その扉、誰の記憶だ?
「——見えてるか?」
頭の奥で、あの声が笑う。
俺の視界の先。
本来はただの岩壁のはずの場所に——“扉”がある。
古い。歪んでいる。存在していること自体が間違っているような、そんな扉。
「……なんだ、これ」
思わず呟く。
コメント欄:
「え?何もなくね?」
「壁しか見えん」
「また始まった?」
「演出だろ」
配信画面には、映っていない。
視聴者には見えていない。
「お前にだけ見えてる」
声が言う。
「正確には——“見せてる”」
背筋が冷える。
「……誰の記憶だ」
「さあな」
軽い返答。
でも、その裏にあるものは——明らかに“悪意”だった。
◆
①導入
俺は、扉の前に立つ。
触れるべきか。
無視するべきか。
「やめとけ」
別の声が割り込んだ。
「それは違う」
さらに別の声。
「入れ」
「逃げろ」
「開けろ」
「壊せ」
——増えている。
明らかに。
コメント:
「なんで止まってる?」
「フリーズしてる?」
「考察勢:何か見えてる説」
「いやただの演技だろ」
「……うるせぇな」
俺は、小さく吐き捨てた。
外のコメントじゃない。
頭の中の“声”に対してだ。
「決めるのは俺だ」
そう言って——
俺は、扉に手をかけた。
◆
②探索
触れた瞬間。
——記憶が流れ込む。
視界が切り替わる。
俺じゃない視点。
暗い通路。
荒い息。
血の匂い。
「……くそ、戻れねぇ……」
知らない男の声。
“これが持ち主か”。
「こっちは……行き止まりかよ……」
男は、壁を叩く。
そして——
「……あ?」
その壁が、歪む。
“扉”が現れる。
——今と同じだ。
「なんだよこれ……」
男は迷う。
だが。
後ろから、何かが近づいてくる。
「っ……!」
逃げ場はない。
「……入るしかねぇだろ!」
男は扉を開ける。
その先。
——“真っ暗”だった。
「……誰もいねぇ……?」
一歩。
踏み込む。
その瞬間。
“お前が来るのを待ってた”
耳元で、声。
男の体が、止まる。
「……は?」
“じゃあ、交代だ”
——ブツン。
記憶が切れた。
◆
③配信パート
俺は現実に戻る。
呼吸が荒い。
コメント欄:
「どうした!?」
「顔やばいぞ」
「汗すごい」
「ガチで何かあった?」
「……今の」
言葉が詰まる。
「誰かの、最後だ」
コメント:
「またそれかよ」
「死者利用ほんとやめろ」
「でもそれで生きてるんだろ?」
「倫理観崩壊してる」
「この先に、何かある」
俺は扉を見る。
「でも——」
“戻れない”。
その感覚が、はっきりとあった。
コメント:
「行くな」
「絶対罠」
「いや行け」
「配信的には神展開」
俺は、笑った。
「……だよな」
「行くしかない」
◆
④トラブル・発見
扉を開ける。
中は——静かだった。
音がない。
空気がない。
“存在してはいけない空間”。
「……なんだここ」
一歩、踏み込む。
その瞬間。
——視線を感じた。
振り向く。
誰もいない。
だが。
「やっと来た」
——“外”から声がした。
配信の、向こう側。
コメント欄:
「え?」
「今誰の声?」
「配信に乗ってない音したぞ」
「怖すぎ」
「お前さ」
その声は、続ける。
「ずっと“利用してる側”だと思ってるだろ?」
俺の心臓が、強く跳ねた。
「でも違うんだよ」
「お前は——」
“もう使われてる側だ”
ゾクッ——
背中を、冷たいものが這う。
「……誰だ」
「さあ?」
笑う声。
「さっきの奴かもしれないし」
「もっと前の奴かもしれない」
「あるいは——」
「“お前自身”かもな」
◆
⑤ラストの引き
頭が、ぐらりと揺れる。
その瞬間。
配信画面に——
“映ってはいけないもの”が映った。
コメント欄:
「は?????」
「誰それ」
「背後に人いるぞ」
「いや、いないはず」
カメラの奥。
俺の後ろに。
“もう一人の俺”が立っていた。
無表情。
そして。
口を動かした。
「次は——どっちが“本物”だ?」
俺の意識が、ゆっくりと沈んでいく。
——体の主導権が、剥がれていく。
「おい、待て……!」
叫ぶ。
だが。
もう遅い。
“選ばれた”のは——
どっちだ?




