#07. 離合
人体パーツ注意
「えー。所長さん、まだ出張なんですか?」というバイトの疑問に、
「そうなんだよねぇ。滅多にないんだけど。」とりあえず、ないことではない、と匂わせておく。
確かに、おかしい。何かあれば、本部から持ち出したデバイスで連絡があるはずなのに。
「お疲れ様でしたー。」
「おーぅ、また明日なー。」
「明日は土曜日ですよー、学校ないんで、こちらもお休みです。」
「そっか、じゃあお前も寂しいなぁ」と猫を抱える。
その鼻先を撫でながら「また来週だね」そう言い置いてバイトは帰っていった。
こちらの不安定さを悟ったか、猫がこちらを見上げてニャアと鳴いた。
「どうする?」
「手がかりがなさすぎます。いずれにせよ、ヤツの仕業なのだとしたら、単独行動は危険でしょう。」
日が暮れる。夜の帳が下りる。20時。
焦りが募る中、場違いなほどに軽いノック音が響いた。ドアを開ければ「時間指定のお届けモノでーす。」何のことはない、運送業者の配達だ。
開けたドアの隙間を猫がすり抜ける。しまった、後で捕まえに行かないと。
「私たちに何かを送ってくる相手、心当たりはありますか?」
「ねぇよ。オレが相手してんのはガキばっかだろ。あるとすればお前かアイツか。こないだの姐さんとか?」
「それこそないでしょう、いきなり冷蔵品を送りつけてくるような人とは思えません」
「ラベルは?送り主、書いてないのか?」
言われて荷物に意識を向けると、微かに異臭が感知できた。腐敗臭ではない。喉の奥にへばり付くようなこれは。「血!?」
慌てて包装の油紙を引き裂き、中の発泡スチロールボックスを開ける。包みを解き進めるほど強くなる臭い。最後の黒いビニールを破ると、溢れ出す血生臭い空気。中には。
人の右手首だ。
あまりにバランスが取れすぎていると不自然だから、そう言ってアイツが施していた右手の甲に並ぶホクロ。
送りつけられた手首には、それと寸分違わぬ印があった。
慌てて伝票を見る。住所も名前もあった。
2人で顔を見合わせる。アイツから手首をもぎ取る芸当のできる相手。一人では無理、瞬時に同じ結論に至る。
気づけば事務所を飛び出していた。
住所の場所は遠くない。街を支える巨大企業だ。こんなところに、とは思わないではない。だが唯一の手がかりだ。
かなりのホワイト企業だそうで、着いたころにはビルは暗闇に包まれていた。
いや、一箇所、地下搬入路と書かれたゲートが明るい。
「誘ってんのかね」努めて明るく装う。
「行きましょう」
地下に足を踏み入れる。ニャア。
あの猫がいた。そういえば出ていってたな。
「なんだお前、こんなところに」毒気を抜かれて近づいてしまった。
「待っ」ガタンと音を立てて床が抜け、金髪の姿が消える。
「しまった!」踵を返そうとした私の目を、真っ赤な光が灼いた。同時に胸元からは青い光。タイを留める石は、何時の間にか私の首をぎっちりと締め上げ、そこから呼応するように湧く光は、赤と混ざって辺りを紫に染め上げる。
突然、聞き覚えのない歌が大音量で耳を打った。
「がっ····」聴覚だけにとどまらない衝撃が、作り物の身体から、無理やり意識を引きずり出した。久しぶりの精神体が、身体を見下ろしながら引きずられていく。その行き着く先を知ることなく、私は意識を手放した。
「落とし穴!?」そんなもの飛び出してやるさ!と底に足を着く。が。底に広がるのは粘つく糸糸糸。振り払うほどに絡みつき、気が付けば全身糸まみれで転がる羽目になった。ニャア。まだいたのか、早く逃げろ!そう声を上げようとした時、人の気配がした。
「これで全部」
その言葉の意味を理解する間もなく、オレの意識は刈り取られた。
第2、第3プラントの素体を入手しました。




