第43章『それぞれの所感』
他者の考えに触れる事で、自分の思いの輪郭が浮かび上がる。
例えそれが自分が意図したものでなかったとしても——
『どう思ってるの?』
「ハラミさんについて、ですの?」
そう問われ、その意図を推し量ろうとしていると、どう感じているか率直な感想を求めていると付け加えられる。
他のメンバーは離れた所で休息を取っているので、余程の大声で無ければ聞かれるという事もないのでしょうが、
——そうですわね……
彼がこういった質問をしてくる事に意外であると感じましたが、彼は彼で思うところがある、ということなのでしょう。
面白半分で訊いてきている訳ではないのはその表情から伝わってきているので、こちらも真摯に受け答えしなくてはと居住まいを正す。
「そうですわね……自己肯定感の低さは、気になるところですわね」
ハラミの言動を思い返してみても、かなり自分を下に置いている節がある。
生来の気質と言えばそれまでかも知れませんが、あまり卑屈な姿を見せられますと、
「正直、イラッとしますわね」
あぁ、そんなに驚かないでくださいまし。
少し地の部分が漏れてしまいましたわ。
でも、本心ですわ。
……どういう事、ですか?
それは簡単な話ですわ。
自分を卑下するという事は——
「大切に思ってくれている方達の想いも、踏みにじる行為ですもの」
ハラミさんの話を聞く限り、シロウさんとユズリハさんに大切に想われていたのだと感じられましたわ。
その二人が、突然居なくなってしまったという事は心中察するに余りあるのですが……きっと何か事情があったのだと願うばかりですわね。
◆
「ハラミさんについてですか……そうですねぇ」
その問いを発した相手の表情を観察しながら、どのような答えが求められているのかを推測してみる。
一瞬、ミノタウロスの生態について詳しく訊きたいのかと思いましたが……ええ、流石にそうではないというのは分かりました。
彼が知りたいのは、私から見たハラミさんという個に対する感想、といったものなのでしょう。
であるならば、
「幼子のようであると、感じるところはありますね」
と、心に浮かんだ言葉をありのままに口に出してみる。
すると彼は不思議そうにこちらの言葉を繰り返していた。
ミノタウロスとしての巨体に惑わされますが、ハラミさんが上位個体として自我や知性を獲得したのはほんのひと月程前のことです。つまり、この世に生まれ出でてまだ間もないと言えるのです。
そのように補足説明しましたが、彼はまだ納得しきれていないようでした。
なまじ高い知性があるだけに、ハラミさんの振る舞いは理知的であると思われがちですが、私が見たところでは、色々な事が手探りで——それ故に、及び腰な態度のように感じられますね。
「と言うのが、私個人の感想です」
そう締め括ると、彼は礼を告げて来て次の相手に話を訊きに行くようでした。
「あ、そうでした」
魔物を探求する身として、どうしても気になっていた疑問があったので、この際に共有しておこうと思い、彼を呼び止める。
この疑問は、ともすればハラミさんに対する不信感を招く事になるかも知れませんが、行動を共にするのであれば頭の片隅に入れておくべきかもしれません。
ハラミさんの態度から、深く追求する事はしませんでしたが——
「ミノタウロスにとって、バトルアックスは正に半身のような存在なのです」
ハラミさん曰く、気付いた時にはそれを持っていた形跡はなかったとの事でしたが、
「本当にハラミさんはバトルアックスを持っていないのでしょうか?」
◆
「ハラミについてどう思うか、か……」
まさかこいつからこんな質問が来るとは思っていなかったので、少し面食らってしまった。
こいつはこいつなりにハラミに対して思うところがあったという事なのだろう。
そういう素振りはなかったように感じていたが、認識を改める必要があった。
「そうだな」
と、一拍置いて、自分の中にあるハラミに対する印象などを言葉として組み立てていく。
「違和感、だな」
端的にそう口にすると、目の前で首を傾げる姿が目に映る。
流石に言葉足らずだと分かっていたので、説明を続ける。
「魔物なのに戦闘を忌避し過ぎているのが気になってな」
それがハラミの性格だと言うのならそれまでなのだが、彼はミノタウロスである。
上位個体として高い知性を得たからといって、元々の気性の荒さがなくなるものなのかは疑問が残るところである。
この辺りは後でぽーに確認した方が良いかもしれないな。
「何か理由があるなら、それはそれで良いんだけどな……だがな」
個人的にもう一つ思う事があった。
逃げる事で生き延びる。それについて否を唱えるつもりはない。
生存の術として、それは有りだと思っている。
だが、
「ハラミが何かを守りたいと思った時に、今のままじゃいけねぇよな」
きっと、ハラミにも戦う力はあるはずだ。
しかし、あの性格では困難に立ち向かうより逃げる事を選び取り——そして後悔するのではないかと危惧してしまう。
——情が湧いてしまってるな……
警戒している相手のはずなのに、ハラミの事を案じてしまっている自分に思わず苦笑が漏れる。
そんな俺の様子を見て、目の前の相手は不思議そうに目を丸くしていた。
◆
「——最後に、僕に訊きに来たって訳だね」
あのミノタウロスについてどう思っているのか、他のメンバーに聞いて回っているのには気付いていたし、それについてどうこう言うつもりはなかった。
しかし、アレに対するスタンスは明確にしていたはずだ。なので、改めて僕に話を聞きに来るとは思っていなかっただけに、内心では少しの驚きを感じていた。
向こうもそれは承知しているようで、こちらに声を掛けてくる時点から緊張した雰囲気が全身から滲み出ている。
——どうしてそこまで……
あんな魔物の為に気を配っているのだろうか。
そんな疑念が脳裏に浮かんでは、内心をかき乱そうとしてくる。
アレの事で話す事などないと、切り捨てることも可能だ。
だが、目の前の彼がどういう思いを抱いているのか、少しだけ気になった。
だから、続きを促すためにも、努めて平静な声を紡ぎ出す。
「それで、何が訊きたいんだい——すのぴ」
お読みいただきありがとうございます!
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