17:……ちがっ!
食事を終え、久しぶりに楽しい時間を過ごしたと……ヴァルロス王は【ヴィヴァの町】から都へ戻っていった。
お互いの無事を祈り見送った後、遅い時間であったが宿を見つけたグラウとイサネは、やっと落ち着ける場所で休める……と、ベッドに飛び込んだ。
「久しぶりのふかふかのまともな寝床だぁ……」
「……ゆっくり……やすもう……」
ふたつのベッド……向かい合ってウトウトと目が閉じそうになった時、イサネが大きな声を上げ飛び起きた。
「風呂!お風呂入りましょう!!」
「……朝で……」
「ダメですよ!焦げてチリチリもじゃもじゃのままですし、せっかく新しい服なのに汚れたままなんてヴァルロス王様に失礼です!」
「……朝で……」
「フンッス!!!」
ズルズルと引きずられて部屋に備え付けてあるバスルームへ移動し、上着を脱がされ湯船に放り込まれたグラウ。眠気のせいで余計にボケているのか、無抵抗にも程があった。
蛇口から程よい熱さの湯が注がれ、イサネが手桶を使ってグラウの全身に湯をかけてから、櫛を使ってゆっくりと髪と尻尾をとかしていく。
「ちょっとひっかかるとおもいますけど我慢してくださいね」
「…………ん」
時折、ちゃぷちゃぷと湯を撫でる音と櫛が毛並みを撫でる音だけの静かな時間……【ノース】での暮らしの中のルーティーンのひとつだった。
遠く離れた場所でも、同じ時間を過ごせるとは思ってなかったふたりは、先ほどまでの出来事も、これから起こることも……少しの間だけ忘れて浸っている。
「よっし……結構いい感じになりました!少しだけごわついちゃうのはご愛敬ってことで」
「……ありがとう……イサネ」
「いえいえ!グラウ様のお世話は私のお仕事ですからね!これくら――」
「……痛い思いを……させて……すまない」
礼を言われたイサネはドヤ顔で鼻息荒くして目を閉じてたまま固まってしまっている……そんな、イサネが、気付かない内に振り返ったグラウは、濡れた手で首に付いた痛々しい絞め痕をなぞっていた。
温かい湯がグラウの手と腕から流れ、イサネの首筋から着ている服を濡らし……肌が透けていく。
「……自分の体は治せませんので……しばらく隠していきますね」
「本当に……【聖女】……なんだ」
「はい……あの……いいですかね?【聖女】だからという訳じゃないんですが……素肌をお見せするのはさすがにちょっと……避けたいんですけど?」
「………???」
視線を下に移したグラウはイサネが着ている服を自分が濡らしていたことに気付き、急に顔を真っ赤にさせた。
「あ……わ……ちが……!そういう……ちがっ!」
「えっちですねぇ」
「ち、ちがう!!!」
慌ててイサネに背中を向けてグラウは顔まで湯船に浸かった。
イサネに、クスクスと笑われながら。
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綺麗にタオルで乾かしてもらい、先にベッドに入り目を閉じたグラウ。
今まで気にすることが無かった。
感じたことの無い感情。
あたたかくもあり、痛くも感じる心のざわめき。
「(失ってしまうかもしれないあの時……俺は……怖かった……?)」
見知った者が傷付き失われるかもしれない瞬間を目の当たりにすれば、恐ろしくもなり、悲しさを感じるのは、誰しもにあることだ。だが……それ以上のなにかがあるような……それを、イサネに感じていることに、徐々にグラウは、気付き始めていた。
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グラウの世話を終え、落ち着いて久しぶりの入浴を楽しむイサネ。
だが……自分の体の変化を見て、少し複雑な気持ちになっていた。
「だいぶ全身に回ってきちゃってるなぁ、これ……本当に獣化しちゃったら私……どうなっちゃうんだろ」
胸から下に柔らかく綺麗ではあるが、人間の肌には似つかわしくない体毛が生えていた。
【チーニ村】でグラウに確認された腕の体毛含め、全身の6割程度に広がっている、獣化。
「ねぇ……女神様……」
湯船に浸かり、天井を見上げながら呟く。
「私が本当の獣になっちゃっても……グラウ様は……私と一緒にいたいと思ってくれるかなぁ……?」
ヴァルロス王を癒した浄化の祈り……その代償は、傷を癒すことよりも大きい事を……イサネ自身、体の変化で感じ取っていた。




