第86話 来たぞ、レティ
それから、季節が一つ巡った。
魔力異常を調査するために始めた試みは、少しずつ形になりつつあった。
各領地から寄せられる報告を一か所へ集め、過去の記録と照らし合わせる。
その中に気になるものがあれば、騎士団や魔術師団とも連携し、必要に応じて現地へ調査員を派遣する。
まだ正式な部署として発足したわけではないものの、当初思い描いていた仕組みには少しずつ近づいている。
私自身が現地へ赴くこともあった。
けれど、すべてではない。
自分にできるからといって、何もかもを自分で担う必要はない。
私にしかできないことがあれば力を貸し、他の誰かに任せられることなら任せる。
頭では分かっていても、最初はそれが意外と難しかった。
目の前にやるべきことが残っていれば、もう少しだけと思ってしまう。
自分でやった方が早いと思うこともある。
そんな時には、アンナやルーカスに止められた。
そして最近では、アルバートにも止められるようになった。
「レティシア」
名前を呼ばれて、私は書類から顔を上げた。
「何でしょう?」
「疲れているか?」
「…………」
以前なら、私の返事が短くなったことに気づけば、それだけで自分の中に答えを出していたのだろう。
けれど今は、きちんと尋ねてくる。
そして私も、少しずつ答えられるようになった。
「……少し」
「なら、今日はここまでにしたらどうだ?」
「あと三件なのですけれど」
「明日でもいいだろう」
「今日中に確認できます」
「できるかどうかは聞いていない」
聞き覚えのある言葉に、私は書類からアルバートへ視線を移した。
彼は少しだけ笑っている。
「まだ続けたいなら止めない。だが、疲れているなら休めばいい」
「殿下は、まだお仕事があるのでしょう?」
「ある」
「では、私だけ帰るのは……」
「俺が仕事をしていることと、君が休むことに何の関係がある?」
「…………」
正論だった。
以前なら、誰かが働いているのに自分だけ休むことに、もっと強い抵抗があった気がする。
今もまったくないわけではない。
けれど、それが自分でも少しずつ分かるようになってきた。
「……では、今日はここまでにします」
「ああ。それがいい」
そう答えると、アルバートは満足そうに頷いた。
「それなら、このあと時間はあるか?」
「ありますけれど」
「菓子を食べに行かないか?」
「………殿下は、まだお仕事があるのでは?」
「あるな」
「今、ご自分でおっしゃいましたよね?」
「ああ」
「では、なぜ」
「俺も今日はここまでにする」
「…………」
「何だ?」
「私を休ませるために、ご自分まで仕事を放り出していませんか?」
「放り出してはいない。残っているのは明日でも構わないものだ」
「本当ですか?」
「本当だ」
そう言ってから、アルバートはわずかに口元を緩めた。
「それに、俺も君と菓子を食べたいからな」
「それが一番の理由では?」
「否定はしない」
堂々と言われて、思わず笑ってしまった。
婚約を解消してから、アルバートは本当によく私を誘うようになった。
食事や散歩、王都に新しくできた店、魔法具の展示。
時には、ただ王城の庭でお茶を飲むだけのこともある。
けれど、私はすべての誘いに応じているわけではなかった。
疲れている日は断った。
一人で過ごしたいと思った日には、そう伝えた。
最初に断った時は、少しだけ身構えたのを覚えている。
けれどアルバートは、ただ「ああ、分かった」と答えた。
そして数日後には、何事もなかったようにまた誘ってきた。
断ってもいい。
断ったからといって、関係が壊れるわけではない。
そんな当たり前のことを、私は少しずつ覚えている。
アルバートの好きなものも、以前より増えた。
甘いものは嫌いではないけれど、私ほどは食べない。
静かな場所を好み、読書も好きだが、物語より歴史書を選ぶことが多い。
馬に乗ることは、王太子として必要だからではなく、本当に好きらしい。
それから意外にも、王都を歩くことも好きだった。
王太子として視察するのではなく、店を眺め、人々がどんなものを食べ、何を買い、どんなふうに暮らしているのかを見るのが楽しいのだという。
十年間も婚約者だったのに、私はそんなことすら知らなかった。
そしてアルバート自身も、自分がそれを好きなのだと気づいていなかったことがある。
だから、好きなもの探しは今も続いていた。
「今日は何を食べるのですか?」
「まだ決めていない」
「殿下のお好きなものを探すのでしょう?」
「今日は君が食べたいものでもいい」
「それでは意味がありません」
「君が美味しそうに食べるのを見るのは好きだぞ」
「…………」
「ほら。一つ見つかった」
「そういうものは数えません」
「なぜだ?」
「何となくです」
「厳しいな」
そんな話をしながら書類を片づけていると、扉が叩かれた。
「失礼いたします」
入ってきた文官が、私たちを見て一礼する。
「アルバート殿下。ヴァルガード王国の使節団が王都へ到着したとの報告がございました」
「ああ」
先ほどまで笑っていたアルバートの表情が、一瞬で王太子のものへ変わった。
「予定より少し早いな」
「はい。それから――」
文官が、なぜかわずかに言いづらそうに私を見る。
「先方の代表を務められるリオネル王太子殿下より、エトワール公爵令嬢へ言伝がございます」
「私に?」
「はい」
文官はそう答えたものの、すぐには続きを口にしなかった。
なぜか一度、私とアルバートを見比べる。
それから、最終的な判断を仰ぐようにアルバートへ視線を向けた。
その様子に、私は首を傾げる。
隣国の王太子からの言伝だというのに、何か問題でもあるのだろうか。
アルバートもわずかに眉を寄せたが、やがて先を促した。
「……構わない。言ってくれ」
「では」
小さく咳払いをしてから、文官が口を開く。
「『来たぞ、レティ』とのことです」
「「…………」」
あまりにも簡潔な言伝に、私はしばらく言葉を失った。
隣国の王太子が、正式な使節団を率いて王都へ到着した。
その人物からわざわざ文官を通して届けられた言葉が、これである。
隣を見れば、アルバートも何も言わない。
伝え終えた文官だけが、どこか居心地悪そうに視線を伏せている。
誰も口を開かないまま、何とも言えない沈黙が部屋を満たした。
「以上です」
「それだけか?」
「はい」
「外交使節の代表が?」
「はい」
「わざわざ文官に?」
「……はい」
アルバートが額を押さえ、呆れたように小さく息を吐いた。
「何をしているんだ、あいつは」
「ふふっ、リオンさんらしいですね」
「笑うところか?」
「少し」
「そうか」
アルバートの眉間にわずかに皺が寄る。
先ほどまで浮かんでいた笑みは、すっかり消えていた。
「殿下」
「何だ?」
「お顔に出ています」
「出している」
「わざとですか?」
「ああ。嫌だからな」
「何がです?」
「リオネルが来たことが。――正確には、君に会いに来たことが、だ」
「今回は外交のお仕事でしょう?」
「もちろん、それが主目的だろう」
「でしたら――」
「それでも、嫌なものは嫌だ」
本当に、何でも言うようになった。
以前なら、きっと黙っていたのだろう。
私はそんなアルバートを見ながら、また少し笑った。
◇
翌日、王城ではヴァルガードの使節団を迎えるための会談が開かれた。
今回の議題には、先の事件を受けた両国間の魔力異常に関する情報共有も含まれている。
そのため、私も途中から同席することになっていた。
扉を開けると、すぐに声が飛んでくる。
「レティ」
私の姿を見つけた瞬間、リオンの表情がぱっと明るくなった。
緑の瞳を細め、隠す気もないほど嬉しそうに笑う。
「お久しぶりです、リオンさん」
「ああ。久しぶり」
立ち上がったリオンがこちらへ来る。
濃紺の髪も、緑の瞳も、以前と変わらない。
けれど胸元には、ヴァルガード王太子としての徽章がある。
旅をしていた頃よりも、その肩に背負うものが増えたはずなのに、不思議と以前より落ち着いて見えた。
「元気だったか?」
「はい。リオンさんも」
「見ての通りだ。手紙じゃ分からねぇこともあるからな。顔を見て安心した」
フィオーレへ戻ってからも、リオンとは手紙を交わしていた。
ヴァルガードの復興のこと。王太子になってからの仕事のこと。
両国で確認されている魔力異常のこと。
けれど、それだけではない。
――王太子になったら少しは自由になると思ったが、前より忙しくなった。
そう書かれていた手紙に、私は、
――自業自得では?
と返した。
すると、ほどなくして返事が届いた。
――お前、手紙だと容赦ねぇな。
そんな、どうでもいいやり取りも続いている。
「それで? ちゃんと俺のことも考えたか?」
「…………」
再会して、まだ一分も経っていない。
久しぶりの挨拶を交わしたばかりだというのに、随分と本題へ入るのが早い。
「リオンさん」
「何だよ」
「もう少し別のお話はありませんか?」
「あるけど、それが一番聞きたい」
「…………」
「急かすつもりはねぇよ。でも、忘れられるつもりもねぇから」
「忘れてはいません」
「ならいい」
「よくない」
それまで黙って聞いていたアルバートの低い声が、二人の会話に割って入った。
静かな声音なのに、不機嫌なのは隠しようもない。
「アルバート」
「リオネル」
二人の視線が正面からぶつかる。
どちらも笑っているわけではないのに、不思議と険悪というより、互いに一歩も譲る気がないことだけが伝わってきた。
「久しぶりだな」
「ああ」
「元気そうで何よりだ」
「お前は来なくてもよかったけどな」
「王太子同士の外交でそれを言っていいのか?」
「個人的な感想だ」
「俺も個人的には、お前に会いに来たわけじゃねぇ」
「知っている。だから嫌なんだ」
「…………」
リオンが一瞬、意外そうに目を瞬いた。
けれど、すぐにその意味を理解したのか、面白そうに口元を緩める。
「お前、本当に変わったな」
「ああ」
「前ならそんなこと絶対言わなかっただろ」
「十年黙って失敗したからな」
「なるほど」
リオンは納得したように頷くと、どこか愉快そうに口元を緩めた。
アルバートがそういうつもりなら、自分も負ける気はない――そんな顔に見える。
「じゃあ俺も遠慮しなくていいな」
「元からしたことがないだろう」
「そうだった」
早くも張り合い始めた二人を前に、私は呆れ半分に小さく息を吐いた。
「お二人とも」
「何だ?」
「何だよ」
「ここは外交の場です」
「まだ会談前だ」
「そういう問題ではありません」
二人とも黙った。
どうして私が注意しなければならないのだろう。
◇
会談そのものは、驚くほど真面目に進んだ。
ヴァルガードで確認された魔力異常の記録。
フィオーレ側で集め始めた各領地の情報。
そして、国境付近で異変が起きた場合の情報共有について。
リオンは、旅をしていた頃よりずっと王太子らしく見えた。
人の意見を聞き、任せるべきところは同行した文官たちに任せる。
必要なところでは譲り、けれど譲れないところでは決して引かない。
以前のリオンは、弟や国のために、自分一人で何もかも背負おうとしていた。
けれど、今は違う。
変わったのは、私だけではないのかもしれない。
会談を終えて廊下へ出たところで、リオンに呼び止められた。
「レティ」
「はい?」
「明日、空いてるか?」
「明日ですか?」
「ああ」
「午後でしたら」
「じゃあ、付き合ってくれ」
「どちらへ?」
「城下町」
「…………」
「俺、フィオーレの王都に来るのは初めてだからな。城と会議室だけ見て帰るのもつまらねぇだろ」
「それは……そうですね」
「案内してくれ」
「私がですか?」
「お前以外に頼む理由あるか?」
「たくさんいらっしゃると思いますけれど」
「俺にはない。嫌なら断っていい」
あまりにも迷いなく言い切られて、私は思わずリオンの顔を見つめた。
この人は、本当に何でも言葉にする。
自分がどうしたいのかも、そのうえで私に選ぶ余地を残すことも、まるで当たり前のことのように口にする。
「何だ?」
「いえ」
その言葉を、最近、別の人からも何度も聞いている。
けれど、リオンは以前からこういう人だった。
だからこそ、私はこの人といる時、楽だったのかもしれない。
「……分かりました」
「いいのか?」
「はい」
王太子として来ているとはいえ、滞在中の自由時間くらいはあるだろう。
それに、私自身も久しぶりにリオンと話したいと思った。
「では、明日の午後に」
「ああ。楽しみにしてる」
「――待て」
約束がまとまったところで、背後から聞き慣れた声が飛んできた。
その声音には、聞き流すつもりなど微塵もないことが滲んでいる。
リオンと揃って振り返れば、少し離れたところにアルバートが立っていた。
こちらをまっすぐ見据える金の瞳からして、どうやら今の会話はしっかり聞かれていたらしい。
「……何だよ」
「明日の午後か?」
「ああ」
「レティシアと?」
「ああ」
「二人で?」
「ああ」
「…………」
「だから何だよ」
「奇遇だな。俺も空いている」
「聞いてねぇし、全然奇遇じゃねぇ」
「俺も城下町へ行こうと思っていた」
「今決めただろ」
「今決めた」
あまりにも堂々と言い切るアルバートに、私は呆れて額に手を当てた。
どうやら、何を言っても引くつもりはないらしい。
「殿下」
「何だ?」
「リオンさんが、私に城下町を案内してほしいと」
「聞いていた」
「でしたら」
「俺も行く」
「何でだよ」
「俺も城下町を案内できる」
「お前がいたら意味ねぇだろ」
「なぜだ?」
「俺がレティと二人で出かけたいからだよ」
「それなら、なおさら行く」
「お前な」
「嫌なものは嫌だと言うことにした」
「便利だな、それ」
「お前に言われたくない」
しばらくアルバートと睨み合っていたリオンが、これ以上アルバートと言い合っても埒が明かないと思ったのか、私へ視線を向けた。
「レティ。こいつ置いていこうぜ」
「置いていくとは」
「こいつは仕事がある」
「明日はない」
「作れ」
「嫌だ」
「王太子だろ」
「お前もだろう」
私は二人を見比べた。
ヴァルガードの王太子と、フィオーレの王太子。
二人とも、それぞれの国では多くの人間を従える立場にあるはずなのに、なぜ私の前ではこんなにも大人げないのだろう。
「……分かりました。明日は三人で行きましょう」
「え」
「は?」
今度は二人の声がぴたりと重なった。
揃って不満そうな顔を向けられても、私としてはこれが一番平和な選択だと思う。
「嫌でしたら、お二人とも来なくて結構です」
「「行く」」
「…………」
即答だった。
どうして、そこだけ息が合うのだろう。
思わずため息が漏れる。
けれど、少しだけおかしかった。
婚約者だった頃なら、アルバート以外の男性と二人で出かけるという選択肢そのものが、きっとなかった。
今は、誰と会うのか。
誰と話すのか。
誰と時間を過ごすのか。
それも、私が決めていい。
アルバートとは、婚約者ではなくなってから初めて、この人自身を知ろうとしている。
リオンのことは、旅を通してたくさん知った。
強いところも、危ういところも。
誰かのためなら自分を犠牲にしてしまうところも、意外と子どものように笑うところも。
私は、リオンのことを大切に思っている。
けれど、その気持ちにどんな名前をつければいいのかは、まだ分からない。
だから、二人を比べるためではなく。
誰かを選ぶためだけでもなく。
私はもう少し、自分が二人といる時に何を感じるのかを、ちゃんと見てみたいと思った。
そう考えながら二人を見れば、明日の城下町散策が穏やかなものにはならないだろうことだけは、今から分かる気がした。
【おまけ】
――少し離れた場所では。
「……今、リオネル殿下はエトワール公爵令嬢を何とお呼びになった?」
フィオーレ側の文官が、隣に控えていた同僚へ小声で尋ねた。
「レティ、と」
「愛称では?」
「愛称ですね」
二人の間に、何とも言えない沈黙が落ちる。
隣国ヴァルガードの王太子が、我が国の公爵令嬢を愛称で呼んでいる。
しかも――
「エトワール公爵令嬢も、『リオンさん』とお呼びになっていたような」
「…………」
「…………」
思っていたより親しい。
いや、かなり親しいのではないだろうか。
「我らがアルバート殿下は?」
「『殿下』ですね」
「…………」
「…………」
二人は揃って、少し離れた場所に立つ自国の王太子へ視線を向けた。
「不利では?」
「待て。十年間婚約していたのはこちらだぞ」
「その婚約は解消されたのでは?」
「…………」
「…………」
――不利では?
一方、ヴァルガード側でも、似たような会話が交わされていた。
「殿下は以前から、あの方をレティと?」
「ああ。旅をしていた頃からそうだったはずだ」
「では、かなり親しいのですね」
「かなり親しいと思うぞ」
「フィオーレの王太子殿下とは?」
「十年間婚約していたらしい」
「十年」
長い。
「では、あちらの方が――」
「だが、その婚約は解消された」
「…………」
分からない。
そんな周囲の困惑など知る由もなく、二人の王太子はなおも言い合っている。
「俺がレティと二人で出かけたいからだよ」
「それなら、なおさら行く」
両国の文官たちが、一斉に息を呑んだ。
今のは聞いてよかったのだろうか。
「……これは」
「何だ?」
「王太子対決、ということでしょうか」
「口にするな。外交問題になりそうだ」
フィオーレ側の文官が、ふと真顔になる。
「待て」
「今度は何だ?」
「相手はヴァルガードの王太子殿下だ」
「それは最初から分かっている」
「エトワール公爵令嬢は現在、どなたとも婚約されていない」
「……そうだな」
「そしてリオネル殿下は、あのご様子だ」
「…………」
二人の視線が、楽しそうにレティシアへ話しかけている隣国の王太子へ向かう。
「仮に、エトワール公爵令嬢がリオネル殿下を選ばれた場合――」
「待て」
「何だ?」
「それ以上は考えたくない」
「だが、考えなければならないだろう。――白銀の魔女が、ヴァルガードへ嫁がれる可能性がある」
「…………」
先ほどまでどこか面白がっていたフィオーレ側の者たちの表情が、一斉に真剣なものへ変わった。
「国外流出では?」
「言い方」
「しかし――」
「人を国家資産のように言うな。だから婚約を解消する時にも揉めたんだろうが」
「それは分かっている。ご本人がお決めになることだ」
「ならいい」
「だが、それと我々が心配することは別だ」
「…………それもそうだな」
再び、視線がアルバートへ集まった。
「……殿下」
「頑張っていただきたい」
「心から」
本人の意思を無視して国に引き留めることはできない。
だからこそ――自らこの国に残りたいと思ってもらえるなら、それに越したことはない。
もっとも、当の本人たちは、そんな国家的な心配などまるで知らない。
「レティ。こいつ置いていこうぜ」
「置いていくとは」
「こいつは仕事がある」
「明日はない」
「作れ」
「嫌だ」
「王太子だろ」
「お前もだろう」
今度は、両国の文官たちが別の意味で頭を抱えた。
「……お二人とも王太子なのですが」
「知っている」
「もう少し自覚を持っていただきたい」
「それを我々が言えるとでも?」
「無理だな」
やがて、二人の王太子に挟まれていたレティシアが口を開いた。
「……分かりました。明日は三人で行きましょう」
「え」
「は?」
「嫌でしたら、お二人とも来なくて結構です」
「「行く」」
綺麗に重なった。
「…………」
両国の者たちは、しばし無言でその光景を眺めた。
やがてフィオーレ側の文官が、ぽつりと呟く。
「……結局、一番強いのはエトワール公爵令嬢なのでは?」
「それは間違いない」
その言葉には、ヴァルガード側の文官まで深く頷いていた。
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