表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/113

第39章『上位個体(ハイ・ランク)』

 殻を脱ぎ捨て、超克した存在。

 されど、その心根は儚く揺れ動き——

『どうかお願いします』

 美しいものを見た。


 バニラからすれば、それは技術的に拙いものだった。

 だが——そこに込められた心根は、真なるものであった。


 それを感じ取れたが故に、心が揺れ動かされたのだ。


「どうかっ! どうかお願いします!」


 ぽーの結界術に閉じ込められた牛頭の存在がその巨躯を可能な限り縮こまらせて、地に伏していた。


 膝を揃えて座し、腰を折ることで上半身を地面すれすれにまで近付けている。

 伏せた頭部の両横に両手を付いたその姿は——ワフー式謝罪術・DOGEZAのそれで間違いなかった。


 何故彼がそのような芸当が出来たのか、疑問が脳内を膨れ上がってくる。

 東領の島国に伝わる風習を何故——


 ——魔物である貴方が、知っていますの?



 ロックバイソンの排除は至ってスムーズに執り行われた。

 数が多かったので、時間を要すると考えられたが、レインの活躍により瞬く間に屍の山が積み上げられていった。


 レインが迫り来る魔牛の群れに飛び込んだかと思うと、軽い身のこなしで押し寄せる大波の如き質量を掻い潜っていった。

 手にした双剣が硬い表皮で覆われた体躯を、まるで抵抗を感じていないかのように斬り裂いていったのだ。


 あまりの手並みにとらを含めた全員が呆気に取られていたのだが、


 ——流石だな……


 と、とらは内心で感嘆の声を漏らした。


 ここに至るまで苦戦する素振りはなかった。

 すのぴの訓練も兼ねて彼の力量に合わせて力をセーブしていたのだろう。


 それがここに来て必要と判断したのか、無双と呼ぶに相応しい働きぶりを発揮して見せたのだ。

 その甲斐あって、こちらの被害は皆無である。


 ——まだまだ底が知れねぇな……


 今回見せた戦いぶりも彼の実力の一部に過ぎないのだろう。

 その底知れなさに、今は味方でいてくれていることに安堵を覚える。


 反面、その切先がこちらに向くことがないのを祈るばかりである。


 残った魔物を退治し尽くして、ようやく保護したミノタウロス(仮)から話を聞けるようになった。


 結界の中で荒れた呼吸を整えている背中に向き直る。

 すると、ぽーがやはりと興奮の色を帯びた声で報告してくる。


「彼、ただの魔物じゃなくて——上位個体(ハイ・ランク)と呼ばれる存在ですね」


 やはり、というのが正直な感想だった。


 結界術の障壁越しに確認したところ、その瞳は血が滲んだような赤色で、正真正銘ミノタウロスで間違いなかった。


 その上で言葉を操ることや本来では活動しない領域にいることから考えれば、ぽーの推察は間違いないと言えるだろう。


 上位個体。

 長い年月を生き続けた結果、ヒトと同等の知性を獲得した魔物を指す言葉である。

 通常の個体に比べ、オドの許容量やマナ出力が飛躍的に向上しており、厄介極まりない相手である。


 魔物への対策が進んだ近年では目撃情報そのものが数を減らしており、こうして目の当たりにすることはとらをもってしても初めてであった。


 噂で耳にしただけの存在が今目の前にいることに、物珍しさが顔を覗かせようとしていた。


 ——ワンダーラビット(すのぴ)といい、ここ最近はその手の類に縁があるな……


 何かの予兆なのかと予感めいたものを覚えるが、流石に考え過ぎかと頭を振って思考を切り替える。


 膝を突き、乱れた呼吸を整えていたミノタウロスがようやく落ち着きを取り戻したようで、


「助けていただき——あ、ありがとう……ございます」


 と、頭を下げて礼を伝えてくる様子に、思わず言葉を失う。

 特徴的な真紅の瞳がなければ牛人族と何ら差がないように感じられた。

 だが、相手は魔物である。

 油断は出来ない。


「お前……何が目的だ?」

「と、とらさん……この人? じゃなくて、ミノタウロスか……は、ロックバイソンに襲われそうになってただけじゃないの?」


 鋭く言い放つと、すのぴがまるで目の前の魔物を庇うかのような声音で口を挟んでくる。


 なまじ言葉が通じるだけに、魔物と思えないのだろう。


 こちらはすのぴと違って先程の状況をそのまま鵜呑みに出来るほど純粋ではないのだ。

 何か裏があるのではないかと勘繰るのは当然と言えよう。


 上位個体として高い知性を持っているというのであれば、人を騙し、隙を伺って襲ってくるということも有り得るだろう。


「助けていただいた上、図々しいかもしれませんが——」


 しかし、こちらの猜疑の目を物ともせず、ミノタウロスがこちらへと向き直り、地に手を押し当てて、頭を下げてくる。


「どうかっ! どうかお願いします!」


 DOGEZAと共に懇願する姿に息を呑む。

 困惑と疑念が空気に滲む中、すのぴが控え目に手を上げて、


「とりあえず、話を聞くだけ聞いてみない?」


 その一言で、張り詰めていた空気が僅かに揺らいだ。

 お読みいただきありがとうございます! 


 少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ