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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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第4話 魔法というもの

 翌朝。


 ココアは、いつもより早く机へ座っていた。


 紙。


 羽根ペン。


 昨日使った王立学院の教材。


 そして、


 新しい紙の一番上には、


 大きな文字。


『魔法』


 その下には、


 すでにいくつもの疑問が並んでいる。


『どうして使える?』


『何が必要?』


『誰でも使える?』


『魔法と元素は関係ある?』


 ココアは最後の一行を見つめた。


「……。」


 口元が、


 少しずつ緩んでいく。


 コンコン――。


「失礼いたします。」


「先生!」


 ココアが勢いよく振り返った。


「おはようございます、ココア様。」


「おはようございます!」


 セバスの視線が、


 机の上の紙へ向かう。


「……すでにご準備を?」


「うん!」


 ココアは紙を持ち上げる。


「聞きたいこと書いた!」


「なるほど。」


 セバスは紙を受け取り、


 一つずつ目を通していく。


 最後の一行で、


 僅かに眉を動かした。


『魔法と元素は関係ある?』


「元素、でございますか。」


「うん。」


「物を作ってるもの。」


 セバスは少し考えた。


「そのような考え方は、私は存じませんね。」


「そうなの?」


「少なくとも、一般的な魔法学では聞いたことがございません。」


「そっか……。」


 ココアはすぐに紙へ書く。


『魔法学では元素を使わない?』


「ココア様。」


「なに?」


「まだ、関係がないと決まったわけではございませんよ。」


 羽根ペンが止まる。


「あ。」


 セバスは微笑んだ。


「分からないのであれば。」


「調べるのでございましょう?」


 ココアの顔が、


 ぱっと明るくなる。


「うん!」


「では、始めましょう。」


「はい!」


     ◇


「まず、魔法を使うために必要なものがございます。」


「魔力?」


「その通りでございます。」


 ココアは紙へ書く。


『魔法――魔力が必要』


「魔力は、人が生まれながらに持つ力です。」


「みんな持ってるの?」


「はい。」


 セバスは迷うことなく答えた。


「多少の差はございますが、人は誰しも魔力を持って生まれてまいります。」


「どのくらい違うの?」


「人それぞれでございます。」


「少ない者もいれば、多くの魔力を持つ者もおります。」


「増やせる?」


「成長とともに多少変化することはございますが、生まれ持った素質による部分が大きいとされています。」


「測れる?」


「ええ。」


 ココアの瞳が輝いた。


「どうやって?」


「魔力を測定するための魔道具がございます。」


「見たい!」


 セバスは小さく笑う。


「いずれご覧になる機会がございますよ。」


「いつ?」


「六歳になられた時です。」


「六歳?」


「はい。」


 セバスは教材を開いた。


 そこには、


 大きな水晶へ手を添える子どもの絵が描かれている。


「六歳になると、貴族の子どもは覚醒の儀を受けます。」


「覚醒の儀……。」


「その儀式で、魔力量と属性を調べるのでございます。」


 ココアは紙へ書き込む。


『六歳――覚醒の儀』


『魔力量』


『属性』


「属性って?」


「その者が、どの魔法を扱うことに適しているかを示すものでございます。」


 セバスが指を折る。


「基本となるのは、火、水、風、土。」


「四つ?」


「はい。」


「四大属性と呼ばれております。」


 ココアは紙へ書く。


『火』


『水』


『風』


『土』


 そこで、


 羽根ペンを止めた。


「それだけ?」


 セバスは僅かに間を置く。


「いいえ。」


「極めて稀ではございますが、四大属性に属さない者もおります。」


「どんなの?」


「光。」


 ココアが書く。


『光』


「そして――」


 ほんの僅かに、


 セバスの声が低くなった。


「闇でございます。」


「闇?」


「はい。」


 ココアは何の躊躇もなく、


 その下へ書き加える。


『闇』


「何ができるの?」


「光属性は、治癒や浄化に優れるとされております。」


「闇は?」


「……。」


 セバスは僅かに言葉を選んだ。


「私も、詳しくは存じません。」


「珍しいから?」


「それもございます。」


 セバスは一度、


 教材へ視線を落とした。


「ただ。」


「闇属性は古くから、あまり良いものとは考えられておりません。」


 ココアが首を傾げる。


「どうして?」


「恐ろしい力を持つ者がいたと、伝えられているからでしょうか。」


「どんな力?」


「それは……。」


 セバスは静かに首を振った。


「申し訳ございません。」


「私も正確には存じません。」


「そっか。」


 ココアは紙へ書く。


『闇――怖がられている』


 少し考え、


 その下へもう一行。


『なぜ?』


 さらに。


『本当に怖い?』


 セバスの視線が、


 その文字へ止まった。


 ココアにとっては、


 光も。


 闇も。


 火も。


 水も。


 まだ知らないという意味では、


 何も変わらなかった。


     ◇


「先生。」


「はい。」


「どうして火と水と風と土なの?」


「……どうして、と申しますと?」


「どうして、その四つに分かれるの?」


 セバスは少し考えた。


「古くから、そのように分類されております。」


「誰が決めたの?」


「それは……。」


 言葉が止まる。


 ココアは待った。


「申し訳ございません。」


「私は存じません。」


「そっか。」


 ココアは紙へ書く。


『属性――なぜ分かれる?』


『誰が決めた?』


 そして、


 その横へ小さく書き足した。


『調べる』


「先生。」


「はい。」


「魔法、見せて。」


「今、でございますか?」


「うん。」


「近くで見たい。」


 セバスは少し考えた。


「ごく初歩の火魔法でしたら、私でも扱えます。」


「見たい!」


「では。」


 セバスは右手を上げ、


 人差し指を立てる。


 僅かな間。


 そして。


 ポッ。


 小さな炎が灯った。


「……!」


 ココアの瞳が見開かれる。


 だが、


 見ているのは炎そのものではなかった。


 その周囲。


 空気中に存在する元素。


 そして、


 次々と変化していく結合。


「……。」


「ココア様?」


 聞こえていない。


 魔法が発動する前。


 発動した瞬間。


 発動したあと。


 何が変わった?


 何が動いた?


 どこから始まった?


「先生、消して!」


「え?」


「もう一回!」


「……承知いたしました。」


 炎が消える。


 再び。


 ポッ。


 小さな炎が灯る。


「もう一回!」


 消える。


 ポッ。


「もう一回!」


「ココア様。」


「なに?」


「私はそろそろ、火を灯すために来たのか、授業をするために来たのか分からなくなってまいりました。」


「……あ。」


 ココアは数秒考える。


「授業。」


「左様でございます。」


「でも、あと一回。」


「……。」


「お願い。」


 セバスは小さく息を吐いた。


「一度だけですよ。」


「やった!」


 ポッ。


 ココアは瞬きもせず、


 その瞬間を見つめた。


 そして、


 紙へ書き込む。


『魔法の火』


『出る瞬間――元素が動く』


『結合――変化する』


『魔法と元素――関係ある?』


 最後の「?」を、


 ココアは消さなかった。


 見えた。


 だが、


 まだ分かったわけではない。


     ◇


「本日はここまでにいたしましょう。」


「はい!」


 セバスは教材を閉じる。


「復習も大切ですが、あまり根を詰めすぎてはいけませんよ。」


「はーい。」


「……。」


 セバスがココアを見る。


「何でしょう?」


「いえ。」


 素直な返事ほど、


 信用ならない時がある。


 そんな気がした。


「では、失礼いたします。」


「ありがとうございました!」


 セバスは一礼し、


 部屋を出ていく。


 扉が閉まった。


「……。」


 ココアは動かない。


 じっと座ったまま、


 耳を澄ませる。


 コツ。


 コツ。


 コツ。


 セバスの足音が、


 少しずつ遠ざかっていく。


 やがて。


 聞こえなくなった。


「……よし。」


 ココアは椅子から降りた。


 向かったのは、


 部屋の隅にある燭台。


 蝋燭を一本取り、


 机へ置く。


 火を灯す。


 小さな炎が、


 静かに揺れ始めた。


 ココアは新しい紙を取り出した。


『実験』


『対象――普通の火』


 そして、


 蝋燭へ顔を近付ける。


「……。」


 魔法の炎。


 普通の炎。


 見た目はよく似ている。


 だが、


 ココアには、


 その内側まで見えていた。


 燃えている蝋。


 周囲の空気。


 熱によって次々と進んでいく反応。


 結合が切れ、


 新しい結合が生まれる。


 それが、


 絶え間なく繰り返されている。


 その中には、


 前世では当たり前に知っていたものもある。


 燃焼に欠かせないもの。


 酸素。


「やっぱり……。」


 前の世界で知っていた燃焼と、


 よく似ている。


 なら。


 落ち葉と同じことをしたら、


 どうなる?


 ココアは炎を見つめた。


 あの時。


 落ち葉の結合へ触れ、


 一本を切った。


 葉は形を保てなくなり、


 崩れた。


「火も……。」


 同じだろうか。


 ココアは炎の中で、


 絶えず変化している結合へ意識を集中させる。


 一本。


 その一本だけを選ぶ。


 右手を伸ばした。


 小さな人差し指。


 ゆっくり。


 慎重に。


 結合へ近付ける。


「一本だけ。」


 指先が、


 触れた。


 ――パチッ。


 青白い光が、


 ココアの視界だけで一度脈打った。


 一本の結合が切れる。


「……。」


 ココアはすぐに手を引いた。


 炎を見る。


 ゆら。


 ゆら。


 何事もなかったように、


 燃え続けている。


「……消えない。」


 もう一度、


 よく見る。


 確かに切った。


 間違いない。


 だが、


 炎は消えない。


「なんで?」


 顔を近付ける。


 切れた場所とは別のところで、


 また反応が起きている。


 その隣でも。


 さらにその隣でも。


 結合が切れ、


 生まれ、


 また変化する。


 止まらない。


「あ……。」


 ココアの瞳が輝いた。


「次が来るんだ。」


 落ち葉とは違う。


 葉は、


 すでに形になっているものだった。


 その構造を壊せば、


 形を保てなくなる。


 でも。


 火は違う。


 目の前で、


 変化し続けている。


 一本切っても、


 次の反応が起きる。


 さらに次。


 また次。


 だから、


 火は消えない。


 ココアは急いで紙へ書く。


『実験結果』


『結合一本――切断』


『火――消えない』


『反応――続く』


 その下へ、


 大きく書いた。


『葉と火は違う』


「……。」


 ココアは炎を見つめる。


 なら。


 どうすれば止まる?


 一本の結合を切るだけでは、


 駄目だった。


「火を切るんじゃない……。」


 小さく呟く。


 そして。


「燃えられなくすればいいんだ。」


 羽根ペンが止まった。


「……。」


 どうやって?


 炎を見る。


 答えは、


 見えない。


 ココアは紙へ視線を戻した。


『目的――火を消す』


 少し考える。


 横線を引いた。


 その下へ書き直す。


『目的――燃焼を止める』


「うん。」


 こちらの方が正しい。


 だが。


 何をすれば、


 燃焼そのものを止められる?


「……分かんない。」


 ココアはしばらく炎を見つめていた。


 そして。


 羽根ペンを取る。


『結合一本――火は消えない』


 その下へ、


 ゆっくりと書いた。


『では、何を切れば火は消える?』


「……。」


 答えは、


 まだない。


 ココアはその一文をじっと見つめる。


 やがて。


 口元が、


 少しずつ緩んだ。


「……面白い。」


 蝋燭へ顔を近付ける。


「ふぅーっ。」


 炎が消えた。


 細い白煙が、


 ゆっくりと立ち昇っていく。


 ココアは最後まで、


 その変化を目で追った。


 そして、


 羽根ペンを置く。


 今日もまた、


 分からないことが一つ増えた。


 第4話 終

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