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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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第79話 牛より先に

百頭の牛を受け入れられるか。


 その答えを出すために必要なものを、朝から書き出していた。


 土地の広さ。水。夏の放牧地。冬季飼料の必要量と確保方法。牛舎の規模。糞尿の処理。繁殖。疾病や怪我への対応。搾乳するなら、その人員と牛乳の保存、運搬。


 でも、一番上には別の項目を書いた。


『飼育経験者・飼育担当者』


 牛舎を造っても、餌を用意しても、牛を飼う人がいなければ始まらない。


「叔父様。この土地で牛を飼っている方はいらっしゃいますか?」


「ああ。いるぞ」


 朝食のあと、叔父様を捕まえて聞いた。


「何頭くらいですか?」


「そこまでは分からんな。大きな牧場があるわけじゃない。農業の傍らで飼っている家がいくつかと、町から少し離れたところに、昔から牛を飼っている爺さんがいる」


「その方に会いたいです」


「そう言うと思った」


 昨日の宰相閣下と同じことを言われた。


「そんなに分かりやすいですか?」


「分からないことがあると、知ってる奴のところへ行くだろ、お前は」


 否定できない。


「その方は、長く牛を?」


「俺が子供の頃には、もう親父と一緒に牛を見ていたはずだ」


 それなら、私が欲しい知識を持っている。


「お願いします」


「分かった。話は通してやる」


「今日でも?」


「早いな」


「牛百頭の話を昨日されたので」


「分かった分かった。昼まで待て」


 待つことになった。


     ◇


 昼を少し過ぎた頃、叔父様とヒルダ、それからノエルと一緒に町を出た。


 ノエルには、土地について聞きたいことがあった。


「この辺って、家畜用の草を作ってる畑は多い?」


「牛とか馬に食べさせる分?」


「うん」


「あるけど、どれくらいって言われると分かんない。自分のところで使う分だけ作ってる家もあるし」


「そっか」


 なら、そこも調査が必要になる。


 百頭増えるなら、今ある飼料を奪い合う形にしてはいけない。新しく必要になる分をどこで作るかまで考える必要がある。


「バルドさんなら、昔どこで家畜を飼ってたか知ってるかも」


「あとで聞いてみる」


「お父さんにも聞いてみる?」


「お願い」


 こういうところはノエルの方が早い。


 誰が何を作っているのか。どの家に何があるのか。畑で暮らしてきた人同士のつながりは、地図にも帳簿にも全部は載っていない。


 しばらく歩くと、柵が見えた。


 その向こうに牛がいる。


 数は多くない。


 でも、昨日まで頭の中で数字として考えていたものが、目の前で草を食べている。


 百頭。


 改めて想像してみた。


 土地だけの問題ではなさそうだった。


 柵の向こうから犬が走ってきた。


 こちらへ近づいてくる途中で速度を落とし、一定の距離を空けて止まる。


「ココア様。そのままで」


「うん」


 ヒルダに言われ、動かずに待つ。


 やがて牛舎の方から、一人の老人が出てきた。


 白髪で、日に焼けている。年齢はバルドさんと同じくらいだろうか。歩く速さはゆっくりしているのに、犬はその人の横へ行くと、ぴたりとついた。


「領主様が来るっていうから何事かと思ったが」


「俺じゃない。こっちだ」


 叔父様が私を見る。


 老人の視線も下がった。


「伯爵家のお嬢様か」


「ココアと申します。突然お時間をいただいて申し訳ございません」


「グスタフだ。牛のことを聞きたいんだって?」


「はい」


 まず牛を見た。


「現在、何頭飼っていらっしゃいますか?」


 グスタフさんが答える。


 数をノートに記録した。


「以前はもっと多かったのでしょうか?」


「ああ。俺が若い頃はな」


「減らした理由を伺っても?」


「人だよ」


 最初の答えから、予想していたものと違った。


「土地や飼料ではなく?」


「そっちもある。だが、一番は俺が年を取った」


 グスタフさんは自分の腰を軽く叩いた。


「若い頃と同じ数は見られん。だから減らした」


 ノートの『飼育経験者・飼育担当者』に印をつける。


 やっぱり、そこだった。


「もし牛を増やすとしたら、どこまで可能でしょうか」


「何頭増やしたい」


「まだ決めていません。王領から最大で百頭程度の支援を受けられる可能性があります。ただ、百頭を受け入れることを前提にはしたくありません」


 グスタフさんの眉が動いた。


「百頭?」


「はい」


「俺だけじゃ無理だ」


「そうですよね」


 即答だった。


 でも、その答えが欲しかった。


「何が一番問題になりますか?」


「だから人だ。牛は毎日食うし、水も飲む。糞もする。病気にもなる。子を産む。冬だから今日は休むなんてできん」


「搾乳するなら、その作業も増えますね」


「ああ。乳を取る牛を増やすならな」


「冬季飼料は?」


「今のまま百頭増やすなら足りん」


「牛舎も?」


「足りん」


「水は?」


「場所次第だ」


 ノートの項目に答えを書き込んでいく。


 やっぱり、一つの数字では決まらない。


 飼育できる頭数は、土地の広さだけで決めるものではない。人員、経験、飼料、牛舎、水。どれか一つでも先に限界へ達すれば、そこが上限になる。


「グスタフさん」


「何だ」


「若い人を集めたら、増やせますか?」


「経験のない奴を百人集めても駄目だぞ」


「はい。だから経験者も探します」


 グスタフさんがこちらを見る。


「牛だけに限らず、大きな家畜を扱った経験がある方を探したいと思っています。その方たちと、これから牧畜を仕事として覚えたい方を分けて募集します」


「王領から人は来るのか?」


「まだ分かりません」


 私は首を横に振った。


「でも、牛をいただくなら、今までその牛を飼っていた方にも来ていただけないか、お願いしてみます」


「そりゃ頼んだ方がいい」


「はい。でも、それだけでは足りないと思っています」


「何がだ?」


「この土地で牛を越冬させてきた経験です」


 王領の牧場がどんな場所なのか、私はまだ知らない。


 向こうで正しい方法が、そのままここでも正しいとは限らない。


「王領の方に来ていただけるなら、向こうでの飼育方法を教えていただく。こちらの経験者の方には、この土地で続けてきた方法を教えていただく。その両方を比べて、ここで無理なく続けられる形を決めたいです」


「ずいぶん面倒なことをするな」


「百頭死なせるよりいいです」


「そりゃそうだ」


 グスタフさんが初めて少し笑った。


 そのとき、一頭の牛が群れから離れた。


 グスタフさんが犬に短く声をかける。


 犬がすぐに走った。


 牛の正面へは出ない。横へ回り込み、進む方向を変えていく。


 離れていた牛が、ゆっくり群れへ戻った。


「牧畜犬ですか?」


「ああ。ロイだ」


「人の作業を減らせますか?」


「助かるぞ。特に牛を動かすときはな。ただ、犬なら何でもいいわけじゃない。こいつにも仕事を覚えさせてる」


「なるほど」


 ノートの余白に、


『省力化候補――牧畜犬。飼育・訓練を含め要確認』


 と書いた。


 牛だけを増やせばいいわけではない。


 人を増やせばいいわけでもない。


 現場には、現場で積み重ねられてきた方法がある。


「若いのを集めろ」


 グスタフさんが言った。


「若い方ですか?」


「ああ。俺みたいなのばかり集めてどうする。経験のある年寄りは、教える方に回しゃいい」


 なるほど。


 経験者を単純な労働力として数える必要はない。


 指導者にする。


 未経験者をその下につける。


 もし王領から経験者を呼べるなら、その人にも加わってもらう。


 それなら、今ここにない方法も取り込める。


「できりゃ夫婦がいいぞ」


「夫婦?」


「絶対じゃねえがな」


 グスタフさんは牛の方を見たまま続けた。


「若い奴が一人で来て、二、三年働いて別の土地へ行ったら、そこで終わりだ。ここに家を持って、夫婦で暮らして、子供が育つ。親が牛を飼ってるところを見て、その子供が覚える。そうやって次へ渡していくんだ」


 昨日の言葉を思い出した。


『人を集める仕事と、人を住まわせる仕事は違う』


 宰相閣下は、町全体を見て言った。


 グスタフさんは、牛を飼い続けてきた人として同じところへたどり着いている。


「技術を残すんですね」


「牛だけ残してもしょうがねえだろ」


「はい」


 ノートの人員欄を書き直した。


『経験者――指導役候補』

『未経験者――長期育成』

『王領牧場――飼育経験者の派遣を相談』

『定住支援――住居・安定収入・家族世帯を含む受入環境』

『短期的な頭数増加より、飼育技術の継承を優先』


 百頭という数字だけを見ていたら、出てこなかった条件だった。


「グスタフさん」


「何だ」


「その指導役をお願いできますか?」


「俺に?」


「はい」


「百頭の面倒は見んぞ」


「見ていただきたいのは人です」


 グスタフさんが黙った。


「経験のある方を他にも探します。一人に全部をお願いするつもりはありません。王領から経験者を呼べるかも確認します。でも、この土地で牛を飼ってきた方法を、これから始める人に教えていただきたいです」


「給金は?」


「お支払いします」


「即答だな」


「仕事をお願いするんですから」


「領主様じゃなくて、お嬢様が払うのか?」


「そこはこれから先生と叔父様に相談します」


「そこは即答じゃねえのか」


「勝手に決めたら怒られます」


 叔父様が後ろで笑った。


「少しは学習したらしい」


「してるよ!」


「どうだかな」


 グスタフさんまで笑っている。


 でも、断られてはいない。


「若いのを集めろ」


 もう一度、グスタフさんが言った。


「続ける気のある奴をな。そしたら、俺が知ってることくらいは教えてやる」


「ありがとうございます」


「まだ礼を言うな。集まってからだ」


「はい」


 それでも、ノートの『指導者』の欄にグスタフさんの名前を書いた。


     ◇


 帰り道、ノエルに聞いた。


「牛の餌を作る土地、バルドさんにも聞いてみたい」


「うん。お父さんにも聞いとく」


「ありがとう」


「でも、牛って大変なんだね」


「うん」


 前世で畜産について知らなかったわけじゃない。


 飼料が必要なことも、繁殖することも、糞尿の処理が必要なことも、知識としては知っている。


 でも、知識と事業計画は違う。


 この土地で何頭飼えるのかは、この土地の人と資源を調べなければ出せない。


「次は鶏」


「鶏も増やすの?」


「まだ分からない。まずハンスさんに聞く」


「ハンスさん?」


「前に卵のことを調べたときに会った人。鶏を飼ってるの」


「じゃあ行く?」


「行く」


     ◇


 ハンスさんのところへ着いて、最初に気づいた。


「増えてる」


「何が?」


「鶏」


 以前来たときは三十二羽だった。


 今は、数えなくてもそれより多いと分かる。


 ハンスさんは餌の入った桶を持って出てくると、私たちを見て足を止めた。


「お嬢様?」


「お久しぶりです」


「どうされたんです?」


「鶏について伺いたいことがあります」


 ハンスさんが鶏を見る。


「また卵ですか?」


「今回は、鶏を増やせるかどうかです」


「ああ……」


 何か納得したような顔をされた。


「その前に、一ついいですか?」


「はい」


「以前は三十二羽でしたよね?」


「よく覚えてますね」


「記録してありますから」


「増やしましたよ」


「やっぱり」


「卵が売れるようになりましたからね」


 それだけの答えだった。


 でも、嬉しかった。


 以前ここへ来たとき、ハンスさんは必要な分の鶏を飼っていた。


 卵をたくさん作っても、買う人がいなければ意味がない。だから必要な数だけだった。


 今は町の人が増えた。


 マヨネーズも売られている。


 食堂も増えた。


 需要が増えたから、ハンスさんは自分で判断して鶏を増やした。


 私が「増やしてください」と言わなくても。


「もっと増やせますか?」


「増やすこと自体はできます」


「制約は?」


 ハンスさんが少し考えた。


「まず餌でしょうね。それと場所。増やしすぎれば世話する人も要ります。冬は卵も減りますし」


 牛と同じ項目がいくつも出てくる。


「もし今よりかなり増やすなら、ハンスさんだけでできますか?」


「無理ですよ。家族にも手伝ってもらってますから」


「誰かに教えることは?」


「鶏の飼い方を?」


「はい。これから飼いたい人がいたら」


「それならできますけど」


「お願いします」


「まだ誰もいませんよ?」


「これから募集するかもしれません」


「かもしれない?」


「牛も鶏も、先に人と餌を調べることにしたんです」


「それがいいですよ」


 また即答された。


「動物は先にもらわない方がいいですか?」


「そりゃそうでしょう。鶏だって食いますから」


「ですよね」


 牛も鶏も、先に数を決めるものではないらしい。


 ノートに新しい欄を作る。


『共通制約――飼育人員・飼料・越冬』


 その下へ、


『養鶏――既存経験者ハンス。現在の増羽実績あり。追加育成の指導可』


 と記録した。


「ハンスさん」


「はい?」


「鶏が増えてて、嬉しかったです」


「何でお嬢様が?」


「前に来たときは三十二羽だったから」


「売れるようになったんですよ。なら増やしますよ」


 その言葉が、一番嬉しかった。


 私がいなくても、必要なら増える。


 作る理由ができれば、作る人が自分で動く。


「ありがとうございます」


「何のお礼です?」


「何でもないです」


 たぶん、説明しても困らせるだけだ。


     ◇


 屋敷へ戻ると、叔父様と先生に募集の相談をした。


「まず、牧畜経験者を探したいです」


「牛限定か?」


「いいえ。牛を優先しますが、大型の家畜を扱った経験がある方にも話を聞きたいです。それとは別に、これから牧畜を仕事として覚えたい方も募集したいです」


 先生がすぐに確認する。


「雇用でございますか。それとも独立を前提とした育成でございますか?」


「そこを決めたいです」


 グスタフさんの話を聞いてから考えていた。


「ずっと領地の牛を世話する人だけを雇うより、覚えた人が将来、自分でも牛を飼えるようにした方が増えませんか?」


 叔父様が腕を組む。


「土地と牛をどう持たせるかが問題になるな」


「はい。最初の牛は王国からの支援になるかもしれません。だから、勝手に分けていいのかも確認が必要です」


「その辺りは俺と宰相で詰める」


「お願いします」


 そこは任せる。


 私が決めるより、その方がいい。


「家族で移り住みたい方も受け入れたいです。ただ、夫婦だけを募集条件にはしたくありません」


「理由は?」


「一人でも牧畜を仕事にしたい人はいると思うからです。でも、長く住んでもらうなら、住居や生活できる収入まで考えたいです」


「なるほどな」


「グスタフさんが言ってました。自分が若い人に教えて、その人たちが次へ教えられるようにしろって」


「爺さんらしい」


 叔父様は知っているらしい。


「それと、王領の牧場から経験者を派遣していただけないか、宰相閣下にお願いしたいです」


「分かった。俺から聞いておく」


「お願いします」


 これで一つ。


「先生。牧畜を始めるとしたら、仕事はどこまで増えますか?」


「それを私にお聞きになりますか?」


「お金が発生するところ」


「なるほど」


 先生が紙を引き寄せた。


 今度は二人で書き出した。


 飼育担当者。


 指導者。


 牛舎の建設。


 柵。


 給水。


 排水。


 飼料の生産。


 刈り取り。


 乾燥。


 保管。


 運搬。


 搾乳するなら、その作業と集乳。


 容器。


 牛乳の運搬。


 糞尿の回収と処理。


 牛の状態を見られる経験者。


「かなりありますね」


「牛を飼うとは、牛を買って地面へ置くことではございませんからな」


「分かってるよ」


「昨日はプリンから始まったと伺いましたが」


「それとこれとは別です」


「左様でございますか」


 絶対、料理長かヒルダが話した。


 でも、先生が書いた項目を見ているうちに、別のことに気づいた。


「先生」


「はい」


「これ、壁が完成したあとにも仕事が残りますね」


 先生の手が止まった。


 叔父様も紙を見る。


「牛舎を造るのは一度です。でも、餌は毎年必要です。牛は毎日世話する。牛乳を取るなら、それも続く。牛が増えれば仕事も増える」


「そうだな」


 叔父様が答えた。


 昨日、宰相閣下が言っていたこと。


 人を集める仕事と、人を住まわせる仕事は違う。


 壁を造る仕事には終わりがある。


 でも、牛を飼う仕事は、牛がいる限り続く。


 飼料も毎年作る。子牛が生まれれば育てる。技術を覚えた人が独立できれば、その人がまた仕事を作る側になる。


 そして、飼料を作る畑が増えれば農業にもつながる。


 糞尿を適切に処理して利用できるなら、畑へ戻せる可能性もある。


 牛乳が増えれば、それを扱う仕事も必要になる。


 まだ何も始まっていない。


 それでも、昨日より見えるものが増えた。


「百頭は、やっぱり多いです」


 叔父様が笑った。


「昨日からそればかりだな」


「でも、昨日とは理由が違います」


「どう違う?」


 ノートを開いて見せた。


「昨日は百頭が多いと思っただけ。でも今日は、何があれば何頭飼えるのかを調べ始めました」


 先生がノートへ目を落とす。


『導入頭数の制約条件』


 その下に、人員、経験者数、冬季飼料、牛舎、給水、糞尿処理、疾病・出産対応。


 さらに別の欄。


『人材育成』

『経験者を指導役に配置』

『未経験者を長期育成』

『王領牧場――経験者の派遣を相談』

『定住可能な収入・住居』

『将来的な独立方法は制度確認』


「これを調べれば、受け入れられる数が出せると思います」


「十頭になるかもしれませんぞ」


「それなら十頭から始めます」


「二十頭なら?」


「二十頭」


「五十頭なら?」


「五十頭」


「百頭なら?」


 少し考えた。


「本当に百頭を無理なく飼えるなら、百頭でもいいです」


 欲しい数を先に決める必要はない。


 調べた結果が、そのまま最初の数になる。


「百頭もらえるから、百頭飼うんじゃないんです」


「では?」


「飼える数から始めます」


 叔父様が頷いた。


「その方がいい」


「はい」


 でも、それで終わりでもない。


 グスタフさんが若い人へ教える。


 その人たちが技術を身につけ、ここで暮らす。


 牛を増やす。


 そして、次の人へ教える。


 ハンスさんの鶏が、私の知らないところで増えていたように、誰かに言われ続けなくても、自分たちで続けられるようになる。


 ノートの最後に、新しく一行だけ書いた。


『目標――外部支援がなくても拡大・継承できる牧畜』


「先生」


「何でしょう」


「私、百頭が欲しいわけじゃなかったみたい」


「と申しますと?」


「いつか百頭になったときに、王国から百頭もらったからじゃなくて、この土地で増えた百頭になってたらいいなって」


 先生がその一行を読んだ。


「そのために、まず人を育てるのでございますな」


「うん」


 叔父様が椅子から立ち上がった。


「なら募集は俺がやる。経験者と、これから覚えたい奴。家族で移りたい者も相談可。まだ牛の導入頭数は未定。それでいいな?」


「お願いします」


「王領から人を出せるかも、宰相に確認しておく」


「お願いします」


「バルドとヨハンには?」


「ノエルから話してもらっています。飼料を作れる土地について聞きます」


「グレタは?」


 牛舎。


 柵。


 水。


 排水。


「まだです」


「なら、次だな」


「はい」


 やることが、また増えた。


 でも昨日とは違う。


 昨日は、分からないことが増えるのが嬉しかった。


 今日は、その分からないことを誰に聞けばいいのかまで見え始めている。


 牛のことは、牛を飼ってきた人に。


 土地のことは、土地を知る人に。


 建物は、造る人に。


 制度は、制度を知る人に。


 それぞれをつないで、続く形を考える。


 ノートの最初に書いた『百頭』を見直した。


 消す必要はない。


 ただ、その数字から始める必要もなかった。


 牛を増やす前に、牛を育てられる人を増やす。


 まずは、そこからだった。

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