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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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第32話 見えない人

『魔力とは?』


『魔法は何でできている?』


『なぜ私は、魔法に触れられた?』


 翌朝。


 ココアは。


 三つの問いを見つめていた。


「……。」


 分からない。


 昨日より。


 疑問は増えた。


 けれど。


 答えを出すためには。


 まだ。


 足りないものが多すぎる。


「先生。」


「はい。」


 向かいに座るセバスが。


 眼鏡を押し上げる。


「こっちは。」


「すぐには分からない。」


「賢明なご判断でございます。」


「でも。」


「はい。」


「今日。」


「分かるかもしれない方はある。」


「……。」


 セバスの眉が。


 僅かに動く。


「三年間。」


「何をしても。」


「作物が育たなかった畑。」


 ココアは。


 研究帳を閉じた。


「昨日。」


「違いは見つけた。」


「はい。」


「だから今日は。」


「その違いが。」


「本当に原因なのか。」


「もう一度確かめる。」


 椅子から降りる。


「それから。」


「どうして。」


「あの畑だけそうなったのか調べる。」


「なるほど。」


「では。」


「はい。」


「その前に。」


「……。」


 嫌な予感がした。


「朝食を。」


「食べてくださいませ。」


「……はい。」


     ◇


 一時間後。


 ココアは。


 再びヨハンの畑に立っていた。


 三年間。


 何を植えても。


 まともに育たない畑。


 そのすぐ隣では。


 同じ季節に。


 同じような作物が。


 普通に育っている。


「……。」


 ココアは。


 畦道へしゃがみ込んだ。


「すいへー……。」


「りーべー……。」


 小さく。


 口ずさむ。


 視界が。


 切り替わる。


 土。


 ではない。


 土を形作るもの。


 そこに含まれる。


 無数の元素。


「……。」


 まず。


 育つ畑。


 次に。


 育たない畑。


「ナトリウム。」


「塩素。」


 やはり。


 多い。


 昨日と同じ。


 育たない畑には。


 隣より明らかに。


 ナトリウムと塩素が多く見える。


「他は?」


 セバスが尋ねる。


「見てる。」


 カリウム。


 カルシウム。


 マグネシウム。


 鉄。


 その他。


 植物の生育に関わるもの。


「……ある。」


「では。」


「栄養が足りないわけではない?」


「それだけじゃ決められない。」


 ココアは。


 土を指先で崩した。


「元素が。」


「そこにあることと。」


「植物が使えることは違うから。」


「……。」


「何と結び付いてるかでも。」


「変わる。」


「それに。」


「必要なものでも。」


「多すぎれば。」


「邪魔になることがある。」


「肥料なら。」


「もう散々試したぞ。」


 声がした。


 ヨハンだった。


 鍬を肩へ担ぎ。


 こちらへ歩いてくる。


「最初は。」


「俺も。」


「足りないんだと思った。」


 ヨハンが。


 畑を見る。


「肥料を変えた。」


「量も増やした。」


「種も変えた。」


「耕し方も変えた。」


「それでも?」


「駄目だった。」


「……。」


「一年目は。」


「運が悪かったと思った。」


 二年目。


「俺のやり方が悪いと思った。」


 三年目。


「もう。」


「何が悪いのかも。」


「分からなくなった。」


 乾いた笑いだった。


 ココアは。


 ヨハンを見上げる。


「今年も。」


「駄目だったら?」


「……。」


 ヨハンは。


 すぐには答えなかった。


 目の前の畑を見る。


 そして。


「諦める。」


「畑を?」


「ああ。」


「……。」


「食っていかなきゃ。」


「ならねえからな。」


 その言葉で。


 ココアの視線が。


 土から離れた。


     ◇


 これは。


 研究材料ではない。


     ◇


 三年間。


 答えを探した人がいる。


 失敗して。


 金を使って。


 時間を使って。


 それでも。


 分からなかった。


 そして。


 今年。


 もう一度失敗すれば。


 この畑を。


 諦める。


     ◇


「先生。」


「はい。」


「使うね。」


 セバスは。


 何を。


 とは聞かなかった。


 昨日。


 初めて知った。


 ココアの力。


「理由を。」


「伺ってもよろしいですかな。」


「……。」


 ココアは。


 ヨハンを見る。


「昨日は。」


「原因があるか。」


「知りたかった。」


「はい。」


「でも。」


「今日は違う。」


 畑を見る。


「ヨハンさんは。」


「今年も駄目なら。」


「この畑を諦める。」


「……。」


「だから。」


 ココアが。


 小さな手を握った。


「知りたいだけじゃない。」


「間に合わせたい。」


「……。」


 セバスは。


 数秒。


 黙っていた。


 そして。


「承知いたしました。」


「ただし。」


「はい。」


「無理をなさらないこと。」


「分かってる。」


「本当に?」


「……分かってる。」


「なぜ。」


「一度間がございましたか。」


「先生。」


「はい。」


「今は畑。」


「左様でございますな。」


     ◇


「お嬢?」


 ヨハンが。


 二人を交互に見る。


「何をするんだ?」


「もう少し。」


「土を比べる。」


「まだ比べるのか?」


「うん。」


 ココアが。


 ヨハンの畑を指す。


「ここ。」


 次に。


 隣。


「ここ。」


 さらに。


 少し離れた畑。


「あそこも。」


「土をもらっていい?」


「三か所?」


「うん。」


 ココアが。


 三本。


 指を立てる。


「育たない畑が一つ。」


「育つ畑が二つ。」


「なんで二つなんだ?」


「育つ畑が一つだけだと。」


「どっちが普通なのか。」


「まだ分からないから。」


「……。」


「育つ二つには同じくらいあって。」


「育たない畑だけ違う。」


「そういうものを探す。」


「なるほどな……。」


 ヨハンが。


 自分の畑を見る。


「そうやって。」


「調べるのか。」


「うん。」


「比べる。」


「一回だけで決めない。」


「同じなら。」


「もう一回確かめる。」


     ◇


「お父さん!」


 遠くから。


 少女の声がした。


 籠を抱えて。


 畦道を走ってくる。


 ココアより。


 少し年上。


 日に焼けた頬。


 後ろで結んだ。


 茶色い髪。


「お母さんが。」


「これ持ってけって――」


 そこで。


 止まる。


「……。」


 少女が。


 ココアを見る。


 ココアも。


 見る。


「誰?」


「領主様んとこの。」


「ココアお嬢様だ。」


「ふーん。」


「ふーんじゃねえ。」


「だって。」


 少女が。


 ココアの頭から。


 足まで見る。


「ちっちゃい。」


「お前と。」


「大して変わらんだろ。」


「私の方が大きい。」


「……。」


 ココアが。


 自分の頭の上へ。


 手を置いた。


 少女を見る。


 確かに。


 少し。


 高い。


「……負けた。」


「何が?」


「身長。」


「ぷっ。」


 少女が。


 吹き出した。


「変なお嬢様。」


「ノエル。」


 ヨハンが。


 ため息を吐く。


「すみません。」


「娘です。」


「ノエル?」


「うん。」


「私はココア。」


「知ってる。」


「さっき聞いた。」


「そっか。」


 ノエルが。


 ココアの手元を見る。


「何してるの?」


「土を調べてる。」


「土?」


「うん。」


「なんで?」


「作物が。」


「育たないから。」


 ノエルの顔から。


 少しだけ。


 笑みが消えた。


 父の畑を見る。


「……治るの?」


「まだ。」


「分からない。」


「……そっか。」


「でも。」


 ココアが。


 土を見る。


「原因は。」


「見つけたかもしれない。」


「ほんと!?」


「うん。」


 ノエルの目が。


 一気に明るくなった。


     ◇


 三か所から。


 同じくらいの深さで。


 同じ量の土を取る。


 並べる。


「すいへー……。」


「りーべー……。」


「それ何?」


「覚え方。」


「何の?」


「今度説明する。」


「今じゃないの?」


「今は見る方が先。」


「変なの。」


「三回目。」


「数えてるの?」


「数えてる。」


 ココアは。


 三つの土へ。


 順番に意識を向ける。


 育つ。


 育つ。


 育たない。


「……。」


 もう一度。


 育つ。


 育つ。


 育たない。


「やっぱり。」


「何が?」


「これだけ。」


「多い。」


 ココアが。


 ヨハンの畑の土を指す。


「ナトリウム。」


「塩素。」


「……なと?」


「ナトリウム。」


「えんそ?」


「塩素。」


「何それ。」


「簡単に言うと。」


「塩に関係するもの。」


「塩?」


 ヨハンが。


 眉を寄せる。


「畑にか?」


「うん。」


「昨日。」


「土に水を混ぜて。」


「水に溶けたものだけ取り出した。」


「それを。」


「最後まで煮詰めた。」


「そしたら。」


「白いものが残った。」


「塩だったのか?」


「塩だけじゃない。」


 即答だった。


「水に溶けるものは。」


「他にもあるから。」


「でも。」


「育たない畑から取れた量が。」


「育つ畑より。」


「ずっと多かった。」


「それに。」


 自分の目を指す。


「私には。」


「ナトリウムと塩素が多く見える。」


「だから。」


 一度。


 言葉を区切る。


「この畑に。」


「塩みたいなものが溜まりすぎてる。」


「それが。」


「作物が育たない原因の。」


「一番大きな候補。」


「……。」


 ヨハンが。


 自分の足元を見る。


 三年間。


 何度も。


 何度も。


 立ってきた土。


「塩……。」


「たぶん。」


「たぶん?」


「まだ。」


「それだけが原因って。」


「全部確かめたわけじゃないから。」


「……。」


「でも。」


 ココアが。


 育つ畑。


 育たない畑。


 順番に指す。


「三か所比べても。」


「ここだけ。」


「明らかに違う。」


「だから。」


「次に調べる価値はある。」


「……そうか。」


 ヨハンが。


 小さく呟く。


「やっと。」


「分かったのか。」


 その声は。


 嬉しそうではなかった。


 むしろ。


 疲れていた。


 三年間。


 理由すら分からなかった。


 それが。


 ようやく。


 名前を持った。


「まだ。」


「直ってないよ。」


「ああ。」


「原因も。」


「全部分かったわけじゃない。」


「ああ。」


「でも。」


 ココアが。


 ヨハンを見る。


「何を調べればいいかは。」


「分かった。」


「……。」


 ヨハンが。


 ゆっくり。


 頷いた。


「ああ。」


 今度は。


 少しだけ。


 笑った。


「それだけでも。」


「昨日までとは。」


「全然違う。」


     ◇


「でも。」


 ノエルが。


 しゃがみ込んだ。


 土を摘まむ。


「どれ?」


「え?」


「塩。」


「……。」


 顔を近付ける。


 右から。


 左から。


 見る。


「見えない。」


「うん。」


「普通は見えないと思う。」


「じゃあ。」


「なんでココアには見えるの?」


「……。」


 ココアが。


 一瞬。


 止まる。


 セバスを見る。


「ココア様には。」


 セバスが。


 代わりに答えた。


「少々。」


「特殊な見え方をするようでございます。」


「魔法?」


「それも。」


「現在調査中でございます。」


「先生。」


「はい。」


「便利な言い方。」


「事実でございます。」


 ノエルは。


 そんな二人を見て。


「へえ。」


 そして。


「すごいね。」


「……。」


 ココアは。


 少しだけ。


 困った顔をした。


 すごい。


 確かに。


 便利だ。


 他の人には。


 見えないものが。


 自分には見える。


 三年間。


 誰にも分からなかった違いを。


 見つけることもできた。


 けれど。


「……ノエル。」


「なに?」


「私が。」


「ここにいなくなったら。」


「?」


「次に。」


「別の畑で。」


「同じことが起きたら。」


「誰が。」


「見つけるの?」


「……。」


 ノエルが。


 黙った。


 ヨハンも。


 黙る。


 ココアは。


 自分の手を見る。


 元素が見える。


 結合が見える。


 それは。


 自分だけ。


「それじゃ。」


「駄目だ。」


「何がでございますか?」


 セバスが尋ねる。


「私が。」


「全部の畑を。」


「ずっと見て回るの?」


「……。」


「無理だよ。」


「左様でございますな。」


「私がいないと。」


「分からないなら。」


 ココアは。


 畑を見る。


「私が。」


「いなくなったら終わっちゃう。」


「……。」


「だったら。」


 頭の中で。


 昨日の実験が蘇る。


 同じ量の土。


 同じ量の水。


 混ぜる。


 沈める。


 濾す。


 煮詰める。


 そして。


 器の底へ残った。


 白いもの。


「……あ。」


「ココア様?」


「見える。」


「何が?」


 ノエルが聞く。


「私じゃなくても。」


「……?」


「昨日。」


「やった方法。」


 ココアが。


 勢いよく。


 研究帳を開いた。


「土を。」


「同じだけ取る。」


 書く。


『土――同量』


「同じだけ水を入れる。」


『水――同量』


「同じ時間混ぜる。」


『混ぜる時間――同じ』


「沈ませる。」


「上の水を取る。」


「布で濾す。」


「それを。」


 羽根ペンが。


 一気に走る。


「同じくらいまで。」


「煮詰める。」


「そうすれば。」


 顔を上げる。


「最後に残ったものの量を。」


「比べられる。」


「……。」


 セバスの目が。


 僅かに細くなった。


「昨日。」


「行った方法でございますな。」


「うん。」


「ただし。」


「それで分かるのは。」


「塩そのものの量ではない。」


「……。」


「水に溶けたもの。」


「全部。」


「はい。」


「でも。」


 ココアが。


 三つの土を見る。


「同じやり方で。」


「育つ畑と。」


「育たない畑を比べれば。」


「差は見える。」


「……。」


「私みたいに。」


「元素が見えなくても。」


 ココアが。


 手を広げる。


「器の底なら。」


「誰にでも見える。」


「……!」


 ノエルが。


 目を大きくした。


「私にも?」


「うん。」


「お父さんにも?」


「うん。」


「ほんと?」


「やってみる?」


「やる!」


 即答だった。


     ◇


 ヨハンの家から。


 器。


 水。


 布。


 秤。


 火を借りた。


 三つの畑。


 土の量を揃える。


「ここまで?」


「もう少し。」


「これ?」


「うん。」


 ノエルが。


 慎重に。


 秤へ土を載せる。


「次は水。」


「同じだけ?」


「同じだけ。」


「なんで?」


「条件が違ったら。」


「土の違いなのか。」


「水の違いなのか。」


「分からなくなるから。」


「そっか。」


 三つ。


 同じように作る。


 混ぜる。


 待つ。


 濾す。


 そして。


 火へ。


「……。」


 ノエルが。


 じっと器を見ている。


「まだ?」


「まだ。」


「まだ?」


「まだ。」


「まだ?」


「ノエル。」


「なに?」


「見てても。」


「早くならないよ。」


「……。」


 セバスが。


 ゆっくり。


 ココアを見る。


「先生。」


「はい。」


「なに?」


「いえ。」


 眼鏡を押し上げる。


「何でもございません。」


「絶対。」


「前に私へ言ったこと思い出したでしょ。」


「さて。」


「思い出した。」


「何のことでございましょう。」


     ◇


 やがて。


 水が減った。


 一つ目。


 育つ畑。


 器の底へ。


 僅かな白い残り。


 二つ目。


 もう一つの育つ畑。


 同じくらい。


 そして。


 三つ目。


 ヨハンの畑。


「……。」


 ノエルの顔が。


 変わった。


「多い。」


 誰に言われるでもなく。


 口から出た。


「うん。」


「全然。」


「多い。」


「うん。」


 三つ。


 並んでいる。


 見える。


 元素が見えなくても。


 分かる。


「お父さん。」


「ああ。」


「ほんとだ。」


 ヨハンが。


 三つの器を。


 順番に見る。


「俺にも。」


「分かる。」


「……。」


 ココアは。


 その言葉を聞いて。


 動きを止めた。


     ◇


『俺にも分かる』


     ◇


 それだった。


 欲しかったのは。


「先生。」


「はい。」


「できた。」


「……ええ。」


「私じゃなくても。」


 ココアの顔が。


 ゆっくり。


 明るくなる。


「見えた。」


「左様でございますな。」


 ノエルが。


 三つの器を指差す。


「じゃあ。」


「これをやれば。」


「別の畑も。」


「同じか調べられる?」


「できる。」


 すぐに答える。


 だが。


 一度止まる。


「……でも。」


「これだけで。」


「全部分かるわけじゃない。」


「え?」


「何が多いのかまでは。」


「これだけじゃ分からない。」


「それに。」


「どのくらいなら。」


「作物に問題がないのかも。」


「まだ数字がない。」


「……。」


「だから。」


 ココアが。


 研究帳へ。


 新しく書く。


『育つ畑をたくさん調べる』


『育たない畑も調べる』


『残る量を比べる』


「たくさん調べて。」


「育つ畑だと。」


「どのくらい残るのか。」


「育たない畑だと。」


「どのくらいになるのか。」


「それを集める。」


「そしたら。」


 ノエルが。


 続きを言った。


「お嬢様が。」


「見なくても分かる?」


「……うん。」


 ココアが。


 笑った。


「たぶん。」


「もっと分かるようになる。」


     ◇


 ヨハンは。


 三つの器を。


 ずっと見ていた。


 三年間。


 見えなかったもの。


 理由が分からなかったもの。


 今日。


 初めて。


 自分の目でも。


 違いを見ることができた。


「お嬢。」


「なに?」


「ありがとう。」


「……。」


 ココアが。


 少し困った顔をする。


「まだ。」


「畑は治ってないよ。」


「分かってる。」


「原因も。」


「全部分かったわけじゃない。」


「ああ。」


「なのに?」


「三年間。」


 ヨハンが。


 畑を見る。


「何をやっても駄目だった。」


「何が悪いのかも。」


「分からなかった。」


「でも。」


 三つの器へ。


 視線を戻す。


「今は。」


「次に。」


「何を調べりゃいいか分かる。」


「……。」


「それだけで。」


 少しだけ。


 笑った。


「全然違う。」


「……うん。」


 ココアも。


 小さく頷いた。


     ◇


「じゃあ。」


 ノエルが。


 勢いよく立ち上がる。


「次の畑も調べよう!」


「うん!」


「何個やる?」


「まず――」


「ココア様。」


「……。」


 セバスの声。


 ココアが。


 ゆっくり振り返る。


「なに?」


「もう一度。」


「時計をご覧くださいませ。」


「……。」


 昼を。


 とっくに過ぎている。


「あ。」


「そして。」


 セバスが続ける。


「本日は。」


「畑を見るだけ。」


「と。」


「どなたかが仰っておられたような。」


「……。」


「先生。」


「はい。」


「研究って。」


「予定通りにいかないものだよ。」


「便利な言葉でございますな。」


「本当だよ。」


「では。」


 セバスが。


 眼鏡を押し上げる。


「続きは明日でございます。」


「でも。」


「明日です。」


「あと一個だけ。」


「明日です。」


「半個。」


「畑に半分はございません。」


「むぅ……。」


 ノエルが。


 吹き出した。


「やっぱり。」


「変なお嬢様。」


「四回目。」


「ほんとに数えてるんだ。」


「うん。」


     ◇


 帰り際。


 ココアは。


 もう一度。


 ヨハンの畑を見た。


 まだ。


 何も。


 治ってはいない。


 土の塩類が多い。


 そこまでは。


 かなり確からしくなった。


 だが。


 なぜ。


 この畑だけなのか。


 それは。


 まだ分からない。


 水か。


 地下に何かあるのか。


 昔の土地利用か。


 排水か。


 別の原因か。


 そして。


 もし。


 原因が分かったとして。


 直せるのか。


 費用は。


 人手は。


 水は。


 時間は。


 まだ。


 問いは山ほどある。


 それでも。


 昨日とは。


 一つだけ。


 大きく違った。


 昨日まで。


 この畑の異常を。


 見つけられるのは。


 ココアだけだった。


 今日。


 ヨハンにも。


 ノエルにも。


 見えた。


「……。」


 ココアは。


 研究帳を開く。


 新しい頁。


 そこへ。


 大きく書いた。


『誰でも使える、土の調べ方』


 その下へ。


 もう一行。


『私がいなくても分かるようにする』


「……よし。」


「ココア様。」


「なに?」


 セバスが。


 その頁を見ていた。


「また。」


「新しい研究対象を。」


 眼鏡を押し上げる。


「見つけたお顔でございます。」


「……うん。」


 ココアが。


 嬉しそうに笑う。


「見つけた。」


 そして。


 畑を見る。


 三年間。


 理由の分からなかった土地。


 そこには。


 まだ。


 答えが一つ残っている。


 なぜ。


 ここだけに。


 塩が溜まったのか。


「明日は。」


 ココアが。


 研究帳を閉じる。


「原因を探す。」


「まずは。」


「朝食でございます。」


「先生。」


「はい。」


「まだ今日だよ。」


「明日の分を。」


「先に申し上げました。」


「……。」


 ノエルの笑い声が。


 畑に響いた。


 三年間。


 何も分からなかった畑に。


 初めて。


 次へ進むための道が。


 見え始めていた。

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