでは………?」
陸の獣人用の呼吸の薬はもう2度と口にしないと誓い、美味しい食事で上書きして次の話題へ。
「それにしても魔女さん……大分こじらせてるみたいですね」
「……こじらせてる?」
「…………そうでした……グラウ様は女性の事に関して相当疎いんでしたね」
イサネの癒しの力を狙っている【紫炎の魔女】は【聖女】になろうとしている。
「【紫炎の魔女】と呼ばれてしまっていますが……その力は私より柔軟で幅広いものだと思います……使い方次第では【聖女】と呼ばれる存在になっていたはずなのに……」
「やり方を……間違えてしまっているんだな……」
「憧れに執着しすぎてしまっているのだと思いますたぶん…………――グラウ様」
「ん……?」
食事の手を止め、覚悟を決めた表情でイサネは言った。
「グラウ様の旅のお供のつもりでした……ですが……私が【聖女】として向かい合わなければならない世界に変化してしまった今……グラウ様を巻き込むことになってしまいます」
「…………」
「勝手な……申し出になりますが……私を解雇していただけませんか?」
重い空気になる……顔を伏せたままグラウの返事を待つイサネ……。
「……イサネ」
「はい……」
「【ウェスト】では……なにを食べる?……都には……美味しい揚げ菓子がある……イサネの……好きな……ベリーのジャムが……入っているものもある……」
「え……や……グラウ……さ……ま?」
グラウの発言に驚いて顔を上げたイサネ……その目には涙が今にもこぼれそうなくらい溜まっていた。
「……なぜ泣くの?」
「らって……そんな…………グラウ様は……お嫁さんを……みつけて……し、しあ………幸せにならないと……」
「……そう……言われてるけど……今は……イサネが……大事」
「へ……」
こぼれたそうな涙を……グラウは指をそっと添えて受け止めた。




