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青色うさぎはソフトクリームの夢を見るか  作者: くどりん
迷宮踏破編

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第50章『時空穿穴』

 未知の光景。

 異なる世界。

 その先に存在するものは何なのか。

『今は、まだ……』

「時空、穿穴……」


 虚ろな目で中空を仰ぎ見るすのぴへ、自身を含む全員の視線が集中する。

 ぽーやレインは何か知っているのかと問い掛けているが、すのぴの事情を把握している自分とバニラは顔を見合わせて同様の事を感じ取っていることを確認しあう。


 ——記憶が、呼び起こされている?


 あの黒い靄のようなものがきっかけで、TOIKIに囚われる以前の記憶が蘇ろうとしているのだろう。

 それが変異種と化したシェイプシフター討伐に繋がるのならば渡りに船ではあるのだが、


「おいっ、すのぴ——しっかりしろ!!」


 咄嗟にすのぴの意識を引き戻そうと声を張り上げる。

 依然として茫洋とした様子のすのぴだったが、その身体に瞭然とした変化が現れたのを見て、嫌な予感が全身を駆け巡る。

 青黒い紋様。

 まだ記憶に新しいそれが、すのぴ全身を這い回るように広がっていき、紋様から何かが滲み出ているのか、桃色の体毛が侵蝕されるように青く染まっていく。


「——クソッ!」


 悪態を置き去りにするように駆け出す。

 何故、このタイミングであの時のような暴走状態になっているのか。

 暴走状態について分かっている事は皆無に等しいが、推測ではTOIKIに起因するものかもしれないという見立てだ。

 ならば、すのぴが時空穿穴と呼んだ黒い靄もTOIKIに関連する何かなのか、あるいは——


 ——あれが、すのぴの怒りや憎しみを引き起こす存在なのか……?


 分からない。

 事態が進展するかと思いきや、不測の出来事が積み上げられて混迷が深まるだけであった。

 頭を抱えたくなるが今は、


「すのぴ!!」


 肩を掴むと同時に力任せに揺さぶり、耳元で叫ぶ。

 それでどうにかなるかは分からないが、このまま指をくわえて見ていた場合、最悪暴走するすのぴを相手にしなくてはいけないかもしれない。あの時垣間見せた凶暴性がこちらに向けられないとは限らないのだ。

 それに、今は氷漬けとなっているシェイプシフターだが、いつまた復活するかもしれない状況である。

 早急に対処するべく、すのぴへの呼び掛けを続ける。


「おい! 返事しろ!!」

「ッ! ハッ——げほっ!」


 果たして、ようやくこちらを認識したすのぴが、驚いた表情を向けてくる。

 息をする事すら忘れていたようで、噎せ返りながらも肺へと酸素を取り込もうと深く息を吸い込み始める。


「良かった、気が付きましたのね」

「ご、ごめん……」


 追い掛けて来たバニラが安堵するように息を漏らすと、すのぴが申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 しかし、意識は戻ってきたが、全身を覆う紋様は消えずに残っている。


「身体の方は平気なのか?」

「えっと……胸の奥がざわざわする感じだけど、多分大丈夫……かな」


 全身を矯めつ眇めつして問題ない事を報告してくる。

 胸の奥の違和感については、感情が掻き乱されているという事だろう。

 その原因は、


「あれについて、何か分かるのか?」


 見上げた先にある靄を睨み付ける。

 するとすのぴが並び立つようにして首肯する。


「時空穿穴は、異なる世界を繋げる門のようなものなんだ」

「異なる世界……」

「それはつまり、お伽話とかに出てくる天界や冥界の事かい?」


 遅れてやって来たレインの言葉に、すのぴは静かに頷いた。


「うん。普通の方法では行き来出来ない別次元とも繋げられるんだ」


 しれっととんでもない事を言ってのけたが、それが真実なら空想上とされてきた天界や冥界が実在するという事になる。


「そのようなものが……ぽー博士はご存知ですの?」


 呆気にとられていたバニラが、この場で一番の博識者であるぽーへと確認を取るが、


「……あのようなものが記録された文献は聞いた事がありませんね」


 ぽーが知らないだけという可能性も残っているが、恐らく彼の言う通りと考えるのが妥当だろう。

 では、何故すのぴがそれを知っているのか、という事になるのだが、


 ——今は考えている場合じゃねぇな……


 釈然としないものが胸の内に蟠っているのを感じるが、早急に対処すべき事は——


「あの靄、魔物の体内から出てきた、って事で間違いねぇよな?」

「多分、そうだと思う」


 すのぴの肯定を受けて、ぽーが感じていた違和との結び付きを見付けたように感じた。

 ぽーに視線を送ると同じ結論に至ったようで、


「恐らく、この魔物のオドは、時空穿穴の向こう側——異なる時空に存在するという事ですね」

「それでしたら、あの靄に飛び込んでオドを叩けば——」


 活路を見出せたと色めき立つバニラだったが、すのぴは落ち着いた様子で続ける。


「今は向こう側との接続が切れているので無理だよ」


 そう言って足元から小石を拾い上げると、無造作に黒い靄に向かって放り投げる。一瞬、小石が靄に飲み込まれたように見えたが、すぐに放物線を描いて乾いた音を反響させる。


「多分こちらを警戒しているか、向こう側で身体を再生させているか、だと思うんだ」

「チッ、手出し出来ねぇって事か……」

「うん。とりあえず今は——ッ!」


 言葉を途切れさせ、すのぴが頭を押さえて片膝をつく。

 その表情が苦悶に歪んでおり、暴走状態になりかけた影響が出ているのかと心配が沸き立つ。


「……すのぴさんがこの調子で、現状アレに対する具体策がありませんし、今はどこかで身体を休めた方が良さそうですね」

「そうだな。ローウェン達にも話を聞いておきてぇし、あいつらが撤退した通路は——」


 確かこっちだったなと振り返った所で、上空から響いた大音声の警告が皮膚を振るわせた。


「——逃げてください!!」


 その言葉が何を意味するのか、気付いた時には——視界が大蛇の口腔で埋め尽くされていた。

 お読みいただきありがとうございます! 


 少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、ブックマークやリアクション、下のポイント★1からでも良いので、反応をいただけると作者のやる気に繋がりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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