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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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第18話 作ることと、作り続けること


 翌朝。



 伯爵邸の厨房では、


 料理長が昨日の続きを始めていた。



「ココア様。」


「はい。」


「こちらを。」



 作業台の上には、


 昨日作ったマヨネーズと。


 いくつかの料理が並んでいる。



 茹でた芋。


 人参。


 葉物野菜。


 蒸した鶏肉。


 薄く切ったパン。



「増えてる。」


「昨夜、いくつか試してみました。」


「寝た?」


「もちろんでございます。」


「ほんと?」


「料理人を何だと思っておられるので?」


「料理が好きな人。」


「……否定はできませんな。」



 ココアは、


 まず芋を一つ取った。



 マヨネーズを少し。



 口へ運ぶ。



「……うん。」


「昨日より美味しい。」


「酢を変えております。」


「量?」


「種類も。」


「油は?」


「昨日と同じものを。」


「塩は?」


「僅かに増やしました。」


「記録は?」


「こちらに。」



 料理長が、


 一枚の紙を差し出す。



「……。」



 材料。


 分量。


 混ぜる順番。


 味。


 合わせた食材。



 簡潔だが。


 必要なことは、


 きちんと残されている。



 ココアの口元が、


 少しだけ緩んだ。



「料理長。」


「はい。」


「すごい。」


「お褒めいただき光栄でございます。」



 料理長も、


 少しだけ得意そうだった。



「これなら。」


「売れると思う?」


「……。」



 料理長の手が止まった。



「販売なさるので?」


「まだ分からない。」


「でも。」


「欲しい人はいると思う。」


「ええ。」



 料理長は、


 マヨネーズを見る。



「少なくとも。」


「私は欲しゅうございます。」


「料理長が?」


「はい。」


「使える料理が多い。」


「それに。」


「まだ試したい組み合わせもございます。」


「……やった。」



 ココアが笑う。



 料理人がそう思うのなら。


 少なくとも。


 商品としての可能性はある。



 だが。



 それだけでは足りない。



「じゃあ。」


「次。」


「次?」


「これを。」


「作り続けられるか調べる。」


「なるほど。」



 ココアは、


 作業台を見る。



 卵。


 油。


 酢。


 塩。



「一回作るだけなら。」


「材料があればできる。」


「でも。」


「売るなら。」


「毎回作れないと困る。」


「左様でございますな。」



「昨日。」


「試作で卵を何個使った?」


「四回分を合わせますと――」



 料理長が答える。



 ココアは、


 紙へ数字を書いていく。



「油は?」


「こちらです。」


「酢。」


「塩。」



 一つずつ。



 必要量を確認する。



「それで。」


「厨房では。」


「毎月どのくらい卵を仕入れてる?」


「月によって違いますな。」


「記録ある?」


「仕入れ数であれば。」


「セバス様が把握されているかと。」


「分かった。」



 ココアは、


 椅子から降りた。



「ココア様。」


「なに?」


「朝食は?」


「……。」



 止まった。



「食べてから行く。」


「よろしい。」



     ◇



「先生。」


「はい。」


「卵の仕入れ。」


「過去一年分見せて。」


「……。」



 セバスが、


 帳簿から顔を上げた。



 眼鏡の奥から、


 ココアを見る。



「今度は卵でございますか。」


「うん。」


「何をお調べに?」


「仕入れ量。」


「価格。」


「仕入れ先。」


「季節ごとの差。」


「それから。」


「安定して買える量。」


「……。」



 セバスが、


 僅かに眉を上げた。



「随分とございますな。」


「売るなら必要でしょ?」


「ええ。」


「一回作れました。」


「美味しかったです。」


「じゃあ売ります。」


「では困る。」


「その通りでございます。」



 セバスの口元が、


 僅かに緩む。



「眼鏡の時より。」


「随分と慎重になられましたな。」


「眼鏡で覚えたから。」


「それは何よりでございます。」



 セバスは立ち上がり。


 棚から、


 数冊の帳簿を取り出した。



「こちらが。」


「厨房用の食材仕入れ。」


「こちらは。」


「領都の主要取引先。」


「それから。」


「季節ごとの価格記録でございます。」


「ありがとう。」



 ココアが、


 帳簿を開く。



     ◇



「……。」



 最初の一冊。



 次の一冊。



 さらに。


 もう一冊。



「先生。」


「はい。」


「卵。」


「高くない?」


「何と比べてでございますか?」


「……。」



 ココアが止まった。



「前に。」


「何か?」


「ううん。」



 前世。



 卵は。


 珍しい食材ではなかった。



 安価で。



 いつでも手に入った。



 必要なら。



 十個でも。



 百個でも。



 店へ行けば並んでいた。



 その感覚が。



 まだ自分の中に残っている。



 ココアは、


 改めて帳簿を見る。



「冬。」


「かなり上がってる。」


「左様でございます。」


「毎年?」


「多少の差はございますが。」


「似た傾向ですな。」


「仕入れ量も減ってる。」


「ええ。」


「理由は?」


「鶏が産む数そのものが減ると聞いております。」


「それだけ?」


「飼料の問題もあるでしょう。」


「冬場は。」


「餌を確保するだけでも負担になります。」


「……。」



 ココアは、


 羽根ペンを取った。



『冬』


『価格上昇』


『入荷減少』


『産卵数?』


『飼料?』



「先生。」


「はい。」


「一番多く仕入れてる農家は?」


「一軒から大量に買っているわけではございません。」


「……。」



 ココアの手が止まった。



「何軒?」


「時期によります。」


「領都周辺の村から。」


「商人がまとめて運んでくることもございます。」


「農家から直接の場合も?」


「ございます。」


「……。」



 さらに。



 帳簿を見る。



 名前が違う。



 村も違う。



 入荷日も。


 数も。



 ばらばらだ。



「大きな養鶏場は?」


「ようけいじょう?」


「あ。」



 ココアが、


 一瞬口を閉じる。



「鶏を。」


「卵を取るために。」


「たくさん飼ってるところ。」


「たくさん、とは?」


「……。」



 前世の光景が浮かぶ。



 何百。



 何千。



 それ以上。



「……いっぱい。」


「それでは分かりませんな。」


「この辺りでは。」


「農家が何十羽かずつ飼っている?」


「その程度が多いでしょう。」


「専業?」


「いいえ。」


「穀物や野菜を作りながら。」


「鶏も飼っている家が大半かと。」


「……。」



 ココアは、


 ゆっくり椅子へ座り直した。



 そうか。



 当然だった。



 卵そのものはある。



 珍しくもない。



 だから。



 前世と同じように、


 いつでも大量に手に入るような気になっていた。



 だが。



 ここには。



 前世のような生産規模がない。



 専用の設備も。



 大量に飼育する仕組みも。



 集荷の体制も。



 同じではない。



「保存は?」


「卵の?」


「うん。」


「どのくらい置ける?」


「時期によりますな。」


「夏場は?」


「長くは持ちません。」


「冷やして保管は?」


「地下室や冷所を使うことはございます。」


「でも。」


「冷蔵庫はない。」


「れいぞう……?」


「……ううん。」



 ココアは、


 紙へ書く。



『保存』


『気温』


『運搬』



「遠くから運ぶ場合。」


「割れる?」


「当然ございます。」


「腐る?」


「ございます。」


「道が悪ければ。」


「時間も掛かる。」


「左様でございます。」


「……。」



 ココアは、


 帳簿を閉じた。



 頭の中で。



 マヨネーズが。



 昨日とは違うものに見えていた。



 一皿作る。



 それだけなら。



 卵。


 油。


 酢。


 塩。



 材料を揃えればいい。



 けれど。



 百皿。



 千皿。



 それを。



 毎日。



 同じように作ろうとしたら。



 話は変わる。



「……。」



 前世では。



 必要な材料を注文すれば。



 決められた数量が。



 決められた品質で。



 決められた場所へ届いた。



 もちろん。



 その裏に。



 作る人がいて。



 育てる人がいて。



 運ぶ人がいて。



 保存する設備があって。



 管理する仕組みがあることくらい。



 知っていた。



 社会人だったのだから。



 知らないはずがない。



 ただ。



 それを。



 一つずつ意識する必要がなかった。



 すでに。



 全部が繋がった世界で。



 暮らしていたから。



「……そうか。」



「ココア様?」


「先生。」


「はい。」


「卵があることと。」


「必要な量を。」


「いつでも買えることって。」


「全然違うね。」


「左様でございますな。」



 セバスは、


 それ以上説明しなかった。



 ココアも。



 説明を求めなかった。



 問題は分かった。



 次は。



 数字が足りない。



「先生。」


「はい。」


「卵を作ってるところ。」


「見に行きたい。」


「……。」



 セバスが、


 眼鏡を押し上げる。



「理由を伺っても?」


「帳簿だけじゃ。」


「分からないことが多すぎる。」



「鶏が何羽いて。」


「一日にどのくらい産んで。」


「何を食べて。」


「冬にどれだけ減って。」


「どこまでなら増やせるのか。」



「それを知らないと。」


「マヨネーズを。」


「どのくらい作れるか決められない。」



「なるほど。」



「それに。」


「卵だけ増やせばいいわけじゃない。」



 ココアは、


 紙を見る。



「鶏を増やしたら。」


「餌もいる。」


「世話する人もいる。」


「小屋もいる。」


「病気が出たら。」


「増やした分だけ被害も大きくなる。」



「でも。」


「この土地で。」


「実際にどのくらい掛かるのか。」


「私は知らない。」



 ココアが、


 顔を上げる。



「だから。」


「見たい。」



「承知いたしました。」



 セバスは、


 静かに頷いた。



「先方へ確認いたしましょう。」


「ほんと?」


「ええ。」


「ありがとうございます。」



 ココアは、


 帳簿へもう一度視線を落とした。



 一皿のマヨネーズなら。



 前世の知識で作れた。



 けれど。



 それを。



 この世界で。



 作り続けるには。



 前世の知識だけでは足りない。



「……。」



 ココアは、


 新しい紙を一枚取った。



 一番上へ。



『卵』



 その下へ。



『生産』


『飼料』


『季節』


『保存』


『運搬』


『価格』



 そして。



 最後に。



『現地確認』



 羽根ペンを置く。



「先生。」


「はい。」


「いつ行ける?」


「まだ先方へ何も伺っておりません。」


「明日?」


「ですから。」


「明後日?」


「ココア様。」


「はい。」


「もう五歳なのでございましょう?」


「うん。」


「でしたら。」


「少しはお待ちください。」


「……五歳関係ある?」


「大いにございます。」


「絶対ない。」



 セバスの口元が、


 僅かに緩んだ。



     ◇



 作れることと。



 作り続けられることは。



 違う。



 前世では。



 当たり前のように手に入っていた卵。



 その当たり前が。



 どうやって作られていたのか。



 ココアは。



 この世界へ来て。



 初めて。



 自分の目で確かめようとしていた。

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。


少しずつ読んでくださる方が増えていて、とても励みになっています。


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これからもココアたちの物語を、よろしくお願いします。

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