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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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第31話 魔力とは


 翌朝。



 ココアが。


 研究帳を開いていると。



 扉が。


 叩かれた。



「どうぞ。」



「失礼いたします。」



 入ってきたのは。



 セバス。



 その後ろに。



 ヒルダ。



「先生。」



「はい。」



「畑の続き?」



「いいえ。」



「……。」



 ココアの手が。


 止まる。



 セバスが。


 いつもの席へ座った。



 だが。



 教本も。


 帳簿も。



 持っていない。



「ココア様。」



「はい。」



「昨日の件を。」


「伺います。」



「……やっぱり。」



「三年分。」


「ございますので。」



「長くなるよ?」



「覚悟しております。」



「畑は?」



「逃げません。」



「でも――」



「ココア様。」



「はい。」



「私からは。」


「逃げられませんぞ。」



「……。」



 ココアが。


 ヒルダを見る。



「ヒルダ。」



「諦めてくださいませ。」



「味方がいない。」



「おります。」



「どこ?」



「ここに。」



「……?」



「ですから。」


「きちんと。」


「お話しくださいませ。」



「……うん。」



     ◇



「まず。」



 セバスが。


 昨日の研究記録を見る。



「昨日。」


「土へ触れる前に。」


「何か。」


「口にしておられましたな。」



「何か?」



「すいへーりーべー。」



「あ。」



「それでございます。」



「呪文じゃないよ。」



「では。」


「何なのでございますか?」



「覚え方。」



「何の?」



「元素。」



「……。」



 セバスが。


 眼鏡を押し上げる。



「昨日も。」


「仰っておられましたな。」



「うん。」



「ナトリウム。」


「塩素。」



「それらも?」



「元素。」



「では。」


「元素とは。」


「何なのでございますか?」



「……。」



 ココアが。


 少し考える。



 この世界には。



 少なくとも。


 自分がこれまで読んだ本には。



 体系として存在していなかった考え方。



 どこから説明するか。



「先生。」



「はい。」



「水。」



「水?」



「うん。」



 机の上の。


 水差しを指差す。



「先生には。」


「何に見える?」



「水でございます。」



「私にも。」


「普通に見れば。」


「水。」



「ですが?」



 ココアが。


 紙を一枚取る。



 そこへ。



 H₂O



 と書いた。



「私には。」


「こういうものとしても見える。」



「……。」



 セバスが。


 紙を見る。



「これは?」



「水素が二つ。」


「酸素が一つ。」



「それが。」


「水?」



「うん。」



 次に。



 机を指差す。



「これも。」



 窓。



「これも。」



 ガラス。



「これも。」



 研究帳。



「これも。」



「全部。」


「元素でできてる。」



「……。」



 セバスが。


 ゆっくり。


 部屋を見回した。



「では。」


「この世界にあるものは。」


「その元素というものから。」


「できている?」



「少なくとも。」


「私が見てきたものは。」



「……なるほど。」



「でも。」


「全部が。」


「ばらばらにあるわけじゃない。」



「?」



「元素同士が。」


「結び付いてるの。」



 紙へ。



 二つの丸を書く。



 その間を。



 一本の線で結ぶ。



「何と何が。」


「どう結び付くかで。」


「できるものが変わる。」



「……結び付く。」



「うん。」



「私は。」


「結合って呼んでる。」



「結合。」



 セバスが。


 その言葉を。


 一度だけ。


 口の中で繰り返した。



「昨日。」


「ココア様が。」


「触れたと仰ったものは。」



「それ。」



「元素ではなく?」



「結合。」



「……。」



 セバスが。


 しばらく考える。



「見せていただけますか?」



「いいよ。」



     ◇



 ココアは。



 机の上を見回した。



「これ。」



 手に取ったのは。



 小さな。


 薄いガラス片。



「ガラスでございますな。」



「うん。」



「割るの?」



 ヒルダが。


 尋ねる。



「割るっていうより。」



 ココアが。


 ガラスを見る。



「切る。」



「何をでございますか?」



「結合。」



「……。」



 ヒルダが。



 三年前を思い出したように。



 黙った。



 ココアは。



 ガラスを机へ置く。



 指先を。


 そっと触れる。



「先生。」



「はい。」



「よく見てて。」



「承知いたしました。」



 意識を。


 集中する。



 視界が。


 切り替わる。



 ガラスを構成する元素。



 それらを繋ぎ。



 形を作っている。



 無数の結合。



「……。」



 その中から。



 切る場所を。



 選ぶ。



「すいへー……。」



「りーべー……。」



 指先が。



 触れる。



 ――パチッ。



 青白い光が。



 ココアの視界だけで。



 弾けた。



 次の瞬間。



 ぱき。



 ガラスが。



 二つに分かれた。



「……。」



 セバスが。



 動かない。



 ヒルダも。



 二つになったガラスを。



 見つめている。



「今。」



 セバスが。



 ゆっくり。



 口を開いた。



「力を。」


「加えられましたか?」



「ううん。」



「刃物は?」



「使ってない。」



「魔道具も?」



「使ってない。」



「では。」



 セバスが。



 二つになったガラスを見る。



「結合を。」


「切っただけ?」



「うん。」



「……。」



 ヒルダが。



 小さく息を吐いた。



「ココア様。」



「なに?」



「三歳の時。」


「あの葉も?」



「うん。」



「同じ。」



「……。」



 ヒルダが。


 目を伏せる。



「あの時。」


「私は。」


「闇属性の魔法ではないかと。」


「考えました。」



「うん。」



「触れただけで。」


「葉が崩れた。」



「私の知る魔法の中で。」


「最も近いものが。」


「それだったのでございます。」



「でも。」



「はい。」



 ヒルダが。


 ココアを見る。



「ココア様には。」


「魔力がございません。」



「うん。」



「ですから。」


「今となっては。」


「あれが何であったのか。」



「私にも。」


「分かりかねます。」



     ◇



「ココア様。」



 セバスが。



 今度は。



 まっすぐ。



 ココアを見る。



「一つ。」


「確認いたします。」



「うん。」



「六歳の儀式で。」



「この力を。」


「お使いになりましたか?」



「使ってない。」



 即答だった。



「測定具へ。」


「何かなさいましたか?」



「何もしてない。」



「ご自身の魔力を。」


「隠したことは?」



「ないよ。」



「隠す方法を。」


「ご存じですか?」



「知らない。」



「……。」



 セバスは。



 黙って。



 ココアを見る。



「先生。」



「はい。」



「私が。」


「魔力ゼロのふりをしたと思った?」



「可能性として。」


「確認いたしました。」



「……そっか。」



「お気を悪くされましたか?」



「ううん。」



 ココアは。



 首を振る。



「私でも。」


「確認すると思う。」



「……。」



「魔力がないって言われた人が。」


「こんなことしたら。」



 二つになったガラスを見る。



「本当はあるんじゃないかって。」


「思うよね。」



「左様でございます。」



「でも。」


「ない。」



「はい。」



「儀式では。」


「本当に。」


「何もしてない。」



「承知いたしました。」



 セバスは。



 それ以上。



 疑わなかった。



 だが。



 表情は。



 晴れない。



「では。」



「余計に。」


「分からなくなりましたな。」



「うん。」



     ◇



「もう一つ。」


「見せる。」



「まだございますか?」



「ある。」



「……。」



「先生。」



「はい。」



「ちょっと嫌そう。」



「気のせいでございます。」



「絶対嫌だった。」



「昨日まで。」


「知らなかったことが。」


「一朝にして増えておりますので。」



「分からないことが増えるの。」


「楽しくない?」



「ココア様と。」


「一緒にしないでいただけますか。」



「むぅ。」



 ココアが。



 ヒルダを見る。



「塩と水。」


「お願い。」



「承知いたしました。」



     ◇



 机の上。



 一杯の水。



 そして。



 小皿に入った塩。



 ココアが。



 塩を摘まむ。



 水へ入れる。



 匙で。



 混ぜる。



 白い粒が。



 少しずつ。



 見えなくなる。



「塩が。」


「消えました。」



 ヒルダが言う。



「消えてないよ。」



「では。」


「どちらへ?」



「水の中。」



 ココアには。



 見えている。



 水の中へ散らばった。



 ナトリウムイオン。



 塩化物イオン。



 結晶だった時とは。



 違う状態。



「今から。」



「これを。」


「水から弾く。」



「弾く?」



「うん。」



「三歳の時は。」


「できなかった。」



 ヒルダが。



 僅かに目を見開く。



「いつから?」



「少しずつ。」



「切るだけじゃなくて。」


「選んだものを。」


「弾けるようになったの。」



「……。」



「それから。」


「少しなら。」


「繋ぐこともできる。」



 ココアが。



 コップへ。



 指先を向ける。



 対象を。



 選ぶ。



 水そのものではない。



 水の中へ散らばった。



 ナトリウムイオン。



 塩化物イオン。



 それらを。



 周囲の水から。



 弾く。



 寄せる。



 そして。



 繋ぐ。



「すいへー……。」



「りーべー……。」



 ――パチッ。



 青白い光が。



 ココアの視界で。



 弾けた。



 水面が。



 僅かに揺れる。



 ぱら。



 白い粒が。



 コップの外へ落ちた。



「……。」



 ヒルダが。



 目を見開く。



 ぱら。



 もう一粒。



「……っ。」



 ココアの眉が。



 僅かに寄った。



「ココア様?」



「大丈夫。」



 もう一度。



 集中する。



 選ぶ。



 弾く。



 寄せる。



 繋ぐ。



 ぱら。



 白い結晶が。



 机の上へ落ちる。



 そこで。



 ココアが。



 指を下ろした。



「……ここまで。」



「もう終わりでございますか?」



「うん。」



 ヒルダが。



 コップを見る。



「まだ。」


「水の中にございますか?」



「ある。」



「全部は。」


「取り出せないのでございますか?」



「今は無理。」



「……。」



 ココアが。



 小さく息を吐く。



「見つけるだけなら。」


「もっとできる。」



「でも。」


「動かして。」


「繋ぎ直すのは。」



 自分の指を見る。



「たくさんは。」


「まだ無理。」



「疲れるのでございますか?」



「少し。」



「では。」



 ヒルダが。



 即座に。



 コップを遠ざけた。



「今日は。」


「ここまででございます。」



「もうちょっと――」



「なりません。」



「でも。」



「ココア様。」



「はい。」



「今。」


「ご自身で。」


「ここまでと仰いました。」



「……。」



「ならば。」


「ここまでです。」



「……はい。」



 セバスが。



 眼鏡を押し上げる。



「ヒルダ殿。」



「はい。」



「今後。」


「この力を用いた実験には。」


「必ずあなたにも。」


「同席していただきましょう。」



「承知いたしました。」



「先生。」



「はい。」



「私の研究。」


「監視されるの?」



「安全管理でございます。」



「言い方変えただけじゃない?」



「重要な違いでございます。」



「むぅ……。」



     ◇



 ヒルダが。



 机の上に残った。



 白い粒へ。



 視線を落とす。



「これは。」



「先ほど。」


「水へ入れた塩でございますか?」



「うん。」



「取り出した?」



「弾いて。」


「もう一度繋いだ。」



「……。」



 ヒルダが。



 コップを見る。



 次に。



 机の上の塩。



 そして。



 ココアを見る。



「三年前と。」


「同じ力なのでございますね。」



「うん。」



「ですが。」


「今は。」



「壊すだけではない。」



「うん。」



「少しずつ。」


「できることが増えたから。」



「……。」



 ヒルダは。



 もう。



 闇属性とは。



 言わなかった。



 目の前で起きていることは。



 自分が知る。



 どの闇魔法とも。



 違っていた。



     ◇



「ココア様。」



 セバスの声が。



 少し。



 低くなった。



「はい。」



「なぜ。」



 一度。



 言葉を切る。



「このことを。」


「黙っておられたのですか?」



「……。」



 ココアが。



 セバスを見る。



「先生。」



「お答えくださいませ。」



「……。」



「セバス様。」



 ヒルダが。



 一歩。



 前へ出た。



「ヒルダ?」



「この件については。」


「ココア様だけを。」


「お責めにならないでくださいませ。」



「……。」



 セバスが。



 ヒルダを見る。



「責めているつもりでは。」


「ございません。」



「ですが。」


「ココア様が。」


「三年間。」


「お一人で隠していたわけではございません。」



「……。」



「私も。」


「存じておりました。」



「三歳の時から?」



「はい。」



「では。」


「なぜ。」


「伯爵様へ報告しなかったのです?」



 ヒルダは。



 一度。



 ココアを見る。



 そして。



 セバスへ向き直った。



「あの時。」


「私は。」


「闇属性の可能性を疑いました。」



「はい。」



「闇属性であるなら。」


「不用意に知られることの方が。」


「ココア様にとって。」


「危険になると判断いたしました。」



「……。」



「ですから。」


「秘密にすると決めたのは。」


「ココア様だけではございません。」



「私も。」


「同じでございます。」



「ヒルダ……。」



「ココア様。」



「はい。」



「ここは。」


「私にも。」


「お話しさせてくださいませ。」



「……うん。」



 セバスは。



 しばらく。



 二人を見ていた。



「では。」


「ヒルダ殿。」



「はい。」



「あなたも。」


「この力の正体を。」


「知らない?」



「はい。」



「三年前は。」


「闇属性だと思っていた。」



「左様でございます。」



「しかし。」


「六歳の儀式で。」


「魔力零と判明した。」



「はい。」



「故に。」


「闇属性であるという。」


「あなた自身の推測も。」


「今は疑っている。」



「その通りでございます。」



「……。」



 セバスが。



 長く。



 息を吐いた。



「承知いたしました。」



 そして。



 ココアを見る。



「ココア様。」



「はい。」



「怒っております。」



「……やっぱり。」



「ですが。」


「秘密を持っていたことに。」


「怒っているのではございません。」



「……。」



「この力が。」


「ココア様のお立場に。」


「関わる可能性がある。」



「にもかかわらず。」



「私は。」


「何も知らなかった。」



「そのことに。」


「腹を立てております。」



「……先生。」



「はい。」



「心配してた?」



「しております。」



「今も?」



「今もでございます。」



「……そっか。」



 ココアが。



 少しだけ。



 俯いた。



「ごめんなさい。」



「謝罪を求めているのでは。」


「ございません。」



「うん。」



「ただ。」



「これからは。」


「この力に関わることを。」


「お一人で判断なさらないでくださいませ。」



「……。」



「ココア様。」



「はい。」



「なぜ。」


「今。」


「返事が遅れたのでございますか?」



「どこまでなら。」


「一人で――」



「考えなくて結構でございます。」



「まだ最後まで言ってない。」



「分かります。」



「お父様みたい。」



「光栄でございます。」



「褒めてない。」



「存じております。」



     ◇



 しばらくして。



 セバスが。



 机の上を。



 順番に見た。



 二つに分かれたガラス。



 コップの水。



 その外へ。



 取り出された。



 ほんの僅かな塩。



「ココア様。」



「はい。」



「これは。」


「魔法なのでございますか?」



「……分からない。」



「分からない?」



「うん。」



 ココアが。



 自分の右手を見る。



「見える。」



「触れる。」



「切れる。」



「弾ける。」



「少しなら。」


「繋ぐこともできる。」



「でも。」



「どうしてできるのかは。」


「分からない。」



「……。」



「それに。」



 ココアが。



 セバスを見る。



「私。」


「魔力ゼロだよ。」



「はい。」



「魔力がなかったら。」


「魔法は使えないんでしょ?」



「……。」



「先生?」



「そのはずでございます。」



「そのはず?」



「はい。」



 セバスが。



 僅かに。



 眉を寄せる。



「少なくとも。」


「私は。」


「そう教わりました。」



「……。」



「そして。」


「この国の者の多くが。」


「それを当然だと。」


「考えております。」



「でも。」



 ココアが。



 二つになったガラスを指差す。



「これはできる。」



「……はい。」



「だから。」


「私にも。」


「これが魔法なのか。」


「分からない。」



「……。」



 セバスが。



 長い間。



 ガラスを見ていた。



 そして。



「では。」



 右手を上げる。



「私の魔法を。」


「見ていただけますか?」



「先生の?」



「はい。」



 セバスが。



 指先へ。



 魔力を集中させる。



 ぼっ。



 小さな炎が。



 生まれた。



「……。」



「これが。」


「私の魔法でございます。」



「うん。」



「ココア様には。」


「何が見えますか?」



「……。」



 ココアが。



 炎を見る。



 ただの炎としてではなく。



 その奥へ。



 意識を向ける。



 周囲の酸素。



 燃焼。



 熱。



 物質の変化。



「酸素。」



「酸素?」



「うん。」



 ココアが。



 紙を引き寄せる。



 書く。



 O₂



「普通に。」


「ものが燃えるなら。」



「燃えるものと。」


「酸素が反応する。」



「例えば。」


「炭素なら。」



 C + O₂ → CO₂



「すごく簡単にすると。」


「こう。」



「……。」



 セバスが。



 自分の炎と。



 紙を。



 交互に見る。



「では。」


「私の魔法も。」


「元素によって。」


「説明できる?」



「分からない。」



「……。」



「炎になった後に。」


「起きてることは。」


「ある程度見える。」



「でも。」



「先生の魔力が。」


「何をして。」



「どうやって。」


「この炎を生み出したのかは。」



「まだ分からない。」



「……。」



「周りにあるものを。」


「使ってるのか。」



「魔力そのものが。」


「別の何かに変わってるのか。」



「熱を生み出して。」


「燃焼を起こしてるのか。」



「それとも。」



「私の知らない何かが。」


「関わってるのか。」



「……。」



「調べてないから。」


「まだ決められない。」



 セバスが。



 指先の炎を消した。



「……なるほど。」



 そして。



 ぽつり。



 呟く。



「魔力とは。」



「……。」



「何なのでございましょうな。」



 ココアが。



 顔を上げる。



「先生も。」


「分からない?」



「魔法の使い方なら。」


「存じております。」



「魔力の感じ方も。」



「魔法を発動する方法も。」



「教えることはできます。」



「うん。」



「ですが。」



 セバスが。



 自分の手を見る。



「魔力そのものが。」


「何であるのかと問われれば。」



「……。」



「私は。」


「説明できません。」



「……。」



 ココアの目が。



 僅かに。



 輝いた。



「先生。」



「はい。」



「それ。」


「調べたい。」



「……。」



「魔力が。」


「何なのか。」



「魔法を使った時。」


「何が起きてるのか。」



「私の力と。」


「何が違うのか。」



「……。」



 ココアが。



 新しい紙を取る。



 上に。



 大きく書く。



『魔力とは?』



 その下へ。



『魔法とは?』



『結合操作とは?』



「……。」



 セバスが。



 その紙を見る。



「ココア様。」



「はい。」



「もう一つ。」


「伺ってもよろしいですかな。」



「なに?」



「マヨネーズ。」



「……。」



 ココアのペンが。



 止まった。



「何なのでございますか?」



「卵と。」


「油と――」



「材料を。」


「伺っているのではございません。」



「……。」



 セバスが。



 ココアを見る。



「眼鏡。」



「拡大鏡。」



「マヨネーズ。」



「そして。」



「今。」


「私が初めて聞いた。」



「元素。」



「結合。」



「すいへーりーべー。」



「……。」



「私は。」


「六年間。」


「ココア様の教育に。」


「関わってまいりました。」



「はい。」



「ですが。」



「一つも。」


「お教えした覚えがございません。」



「……。」



「伯爵家の書庫にも。」


「そのような記述は。」


「なかったはずでございます。」



「……うん。」



「では。」



 セバスの声は。



 静かだった。



「どこで。」


「お知りになったのでございますか?」



「……。」



 ココアは。



 答えなかった。



 隣を見る。



 ヒルダも。



 ココアを見ている。



 ヒルダにも。



 まだ。



 話していない。



 自分が。



 ここではない世界で。



 一度。



 大人になるまで。



 生きたこと。



 研究者だったこと。



 そして。



 あの日。



 研究室で。



 何が起きたのか。



「……。」



「ココア様。」



「先生。」



「はい。」



「ごめんなさい。」



「……。」



「今は。」



「そこまでは。」


「話せない。」



 セバスの目が。



 僅かに。



 細くなる。



「知らないのではなく?」



「うん。」



「知ってる。」



「ですが。」


「話せない。」



「うん。」



「……。」



 ココアは。



 膝の上で。



 小さな手を握った。



「でも。」



「必ず。」



「話す。」



「……。」



「先生にも。」



 ヒルダを見る。



「ヒルダにも。」



「いつか。」



「ちゃんと。」



「全部。」



 ヒルダは。



 何も聞かなかった。



 ただ。



 静かに。



 頭を下げた。



「承知いたしました。」



「……ヒルダ。」



「ココア様が。」


「そう仰るのであれば。」



「私は。」


「お待ちいたします。」



「……ありがとう。」



 セバスは。



 しばらく。



 黙っていた。



 やがて。



 眼鏡を押し上げる。



「私も。」


「今は。」


「お聞きいたしません。」



「先生。」



「ただし。」



「はい。」



「この力について。」


「何か新しいことが分かった場合。」



「必ず。」


「私とヒルダ殿へ。」


「お話しくださいませ。」



「うん。」



「危険な実験を。」


「お一人でなさらぬこと。」



「……うん。」



「なぜ。」


「二度目だけ。」


「返事が遅れたのでございますか?」



「気のせい。」



「気のせいではございません。」



「むぅ……。」



 ヒルダが。



 僅かに。



 笑った。



     ◇



 話が終わった後。



 机の上には。



 一枚の紙が。



 残っていた。



『魔力とは?』



『魔法とは?』



『結合操作とは?』



 ココアは。



 その三つを。



 じっと見る。



「……。」



 そして。



 ふと。



 思い出した。



 兄の。



 火球。



 三歳の頃。



 暴走した。



 大きな炎。



 あの時。



 自分は。



 火球を作っていない。



 魔力も。



 使っていない。



 ただ。



 見えたものへ。



 触れた。



 何かの結び付きを。



 崩した。



 その結果。



 兄の火球は。



 消えた。



「……。」



 でも。



 何を。



 崩した?



 燃焼を支える。



 何かなのか。



 魔法そのものを。



 形作る。



 何かなのか。



 それとも。



 もっと。



 別のものなのか。



 あの時は。



 火球を止めることで。



 精一杯だった。



 確かめる余裕など。



 なかった。



「……先生。」



「はい。」



 セバスが。



 顔を上げる。



「もう一つ。」


「思い出した。」



「何でございますか?」



「私。」



「魔法にも。」


「触ったことがある。」



「……。」



 セバスの手が。



 止まった。



「いつ。」



「三歳の時。」



「お兄様の。」


「火球。」



「……あの時?」



「うん。」



「暴走した火球を。」


「止めた時。」



「……。」



「でも。」



 ココアは。



 首を横へ振る。



「何に触ったのか。」



「まだ。」


「分からない。」



「……。」



「炎を止めたのか。」



「魔法を止めたのか。」



「魔力に触れたのか。」



「それとも。」



「私の知らない何かに。」


「触れたのか。」



「……。」



 セバスは。



 何も言わなかった。



 ココアが。



 研究帳を。



 自分の方へ引き寄せる。



『魔力とは?』



 その文字の下へ。



 新しく。



 一行。



 書き加える。



『魔法は何でできている?』



「私に。」


「魔力がないなら。」



 ペン先が。



 止まる。



「どうして。」



「魔法に。」


「触れたんだろう。」



「……。」



 答えは。



 誰も。



 持っていなかった。



 だから。



 調べるしかない。



 ココアは。



 研究帳へ。



 もう一つ。



 書き加えた。



『魔法への干渉条件』



「……よし。」



 顔を上げる。



「先生。」



「はい。」



「お願いね?」



「……何をでございますか?」



「一緒に調べるの。」



「……。」



「魔力が何なのか。」



「魔法が何でできてるのか。」



「先生。」


「魔法使えるでしょ?」



「まさか。」



 セバスが。



 嫌な予感でもしたように。



 眼鏡を押し上げた。



「私を。」


「実験台にするおつもりでは。」



「見るだけ。」



「その言葉を。」


「私は何度聞いたことでしょうな。」



「今回は。」


「本当に見るだけ。」



「……。」



「先生?」



 セバスが。



 長く。



 息を吐いた。



「危険がない範囲でございますぞ。」



「うん!」



「勝手に。」


「私の魔法へ触れないこと。」



「……うん。」



「なぜ。」


「今。」


「返事が遅れたのでございますか?」



「気のせい。」



「気のせいではございません。」



「むぅ……。」



 ヒルダが。



 静かに。



 ココアを見る。



 魔力。



 零。



 魔法を使えない少女が。



 今。



 魔法そのものを。



 研究しようとしている。



 この世界では。



 誰も。



 疑問にすら思わなかったもの。



 魔力とは。



 何なのか。



 魔法とは。



 何なのか。



 そして。



 魔力を持たないココアは。



 なぜ。



 それに触れられるのか。



 答えは。



 まだ。



 どこにもない。



 だから。



 ココアは。



 研究帳の。



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