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魔力0の伯爵令嬢、すいへーりーべーで領地開拓!〜研究費を稼いでいたら領地が発展しました〜  作者: 大福


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第14話 見えるもの

 翌日。


 ココアは、


 再びガラス工房にいた。


「では。」


 ガレスが作業台へ、


 いくつもの小さなガラスを並べる。


「ご指定いただいた通り。」


「昨日とは、少しずつ丸みを変えております。」


「うん。」


 ココアは、


 一枚ずつ確認していく。


 昨日。


 ヒルダの傷を見るために作ったものは、


 小さなものを大きく見るためのガラスだった。


 けれど。


 今日は違う。


「先生。」


「……はい。」


 少し離れた場所に立っていたセバスが、


 返事をする。


「座って。」


「やはり、私が試すのでございますか。」


「先生のを作るんだから。」


「左様でございますね。」


 セバスが椅子へ腰掛ける。


 ココアは、


 一冊の本を差し出した。


「これ読んで。」


「普通に、でございますか?」


「うん。」


 セバスが本を開く。


「……。」


 少し離す。


「そこ。」


「はい?」


「今、離した。」


「……。」


「やっぱり近いと見づらいんだ。」


「ココア様。」


「なに?」


「昨日から、よく見ておられますな。」


「必要だから。」


「……左様でございますか。」


 ココアは、


 一枚目のガラスを取った。


「じゃあ、これ。」


 セバスの目の前へ持っていく。


「どう?」


「文字は大きく見えますが。」


「見やすい?」


「少々、近すぎます。」


「じゃあ次。」


 二枚目。


「これは?」


「先ほどよりは。」


「見える?」


「ええ。ただ、少し歪みますな。」


「次。」


 三枚目。


 四枚目。


 五枚目。


 セバスは、


 言われるままに試していく。


「……。」


「先生?」


「何でしょう。」


「疲れた?」


「少々。」


「もうちょっと。」


「その言葉を、先ほども聞いた気がいたします。」


「気のせい。」


「左様でございますか。」


 六枚目。


 セバスが、


 ガラス越しに文字を見る。


「……。」


 動きが止まった。


「どう?」


 一度、


 ガラスを外す。


 本を見る。


 もう一度、


 ガラスを通す。


「……これが。」


 セバスは、


 本を少し近付けた。


「最も見やすいですな。」


「ほんと?」


「ええ。」


「近くても?」


「問題ございません。」


 ココアの顔が、


 ぱっと明るくなる。


「これ!」


 ガレスが、


 そのガラスを受け取る。


「こちらでございますね。」


「うん!」


「では。」


 ガレスが、


 残ったガラスへ手を伸ばす。


「こちらは処分して――」


「待って。」


「はい?」


 ココアが、


 作業台を見る。


 セバスには合わなかったガラスが、


 何枚も残っている。


「それも残しておいて。」


「こちらも、でございますか?」


「うん。」


「ですが。」


「セバス様には合わなかったものです。」


「先生には、でしょ?」


「……はい。」


 ココアは、


 一枚を手に取った。


「先生より、もっと近くが見づらい人もいるかもしれない。」


 別の一枚を見る。


「少しだけ見づらい人もいるかもしれない。」


「……。」


「形が違えば、見え方も違った。」


「だったら。」


「先生に合わなかったものが。」


「別の人には合うかもしれない。」


 ガレスが、


 並んだガラスへ視線を落とす。


「なるほど……。」


「だから。」


 ココアは言った。


「捨てないで。」


「失敗かどうかは。」


「まだ分からないから。」


「……。」


 ガレスは、


 ゆっくり頷いた。


「承知いたしました。」


「すべて残しておきましょう。」


「うん。」


 その横で。


 セバスが、


 何枚ものガラスを見つめていた。


「ココア様。」


「なに?」


「良いお考えでございます。」


「ほんと?」


「ええ。」


「一人に合わなかったというだけで。」


「失敗と決めつける必要はございません。」


「……うん。」


 ココアは、


 少し嬉しそうに笑った。


     ◇


 問題は。


 そのあとだった。


「……落ちる。」


「左様でございますね。」


 コトッ。


 セバスの鼻から、


 ガラスを固定した木枠が落ちる。


「もう一回。」


「これで五度目でございます。」


「次は落ちないかもしれない。」


「先ほども同じことを仰いました。」


「……。」


「……。」


「もう一回。」


「承知いたしました。」


 ココアが、


 木枠をセバスの顔へ戻す。


 手を離す。


 ずる。


「駄目。」


「左様でございますね。」


 ココアは腕を組んだ。


 前世で。


 眼鏡がどんな形だったのかは知っている。


 二枚のレンズ。


 鼻。


 耳。


 顔へ固定するためのフレーム。


 構造そのものは、


 珍しくもない。


 問題は。


 この世界で、


 どう再現するかだった。


「お嬢様。」


 ガレスが、


 試作品を手に取る。


「ガラスについては、形にできると思います。」


「うん。」


「ですが。」


 木枠を指で持ち上げた。


「長く顔へ付けるのであれば。」


「こちらは重すぎます。」


「あ。」


「鼻へ載せるだけでは、少し動けば落ちます。」


「うん。」


「強く挟めば。」


「痛い。」


「左様でございます。」


 ココアは、


 自分の耳へ触れる。


「耳にも掛ける。」


「ここから。」


 目元から耳まで、


 指を動かす。


「細いものを伸ばして。」


「耳へ掛ければ落ちにくい。」


「なるほど。」


 ガレスが考える。


「ただ。」


「木では細くすると折れるでしょう。」


「金属なら?」


「可能ではございます。」


「でも重い?」


「種類によります。」


「……。」


 ココアは、


 黙ってガレスを見る。


 完成形は知っている。


 でも。


 この世界で何を使えば、


 軽く。


 細く。


 丈夫に作れるのか。


 そこは。


 職人の領分だった。


「軽くて。」


「細くできて。」


「曲げられて。」


「折れにくいもの。」


「それでしたら。」


 ガレスが答える。


「金属細工の職人へ相談してみましょう。」


「作れそう?」


「試してみなければ分かりません。」


「じゃあ試す!」


 即答だった。


 ガレスが、


 僅かに笑う。


「左様でございますね。」


     ◇


 数日後。


 セバスの前に。


 一つの道具が置かれた。


 二枚の丸いガラス。


 それを囲む、


 細い枠。


 中央で繋がり。


 左右から伸びた細い部分が、


 耳へ掛かるようになっている。


「……。」


 セバスが、


 それを見る。


「こちらが。」


「眼鏡。」


 ココアが答えた。


「掛けてみて。」


「承知いたしました。」


 セバスが、


 慎重に手に取る。


 耳へ掛け。


 鼻へ位置を合わせる。


「痛い?」


「いいえ。」


「重い?」


「気になるほどではございません。」


「落ちそう?」


 セバスが、


 少し顔を動かす。


「問題なさそうです。」


「じゃあ。」


 ココアは、


 一冊の本を差し出した。


「読んで。」


「……はい。」


 セバスが本を開く。


 いつもの距離。


「……。」


 何も言わない。


「先生?」


 ページを見る。


 次のページ。


 さらに。


 本を少し近付ける。


「……。」


「見えない?」


「いいえ。」


 セバスの指が、


 紙面の小さな文字をなぞった。


「見えます。」


 眼鏡を外す。


 本を見る。


 もう一度掛ける。


「……。」


「先生?」


 セバスは、


 しばらく文字を見つめていた。


「これは。」


 ゆっくり顔を上げる。


「随分と見やすい。」


「ほんと?」


「ええ。」


 もう一度、


 本を見る。


「近くの文字が。」


「これほど楽に読めるとは。」


 ココアの顔が、


 明るくなる。


「成功?」


「成功でございます。」


「やった!」


 ココアが、


 両手を上げる。


 セバスは、


 そんなココアを見る。


 それから。


 眼鏡へ触れた。


「ココア様。」


「なに?」


「ありがとうございます。」


「……。」


 今度は、


 ココアが止まった。


「私のために。」


「ここまでしてくださったこと。」


 セバスは、


 丁寧に頭を下げる。


「心より、お礼申し上げます。」


「……うん。」


 ココアは、


 少し照れたように笑った。


「先生には。」


「いっぱい教えてもらってるから。」


「これくらい。」


「これくらい、ではございません。」


「?」


 セバスは、


 再び眼鏡を掛ける。


「見えづらかったものが。」


「見えるようになった。」


「それだけで。」


「随分と違うものでございます。」


「……。」


 ココアは、


 作業台へ残したガラスを思い出した。


「同じように困ってる人。」


「いるかな。」


「私だけではないでしょう。」


「うん。」


「だから残してもらったの。」


「左様でございましたね。」


 セバスが、


 静かに頷く。


 そして。


 眼鏡越しに、


 ココアを見る。


「大したものでございます。」


「……ほんと?」


「ええ。」


「私は。」


 セバスの口元が、


 僅かに緩んだ。


「ココア様の教育係であることを。」


「誇らしく思っております。」


「……。」


 ココアの頬が、


 少し赤くなる。


「ほんとに?」


「ええ。」


「いっぱい?」


「……いっぱい、でございます。」


「やった。」


 今度は、


 ココアが満足そうに笑った。


     ◇


 ヒルダが、


 自分の足で歩けるようになったのは。


 それから数日後だった。


 コンコン――。


「どうぞ。」


「失礼いたします。」


 扉が開く。


「ヒルダ!」


 ココアが、


 椅子から立ち上がった。


「歩いて大丈夫なの?」


「ええ。」


「熱もございません。」


「でも。」


「医師からも、少しずつ身体を動かしてよいと許可をいただいております。」


「ほんと?」


「本当でございます。」


「……ならいいけど。」


 ヒルダが、


 僅かに微笑んだ。


「それより。」


「?」


「ココア様に、お話がございます。」


「なに?」


 ヒルダは、


 部屋の中央へ進む。


 そして。


 ココアの前で、


 膝をついた。


「ヒルダ?」


「この度は。」


 深く頭を下げる。


「私のために。」


「随分とご尽力いただいたと伺いました。」


「……。」


「書庫で本を探し。」


「厨房で瓶を集め。」


「工房へ赴き。」


「何度もガラスを作らせたと。」


「……うん。」


「まだ。」


 ヒルダの声が、


 僅かに揺れた。


「まだ三歳でいらっしゃるのに。」


「……。」


 三歳。


 身体は。


 けれど。


 ココアには、


 前の世界で生きた記憶がある。


 ヒルダが思うほど。


 何も知らない子供ではない。


「ヒルダ。」


「はい。」


「私がやりたかったから、やったの。」


「ですが――」


「ヒルダが苦しそうだったから。」


「……。」


「助けたかった。」


 それだけだった。


 知っていることがあった。


 できるかもしれないことがあった。


 だから。


 試した。


 ヒルダが、


 ゆっくり顔を上げる。


「そして。」


 その表情が変わった。


「ココア様。」


「なに?」


「私には。」


「お詫びしなければならないことがございます。」


「……。」


 ココアには。


 すぐに分かった。


「あの日。」


 ヒルダが、


 自分の右腕へ触れる。


「ココア様が、私の傷へ手を伸ばされた時。」


「私は。」


 言葉が止まる。


 それでも。


 ヒルダは続けた。


「怖いと。」


「そう思ってしまいました。」


「……うん。」


「落ち葉のことを思い出しました。」


「何もない場所へお手を伸ばされ。」


「私には見えない何かに触れ。」


「そして。」


「あの葉が崩れた。」


「……。」


「魔法なのか。」


「それとも。」


「まったく別の何かなのか。」


「私には分かりません。」


 ヒルダの手が、


 僅かに握られる。


「分からないものを。」


「私は恐れました。」


「そして。」


 ヒルダは、


 もう一度頭を下げた。


「その恐れを。」


「ココア様へ向けてしまいました。」


「申し訳ございません。」


「ヒルダ。」


「はい。」


「顔上げて。」


「……。」


「お願い。」


 ヒルダが、


 ゆっくり顔を上げる。


「分かってるよ。」


「……。」


「ヒルダから見たら。」


「怖いと思う。」


「ココア様……。」


「だって。」


 ココアは、


 自分の手を見る。


「私だって。」


「まだ全部分かってないから。」


 何ができるのか。


 どこまでできるのか。


 なぜ。


 自分だけにできるのか。


 自分自身でさえ。


 まだ研究している途中だった。


「だから。」


「怖かったことは。」


「怒ってないよ。」


「……。」


「でも。」


 声が。


 少しだけ小さくなる。


「嫌いには。」


「ならないで。」


「……。」


 ヒルダの目が、


 大きく開いた。


「ココア様?」


「私。」


 ココアは、


 俯いた。


「この世界で。」


「最初に抱っこしてくれたの。」


「ヒルダだから。」


「……。」


「赤ちゃんだった時。」


「泣いたら来てくれた。」


「眠れなかった時も。」


「ずっと抱っこしてくれた。」


 覚えている。


 この世界へ生まれた日から。


 前世の記憶はあった。


 それでも。


 身体は、


 どうしようもなく小さかった。


 自分では立てない。


 歩けない。


 言葉も話せない。


 そんな自分を。


 何度も抱き上げてくれた。


 背中を撫でてくれた。


 眠るまで。


 傍にいてくれた。


「ヒルダが。」


 声が震えた。


「いっぱい。」


「大事にしてくれたの。」


「……。」


「だから。」


 視界が、


 少しだけ滲む。


「怖いって思われても。」


「仕方ないって。」


「分かってるけど。」


 ぽろっ。


 涙が落ちた。


「……あ。」


 ココア自身が、


 驚いた。


 泣くつもりなんて。


 なかった。


 でも。


 一度落ちた涙は。


 止まらなかった。


「嫌いに……。」


 声が詰まる。


「ならないで……。」


「ココア様……。」


「ヒルダに。」


 目元を拭う。


 でも。


 また溢れる。


「嫌われるのは……やだ……。」


 その瞬間。


 ヒルダの表情が、


 崩れた。


「……っ。」


 強く。


 抱き締められた。


「ヒルダ……。」


「なりません。」


 耳元で。


 震える声がした。


「なりません。」


「……。」


「私が。」


「ココア様を嫌いになど。」


「決して。」


「決して、なりません。」


「……ほんと?」


「はい。」


「絶対?」


「絶対でございます。」


「……。」


 ココアは。


 ヒルダの服を、


 ぎゅっと掴んだ。


「……よかった。」


 そのまま。


 顔を押し付ける。


「よかったぁ……。」


 今度は。


 我慢しなかった。


 三歳の小さな身体で。


 声を上げて泣いた。


 ヒルダも。


 何も言わず。


 ただ。


 ココアの背中を撫で続けた。


 昔と同じように。


     ◇


 しばらくして。


「……もう大丈夫。」


「左様でございますか。」


「うん。」


 ヒルダから離れたココアの目は、


 少し赤かった。


 ヒルダも。


 目元を拭う。


「ココア様。」


「なに?」


「私には。」


「ココア様のお力が何なのか。」


「今も分かりません。」


「うん。」


「これからも。」


「理解できないことがあるでしょう。」


「うん。」


「ですが。」


 ヒルダは、


 まっすぐココアを見る。


「分からないというだけで。」


「あなた様から目を逸らすことはいたしません。」


「……。」


「怖ければ。」


「怖いと申し上げます。」


「うん。」


「分からなければ。」


「お尋ねいたします。」


「うん。」


「そして。」


 ヒルダが、


 ほんの僅かに微笑む。


「分からないのであれば。」


「知ればよいのでございましょう?」


「……!」


 ココアの目が、


 大きく開いた。


「うん!」


「それと。」


「?」


 ヒルダの表情が、


 少しだけ引き締まる。


「もし。」


「そのお力を。」


「ココア様が誤って使おうとなされた時は。」


「……。」


「私は。」


 静かに言った。


「必ず、お止めいたします。」


「……怒る?」


「怒ります。」


「いっぱい?」


「必要なだけ。」


「少しがいい。」


「それはお約束できません。」


「むぅ。」


「それが。」


 ヒルダは、


 ココアの頭へ優しく手を置いた。


「私が。」


「ココア様のお側にいるということだと。」


「そう思っております。」


「……うん。」


 ココアは、


 その手へ。


 自分の小さな手を重ねた。


「じゃあ。」


「これからもお願い。」


「はい。」


 ヒルダが、


 深く頭を下げる。


「このヒルダ。」


「これからも。」


「ココア様のお側に。」


     ◇


 コンコン――。


「失礼いたします。」


「先生。」


 扉が開く。


 入ってきたセバスを見て。


 ヒルダが止まった。


「……。」


「どうかなさいましたか?」


「セバス様。」


「はい。」


「そのお顔は……。」


 セバスが、


 眼鏡へ触れる。


「こちらでございますか。」


「はい。」


「ココア様は。」


「眼鏡と呼んでおられます。」


「眼鏡……。」


 ヒルダが、


 じっと見る。


 ココアが、


 二人の間へ入った。


「私が作ったの!」


「左様でございますか。」


「先生、近くが見づらかったから。」


「ココア様。」


「なに?」


「そこまで説明する必要はございません。」


「なんで?」


「何となくでございます。」


「?」


 ココアは首を傾げる。


「ヒルダ。」


「はい。」


「似合う?」


「……。」


 ヒルダは、


 眼鏡を掛けたセバスを。


 しばらく見つめる。


「ヒルダ?」


「……見慣れません。」


「そこは似合うって言うところ!」


「嘘はいけません。」


「似合ってないの!?」


「そうは申しておりません。」


「じゃあ似合う?」


「見慣れません。」


「ヒルダ!」


 部屋へ。


 久しぶりに。


 ココアの元気な声が響いた。


 セバスは。


 眼鏡越しに二人を見る。


 先ほどまで泣いていたせいで。


 ココアの目は、


 まだ少し赤い。


 けれど。


 もう。


 笑っている。


 セバスは、


 何も尋ねなかった。


     ◇


 その日の夕方。


 使用人が、


 ココアの部屋を訪れた。


「ココア様。」


「なに?」


「ガラス工房のガレス様から。」


「伝言を預かっております。」


「ガレスさん?」


「はい。」


 ココアが顔を上げる。


「どうしたの?」


「先日作られた。」


「眼鏡に使わなかったガラスについて。」


「……?」


 使用人は、


 少し不思議そうな顔をしながら続けた。


「譲ってほしいという方が。」


「現れたそうでございます。」


「……。」


 ココアは、


 目を瞬かせた。


「欲しい人?」


「はい。」


「一人ではないそうです。」


「……。」


 工房に残した。


 セバスには合わなかったガラス。


 失敗ではないかもしれない。


 そう思って。


 捨てずに残したもの。


「……ほんとに。」


 ココアの顔が、


 少しずつ明るくなる。


「他の人には。」


「合ったんだ。」

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