第22章『迎撃現場の応戦者達』◆
吹き荒ぶ暴威を前に何故前へと進むのか。
恐怖を跳ね除け、己が意志を貫くためにも——
『いま、助けるから』
疾走する移動宿から飛び降り、雪が降り積もった山道に着地する。
とらは安定した身のこなしで。
バニラとぽーはそれぞれ着地に合わせて、魔法で落下の勢いを抑えて。
各々が問題なく着地を完遂させる横で、すのぴだけが着地の衝撃をいなし切れず、たたらを踏んでしまう。
皆が大丈夫かと視線を寄越してくるが、不恰好な様を見られた気恥ずかしさから照れ隠しの乾いた笑みを溢す。
しかし、それもすぐに消え、目の前の巨人へと視線を注ぐ。
「移動宿は、追わないみたいだね」
漏らした言葉の通り、人造巨人は視覚があるかも分からない無貌の顔をこちらへと向けている。
とらの予想通り、こちらが狙いということで間違いなさそうだった。
巨人の胸部、そこに埋められた三人が関わっていることから予想出来たことだった。
ただ、とらが言うには、常軌を逸した様子に彼らのような街の不良だけで現状を引き起こしているとは考えられないとのことだ。
——誰が、こんなことを……
彼らを人造巨人の核の代わりにして、ここまで転移してきた何者か。
その人物が何を意図しているのかは不明だ。
だが、その所業を容認する事は出来ない。
もしかしたら、あの三人が命を投げ出してでも報復しようと望んだ事なのかもしれない。
それでも、かつての自分とを重ね合わせ、今の彼らの状態を見過ごす事は出来なかった。
身体の奥から湧き上がる嫌悪感や怒りで心が塗り潰されそうになる。
それでも、やるべき事を見失ってはいけないと呼吸を落ち着けていく。
「助けよう」
自分に向けて小さく呟いた言葉だったが、とら達はしっかりと頷きを返してくれた。
人造巨人の四肢が蠕動したように見えた直後、巨大な質量がこちらに向かって襲い掛かってきた。
◆
改めて対峙したそれは、正に暴力の権化と言っても過言ではなかった。
力任せに振るわれる巨腕が、降り積もった雪を暴風と共に吹き飛ばす。
歩を進め、その脚がこちらを踏み付けようとする様は天が降ってきたような錯覚を与えてくる。
直撃すればヒトの身の命など容易く消し飛ぶような戦場で、余波に煽られながらもバニラ達は縦横無尽に立ち回り続けた。
ぽーを除く前線の三人で巨人を翻弄し、後衛のぽーは狙われないように立ち位置を変えながら防御術で敵の動きを阻害してくれる。
とらは果敢に攻めに転じて、頑強な人造巨人の体表に切り裂いていく。
気が急いているように見えたすのぴもどうにか攻撃を掻い潜り、巨人に肉薄してダメージを与えようと奮闘している。
煩わしそうに人造巨人が暴れ回ろうとすると、ぽーがこちらと巨人を隔絶するように術を発動させてくれる。
即席の連携ではあったが、上手く機能している。
しかし、決め手に欠けているのが現状だ。
攻撃力の高さで言えば、この中ではとらが一番上だろう。
だが、その真価を発揮するための隙がないのだ。
大技を放つ溜めを稼ぐ必要があるのだが、彼は人造巨人の攻撃をいなしつつ、すのぴのフォローに回っている。
前線からとらが抜けると巨人を押し留めるのは困難になるだろう。
こちらも強化魔法で全体の力を底上げしようと試みたが、相手の猛襲にその隙を得ることが出来ないでいる。
ならば、現状を打開するために必要な一手は——
「ぽー博士!!」
強力な防御術を行使するぽーならば、敵の動きを封じる事が出来るのではないかと呼び掛ける。
「どうにか動きを止める事は出来ませんの!?」
彼が出来るかは分からないが、今のところ披露して見せてくれた力を見るに、こちらの要望に応えてくれるのではと期待を込めて視線を送ると、
「お任せください! こんなこともあろうかと——」
得意気に微笑む彼が眼鏡をくいっと押し上げると、その周囲に複数の魔法陣が展開されていく。
「封邪を成せ、円環の楔!!」
ぽーが術の名を叫んだ瞬間、複数の光条の輪が巨人の四肢を捉え、その場に拘束していく。
「い、いつの間に詠唱を!?」
こちらの望み通りに動きを止めてみせた事よりも、驚く事があった。
彼は先程から要所要所でこちらのサポートを行っていたのだ。
それなのに、こちらの呼び掛けに即応して術を展開したということは——
——並列詠唱ですの!?
複数の術を並行して展開する並列詠唱という技法は確かに存在する。
しかし、高位の魔法使いが長年の研鑽の末に習得するような高難度の技術である。
それを生物学者であるぽーが平然とやってのけたことに疑問が生じるのは無理からぬことである。
——本当に何者なんですの!?
驚愕に足を止めそうになる。
だが、千載一遇の好機は訪れた。
巨人の動きが、止まる。
空気が、張り詰める。
——今ですわ!
ぽーが生み出したチャンスを無駄にしないためにも、バニラは己のマナを昂らせた。
お読みいただきありがとうございます!
少しでも気に入っていただけたり、続きが気になるなぁと感じていただけましたら、幸いです。




