#03. 捕縛
人っぽいモノが爆散します。血液注意。
人目を避け、新月の深夜にビルからビルへと飛び回る。
友人の不登校、バイトの無断欠勤、よくある話だ。だが話を集めてみて分かった。20歳前後の、心身ともに健康な人ばかり、月イチのペースで消えている。偶然と言われればそれまでだが、決まって新月の夜だということに引っかかりを覚える。太陽の恵みから最も遠い夜に、何があるというのか。
そんな事を思いながら、一旦路地裏に身を潜めた時だった。複数の人の気配。目をやれば、人も入ろうかというサイズの荷物を、黒塗りのワンボックスに積むところだった。このまま様子見か、と、その時、包みから何かが転げ落ちた。音もなく落ちたそれは、小さな猫のぬいぐるみ。
「猫は好きだけど飼えないから」そう言って、友人の飼い猫を抱きしめた彼女の姿が蘇る。
その瞬間、エコカーなのだろう、微かなスターターの音とともにワンボックスが走り出した。安全重視なのか追いつけない程でもない、これならばと追跡しつつ、事務所の連中に一報を入れた。
「····i····hg······」つながらないどころか、奇妙なノイズが溢れだす。事務所に何かあったのかもしれないが、あちらの守りは一人ではない。ならば問題ないだろうと、ワンボックスの追跡に集中する。
やがてたどり着いたのは、意外にもほど近い都市の中心に聳える巨大なビルだった。違和感を覚えたこの時点で引き返せば良かったのだ。
ワンボックスを追って地下駐車場へ。ビルの規模に相応しく、地下5階まであるようだ。その最深部に降りるスロープからの曲がり角の先で、ワンボックスは消えた。
いや、よく見ればワンボックスの入れそうなゲートが左手にある。誘われるようにゲートをくぐる。
ここだけは照明がない。それに気づいた瞬間、ゲートが閉ざされ灯りが点った。閉じたゲートもコンクリートに見えた壁も、恐るべき硬度でもって拳と蹴りを打ち返してきた。
閉じ込められたと悟り、辺りを見渡せば、ワンボックスで持ち去られたはずの包みがあった。彼女なのかと恐る恐る包みを解く。現れたのは、予想通りの彼女の顔で。目は閉じられていても息はあって。
不安から安心に変わった刹那、彼女は弾けた。爆ぜる音、飛び散る赤、噎せ返るような鉄錆の臭い、顔に降りかかる生温い何か、仮初の五感がインプットされて、導かれるのは最悪のアウトプットだ。
よくも彼女をという憤り、なぜという戸惑い、混乱が隙を生んだ。彼女の血肉に紛れ、鈍色の触腕が飛びかかってきても、避けることすらままならなかった。全身を触腕に絡め取られ、倒れ込む。
···············歌だ。気づかなかった。
「ようこそ、久しぶりだね」知らない声。
「ここまで追いかけて来てくれたんだ」まさか。
「うれしいよ」ああ。見つけた。ヤツだ。
「でも、個に執着するのはいただけないな」見つけられてしまった。ヤツに。
「だから、これからお仕置きだ」触腕に刻まれた不気味な文様が光り出す。
「あ、もちろんお礼もするよ」意識が遠のく。吸い出される。声の主はと見れば、白衣の女がいた。その手にある、妖しく煌めく紫色の結晶体、そこから目が離せない。目も意識も吸い寄せられて ーーーー
「ありがとう。最高の素体、大事に使わせてもらおう」最後に届いた言葉は、老若男女、無数の口で語られたように響き渡った。
「歌」は追跡者御一行様の身体から、本体を抜き取る仕様です。




