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もうどうでもよくなったので、私に関わろうとするのはご遠慮ください  作者: はな


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第50話 白銀の剣



「…………」

「どうしました?」

「……いや。お前、何してんだ?」

「剣を作りました」

「それは見れば分かる」


 随分と呆れたような声だった。

 リオンは白銀の剣と私を交互に見たあと、理解することを諦めたように深く息を吐く。


「武器まで作れんのかよ……」

「形を作って固定しているだけですよ?」

「だけ、じゃねぇんだよ」


 そう言われても、何がおかしいのかよく分からない。


 私は手の中の剣を軽く振り、重さを確かめる。

 剣を扱うのは久しぶりだった。


 王族に嫁ぐ以上、最低限自分の身を守れるようにと、護身術の一環で剣の扱いも教えられている。


 まさか、それをこんなところで使うことになるとは思っていなかったけれど。


 リオンが無言になったその隣で、男性の顔色が変わる。


「――殿下、お下がりください!」

「待て、お前じゃ――」


 鋭い声とともに、男性が私たちの間へ割って入った。

 しかしリオンが止めるよりも早く、男性が剣を抜く。


 ――速い。


 やはり騎士なのだろう。

 一歩で間合いへ踏み込んできた男性の剣を、私は白銀の剣で受けた。


 甲高い金属音が森へ響く。


「……っ!」


 力で押し返す必要はない。

 剣先を僅かに傾けて軌道を逸らし、そのまま手首を返す。

 相手の剣へ自分の剣を絡めるように滑らせ――ほんの少しだけ魔力を乗せた。


「なっ――」


 次の瞬間、男性の剣が宙を舞った。

 くるくると回転しながら飛んでいった剣が、少し離れた地面へ突き刺さる。


「…………」


 男性が固まった。

 空になった自分の手と、少し離れた場所へ突き刺さった剣を交互に見ている。


 どうやら、驚かせてしまったらしい。

 私は静かに剣先を下ろした。


「申し訳ありません。反射的に」

「……反射……?」

「……だから言っただろ。お前じゃ無理だ」

「しかし、殿下!」

「下がってろ」


 リオンが疲れたように額を押さえた。

 けれど、次に発した声は先ほどまでとは違う、低く鋭いものだった。


 男性が息を呑み、渋々後ろへ下がる。

 代わりに、リオンが前へ出た。


「……本気なんだな」

「できれば、お話し合いで済ませたいのですけれど」

「剣持って言う台詞かよ」

「あら。先に剣へ手を掛けたのはリオンさんでは?」

「…………」


 リオンが何とも言えない顔をした。


 けれど、僅かな間のあと――鞘走る音が響いた。

彼の剣が抜かれた瞬間、空気が変わる。


 今まで何度かリオンが剣を振るうところは見た。

 けれど、真正面から向き合ってみるとよく分かる。


(……強い)


 構えに隙がない。

 先ほどの男性とはまるで違う。

 さすが、武を尊ぶ国の第一王子ということなのだろう。


「今ならまだ退けるぞ」

「それは、こちらの台詞です」

「……ほんっと可愛くねぇな」

「あら」


 以前は随分と聞き分けのよい子どもだったと思うのだけれど。

 そんなことを考えながら、私は剣を構えた。


「では――参ります」

「っ、おい!」


 一歩踏み込み振り下ろした剣を、リオンが受け止めた。

 激しい金属音が響く。

 受け止められた瞬間、そのまま身体を捻り、横へ薙ぐ。

 リオンが身を引いて躱した。


「……っ」


 すぐに剣が返ってくる。

 私は半歩下がってその切っ先を避けると、今度は下から剣を跳ね上げた。


 剣と剣が何度もぶつかり合い、甲高い音が森の中へ響いていく。


(やっぱり、お強いのね)


 純粋な剣技なら、おそらくリオンの方が上だ。

 私も王妃教育の一環として護身術や剣を学んだけれど、彼はきっと幼い頃から実戦を想定して鍛えられてきたのだろう。

 無駄な動きがほとんどない。


 けれど――


「……なら、これはどうだ」


 リオンの剣を、淡い光が包んだ。

 その瞬間、周囲の空気が震える。


(魔力……)


 思わず目を見開く。

 やはり王族だけあって、保有する魔力量もかなり多いらしい。


「さすが王族ですね」

「感心してる場合かよ!」


 振り下ろされた剣を受けるも、先ほどまでとは比べものにならないほど重い。

 私は一度後ろへ跳び、距離を取った。


(……なるほど)


 剣へ魔力を纏わせ、威力そのものを高めているらしい。


「そういう使い方もできるのですね」

「……まさかお前」


 リオンの顔が引きつった。

 なぜか一歩距離を取ると、ひどく警戒した様子で私を見る。


「今覚えたとか言うなよ」

「いえ、理屈は知っていました」

「ならいい」

「ですが、この剣で試すのは初めてです」

「……待て」


 私の剣は、もともと魔力を形にして固定したものだ。

 ならば、外から魔力を纏わせる必要はない。

 剣を形作っている魔力そのものを、少し強めればいいのではないだろうか。

 そう考えて、剣へ注ぐ魔力を増やした次の瞬間――


「…………」

「…………」


 白銀の剣が、ひときわ眩い光を放った。

 刀身を覆う光が一気に膨れ上がり、周囲の空気までびりびりと震え始める。

 思っていたより、少し多かったらしい。


「……お前、それ」

「少し多いでしょうか?」

「少し?」


 リオンが何か言っているけれど、試してみなければ加減も分からない。

 先ほどより慎重に踏み込む。


「――参ります」

「待て待て待て!」


 剣がぶつかった瞬間、轟音が響いた。

 リオンの身体が大きく後ろへ押される。


 けれど、倒れない。

 地面を滑りながらも剣で受け切り、そのまま魔力を散らしている。


「まあ……本当にお強いのですね」

「……お前、それ本気で言ってんのか?」

「ええ」

「…………」


 なぜそんな顔をするのだろう。

 もう一度踏み込むと、今度はリオンが受けずに避けた。

 続けて風の魔法を放つ。


「お前、剣だけじゃねぇのかよ!」

「魔法を使ってはいけないとは伺っておりません」

「普通この流れなら剣だろ!」

「そうなのですか?」

「くそっ!」


 リオンが横へ跳ぶ。

 その足元を風の刃が通り抜け、街道の土を抉った。


「殿下!」

「来るな!お前じゃ死ぬ!」


 後ろにいた男性が地面へ落ちた自分の剣へ手を伸ばしたが、リオンの鋭い声が飛ぶ。


「殺しませんよ?」

「……は?」


 思わず答えると、リオンがこちらを見た。

 その隙に攻撃するのはさすがに卑怯だと思い、私も一度剣を下ろす。


「言ったではありませんか」

「何をだよ」

「命は大切だと。そもそも、命を奪うつもりで剣を振るってなどおりません」

「…………」

「リオンさんの命も、そちらの方の命も同じです。殺すつもりなどありませんよ」

「……じゃあ、何するつもりだったんだよ」

「そうですね……しばらく動けない程度には、大人しくしていただこうかと」

「…………」

「その間に、ゆっくりお話を伺えますから」

「お前、それを殺さないから大丈夫みたいな顔で言うな」

「命に別状はありませんよ?」

「そういう問題じゃねぇ!」


 当然のことを言ったつもりだった。

 けれど、なぜかリオンは何とも言えない顔をして、ただ私を見つめている。


「……お前は」

「はい?」


 何かを言いかけて、リオンは口を閉ざした。

 その表情に浮かんだものが何なのか、私には分からない。


 けれど――ふと、リオンの視線が私の後ろへ向いた。


「……あんた、随分落ち着いてるな」


 アンナが僅かに首を傾げる。

 その表情には焦りも不安もなく、いつもと変わらない穏やかな微笑みさえ浮かんでいた。


「そうでしょうか?」

「こいつが剣振り回してんのに、止めもしねぇし……随分余裕だな」

「止める必要がございませんので」

「……は?」


 リオンが怪訝そうに眉を寄せた。

 冗談を言っているのかと探るようにアンナを見るが、彼女は相変わらず穏やかな表情を崩さない。


「それに、リオンさんはレティさんを傷つけるおつもりはないのでしょう?」

「…………なんでそう思う」

「見ていれば分かります」

「何がだよ」

「さあ。ご自分でお考えになった方がよろしいかと」

「…………は?」


 アンナはにこりと微笑んだが、リオンは心底訳が分からないという顔をする。


 私も二人を見比べた。


(何のお話かしら?)


 確かに、リオンさんが私の命を奪うつもりではないことくらい、剣を交えていれば分かる。

 目的は私を退かせることなのだから、必要以上に傷つける理由もない。


 アンナも、そのことを言っているのだろう。


 けれど、それならなぜリオンさんがこんなにも困惑しているのかは、よく分からなかった。


「レティさん」

「なあに?」

「お話の途中では?」

「……そうだったわね」

「お前らなぁ!」


 なぜかリオンが怒った。

 私は再び剣を構える。


「では、続けましょうか」

「今の流れで続けんのかよ!」

「まだお話しいただいておりませんから」

「…………」


 リオンはしばらく呆然と私を見つめたあと、とうとう剣を下ろした。


「……分かった。分かったから、その馬鹿みてぇな魔力を引っ込めろ」

「お話しいただけますか?」

「ああ」

「すべて?」

「……できる限りは話す」


 少し考える。

 完全な回答ではないけれど、今はそれでいいのかもしれない。


「分かりました」


 剣へ注いでいた魔力を解くと、白銀の刀身は光の粒となり、私の手の中から静かに消えていった。


 リオンが、心底安堵したように息を吐く。


 その後ろでは、先ほどの男性が言葉を失ったまま私を見つめていた。


「……殿下」

「なんだ」

「この方は……本当に、何者なのですか」

「…………」


 リオンがゆっくりと私を見る。

 そして、深々とため息を吐いた。


「それは俺が聞きてぇんだよ」

「?」


 どうして二人とも、そんなに私のことを気にするのだろう。


 私はただ、話を聞きたいだけなのだけれど。





読んでいただきありがとうございます!

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