第1話 手紙の向こう
本編完結後、本当にたくさんの方に読んでいただきありがとうございます!
完結後にこんなに多くの方に読んでいただけるとは思っておらず、驚きつつ、とても嬉しく思っています。
ここからは、本編とは異なる「もしも」のお話です。
本編とは別の選択をした場合のIFストーリーとなりますので、本編読了後の閲覧をおすすめします。
リオネルとレティシアの、もうひとつの物語です。
全5話、毎日20:30更新予定です!
アルバート殿下との婚約が正式に解消されてから、しばらく経った。
今の私は、働いている。
王太子妃になるためでも、公爵令嬢として求められた役目を果たすためでもない。
自分で選び、自分の意思で引き受けた仕事だ。
これまで学んできた魔法や術式に関する知識を生かし、王城から依頼を受けて資料を調べることもあれば、実際に現地へ赴き、魔力の異常を調査することもある。
毎日決まった場所へ通うわけではない。それでも、思っていた以上にやるべきことは多かった。
旅をしている間、私はこれまで知らなかったものをたくさん見た。
水がなくなっただけで暮らしが立ち行かなくなる町もあれば、文字を教わる機会がないまま大人になった人たちもいた。
以前の私なら、そんな世界があることさえ知らなかっただろう。
いつかは、そうした人たちの暮らしにも関われたらと思っている。
私一人で何もかもできるとは思っていないし、すべてを自分で何とかしなければならないとも、もう思ってはいない。
だからまずは、自分が一番よく知っている魔法と術式から始めることにした。
長い王妃教育の中で身につけ、旅をする中で実際に使ってきた知識だ。
以前は、誰かに求められたから学んでいた。
けれど今は、その知識をどう使うのかも自分で決められる。
そのことが、少し嬉しかった。
何かを求められること自体が嫌だったわけではないのだと、最近になってようやく分かった。
自分の意思とは関係なく、誰かの期待に応え続けなければならないことに疲れていただけなのだ。
今日はこれをやる、これは引き受ける、これは今の自分には難しいから断る――そんな当たり前のことを、自分で決められる。
それだけで、同じ忙しさでも以前とはまるで違っていた。
◇
その日も王城での仕事を終え、屋敷へ戻った頃には、窓の外が夕暮れに染まり始めていた。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
出迎えたアンナに外套を預ける。
朝から古い術式の解析をしていたせいか、今日はいつも以上に肩が重かった。
(早く着替えて、お茶を飲もうかしら)
そう考えていた私に、アンナが何かを思い出したように声をかけた。
「そうでした。お嬢様にお手紙が届いておりますよ」
「手紙?」
「はい。ヴァルガードからです」
「リオンさんから?」
「はい」
アンナが差し出した封筒には、もうすっかり見慣れた筆跡があった。
受け取った瞬間、自分でも気づかないうちに口元が緩む。
「そろそろ届く頃だと思っていたのよね」
何気なく口にしてから、アンナがこちらを見ていることに気づいた。
「……なに?」
「いいえ。何も」
「何か言いたそうだけれど」
「気のせいでございます」
絶対に気のせいではない。
けれど、問い詰めたところで教えてくれそうになかったので、私はそのまま自室へ向かった。
リオンとの手紙のやり取りは、婚約が正式に解消されるより前から続いていた。
ヴァルガードでの一件を終え、私がフィオーレへ戻ってからも、私たちは変わらず手紙を交わしていた。
最初の頃に書かれていたのは、ヴァルガードの復興についてや、両国で確認されている魔力異常について。
それから、王太子になったことで増えた仕事への愚痴だった。
自然と、そんな話が中心になっていた。
けれど、手紙の内容はいつまでもそれだけではなかった。
『王太子になったら少しは自由になると思ったが、前より忙しくなった』
そう書いてきたリオンに、私は迷うことなく返した。
『自業自得では?』
すると、ほどなくして次の手紙が届いた。
『お前、手紙だと容赦ねぇな』
いつの間にか、どうでもいい会話まで手紙でするようになっていた。
婚約を白紙に戻したことも、仕事を始めたことも、私は手紙でリオンに伝えた。
初めて王城から正式な依頼を任されたと書けば、次の手紙には短く、
『どうだった』
と記されていた。
思ったより難しかったけれど、無事に終わったと返せば、
『なら上出来だろ。最初から何でもできる奴なんかいねぇよ』
と返ってくる。
失敗したことを書いたときには、
『それで次どうすりゃいいか分かったんなら、失敗した意味はあっただろ』
と。
リオンは、私が働き始めたことを特別に褒めたりはしなかった。
ただ、私がそうすることを、最初から当然のように受け入れていた。
王太子妃ではなくなった私を哀れむことも、これからどう生きるべきなのかと口を出すこともない。
私が仕事を始めれば、その仕事がどうだったのかを聞く。
うまくいけば喜び、失敗すれば次の話をする。
それだけのことだったけれど、私にはその距離が心地よかった。
やがて、外交のためフィオーレを訪れたリオンと、私は久しぶりに顔を合わせた。
アルバート殿下も交えて城下町を歩き、別れ際まで相変わらず騒がしい時間を過ごした。
あのときもリオンは、まるで次に会うことなど決まっているかのように、「次」の話をしていた。
そして、再びヴァルガードへ戻ってからも、手紙が途切れることはなかった。
むしろ、一度顔を合わせたからだろうか。
それまで以上に、仕事とは何の関係もない話が増えていった。
今日何を食べたのか、城下で妙なものを見つけたこと、側近に小言を言われたこと。
そんな些細な出来事まで、リオンはわざわざ国を越えて送ってくる。
そして私もまた、仕事であったことだけではなく、ルーカスやアンナとの何気ない出来事まで書くようになっていた。
いつからそうなったのかは、よく分からない。
ただ気がつけば、手紙の内容はずいぶん変わっていた。
着替えを済ませた私は窓辺の椅子へ腰を下ろし、届いたばかりの封を開けた。
初めの方には、ヴァルガードでの仕事について書かれている。
王太子になってから増えた公務は、相変わらず減る気配がないらしい。
面倒だ、疲れた、側近がうるさい、と好き放題書いてある。
「……側近の方も大変ね」
思わず同情しながら読み進めていくと、途中から話が変わった。
『昨日、城下で妙な置物を見つけた。何の動物なのか最後まで分からなかった。お前が見たら絶対笑うと思う』
「どんな置物なのよ」
そこまで書くなら、せめてもう少し詳しく説明してほしい。
次は食べ物の話だった。
『あと、新しい菓子屋ができた。俺には甘すぎたけど、お前なら好きそうだった。次に来たら食わせてやる』
私はその一文で、ふと目を止めた。
――次に来たら。
リオンは、こういうことをよく書く。
『今度来たら』『次に会ったら』『お前がいたら』――そんな言葉が、手紙の中には何度も出てくる。
国境を越えなければ会えない距離にいるというのに、まるで少し離れた街に住んでいるだけのような書き方をするのだ。
もちろん、リオンが私に向けている気持ちは知っている。
ヴァルガードにいた頃、彼は私に「好きだ」と、はっきり伝えてくれた。
返事は今でなくていい。
嫌ならきちんと振れ。
それまでは好きでいる。
そう言われたことも、覚えている。
その後、フィオーレで再会してからも、リオンはその気持ちを隠そうとはしなかった。
むしろ、もう少し隠してもいいのではないかと思うくらいだった。
けれど、だからといって返事を急かされたことはない。
だから最初の頃は、手紙の中に彼の気持ちを思わせる言葉を見つけるたび、少しだけ戸惑った。
いつかは、返事をしなければならない。
リオンが急かしてこないからといって、いつまでも曖昧なままでいいとは思っていなかった。
けれど彼の手紙は、答えを求めるものではなかった。
届くのは、仕事の愚痴と、城下で見つけた変なものと、食べ物の話。
それから、ときどき当然のように紛れ込む「次に会ったら」の話だった。
そうして何通もやり取りしているうちに、私もいつの間にか構えなくなっていた。
『それと、仕事が楽しいからって無茶すんなよ。お前の「大丈夫」は信用してねぇからな』
「……失礼ね」
誰もいないのに、つい便箋へ言い返してしまう。
無茶をするな、私の『大丈夫』は信用できない、何かあったらすぐにやめろと、旅をしていた頃から何度も言われてきた。
私としては、その都度きちんと大丈夫だと判断していたつもりなのだけれど、リオンはどうやら納得してくれない。
それでも、私がやると決めたことを何もかも取り上げようとするわけではなかった。
危険があるのなら止める。
それでも必要だと分かれば、何かあったときにはすぐ手を出せる場所で見ている。
――そういう人だった。
文字を追っていると、呆れたように眉を寄せる顔まで簡単に思い浮かんで、私は小さく笑った。
最後には、以前から互いに情報を共有している術式について少しだけ書かれていた。
私は読み終えた手紙を膝の上へ置く。
「…………」
改めて考えてみると、仕事に関係する話は全体のほんの一部だった。
残りはほとんど、リオンの日常だった。
昨日何をしたのか、誰に何を言われたのか、何を食べて、何を見つけたのか――そんな些細なことまで、わざわざ国を越えて知らせてくる。
「……意外と暇なのかしら」
王太子なのだから、もっと忙しいものだと思っていたのだけれど。
首を傾げながら机へ移動し、便箋を取り出す。
まずは仕事の話から返事を書き始めた。
今日は古い術式を解析していて、どうしても意味の分からない記述が一つあり、結局半日もかかってしまったこと。
それから、先日任された調査が無事に終わったことも書いた。
そこまで書いたところで、昨日アンナと新しい店へ行ったことを思い出した。
『こちらにも新しいお店ができました。あなたでも食べられそうな、甘くない菓子があったわ』
ペンを走らせながら、先ほどの手紙を思い出す。
『今度フィオーレへ来たら、案内してあげる』
書いてから、私は少し笑った。
人のことは言えない。
私もすっかり「今度会ったら」と書くことに慣れていた。
それでも、不思議と次がないとは思わない。今は離れていても、いつかまた会うのだろうと、いつの間にか当たり前のように考えている。
その後も、ルーカスのことやアンナに笑われた話、今日王城で見つけた妙な魔道具のことまで、リオンなら面白がりそうだと思って書いていった。
気づけば一枚目は埋まり、二枚目もすぐに終わっていた。
三枚目の途中まで書いたところで、ようやく私は手を止める。
「……多いわね」
さすがに書きすぎた気がして、少し削ろうと思った。
けれど最初から読み返してみても、どこを消せばいいのか分からない。
仕事の話はリオンが聞いてきたから必要だし、新しい店については向こうも菓子の話を書いていた。
ルーカスのことも以前尋ねられている。
アンナの話は――なくても困らない気はするけれど、たぶんリオンなら笑う。
「……まあ、いいか」
どうせリオンなのだから、長ければ適当に読むだろう。
そう思って最後に署名をしようとして、少しだけ手が止まった。
彼の手紙には、相変わらず仕事が多いと書いてあった。
リオンは、誰かが無茶をすれば本気で怒るのに、自分のこととなると話は別だった。
弟君を守るためなら、自分が何を背負うことになっても構わない――以前の彼は、そんなふうに考えていた。
それでも旅を経て、少しずつ考え方が変わったことを私は知っている。
だからこそ、今はちゃんと自分のことも大切にしてほしいと思った。
少し考えてから、最後に一文を書き足す。
『あなたも、あまり無茶をしないでね』
書き終えてから、私は少しだけ笑った。
お互い様だと言われそうだ。
封を閉じて部屋を出ると、ちょうど廊下を歩いてきたアンナに出会った。
「アンナ、これをお願いできる?」
「もちろんです」
差し出した封筒を受け取ったアンナが、その厚みを見て目を瞬いた。
「……ずいぶん書かれましたね」
「向こうも長かったのよ」
「そういうことにしておきます」
「どういう意味?」
「何でもございません」
やっぱり何かある。
けれどアンナは笑うだけで、それ以上何も教えてはくれなかった。
◇
それからも、リオンとの手紙のやり取りは続いた。
季節が移り変わっても、ヴァルガードから届く封筒が途切れることはなかった。
『今日は珍しく早く仕事が終わった。こういう日にお前がいたら、どっか行けたんだけどな』
『私がいても、あなたが行きたい場所についていくとは限らないでしょう』
『じゃあ、お前が行きたいところでいい』
別の日には、こんなやり取りもあった。
『こっちはもう寒い。お前がいた頃よりだいぶ冷える。次に来るなら暖かい時期にしろ』
『寒いのは嫌だから、そうするわ』
顔を合わせていれば数分で終わるような会話を、私たちは何日もかけて続けていた。
不思議なものだった。
旅をしていた頃より、離れてからの方が、互いの何でもない日常を詳しく知っている気さえする。
私は、リオンが王太子としてどんな仕事をしているのかを知るようになった。
側近と意見がぶつかったことも、苦手な公務があることも、城下にお気に入りの店を見つけたことも知っている。
リオンも、初めて一人で任された調査や、失敗して落ち込んだこと、それでも次にはうまくできたことまで、私の仕事について知っていた。
そんな話を、一番最初に手紙へ書こうと思うことも増えた。
今日こんなことがあった。
これを見たら、リオンは何と言うだろう。
次の手紙に書こう。
気づけば、そんなふうに考えることが当たり前になっていた。
だから、その一文を見つけたときも、最初はいつものように読み進めていた。
『会いてぇな』
そこで、指が止まった。
たった一言だったのに、その言葉だけが妙に目に残った。
前には仕事の愚痴があり、後ろには先日見つけた店について書かれている。
「……会いたい、か」
声に出すと、急にその言葉が現実味を帯びた気がした。
考えてみれば、もう何か月も会っていない。
最後に見たのは、フィオーレを発つリオンの背中だった。
旅をしていた頃は、リオンに会いたいなんて考えたこともなかった。
翌日になれば、また顔を合わせていたからだ。
けれど今は違う。
国が違い、互いに仕事もある以上、会いたいと思ったからといって、明日会えるわけではない。
そう考えた途端、これまであまり意識していなかった距離が、急に遠く感じられた。
もちろん、彼がどういう気持ちでこの言葉を書いたのかは分かっている。
だからこそ、返事には少し迷った。
曖昧な期待を持たせることはしたくない。
まだ私は、あの告白への答えを出せていないのだから。
それでも、会いたくないのかと聞かれれば、答えは違った。
私も、リオンに会いたい。
仕事の話をしたい。
手紙に書かれていた変な置物も見てみたいし、甘すぎるという菓子がどれほどのものなのかも少し気になる。
何より、久しぶりに顔を見て話したいと思った。
それは、今の私の正直な気持ちだった。
私はしばらく迷ったあと、返事の最後に書き添えた。
『私も、また会えたら嬉しいわ』
書いてしまえば、それだけのことだった。
リオンは大切な人だ。
一緒に旅をして、たくさんのことを話し、離れた今もこうして手紙を送り合っている。
そんな人に会いたいと思うのは、不思議なことではないだろう。
それでも、なぜか少しだけ気恥ずかしくなって、私は便箋を急いで封筒へ入れた。
◇
リオンがフィオーレを発ってから、半年ほどが過ぎた頃。
その日、私は仕事のために王城へ呼ばれていた。
「ヴァルガードへ、ですか?」
「はい。以前の事件に関連する術式について、新たに確認したいものが見つかったそうです。先方から正式に調査協力の要請が届いております」
担当官から差し出された資料を受け取り、目を通す。
内容を見る限り、現地で直接確認した方がよさそうだった。
私がこれまで調べてきた分野とも重なるため、断る理由はない。
そう判断したはずなのに、ヴァルガードという国名を聞いた瞬間から、頭の片隅には別のことが浮かんでいた。
もう半年近く、顔を見ていない人。
それなのに、最近どんなふうに過ごしているのかは知っている人。
「期間はどのくらいですか?」
「現地での状況次第ですが、まずは二週間ほどを予定しております」
――二週間。
思っていたより長い期間だ。
資料へ視線を戻しながら、私は考える。
仕事が終わったあとなら、少しくらい街を見る時間もあるだろうか。
リオンが手紙に書いていた店は、まだあるだろうか。
あの妙な置物は、結局何の動物だったのだろう。
そこまで考えてから、自分が仕事とは関係のないことばかり考えていることに気づいた。
「……分かりました。お引き受けします」
もちろん、仕事だから行くのだ。
私の知識が必要とされていて、私自身も確認しておきたいことがある。
それが理由だ。
けれど王城を出て、夕暮れの街を歩きながら、ふとヴァルガードでの日々を思い出した。
そして、その中心にいた一人の人を思い浮かべる。
今度は手紙ではなく、直接話せる。
そう思っただけで、足取りが少し軽くなった。
――リオンに会える。
胸の奥に浮かんだその気持ちを、私はまだ、久しぶりに大切な友人へ会える喜びなのだと思っていた。
【おまけ】
「……ダリオ」
「はい」
執務机に向かっていたリオンが、手元の便箋を睨んだまま口を開いた。
「手紙で女口説くって、どうすりゃいいんだ?」
「…………」
「何だよ、その顔」
「いえ。殿下のお口から、そのような相談が出る日が来るとは思いませんでしたので」
「うるせぇな」
リオンは眉を寄せ、再び便箋へ視線を落とした。
「そもそも、こういうのやったことねぇんだよ」
「告白はなさったのでしょう?」
「したけど、それとこれとは別だろ。好きだって言うだけなら言える」
「……十分だと思いますが」
「十分じゃねぇよ」
即座に返され、ダリオがわずかに眉を上げる。
「こっちは国境越えなきゃ会えねぇんだぞ。会おうと思ってすぐ会える距離じゃねぇし、近くにいる奴らと同じことしてたら不利だろ」
「なるほど」
「だから手紙くらい何とかしねぇとって思ってんだけど……何書きゃ口説いたことになるんだ?」
「さあ……私に聞かれましても」
「お前……使えねぇな」
「でしたら、下手に口説こうとなさらず、いつもどおり書かれてはいかがです?」
「それで意味あんのか?」
「少なくとも、無理に気の利いた言葉を並べるよりは、殿下らしいかと」
「…………」
しばらく考えたあと、リオンはようやくペンを取った。
『昨日、城下で妙な置物を見つけた』
そこまで書いて、手が止まる。
「……これ、口説いてるか?」
「まったく」
「だよな」
「ですが、レティシア様ならお返事はくださるのでは?」
「……まあ、たぶんな」
少しだけ口元を緩め、リオンは続きを書き始めた。
『何の動物なのか最後まで分からなかった。お前が見たら絶対笑うと思う』
そこまで書いてから、また少し考える。
『あと、新しい菓子屋ができた。俺には甘すぎたけど、お前なら好きそうだった』
そして最後に、一文を書き足した。
『次に来たら食わせてやる』
「……これならどうだ?」
「先ほどよりは、よろしいのでは?」
「曖昧だな」
「殿下ご自身も、何をもって『口説く』のか分かっておられないのでしょう?」
「……それ言うな」
リオンは小さく息を吐いた。
「手紙だけで口説くの、大変だな……」
そんなことをリオンが真剣に悩んでいたなんて、レティシアは知る由もなかった。




