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第41章『二人の関係性』

 慈しみ、想い合う事を何と呼ぶのだろうか。

 今の自分にその答えはなくて——

『大切なんだ』

「うむ、片付いたでござるな」

「もう出て来ても大丈夫よ」


 シロウさんが周囲への警戒を続けながらも、その言葉からは張り詰めたものが解かれたように感じられました。それに続いて、ユズリハさんが岩陰に隠れていたこちらへと呼び掛けてくれました。

 ユズリハさんが符術と呼ばれるもので張ってくれた結界を解いてくれたので、恐る恐る身を乗り出すと、二人の周囲には魔物達の骸が積み上げられていました。


「け、怪我はしてませんか?」


 悠然と構える二人を見て、余計な心配とは感じましたが、思わず言葉が口をついていました。

 二人は顔を見合わせた後、それぞれが笑みを浮かべて、


「これぐらいどうということないでござるよ」

「心配してくれてありがとうね」



「深層域をたった二人でその余裕……かなりの手練れなんだろうな」


 ハラミの話を聞いていて、とらは率直な感想を零していた。

 自分もそうだが、世の中には一人で深層域を探索するような連中もいるので、誇張して話しているとは思わない。

 だが、ハラミの話ではユズリハは重い病に侵されていたはずである。その状態で深層域の探索など無謀にも程がある。

 病に侵されているという話そのものが嘘だと考えるのが普通だが、


「恐らく、体内のマナを操作して病の進行を遅らせていたのでしょうね」


 と、こちらの思考に割り込むような形で声が掛けられる。


「ご、ごめんなさい……起こしてしまいましたか?」


 振り返った先にいる人物へ、ハラミが申し訳なさそうに頭を下げると、ぽーが柔和な笑みで答える。


「大丈夫ですよ~、それよりも気になる話が聞こえてきましたので……私も同席しても?」


 見張りの交代まではまだ時間の余裕があったが、本人と話し手であるハラミが良ければ断る理由はなかった。

 ハラミが問題ない旨を伝えると、ぽーが嬉々として腰を下ろした。


「さっきの話……可能なのか?」

「はい。マナの操作が巧みな方にはそういった技能を持つ人もいるみたいですよ」


 こちらの質問に、ぽーがはっきりと断言してくる。

 聞けば、マナの量も膨大であれば病そのものを消し去る事も可能なのだとか。


「ってことは、僕のマナだったら……」

「そうですね。操作をしっかり出来れば可能でしょうね」


 すのぴが自身の可能性に心を踊らせている姿を横目に思考を巡らせる。

 マナの操作——と言うより、魔法により解毒や解呪は可能であるとされているが、病には効果がないというのが世間一般の常識である。


「その話、まだそんなに広まっていない、よな?」

「そうですね。メーティスでもようやく研究が始まったぐらいなので、世間にはまだ公表されていないはずかと」

「なるほど、そういうことか」


 一部の人間がその知識を独占しようしているのかとも思ったが、そういうことであれば世間に広まっていないことにも頷けた。

 技術の進歩に淡い期待を抱くと共に、世の中にはまだまだ知らない事は山程あるなと、自身を戒める。

 こちらの話に区切りを付いたのを見て、ハラミが再びシロウとユズリハとの思い出を語り始めた。



「この調子で行けば、あと数日でヒュドラの元へ辿り着く、という事でござるな?」

「はい……向こうも移動しているみたいですが、徐々に近付けてますので」

「そうでござるか……しかし妙でござるな」


 シロウさん達と探索を始めて一週間程が過ぎました。

 その日の野営地を定め、今後の行程等を話していると、シロウさんがふと首を傾げました。


「ヒュドラは一定の範囲からは離れない種と聞き及んでござるが、其方の案内する方角からしてその領域を逸脱しているようでござるが……」

「そう、なんですか……?」

「うむ。其方を疑っている訳ではないでござるが、今追っているヒュドラが変異種という可能性があるでござる」

「変異種、ですか?」


 聞けば、変異種と呼ばれる通常の種とは異なる特徴を持つ相手かもしれないとの事でした。

 行動範囲や基準が異なっていたり、通常の個体が持ち得ない特殊能力を有しているとの説明を受けて、ふと疑問が浮かびました。


「上位個体と変異種はまた別物なんですか?」

「そうでござるな。某もあまり詳しくはないのだが……」


 シロウさんが言葉を探すようにしていると、少し離れた所で食事の準備をしていたユズリハさんが説明を加えてくれました。


「上位個体はハラミくんのように言葉を話せる魔物で、本来魔法を使えない種でも魔法を使えるようになっている事が特徴なの。それに対して変異種は通常の個体にはない身体機能を獲得しているけど、言語を操れないから魔法は使えないのよ」


 大まかにはそんな所ね、とユズリハさんが締め括ると、丁度食事が完成したのか手早く盛り付けて運んで来てくれました。


「はいどうぞ、シロウさん。ハラミくんも沢山食べてね」

「かたじけない」

「あ、ありがとうございます」


 器を受け取り礼を伝えると、二人が暖かな視線を交わしているのが目に入りました。

 自分にも向けてくれる優しい眼差し、とはまた別の何かを宿している事に気付き、思わず言葉を発していました。


「お二人は……お互いの事をとても大切に思っているんですね」


 言葉にした事で自分の中でも何かが噛み合う感覚がありました。

 他の人の事は分かりませんが、二人はお互いの事を大事にしているのだと、この短い間の中でも感じる事が出来ました。

 ヒトの生態に詳しくはないので二人が向け合う感情が何なのかは分かりませんでしたが、その存在に気付いたら胸の奥が温かくなるのを感じました。

 気のせいかもしれませんが、きっとその時は、二人が自分に向けてくれる柔らかな表情を浮かべられていたように思います。

 二人を見詰めていると、次第に頬を赤らめてそれぞれあらぬ方向へと顔を逸らしてしまいました。


「んんっ、それは……まあ、そうでござるな」

「そ、そうねえ。ハラミくんの言う通り、なんだけど……面と向かって言われると恥ずかしいわね」

「そうなんですか?」


 感情の機微というものが分からなくて、二人の態度の理由はよく分かりませんでした。

 ですが、何故二人が大切に思い合っているのかという理由は、シロウさんの口から説明がありました。


「ユズリハとは、お互いに懸想——好き合っていて……夫婦の契りを交わしているからで、ござるよ」

「夫婦?」


 よく分からない単語に首を傾げていると、シロウさんが頭を乱暴に掻きながら、


(つがい)……と言っても、其方にはこの概念自体通じぬかもしれないでござるな」

「……?」


 シロウさんの説明がよく分からないでいると、ユズリハさんが一層頬の赤みを増した表情で語りかけてきました。


「ヒトという種は、好き合った男女が夫婦となって子を成し、後の世まで種を存続させようとするものなの」

「そうなん、ですね」


 それは魔物である自分には存在しない概念でした。

 魔物はマナの濃い領域から湧出する存在であるため、ユズリハさんが言うように夫婦? というものになって次の世代を生み出す必要がなかったからです。

 よく分からない。ですが、先程感じた温かさは確かなものだと思いましたので、


「——素敵なこと、なんですね」


 素直に感じた思いを、言葉にしていました。

 お読みいただきありがとうございます! 


 少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、ブックマークやリアクション、下のポイント★1からでも良いので、反応をいただけると作者のやる気に繋がりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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