第75章『商人が狙うもの』
意に添わない結果になろうとも、二の矢、三の矢の備えあり。
虎視眈々と機会を逃さぬようにと、意識を張り巡らせて——
『儲けてなんぼの商人ですから』
「こうなった以上、協力するのは吝かではないですけど、俺にも旨味が欲しいので——手に入れた魔物の素材などはこちらに卸すようにしてくださいね。相応の代金は支払いますが、それを売って生じた利益はこちらのものということで」
「別に構わねぇよ。ただし、必要な物資の調達は任せたからな」
「……定価でご提供という形で?」
「無料で、とは言わねぇが……道中の護衛も兼ねる分、まけといてくれよ」
「仕方ないですね。そういうことなら、卸していただいた素材などの代金から天引きする形で——」
こちらに同行すると決めるやいなや、ばさがとら相手に細かい条件を擦り合わせ始める。
その様子を眺めていたバニラはやれやれといった様子で嘆息する。
——ほんと、逞しいですわね……
莫大な利益を得ようとこちらを強請ってきたかと思えば、状況が悪くなったらすぐに切り替えて、次の儲け話の算段を打ち立てているのだ。その柔軟さが商人としては必要な素質なのだろうかと、漠然と考えて、ふと浮かび上がった疑問を口にした。
「私達に同行することで得られる利益とは何ですの?」
先程ばさが口にしていた魔物の素材などを卸してもらうことだろうか。それを市場に流したり、必要とする相手に売りつけたら確かに利益にはなるだろう。ばさ自身に高い戦闘力があるようには見えないので、安全に商材を手に入れられるというのなら確かに彼にとっての旨味と言えるかもしれない。
——でも、それだけですの……?
ワンダーラビットやマジカルソフトを利用して得ようとした利益に比べれば、随分と見劣りする内容である。本当にそれだけで、こちらに協力することを良しとしたのだろうか——
「彼、先のことをしっかりと見越しているようだね」
と、疑問に首を傾げているとレインから声を掛けられる。
その口調は穏やかなものだったが、ばさに向けた視線は鋭く、まるで値踏みしているようだった。
「どういうことですの?」
「君達の話だと、これからギルド総本部に向かって——そこで西領諸国の問題に対する協力を仰ぐわけだよね」
「そうですわ。とらさんが仰るには事情さえ伝わればギルドが動くことは間違いないだろう、と」
「だろうね。そして、そうなった場合でも渦中の人物である君達は、事態の最前線に居続けるんだろう?」
尋ねてくるレインの口元が僅かに綻ぶ。そうであって欲しいという期待が込められているように感じたが、そこに薄ら寒いものを感じ取ってしまい、バニラは努めてそれを無視して続ける。
「——当然ですわね。マジカルソフトを祖国に持ち帰ること……たとえギルドの協力を得られたとしても、他人任せにするつもりはありませんわ」
「となると、彼もその最前線に立ち、事態解決に向けて貢献することになるだろうね」
そこまで言われて、ようやくレインが言わんとしていることの形が浮かび始めてきた。
つまりは、
「その貢献を以て報奨を得ようと?」
ギルドか、あるいはソルベ法国——ワッフル王からの見返りを手にしようということだろう。
そういう魂胆があるとすれば、彼の変わり身にも納得がいくというものだ。
「戴こうとする報奨自体はただの切っ掛けに過ぎない、だろうけど」
しかし、レインには更にその先が見えているようで、分かるかい? と挑発的な目を向けてくる。
その表情にムッとして思わず睨み返してしまう。
ここで答えを聞き出すのは簡単かもしれないが、それはそれで負けたような気がして面白くない。
少しお待ちくださいな、とレインに断りを入れて思考に耽る。
報奨自体は切っ掛け。ワンダーラビットやマジカルソフトに代わる莫大な利益に繋がる何か。ばさの立場。西領諸国の状況——
——まさか……
「西領諸国での販路を獲得、ですかね~」
答えらしきものに辿り着いた直後に、回答がぽーのおっとりとした言葉に掻っ攫われてしまう。
「流石は博士。見識が深いね」
「わ、私もそう言おうと思ってましたのよ!」
喚き立てたところで、ぽーからは「つい口を挟んじゃいました~」と気楽な謝罪と、レインからは「はいはい、そうだね。分かってるよ」と子供扱いが返ってくるだけで余計に腹が立ってきたが、そこは淑女として平静を保つよう心掛ける。
「こほん……つまりばささんは、現在他領からの入国が制限されている西領諸国で自由に商売が出来るようにしたい。更に言えば、取引相手として優遇されることを望んでいる、ということですわね」
現在の西領諸国では、その緊張状態からか他国や他領からの入国を厳しく制限されている。
領根に面した国々であれば、迷宮区画前の関所でのみ取引が行われているので、他領からの商人は現地に赴いての商いが出来ていないのが実情である。
——中継貿易、という形ですわね……
現地に赴いての取引に比べて仲介手数料が掛かったり、ニーズの変化を肌で感じ取れなかったりと、商人にとってはリスクが高いということなのだろう。
こちらに協力して、西領諸国の問題が解決した場合、入国制限も緩和されるだろうし、なにより、
——ギルドお抱えの商人であっても、無下には出来ませんものね……
騎士団とギルドが相容れぬ立場であっても、事態解決に貢献した者であれば、それを蔑ろにするわけにはいかないだろう。古い価値観で凝り固まった者達からすれば面白くない話だろうが、ワッフル王ならばむしろばさの話に乗って国の財を潤そうとするだろう。
彼の狙いがこの通りであるならば、確かに旨い儲け話となるはずだ。
販路の拡大や市場の活性化など、商人とっては商機が降って湧いてくることになる。
「まさか、これを想定して……」
どうだろうか。
最初にすのぴを要求してきた時には考えてすらいなかったはずだ。
だが、とらからの後出し情報を受けて、即座にこの着地点へと切り替えたのだとしたら——
「抜け目ない方ですね~」
「また私のセリフを!?」
「うん? どうかされましたか?」
こちらでわちゃわちゃと騒いでいると、どうやらとらとばさの話し合いが終わったようで、
「なに騒いでんだか……話は纏まったことだし、そろそろ出発するぞ」
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