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その扉、誰の記憶だ?

 


「——見えてるか?」


 


頭の奥で、あの声が笑う。


 


俺の視界の先。


 


本来はただの岩壁のはずの場所に——“扉”がある。


 


古い。歪んでいる。存在していること自体が間違っているような、そんな扉。


 


「……なんだ、これ」


 


思わず呟く。


 


 


コメント欄:


「え?何もなくね?」


「壁しか見えん」


「また始まった?」


「演出だろ」


 


 


配信画面には、映っていない。


 


視聴者には見えていない。


 


 


「お前にだけ見えてる」


 


声が言う。


 


「正確には——“見せてる”」


 


 


背筋が冷える。


 


 


「……誰の記憶だ」


 


 


「さあな」


 


 


軽い返答。


 


 


でも、その裏にあるものは——明らかに“悪意”だった。


 


 



 


①導入


 


俺は、扉の前に立つ。


 


触れるべきか。


無視するべきか。


 


 


「やめとけ」


 


 


別の声が割り込んだ。


 


 


「それは違う」


 


 


さらに別の声。


 


 


「入れ」


「逃げろ」


「開けろ」


「壊せ」


 


 


——増えている。


 


 


明らかに。


 


 


コメント:


「なんで止まってる?」


「フリーズしてる?」


「考察勢:何か見えてる説」


「いやただの演技だろ」


 


 


 


「……うるせぇな」


 


 


俺は、小さく吐き捨てた。


 


 


外のコメントじゃない。


 


 


頭の中の“声”に対してだ。


 


 


 


「決めるのは俺だ」


 


 


そう言って——


 


 


俺は、扉に手をかけた。


 


 



 


②探索


 


 


触れた瞬間。


 


 


——記憶が流れ込む。


 


 


視界が切り替わる。


 


 


俺じゃない視点。


 


 


暗い通路。


 


荒い息。


 


血の匂い。


 


 


「……くそ、戻れねぇ……」


 


 


知らない男の声。


 


 


“これが持ち主か”。


 


 


 


「こっちは……行き止まりかよ……」


 


 


男は、壁を叩く。


 


 


そして——


 


 


「……あ?」


 


 


その壁が、歪む。


 


 


“扉”が現れる。


 


 


 


——今と同じだ。


 


 


 


「なんだよこれ……」


 


 


男は迷う。


 


 


だが。


 


 


後ろから、何かが近づいてくる。


 


 


「っ……!」


 


 


逃げ場はない。


 


 


 


「……入るしかねぇだろ!」


 


 


男は扉を開ける。


 


 


 


その先。


 


 


 


——“真っ暗”だった。


 


 


 


「……誰もいねぇ……?」


 


 


 


一歩。


 


 


踏み込む。


 


 


 


その瞬間。


 


 


 


 


“お前が来るのを待ってた”


 


 


 


 


 


耳元で、声。


 


 


 


男の体が、止まる。


 


 


 


「……は?」


 


 


 


 


 


“じゃあ、交代だ”


 


 


 


 


 


 


——ブツン。


 


 


 


 


記憶が切れた。


 


 


 



 


③配信パート


 


 


俺は現実に戻る。


 


 


呼吸が荒い。


 


 


 


コメント欄:


「どうした!?」


「顔やばいぞ」


「汗すごい」


「ガチで何かあった?」


 


 


 


「……今の」


 


 


言葉が詰まる。


 


 


 


「誰かの、最後だ」


 


 


 


コメント:


「またそれかよ」


「死者利用ほんとやめろ」


「でもそれで生きてるんだろ?」


「倫理観崩壊してる」


 


 


 


「この先に、何かある」


 


 


俺は扉を見る。


 


 


 


「でも——」


 


 


 


“戻れない”。


 


 


 


その感覚が、はっきりとあった。


 


 


 


コメント:


「行くな」


「絶対罠」


「いや行け」


「配信的には神展開」


 


 


 


 


俺は、笑った。


 


 


 


「……だよな」


 


 


 


「行くしかない」


 


 


 


 



 


④トラブル・発見


 


 


扉を開ける。


 


 


 


中は——静かだった。


 


 


 


音がない。


 


 


 


空気がない。


 


 


 


“存在してはいけない空間”。


 


 


 


 


「……なんだここ」


 


 


 


一歩、踏み込む。


 


 


 


 


その瞬間。


 


 


 


 


——視線を感じた。


 


 


 


 


振り向く。


 


 


 


 


誰もいない。


 


 


 


 


だが。


 


 


 


 


「やっと来た」


 


 


 


 


——“外”から声がした。


 


 


 


 


配信の、向こう側。


 


 


 


 


コメント欄:


「え?」


「今誰の声?」


「配信に乗ってない音したぞ」


「怖すぎ」


 


 


 


 


「お前さ」


 


 


 


その声は、続ける。


 


 


 


 


「ずっと“利用してる側”だと思ってるだろ?」


 


 


 


 


俺の心臓が、強く跳ねた。


 


 


 


 


「でも違うんだよ」


 


 


 


 


「お前は——」


 


 


 


 


 


 


“もう使われてる側だ”


 


 


 


 


 


 


ゾクッ——


 


 


 


背中を、冷たいものが這う。


 


 


 


 


「……誰だ」


 


 


 


 


「さあ?」


 


 


 


 


笑う声。


 


 


 


 


「さっきの奴かもしれないし」


 


 


 


 


「もっと前の奴かもしれない」


 


 


 


 


「あるいは——」


 


 


 


 


 


 


「“お前自身”かもな」


 


 


 


 


 


 



 


⑤ラストの引き


 


 


頭が、ぐらりと揺れる。


 


 


 


 


その瞬間。


 


 


 


 


配信画面に——


 


 


 


 


“映ってはいけないもの”が映った。


 


 


 


 


コメント欄:


「は?????」


「誰それ」


「背後に人いるぞ」


「いや、いないはず」


 


 


 


 


カメラの奥。


 


 


 


 


俺の後ろに。


 


 


 


 


“もう一人の俺”が立っていた。


 


 


 


 


無表情。


 


 


 


 


そして。


 


 


 


 


口を動かした。


 


 


 


 


 


 


「次は——どっちが“本物”だ?」


 


 


 


 


 


 


俺の意識が、ゆっくりと沈んでいく。


 


 


 


 


——体の主導権が、剥がれていく。


 


 


 


 


「おい、待て……!」


 


 


 


 


叫ぶ。


 


 


 


 


だが。


 


 


 


 


もう遅い。


 


 


 


 


 


 


“選ばれた”のは——


 


 


 


 


どっちだ?


 


 


 


 


 


 

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