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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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35/81

第34話 芽

 七日後。


     ◇


「出てる!」


 朝。


 まだ。


 日が昇りきる前。


 ノエルの声が。


 畑に響いた。


「お父さん!」


「芽!」


「芽、出てる!」


     ◇


 ココアも。


 走った。


 いや。


 走ろうとした。


「ココア様。」


「……。」


「転びますぞ。」


「急いでる。」


「芽は逃げません。」


「でも。」


「逃げません。」


「……はい。」


     ◇


 セバスに。


 手を引かれながら。


 それでも。


 急ぐ。


     ◇


 三つの。


 小さな区画。


 その前に。


 ノエルが。


 しゃがみ込んでいた。


「見て!」


     ◇


 小さな緑が。


 土を。


 押し上げている。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


     ◇


「……。」


 ココアも。


 その隣へ。


 しゃがんだ。


     ◇


 一つ目。


 何もしなかった土。


     ◇


 芽は。


 出ている。


 でも。


 少ない。


 出ていても。


 細い。


 小さい。


 頼りない。


     ◇


 二つ目。


 水の逃げ道を作り。


 水を入れて。


 土の中に溜まったものを。


 洗い流した区画。


     ◇


「……出てる。」


     ◇


 明らかに。


 多い。


 何もしなかった場所より。


 ずっと。


     ◇


 そして。


 三つ目。


     ◇


 二つ目と同じように。


 排水と洗浄を行い。


 さらに。


 ココアが。


 余分な塩類を。


 減らした区画。


     ◇


「すごい……。」


     ◇


 ノエルが。


 息を漏らした。


 三つの中で。


 一番。


 多い。


 芽の高さも。


 揃っている。


     ◇


「お父さん!」


「早く!」


「分かった!」


     ◇


 ヨハンが。


 畑の向こうから。


 走ってくる。


「どうした!?」


「見て!」


「……。」


     ◇


 ヨハンが。


 止まった。


     ◇


 何も。


 言わない。


 ただ。


 芽を。


 見ている。


「お父さん?」


     ◇


 ゆっくり。


 しゃがむ。


     ◇


 一本の芽へ。


 指を。


 伸ばす。


     ◇


 触れる。


 その寸前で。


 止めた。


     ◇


「……出た。」


「うん!」


「……本当に。」


 もう一度。


 芽を見る。


「出た……。」


     ◇


 三年。


     ◇


 肥料を。


 変えた。


 種を。


 変えた。


 耕し方も。


 変えた。


     ◇


 それでも。


 まともに。


 育たなかった。


     ◇


 今年で。


 諦めようとしていた。


 畑から。


     ◇


 今。


     ◇


 緑が。


 出ている。


     ◇


「……よかった。」


     ◇


 ヨハンが。


 小さく。


 呟いた。


     ◇


「お嬢様!」


 ノエルが。


 ココアを見る。


「成功だよ!」


「まだ。」


「ええ!?」


「まだ。」


「成功じゃない。」


「なんで!?」


「芽が。」


「出ただけだから。」


「出たじゃん!」


「出た。」


「じゃあ成功!」


「ちゃんと育って。」


「収穫できるまで。」


「まだ。」


「分からない。」


「……。」


     ◇


 ノエルが。


 頬を。


 膨らませた。


「お嬢様。」


「なに?」


「めんどくさい。」


「六回目。」


「それ。」


「変って言ってない。」


「……。」


「増やす?」


「増やさない。」


     ◇


 後ろで。


 ヨハンが。


 吹き出した。


     ◇


 でも。


     ◇


 ココアが。


 見ていたのは。


 一番。


 たくさん芽が出た区画では。


 なかった。


     ◇


 その隣。


     ◇


 二つ目の。


 区画。


     ◇


「……。」


     ◇


 ココアが。


 近づく。


 しゃがむ。


     ◇


 一本。


 もう一本。


     ◇


 芽を見る。


     ◇


「お嬢様?」


「……出てる。」


「そっちも。」


「出てるよ?」


「うん。」


「でも。」


     ◇


 ココアが。


 土を。


 指差す。


「ここ。」


「私。」


「触ってない。」


「……。」


「私の力。」


「使ってない。」


「うん。」


「でも。」


     ◇


 ココアの。


 口元が。


 緩んだ。


「芽が。」


「出た。」


     ◇


 一番では。


 ない。


     ◇


 二番目。


     ◇


 それなのに。


 ココアは。


 一番。


 嬉しそうに。


 笑っていた。


     ◇


「お嬢様。」


「なに?」


「そっちの方が。」


「嬉しいの?」


「うん。」


「なんで?」


「私が。」


「いなくても。」


     ◇


 ココアは。


 芽を見る。


「できたから。」


     ◇


 ノエルが。


 黙った。


     ◇


「私が。」


「一個ずつ。」


「土の中から。」


「余分なものを。」


「取らなくても。」


「水の道を作って。」


「水に溶かして。」


「外へ流したら。」


「土が。」


「変わった。」


「……。」


「私じゃなくても。」


「できる。」


     ◇


 ノエルが。


 二つ目の区画を。


 見る。


「じゃあ。」


「他の畑でも。」


「できる?」


「できる。」


「かもしれない。」


「お嬢様が。」


「いなくても?」


「うん。」


「私が。」


「いなくても?」


「鍬でも。」


「水の道は作れる。」


「……。」


     ◇


 ノエルが。


 少し。


 不満そうな顔をした。


     ◇


「でも。」


「ノエルが。」


「いた方が早い。」


「……!」


「すごく。」


「早い。」


「でしょ?」


     ◇


 胸を。


 張る。


 ココアも。


 笑った。


     ◇


 科学を。


 知っている人が。


 考える。


     ◇


 土地を。


 知っている人が。


 教える。


     ◇


 魔法を。


 使える人が。


 できることをする。


     ◇


 農家が。


 自分の畑を。


 守る。


     ◇


 全部を。


     ◇


 一人で。


 やる必要は。


 ない。


     ◇


「ココア様。」


     ◇


 セバスだった。


「なに?」


「よいお顔を。」


「なさっておりますな。」


「そう?」


「ええ。」


     ◇


 眼鏡を。


 押し上げる。


「ご自身の実験が。」


「成功した時より。」


「嬉しそうで。」


「ございます。」


「……。」


     ◇


 ココアは。


 もう一度。


 二つ目の区画を見る。


     ◇


 自分が。


 やったんじゃない。


     ◇


 自分にしか。


 できないことでも。


 ない。


     ◇


 でも。


     ◇


 嬉しい。


     ◇


「……ほんとだ。」


     ◇


 前世の。


 研究室では。


 知らなかった。


     ◇


 自分が。


 見つけることだけじゃない。


     ◇


 自分が。


 できることだけでもない。


     ◇


 誰かが。


     ◇


 自分で。


 できるようになること。


     ◇


 それも。


     ◇


 こんなに。


 嬉しい。


     ◇


「お嬢。」


     ◇


 ヨハンが。


 立ち上がった。


「ん?」


「じゃあ。」


「畑全部に。」


「同じことをやればいいのか?」


「……まだ。」


「またか。」


「うん。」


「今度は何だ?」


     ◇


 ヨハンまで。


 笑っている。


     ◇


「水。」


「水?」


「うん。」


     ◇


 ココアは。


 畑を見る。


「水が。」


「どこから来てるのか。」


「どうして。」


「ここだけ。」


「抜けにくくなったのか。」


「どこへ。」


「流すのがいいのか。」


「それから。」


「他の畑でも。」


「同じことが。」


「起きてないか。」


「他の畑……。」


     ◇


 ノエルが。


 呟いた。


     ◇


 そして。


 少し離れた。


 東の畑を見る。


「ねえ。」


「なに?」


「だったら。」


「雨のあとに。」


「見ればいいんじゃない?」


「……。」


「水が残ってる畑。」


「全部。」


     ◇


 ココアが。


 止まった。


「……全部?」


「うん。」


「どこに。」


「水が溜まるか。」


「見たいんでしょ?」


「……。」


     ◇


 ココアが。


 ノエルを見る。


「ノエル。」


「なに?」


「頭いい。」


「知ってる。」


「……。」


「嘘。」


     ◇


 ノエルが。


 笑った。


     ◇


 その日。


     ◇


 二人は。


 畑を回った。


     ◇


 ヨハンにも。


 来てもらった。


     ◇


 農家にも。


 聞いた。


     ◇


「雨のあと。」


「水が残る場所は。」


「ありますか?」


     ◇


「最近。」


「前より。」


「育ちにくくなった場所は?」


     ◇


「収穫は。」


「変わってませんか?」


     ◇


 最初は。


 首を。


 傾げられた。


     ◇


 六歳の。


 小さな。


 伯爵令嬢。


     ◇


 畑仕事とは。


 どう見ても。


 縁遠く見える。


     ◇


 けれど。


「ヨハンのところだろ?」


「ああ。」


「聞いたぞ。」


     ◇


 話は。


 すでに。


 少しずつ。


 広がっていた。


     ◇


 三年間。


     ◇


 何をしても。


 育たなかった畑から。


     ◇


 芽が。


 出た。


     ◇


 農家にとって。


     ◇


 それは。


 十分に。


 話を聞く理由になった。


     ◇


「うちも。」


     ◇


 一人の農夫が。


 手を挙げた。


「川側の二枚。」


「去年から。」


「少し悪い。」


     ◇


「こっちもだ。」


     ◇


 別の男が。


 言う。


「雨のあと。」


「乾くのが遅い。」


「昔は。」


「そんなこと。」


「なかったんだがな。」


     ◇


「見てもいい?」


「ああ。」


「頼む。」


     ◇


 一人。


     ◇


 もう一人。


     ◇


 昨日まで。


 ココアを。


 ただの。


 小さな伯爵令嬢として。


 見ていた人たちが。


     ◇


 自分から。


 畑の話を。


 してくれる。


     ◇


「ここも。」


「見てくれないか?」


     ◇


 ココアは。


 頷いた。


「うん。」


     ◇


 研究帳に。


 印が。


 増えていく。


     ◇


 一つ。


 二つ。


 三つ。


     ◇


 さらに。


 四つ。


     ◇


「……。」


     ◇


 ココアが。


 研究帳を見る。


     ◇


 ヨハンの畑だけでは。


 ない。


     ◇


 まだ。


 同じ原因とは。


 言えない。


     ◇


 でも。


     ◇


 調べる理由は。


 十分に。


 あった。


     ◇


 夕方。


     ◇


 叔父の屋敷。


     ◇


 ココアは。


 一枚の地図を。


 広げていた。


     ◇


「これが。」


「ヨハンさんの畑。」


     ◇


 印。


     ◇


「これが。」


「東の畑。」


     ◇


 印。


     ◇


「それから。」


「今日。」


「話を聞いたところ。」


     ◇


 印。


 印。


 印。


     ◇


 叔父が。


 地図を見る。


「……多いな。」


「うん。」


「全部。」


「同じ原因か?」


「まだ。」


「分からない。」


「だろうな。」


     ◇


 叔父は。


 笑わなかった。


     ◇


 ただ。


 一つ。


 一つ。


 印を。


 見ている。


     ◇


「ヨハンの畑だけの。」


「問題じゃないかもしれない。」


「うん。」


「それを。」


     ◇


 叔父が。


 ココアを見る。


「調べられるのか?」


「……。」


     ◇


 ココアは。


 研究帳を。


 開いた。


     ◇


 土。


 水。


 布。


 皿。


 火。


     ◇


 ノエルと。


 作った方法。


     ◇


「できる。」


「お前が。」


「全部見るのか?」


「違う。」


     ◇


 ココアは。


 首を振った。


「私が。」


「見なくても。」


「できる。」


「農家でも?」


「できる。」


「魔法がなくても?」


「できる。」


「高価な道具は?」


「いらない。」


     ◇


「……。」


     ◇


 叔父が。


 椅子へ。


 深く。


 座り直した。


     ◇


「なら。」


     ◇


 地図へ。


 手を置く。


     ◇


「調べよう。」


「……。」


「この辺りの畑を。」


     ◇


「全部だ。」


     ◇


 ココアが。


 瞬きをした。


「全部?」


「ああ。」


     ◇


 叔父の指が。


 地図についた印を。


 一つずつ。


 なぞる。


     ◇


「一枚の畑で。」


「起きたことなら。」


「一人の問題かもしれない。」


     ◇


「だが。」


     ◇


「同じことが。」


「何枚もの畑で。」


「起き始めているなら。」


     ◇


 指が。


 止まる。


     ◇


「領主の問題だ。」


     ◇


 領主。


     ◇


 父が。


 やっていたこと。


     ◇


 叔父が。


 やっていること。


     ◇


 誰か一人の。


 生活の問題を。


     ◇


 土地に暮らす。


 みんなの問題として。


 考える仕事。


     ◇


「……。」


     ◇


 ココアが。


 地図を見る。


     ◇


 最初は。


 一枚だった。


     ◇


 三年間。


 作物が育たない。


     ◇


 ヨハンの。


 畑。


     ◇


 ただ。


 その原因が。


 知りたかった。


     ◇


 でも。


     ◇


 今。


 目の前には。


     ◇


 この土地の。


 地図がある。


     ◇


 ココアは。


 研究帳を。


 開いた。


     ◇


『ヨハンさんの畑』


     ◇


 その下へ。


     ◇


 新しく。


 書く。


     ◇


『この土地の水と土』


     ◇


「先生。」


「はい。」


「畑って。」


「全部で。」


「何枚あるの?」


     ◇


 セバスが。


 眼鏡を。


 押し上げた。


     ◇


「この周辺だけで。」


「百四十七枚でございます。」


「……。」


     ◇


 ココアは。


 地図を見る。


     ◇


「……いっぱいある。」


「見れば分かる。」


     ◇


 ノエルだった。


「……七回目。」


「今の。」


「変って言ってないよ?」


「……。」


     ◇


 叔父が。


 吹き出した。


     ◇


 百四十七枚。


     ◇


 その全部に。


     ◇


 誰かの。


 生活がある。


     ◇


 三年間。


 誰にも。


 分からなかった。


     ◇


 一枚の畑の。


 異変。


     ◇


 そこから。


 始まったものは。


     ◇


 もう。


 一枚だけの。


 問題では。


 なかった。

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