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その声に名前を与えた瞬間

「……条件は?」


 


自分で言っておいて、少し笑えた。


 


俺は今、“交渉”している。


 


——相手は、死んだはずの誰かだ。


 


頭の奥で、その声は満足そうに息を吐いた。


 


「いいね、その顔。やっと“分かってきた”って感じだ」


 


軽い。


やけに人間臭い。


 


でも、確実に“生きている誰かの声”ではない。


 


「条件は一つ」


 


声が言う。


 


「この戦闘、俺に任せろ」


 


 



 


①導入


 


目の前の魔物が、低く唸る。


 


四足。筋肉質。皮膚は岩のように硬い。


見たことがない。


 


つまり——


 


“誰も攻略できていない”。


 


 


コメント欄:


「新種か?」


「やばそう」


「逃げろって」


「いやこいつならいけるだろ」


 


 


「……任せる、だと?」


 


俺は小さく呟く。


 


頭の中の声は笑った。


 


「お前、今“見えてない”だろ」


 


図星だった。


 


これまでのような“明確な攻略ルート”が浮かばない。


 


死者の声がバラバラに干渉しているせいで、情報がノイズになっている。


 


 


「安心しろ」


 


声が続ける。


 


「俺は——“ちゃんと戦った奴”だ」


 


 


その言葉。


 


妙に、説得力があった。


 


 



 


②探索(戦闘)


 


「……分かった」


 


俺は、静かに目を閉じる。


 


「任せる」


 


 


その瞬間。


 


 


——視界が“ズレた”。


 


 


体の主導権が、わずかに滑る。


 


完全に奪われたわけじゃない。


 


でも、“操縦されている感覚”がある。


 


 


「いいねぇ」


 


声が、嬉しそうに呟く。


 


 


俺の体が、勝手に動いた。


 


 


一歩。


 


踏み込む。


 


 


魔物が腕を振り上げる。


 


 


だが。


 


 


「遅い」


 


 


スッ——


 


 


最小限の動きで回避。


 


 


コメント欄:


「え?」


「今の何?」


「動き変わってない?」


「別人じゃね?」


 


 


「右後ろ、関節」


 


 


声が指示する。


 


 


俺の体が、それに従う。


 


 


斬撃。


 


 


ガギィッ!!


 


 


硬い。


だが。


 


 


「もう一回」


 


 


二撃目。


 


 


ミシッ——


 


 


“割れた”。


 


 


コメント:


「うおおおおおおお」


「弱点そこ!?」


「初見でそれはおかしい」


「やっぱこいつやべぇ」


 


 


魔物が咆哮する。


 


 


だが、もう遅い。


 


 


「次、首の裏」


 


 


俺は跳ぶ。


 


 


“俺じゃない動き”で。


 


 


ザンッ——


 


 


一閃。


 


 


魔物が、崩れ落ちた。


 


 


 



 


③配信パート


 


 


静寂。


 


 


そして、爆発。


 


 


コメント欄:


「は??????」


「強すぎだろ」


「いやおかしい」


「なんで分かるんだよ」


「さっきと動き違いすぎ」


「中の人変わった?」


「二重人格説」


 


 


「……終わりだ」


 


俺は短く言う。


 


 


でも。


 


 


違う。


 


 


“終わってない”。


 


 


頭の中で、声が笑っていた。


 


 


「どうだ?」


 


 


「……強いな」


 


 


「だろ?」


 


 


軽い返答。


 


 


まるで、昔からの知り合いみたいに。


 


 


コメント:


「今誰と喋ってる?」


「怖い怖い怖い」


「ガチでやばいって」


「精神逝ってる」


 


 


「説明しろ」


「さっきの何」


「それ人の声じゃね?」


 


 


 


俺はカメラを見る。


 


 


「——今のは」


 


 


一瞬、迷う。


 


 


だが。


 


 


「“借りた”」


 


 


コメント:


「は?」


「何を?」


「意味わからん」


 


 


「死んだ奴の“戦い方”を」


 


 


 


一瞬の沈黙。


 


 


 


そして。


 


 


「アウト」


「完全にアウト」


「倫理観どこいった」


「通報案件」


「でも強い」


「見ちゃう」


 


 


 


炎上と熱狂が、同時に膨れ上がる。


 


 


 



 


④トラブル・発見


 


 


「なあ」


 


 


頭の中の声が、ふと低くなった。


 


 


「名前、つけろよ」


 


 


「……は?」


 


 


「その方が扱いやすいだろ」


 


 


 


俺は眉をひそめる。


 


 


“名前をつける”。


 


 


それはつまり——


 


 


“個として認識する”ということだ。


 


 


 


「……必要ない」


 


 


俺は即答した。


 


 


「お前はただの情報だ」


 


 


 


沈黙。


 


 


 


そして。


 


 


 


「……ああ、そうか」


 


 


 


声が、少しだけ冷えた。


 


 


 


「お前、まだ“そのつもり”なんだな」


 


 


 


その瞬間。


 


 


ズキッ——


 


 


頭に痛みが走る。


 


 


 


「っ……!」


 


 


 


視界が揺れる。


 


 


 


コメント:


「大丈夫か!?」


「顔色やばい」


「休めって」


「いやこれ配信やめた方がいい」


 


 


 


「……なあ」


 


 


声が、囁く。


 


 


 


「俺、“嘘ついたらどうする?”」


 


 


 


 


 



 


⑤ラストの引き


 


 


俺の呼吸が止まる。


 


 


 


「……嘘?」


 


 


 


「そう」


 


 


 


声が、楽しそうに笑う。


 


 


 


「さっきの戦いもさ」


 


 


 


「全部、本当だと思ったか?」


 


 


 


 


 


背筋が凍る。


 


 


 


「お前は“信じた”」


 


 


 


「だから勝てた」


 


 


 


「でも——」


 


 


 


 


 


「次も、そうとは限らない」


 


 


 


 


 


コメント欄:


「は??」


「何言ってる?」


「やめろってそれ」


「信用できねえじゃん」


 


 


 


俺は、ゆっくりと理解する。


 


 


 


——こいつは。


 


 


 


“使える存在”じゃない。


 


 


 


“選ばせる存在”だ。


 


 


 


 


 


「……それでも」


 


 


 


俺は、口を開く。


 


 


 


「使う」


 


 


 


 


 


その瞬間。


 


 


 


頭の中で、“複数の声”が笑った。


 


 


 


——まるで。


 


 


 


“契約が成立した”かのように。


 


 


 


 


 


「いいね」


 


 


 


最初の声が、低く囁く。


 


 


 


「じゃあ次は——もっと面白いこと教えてやるよ」


 


 


 


 


 


視界の奥。


 


 


 


ダンジョンの壁が、ゆっくりと“歪んだ”。


 


 


 


 


 


——そこには、本来存在しない“扉”があった。


 


 


 


 

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