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それでも“利用する側”に戻るのか

「——お前、まだ続ける気か?」

 

耳の奥で、低く濁った声が響いた。

誰のものかは、もう分からない。

だが一つだけ確かなのは——これは“さっき拾った声じゃない”ということだった。

 

俺は立ち止まる。

ダンジョン第七層。湿った空気。ぬめりのある壁。照明代わりの魔石が、呼吸するように明滅している。

 

「……今の、誰だ」

 

返事はない。

だが、胸の奥がざわつく。

 

これまで何度も【残留思念】を使ってきた。

死んだ探索者の“最後の断片”を拾い、攻略に利用してきた。

 

——でも。

 

“使っていないのに、声がする”のは初めてだ。

 

「……気のせい、か」

 

そう呟いた瞬間。

 

「気のせいで済ませるの、楽だよな」

 

——また、声。

 

今度は、はっきりと。

 

俺は反射的に後ろを振り向いた。

当然、誰もいない。

 

「……はは」

 

乾いた笑いが漏れる。

 

ついに来たか。

 

“侵食”。

 

使いすぎれば壊れる。

そう分かっていたはずだ。

 

なのに。

 

「——配信、続けるぞ」

 

俺はカメラを起動した。

 

 

①導入

 

配信が始まる。

 

「お、来た来た」

「今日もやるのかよw」

「炎上配信者きたww」

「でも見る」

 

視聴者数はすでに五万を超えている。

 

炎上しているのに、むしろ増えている。

いや、炎上しているからこそ増えている。

 

「どうも。今日も潜る」

 

俺は短く言う。

 

コメントが一気に流れる。

 

「説明しろよ前回のやつ」

「なんで分かるんだって聞いてんだよ」

「遺族の気持ち考えたことある?」

「いや普通に有能なんだが」

「アンチきっしょw」

 

——いつも通りだ。

 

だが今日は、少し違う。

 

“頭の中が、静かじゃない”。

 

 

②探索

 

通路を進む。

 

足元の罠。

壁の小さな穴。

空気の流れ。

 

——全部、見える。

 

いや、違う。

 

“思い出せる”。

 

「右、踏むな」

 

俺は言う。

 

コメント:

「また来たww」

「なんで分かるんだよ」

「予知?」

「チート確定」

 

俺は無視して、足をずらす。

 

その瞬間。

 

カチッ。

 

俺が避けた位置に、細い針が突き出した。

 

コメント:

「うわああああああ」

「ガチやん」

「今の初見で無理だろ」

「マジでなんなんこいつ」

 

「……次は、左壁」

 

俺はぼそりと呟く。

 

——でも。

 

違和感があった。

 

“誰の記憶だ?”

 

いつもなら、声が先に来る。

 

「そこ、触るな」とか

「この先、崩れる」とか

 

明確な“死者の声”。

 

でも今回は違う。

 

ただ、“分かる”。

 

 

「……気持ち悪いな」

 

思わず口に出た。

 

その瞬間。

 

「お前が言うなよ」

 

——また、声。

 

 

③配信パート

 

コメント欄がざわつく。

 

「今なんて言った?」

「気持ち悪いって自分で言った?w」

「精神やばくね?」

「ほら見ろ壊れてきてる」

「でも普通に進んでるの草」

 

俺は深く息を吐く。

 

「……質問には答えない」

 

コメント:

「逃げたw」

「説明しろよ」

「通報した」

「いや普通に神プレイ」

「アンチ効いてて草」

 

「ただ一つ言う」

 

俺はカメラに視線を向けた。

 

「——“死んだ奴らの情報”を使ってる」

 

一瞬。

 

コメント欄が止まる。

 

そして。

 

「は?」

「え、何それ」

「冗談だよな?」

「やば」

「アウトだろそれ」

「倫理観終わってる」

 

一気に爆発した。

 

 

「利用してる。そう言われても否定はしない」

 

俺は続ける。

 

「でもな」

 

一歩進む。

 

「死んだ奴らは、もう使われる側ですらない」

 

コメント:

「うわ出た」

「最低すぎる」

「でも正論ではある」

「いやねーよ」

「こいつ終わってる」

 

「だったら——」

 

俺は笑った。

 

「“価値”に変えた方がマシだろ」

 

 

 

④トラブル・発見

 

その瞬間。

 

——ズズンッ。

 

地面が揺れた。

 

 

「……来るぞ」

 

俺は反射的に構える。

 

だが。

 

——分からない。

 

“次の動きが”。

 

今までなら見えていた。

 

死者の記憶で。

 

でも。

 

「……ない?」

 

初めてだった。

 

“何も聞こえない”。

 

 

その代わり。

 

頭の中に。

 

 

「逃げろ」

 

「戦え」

 

「殺せ」

 

「利用しろ」

 

 

複数の声が、一斉に響いた。

 

 

「……うるさい……!」

 

俺は頭を押さえる。

 

コメント:

「え、どうした?」

「演技?」

「いやガチっぽい」

「音聞こえてないのに反応してる」

 

 

魔物が現れる。

 

大型。

未知種。

 

だが俺は——動けない。

 

 

「右だ!」

「左だ!」

「違う!」

「そいつは嘘つきだ!」

 

 

声がぶつかり合う。

 

 

「……誰を、信じればいい」

 

 

その一瞬の迷い。

 

 

——ズンッ!

 

魔物の一撃が、すぐ横をかすめた。

 

 

「っ……!」

 

 

ギリギリで回避する。

 

 

でも、分かった。

 

 

——“もう一枚岩じゃない”。

 

 

今までは、死者の声は“情報”だった。

 

 

でも今は違う。

 

 

“意思”になっている。

 

 

 

⑤ラストの引き

 

俺は、ゆっくりと顔を上げた。

 

魔物がこちらを見下ろしている。

 

 

そして。

 

頭の中で、一つの声が静かに言った。

 

 

「——そいつ、倒し方知らないだろ?」

 

 

俺は息を止める。

 

 

「教えてやるよ」

 

 

その声は、笑っていた。

 

 

「代わりに——“俺を使え”」

 

 

 

コメント欄:

「なんで止まってる?」

「早く動け!!」

「死ぬぞ!!」

「いやこれやばいって」

 

 

俺は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……条件は?」

 

 

その瞬間。

 

 

頭の中の“何か”が——歓喜した。

 

 

——次の瞬間、俺は“選んでしまった”。

 

 

“利用する側”に、もう一度。

 

 

 


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