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配信が消えた理由

――画面が、死んだ。

 暗転。

 コメント欄も、ログも、同時に切断された。

 静寂が、ダンジョンの奥から這い上がってくる。

「……配信、落ちた?」

 自分の声がやけに遠い。

 さっきまで耳を満たしていた雑音が、一切ない。視聴者の気配も、アンチの嘲笑も、何もかも消えた。

 残ったのは――

 目の前の“死体”。

 俺の顔をしたそれ。

「……はは」

 乾いた笑いが漏れる。

「冗談だろ」

 レイスも黙っている。

 さっきまでの余裕は消え、表情が硬い。

「……おい」

 俺は低く言った。

「これも仕込みか?」

 レイスは首を振った。

「違う……こんなのは、知らねえ」

 嘘か本当かは分からない。

 だが少なくとも、あの男の“楽しんでる顔”は消えている。

 それだけで、嫌な確信が生まれる。

 これは。

 “予定外”だ。

 床に横たわる“俺”は、完全に死んでいる。

 目は開いたまま。

 口はわずかに歪んでいる。

 まるで――何かに気づいた直後みたいに。

「……触るな」

 レイスが言った。

「罠かもしれねえ」

「分かってる」

 俺はそれでも、一歩近づいた。

 近づくほど、現実味が増す。

 血の匂い。

 体温のなさ。

 完全に、本物だ。

 コメント欄がないのに、頭の中で“声”が再生される。

 コメント:

「やらせだろ」

「演出きつすぎ」

「でもリアルすぎない?」

 ――違う。

 これは、配信じゃない。

 現実だ。

「……残留思念」

 俺は呟いた。

 レイスが鋭く反応する。

「やめろ」

「必要だ」

「それ、危険だろ」

「知ってる」

 だが、これを使わなきゃ進めない。

 “俺がどうやって死んだのか”。

 それを知らなきゃ。

 ここから出られない。

 俺はしゃがみ込んだ。

 そして、“自分の死体”に手を触れた。

 冷たい。

 その瞬間。

 スキルが発動する。

 ――ノイズが爆発する。

『やめろやめろやめろやめろ』

 いきなり、複数の声。

 男。女。子供。

 混ざる。

 ぐちゃぐちゃに。

「っ……!」

 頭が割れる。

 今までの比じゃない。

 “量”が違う。

 これは一人じゃない。

 何人分もの残留思念が、無理やり流れ込んでくる。

『戻れ』

『進め』

『嘘だ』

『信じろ』

『殺される』

『お前が――』

 視界が崩壊する。

 記憶が侵食される。

 知らない風景が次々に浮かぶ。

 違うダンジョン。

 違う死に方。

 違う“俺”。

「……なんだよ、これ」

 呼吸が乱れる。

 レイスが何か叫んでいるが、聞こえない。

 その中で。

 一つだけ、はっきりした声があった。

『――お前は、もう“二回目”だ』

 心臓が止まる。

「……は?」

『忘れてるだけだ』

 その声は、冷静だった。

 まるで、ずっと見ていたみたいに。

『ここに来たのも』

『配信してたのも』

『俺を見つけたのも』

 その声が、俺の“死体”と重なる。

『全部、一回目と同じだ』

 背筋が凍る。

「……一回目?」

『ああ』

 声が笑う。

『一回目のお前は――』

 ノイズが走る。

 途切れる。

 だが、最後の言葉だけが残った。

『“自分で自分を殺した”』

 視界が戻る。

 俺は地面に倒れていた。

「はぁ……はぁ……!」

 息が荒い。

 汗が止まらない。

 レイスが肩を掴んでいる。

「おい!何見た!」

 俺は答えられない。

 頭の中で、さっきの言葉が繰り返される。

 ――二回目。

 ――自分で殺した。

「……お前、何した」

 レイスが睨む。

「俺の想定じゃねえ……こんな展開は」

「……俺もだよ」

 俺は立ち上がる。

 足が震える。

 でも、止まれない。

「このダンジョン……おかしい」

「今さらかよ」

「違う」

 俺は首を振る。

「“構造”じゃない」

 一歩、踏み出す。

「“時間”が壊れてる」

 レイスの表情が変わる。

「……どういう意味だ」

「同じ場所に、“複数の結果”が重なってる」

 さっき見た記憶。

 違う死に方の俺。

 違う選択。

 全部、ここにある。

「だから、“死体がある”」

「……未来の?」

「多分な」

 コメント欄がないのに、頭の中でざわめきが起きる。

 コメント:

「意味わからん」

「SFか?」

「でも辻褄合う」

 レイスが舌打ちする。

「ふざけんな……そんなダンジョン聞いたことねえ」

「俺もだよ」

 だが、現実にある。

 今、ここに。

 その時。

 背後で、また音がした。

 ぐちゃり、と。

 振り返る。

 ――増えている。

 “俺の死体”が。

 二体目。

 三体目。

 それぞれ、微妙に違う死に方。

 刺されているもの。

 焼けているもの。

 首が折れているもの。

 コメント:

「無理無理無理」

「ホラーじゃん」

「逃げろ」

 レイスが後ずさる。

「……おい、冗談だろ」

 俺は動けない。

 目の前の光景が、現実を否定してくる。

 そして。

 一番奥にある“死体”。

 それだけが、動いた。

 ゆっくりと。

 首が、こちらを向く。

 目が合う。

 俺と。

 “俺”が。

 口が開く。

「――やっと、来たな」

 声が重なる。

 俺と、そいつの声が。

 完全に同じトーンで。

 コメント欄はもうない。

 でも、確信した。

 これは。

 “配信できない領域”だ。

 次の瞬間。

 ダンジョン全体が、歪んだ。

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