↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/31

第6話 見えないもの

 翌朝。


 ココアは机の上に、


 二枚の紙を並べていた。


『どうすれば燃焼を止められる?』


『魔力とは何?』


「……うーん。」


 右を見る。


 左を見る。


 もう一度、


 右を見る。


 どちらも知りたい。


 どちらも分からない。


 そして、


 どちらも面白い。


「……こっち。」


 ココアは二枚目の紙を手前へ引いた。


『魔力とは何?』


 燃焼について調べるにも、


 魔法との違いを知らなければならない。


 ならば。


 まず、


 魔法を動かしているものを知る。


 羽根ペンを取る。


『調べること』


『魔力は何?』


『どこにある?』


『何をしている?』


『元素と関係ある?』


 最後まで書いたところで。


 コンコン――。


「失礼いたします。」


「先生!」


「おはようございます、ココア様。」


「おはようございます!」


 セバスが部屋へ入る。


 そして、


 机を見る。


「……。」


 昨日より、


 紙が増えている。


「ココア様。」


「なに?」


「昨日、私は『本日はここまで』と申し上げた記憶がございますが。」


「うん。」


「こちらは?」


「今日の準備!」


「……左様でございますか。」


 セバスは小さく息を吐いた。


「まあ、よろしいでしょう。」


 椅子へ腰を下ろす。


「それでは、本日は――」


「先生。」


「はい。」


「魔力って、どうやって感じるの?」


 セバスの手が止まった。


「昨日のお話が、随分と気になっておられるようですね。」


「うん。」


 ココアは紙を見せる。


『魔力とは何?』


「これ、調べたい。」


「なるほど。」


 セバスは少し考えた。


「では本日は、実際に魔力を感じてみましょうか。」


 ココアの顔が明るくなる。


「できるの?」


「試してみましょう。」


「はい!」


     ◇


「まず。」


 セバスは姿勢を正した。


「目を閉じてください。」


「うん。」


 ココアは目を閉じる。


「力を抜いて。」


「身体の内側へ意識を向けます。」


「内側……。」


「はい。」


「魔力は体内にございます。」


「最初は温かさや、身体の中を流れる何かとして感じる方が多いですね。」


「温かい……。」


 ココアは意識を集中する。


 胸。


 お腹。


 腕。


 指先。


「……。」


 何もない。


「焦らなくて結構です。」


「はい。」


 もう一度。


 呼吸を整える。


 身体の内側へ、


 意識を向ける。


「……。」


 やはり、


 分からない。


 ココアは目を開けた。


「先生。」


「はい。」


「ない。」


「……ない?」


「温かいの。」


「流れてるのも。」


「何も分からない。」


 セバスは穏やかに微笑んだ。


「初めてなのですから、当然でございます。」


「そうなの?」


「ええ。」


「魔力を意識できるようになる時期には、個人差がございます。」


「三歳で感じられなくとも、何ら不思議ではございません。」


「そっか。」


 ココアは頷く。


 そして、


 紙へ書いた。


『自分の魔力――分からない』


 セバスが僅かに目を瞬かせる。


「落ち込まれないのですか?」


「なんで?」


「いえ……。」


 ココアは本当に分からないという顔をしていた。


「だって。」


 紙を指差す。


「分からないって分かったよ?」


「……。」


「昨日より、一個進んだ。」


 セバスは、


 しばらく何も言えなかった。


 やがて。


 小さく笑う。


「左様でございますね。」


     ◇


「先生は分かるの?」


「私の魔力でございますか?」


「うん。」


「もちろんでございます。」


 ココアの目が輝いた。


「どんな感じ?」


「そうですね……。」


 セバスは少し考える。


「言葉で説明するのは難しいのですが。」


「身体の中に、もう一つの流れがあるような感覚でしょうか。」


「血とは違う?」


「違います。」


「熱?」


「それとも少し違いますね。」


「重さは?」


「ございません。」


「色は?」


「見えるものではございませんので。」


 羽根ペンが止まった。


「見えない?」


「はい。」


「誰にも?」


「少なくとも、私は魔力そのものを目で見ることはできません。」


「……。」


 ココアは、


 セバスをじっと見る。


 髪。


 服。


 肌。


 その周囲にある空気。


 元素。


 結合。


 いつも通り、


 見えている。


 けれど。


 どれが魔力なのかは、


 分からない。


「先生。」


「はい。」


「昨日の火、出して。」


「またでございますか。」


「今日は見るところが違うの。」


「……左様でございますか。」


 セバスは右手を上げる。


「待って!」


「はい。」


 ココアは身を乗り出した。


 指先を見る。


 その周囲を見る。


「……。」


 元素は、


 いつも通り存在している。


 結合にも、


 変化はない。


 ココアは紙へ書く。


『魔法を使う前』


『元素――変化なし』


『結合――変化なし』


「いいよ!」


「では。」


 セバスが意識を集中する。


 その瞬間。


「……!」


 動いた。


 指先の周囲。


 元素が動き、


 結合が変化する。


 そして。


 ポッ。


 炎が灯った。


「消して!」


「はい。」


 炎が消える。


 ココアは急いで書く。


『魔法を使う』


    ↓


『元素――動く』


『結合――変わる』


    ↓


『火』


「……。」


「ココア様?」


 ココアは紙を見つめたまま、


 動かない。


「先生。」


「はい。」


「これだけじゃ分からない。」


「何がでございますか?」


「火だから元素が動いたのか。」


「魔法だから動いたのか。」


 セバスの眉が、


 僅かに上がった。


「比べないと分からない。」


「なるほど。」


「先生は火だけ?」


「私は火属性でございますので、基本的には。」


「じゃあ……。」


 ココアは考える。


 そして。


 顔を上げた。


「ヒルダは?」


「ヒルダでございますか?」


「魔法使える?」


「ええ。」


 セバスは頷いた。


「確か、水属性であったはずです。」


 ココアの瞳が、


 一気に輝いた。


「呼んで!」


「今からでございますか?」


「うん!」


「水も見たい!」


「……。」


「先生。」


「分かりました。」


 セバスは苦笑した。


「ただし。」


「ヒルダにも都合がございますから、少々お待ちください。」


「はい!」


     ◇


 しばらくして。


 コンコン――。


「失礼いたします。」


 扉が開き、


 ヒルダが入ってくる。


「お呼びでしょうか、ココア様。」


「ヒルダ!」


 ココアが椅子から立ち上がる。


「魔法見せて!」


「……魔法、でございますか?」


「うん!」


 ヒルダはセバスを見る。


「どういうことでしょう。」


「現在、魔法についてお教えしております。」


「ココア様が、火属性以外の魔法もご覧になりたいとのことで。」


「なるほど。」


 ヒルダは頷いた。


 そして、


 ココアを見る。


「見るだけでございますね?」


「うん!」


「本当に?」


「見るだけ!」


「……。」


「なに?」


「いえ。」


 ヒルダの脳裏に、


 庭園での出来事が一瞬だけ浮かんだ。


 何もしていないはずの葉が、


 突然、


 崩れ落ちた。


「では。」


 ヒルダは小さく息を吐く。


「ごく簡単なものでよろしければ。」


「うん!」


 ココアは急いで椅子へ戻る。


 紙を用意する。


「まだやらないで!」


「……承知いたしました。」


 ヒルダは右手を前へ出した。


 ココアは、


 その手の周囲をじっと見つめる。


「……。」


「いいよ!」


「では。」


 ヒルダが集中する。


 その瞬間。


「……!」


 動いた。


 セバスの時と同じ。


 周囲の元素が動き、


 結合が組み替わっていく。


 そして。


 ヒルダの手のひらの上へ、


 小さな水球が生まれた。


「わぁ……。」


 透明な球体が、


 静かに揺れている。


 ココアは身を乗り出した。


「ココア様。」


「なに?」


「近付きすぎです。」


「あ。」


 少しだけ身体を戻す。


 だが、


 目は水球から離れない。


 水素。


 酸素。


 そして、


 その結合。


 間違いない。


 目の前にあるものは、


 自分が知っている水だった。


「ヒルダ。」


「はい。」


「消して。」


 水球が崩れ、


 床へ落ちる前に霧のように消えていく。


「もう一回。」


「ココア様。」


「お願い。」


「……一度だけですよ。」


「うん!」


 再び。


 ヒルダが魔力を使う。


 ココアは、


 水が現れる前だけを見ていた。


 元素が動く。


 結合が変わる。


 そして、


 水になる。


「……同じ。」


 ココアが呟いた。


 ヒルダの眉が、


 僅かに動く。


「何が、でございますか?」


「火も水も。」


 ココアは紙へ夢中で書き込む。


「出る前に変わってる。」


「……何が?」


「いっぱい。」


「いっぱい?」


「小さいの。」


「……。」


 ヒルダの表情が、


 ほんの僅かに強張った。


 まただ。


 庭園でも。


 ココアは、


 自分には見えない何かを見ていた。


 あの時。


 小さな指が、


 何もない場所へ伸びた。


 そして――。


 葉が崩れた。


 ヒルダは、


 無意識に自分の手を握った。


 六歳になるまで、


 属性は分からない。


 それでも。


 頭の中に、


 一つの言葉が浮かんでしまう。


 ――闇。


 四大属性とは異なる、


 極めて稀な属性。


 何ができるのか。


 どのような力なのか。


 詳しく知る者は、


 ほとんどいない。


 ただ。


 古くから、


 恐ろしいものとして語られてきた力。


 ――まさか。


 ヒルダは、


 紙へ夢中で文字を書くココアを見つめた。


 ――ココア様は……。


「ヒルダ?」


「……。」


「どうしたの?」


 無邪気な瞳が、


 自分を見上げている。


「いえ。」


 ヒルダは、


 ゆっくり首を横へ振った。


「何でもございません。」


「そっか。」


 ココアは、


 すぐ紙へ戻った。


 ヒルダはそれ以上、


 何も聞かなかった。


     ◇


「分かった!」


 ココアが突然声を上げた。


「何がでございますか?」


 セバスが尋ねる。


「火も水も。」


 紙を並べる。


「違う魔法だけど。」


 ココアは二枚の紙を指差した。


「どっちも、魔法が出る前に変わってる。」


 新しい紙を取り出す。


『魔力』


    ↓


『?』


    ↓


『元素・結合が変化』


    ↓


『火・水』


 少し考える。


 さらに書き加える。


『属性によって結果が変わる?』


「……。」


 ココアは紙を見つめた。


 魔力そのものは、


 見えない。


 けれど。


 魔法が使われた時、


 元素と結合は確かに変化した。


 なら。


 その間に、


 何かがある。


「先生。」


「はい。」


「属性って、どこにあるの?」


「……どこに?」


「うん。」


「先生は火。」


「ヒルダは水。」


「でも。」


「二人とも使ってるのは魔力なんだよね?」


「左様でございます。」


「じゃあ。」


 ココアは二人を見る。


「何が違うから、火と水に分かれるの?」


「……。」


 セバスは、


 すぐには答えられなかった。


「それは。」


「その者が生まれ持った属性によるもの、とされています。」


「だから。」


 ココアが首を傾げる。


「その属性って、何?」


「……。」


 また。


 答えが止まった。


 ココアの顔が、


 少しずつ明るくなっていく。


「分からない?」


「……残念ながら。」


「やった。」


「ココア様。」


「また見つけた!」


 セバスは苦笑した。


 だが。


 ヒルダだけは、


 笑えなかった。


     ◇


 授業を終え、


 セバスが部屋を出ていく。


「では、また明日。」


「ありがとうございました!」


 扉が閉まる。


 ヒルダは、


 その場に残っていた。


 ココアは気にすることなく、


 紙へ夢中で書き込んでいる。


『魔力――見えない』


『魔法を使うと元素・結合が変化』


『火と水で結果が違う』


『属性――違いを決める?』


 ヒルダは、


 その小さな背中を見つめていた。


「ココア様。」


「なに?」


「先ほど。」


「小さいものが、たくさんあると仰いましたね。」


「うん。」


「それは。」


 ヒルダは一度、


 言葉を止めた。


「以前から、見えているのですか?」


「うん。」


「……いつからでしょう。」


 ココアは少し考えた。


「ずっと。」


「ずっと?」


「うん。」


「生まれた時から。」


「……。」


 ヒルダの胸が、


 僅かにざわつく。


「他の方にも見えていると?」


「思ってた。」


 ココアは紙へ視線を戻す。


「でも、先生には見えないって。」


 そして、


 ヒルダを見る。


「ヒルダも見えない?」


「……はい。」


「私には何も見えません。」


「そっか。」


 ココアは、


 少し不思議そうに自分の手を見る。


「私だけなのかな。」


「……。」


 ヒルダは答えられない。


 聞きたい。


 あの日。


 庭園で、


 何をしたのか。


 葉が崩れる直前、


 何を見ていたのか。


 けれど。


 聞いてしまえば。


 答えを知ってしまえば。


 自分が抱いた疑念が、


 本当になってしまうような気がした。


 ――闇属性。


 違う。


 まだ決まったわけではない。


 覚醒の儀は、


 三年も先だ。


「ヒルダ?」


 ココアが首を傾げる。


「怖い顔してる。」


「……!」


 ヒルダは、


 すぐに表情を緩めた。


「申し訳ございません。」


「どうしたの?」


「少し、考え事をしていただけでございます。」


「ふーん。」


 ココアは、


 また紙へ戻る。


 ヒルダは、


 その姿を見つめた。


 そして。


 心の中で、


 静かに決める。


 今は、


 誰にも話さない。


 確かなことなど、


 何一つない。


 ただの思い違いかもしれない。


 ならば。


 この子が何者なのか分かるまでは。


 自分の胸の中だけに、


 しまっておこう。


     ◇


 その夜。


 ココアは一人、


 今日の記録を見返していた。


『魔力』


    ↓


『?』


    ↓


『元素・結合が変化』


    ↓


『魔法』


 その横には、


 新しく増えた疑問。


『属性とは何?』


 そして。


『自分の魔力――分からない』


「……。」


 ココアは、


 自分の手を見る。


 生まれた時から、


 元素は見えた。


 結合も見えた。


 けれど。


 魔力だけは、


 見えない。


 感じることもできない。


 ココアは羽根ペンを握る。


 少し考え。


 紙の一番下へ、


 新しい問いを書いた。


『私の魔力は?』


 その文字を、


 じっと見つめる。


 答えは、


 まだ見つからない。


 でも。


 分からないなら、


 調べればいい。


 ココアは、


 そう信じていた。


         第6話 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。