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世界を救うために100年眠っていた大聖女ですが、かつての想い人の子孫にガチ恋されました  作者: てるてる坊主


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勇者と聖女の伝承

「ようやく、このドレスから解放される!」


朝日の差し込む客室で、アイリスはベッドから飛び起きるなり、旅装の上着を勢いよく羽織った。


今日はいよいよ、百年前にルークとたどった道をもう一度巡る旅へ出発する日だ。


あのとき浄化した土地で、人々が暮らしを取り戻し、笑っているところを見てみたかった。眠りにつく前には叶わなかった、そんなささやかな願いが、ようやく叶うかもしれない。


けれど、少し怖くもある。


百年も経っているのだ。旅の途中で出会った人が誰一人もうこの世にはいないのはもちろんのこと、村や町の姿さえも、見慣れたものは何一つ残っていないかもしれない。


それでも今は、不安よりも解放感のほうが勝っている。


目覚めてからというもの、アイリスの毎日は侍女に囲まれ、重いドレスを着せられ、どこへ行くにも丁重に案内される日々だった。


自分で服を選び、自分の足で歩き、好きな場所へ向かう。


行き先がどこであっても、それだけで気分はずいぶん軽くなるのだった。


*****


侍女たちに見送られながら、アイリスはエヴァンに手を借りて馬車に乗り込んだ。


向かい合って座ると、車輪が石畳を踏む音がゆっくりと響き始める。窓の外で城の尖塔が遠ざかっていくのを眺めながら、アイリスはふと気になっていたことを口にした。


「あの、エヴァン様は王子様なんですよね?1週間も城を留守にして、公務は大丈夫なんでしょうか」


「このくらいなら大丈夫です。それに、うちは国といっても広くないので、地方領主くらいの仕事しかありません」


エヴァンは涼しい顔でそう答えると、そのまま国の成り立ちを語り始めた。


かつて瘴気を浄化したことに対する報酬として教会がこの地方を譲り受け、勇者ルークを国王に祀り上げたことで国が生まれたのだという。教会からすれば、『瘴気を浄化して眠りについた大聖女』と『その護衛についていたそこそこ見目のよい青年』の組み合わせは国の象徴としてふさわしいという判断だったのだろう。


だが、ルーク自身はあまり乗り気ではなかったらしい、とエヴァンは付け加えた。


「はぁ、謎が解けました。ルークは国王になりたがるようなタイプではなかったので。教会の動きは思った通りでしたが」


——銭ゲバ教会が目的を達成したってことね。


「僕も伝承でしか知らないですが、穏やかな方だったと聞いています」


「そうですね。どちらかというと無口な方でしたよ。私ばっかりしゃべっていて」


言った瞬間、エヴァンの表情がわずかに曇った。口元は笑みを保っているのに、目だけがどこか不満そうにアイリスを見つめている。


「……アイリス様は、ルークの前だとよくお話しになったんですね」


「え、そうですね。旅の間は二人しかいなかったので」


「僕の前でも、もっとたくさん話してほしいです。曾祖父にだけたくさん話していたなんて、悔しいので」


大真面目な顔で言うので、アイリスは思わず苦笑した。会ったこともない祖先に嫉妬するとは、なんとも器の小さい話だが、それがどこか可愛くも思えてしまう。


「ところでエヴァン様」


アイリスは荷物の中から一冊の本を取り出した。表紙には、白い装束を着た銀色の髪の女と、騎士のような身なりの黒髪の男が抱き合っている絵が描かれている。アイリスとルークだ。


「これを見てください。こういう本が図書室にいくつかありました。勇者と聖女が互いに想い合っていて……って内容の。これはいったいなんなんですか?」


「あぁ、これは子供向けの絵本ですね。人気なので、街の書店にもたくさんありますよ」


「ルークは、王妃さまがちゃんといて結婚もしてるのに、ですか?」


「僕の曾祖母、つまり王妃を迎えたのは、ルークが35のときだったそうです」


「え、そんなに遅かったんですか」


アイリスが瘴気を浄化したその年にこの国が建国されたと長老から聞いている。そのときルークは22歳だ。つまり国王になってから13年後に結婚したことになる。


「王族にしてはかなり晩婚なんですよ。だから当時から、勇者は聖女様のことが忘れられなかったんじゃないかって、噂になっていたみたいで」


「王妃自身は、そういう噂を気にするタイプじゃなかったらしいんですけどね。さすがに生きているうちに本になるようなことはなかったみたいです。ルークが伝説の中の人になってから、絵本まで作られるようになったんだとか」


アイリスは表紙の絵をもう一度見つめた。


——そっか。そんな年まで結婚しなかったんだ。もしかして、私を待っていてくれたのかな。


そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと締まるような感覚がして、アイリスは慌てて本を膝の上に置いた。答えの出ない問いを、今さら深く考えても仕方がない。


窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めるうちに、アイリスの意識はいつの間にか百年前の記憶に沈んでいった。


なろう異世界ファンタジーフェス! 2026用なので、10月13日までに完結予定です。


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