#05. 営巣
引き続き
虫注意。
人体っぽいもの破壊注意。
絶え間ない痛覚が、時間の感覚を麻痺させる。
窓からの日差しで日を数えていたのも初めのうちだけ。今では時間も意味をなすことはないのだが。
檻が据えられたのは、ビル最上階の社長室、敵の中枢と言っていいだろう。そのインテリアとして、何も知らない社員や社長の客人から鑑賞される有様だ。
1日目にして理解したのは、あの虫がエサを食べる順序だ。
コピー体の活きがいいうちは手足から、もう持たないコピー体だけが頭や胴体を齧られる。そうやってエサを長持ちさせているのだろう。
ヒトの痛覚受容器は、顔面を除けば手のひらと足の裏に多いそうだ。手足をヤスリがけされるような痛みが伝わってくる。
潜伏のためとはいえ、ヒトの身体を模倣しすぎたと後悔した。
異変は3日目。やたらと這い回る虫が増え始めた。表面から内側へ。コピー体とコピー体の隙間、身体の穴という穴から頭を突っ込み潜り込んでくる。肉を食べるわけではない。
「エサにもよるけど、3日で卵から成体に」あの日に聞かされた、ヤツの言葉が脳裏に浮かぶ。卵と成体。子供と、親。
不吉な予感の答え合わせはヤツの声かしてくれた。
「ほとんどの虫は回収したよ。残ったやつは、そろそろ繁殖の時間だ。」俺の体内で、か?
「そう。でも大丈夫。小さいうちに中から出てくるから、大した傷にはならない。」出てくる?
「それに胃や腸に残した卵は栄養満点だ。コピー体もすぐに回復するよ。」そんな、回復なんて、されたら。
「まさに、リサイクルだね」う、あ。
ココに据えられて1週間後、システムのユニットがひとつ完成したそうだ。生命維持装置を付けたからコピー体の活きは保証するよなんて、言われなくとも分かった。
恐ろしくクリアな激痛が、末端から拡がっていく。
その2時間後、そこで痛みは止まった。脊髄ブロック。傷が無くなったわけではない。
痛みのかわりに感じたのは、肌を引っ掻く爪の感触。肩から腹から顔に近づいてくる。万が一のために頭はカバーされている。マウスピースでこじ開けられた口以外は。
繁殖とコピー体のリサイクルは、システムにも採用されていた。
孵った子虫が、すっかりもとに戻った手足を齧りだしたのは、およそ3日後。その間に、ユニットは次々と完成し、その度に痛みのインターバルが短くなった。
3日は72時間。2時間の苦痛が、36台のユニットで完全に連続する。その体制になるのに、大した時間はかからなかった。コレがお仕置きということか。
「そうだよ。次はお礼も用意しないとね」檻の外にヤツが見える。
「お友達を、連れてきてあげよう」やめろ!
「ふふ。やっぱり感情に起伏があるのか。」せめて俺だけに····。
「感情の起伏がね、エネルギーになるんだよ。その水晶が起点。そして、この星の救済につながるのさ」救済だと?それをお前がいうか!
「キミの身体が育てたあの虫を使って、実現させてみせよう。そのためのシステム稼働エネルギーさ」なら、ここで。俺が生きることを、諦めれば。
「まだ2人、残ってるね。ふふ。」·····っ。
「サブシステムがあると安心だから、連れてくることに変わりはないよ」そう言い残してヤツは消えた。
頼む。逃げ切ってくれ。
「やれやれ」
ドアを閉めて一息つく。
「意外と彼も情緒不安定だね。心が壊れても困るし、使えそうな記憶を引きずり出して、セルフケアでもしてもらおうか。うーん、他にも楔が必要かなぁ。」
第1プラントの稼働を開始しました。




