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死ぬ順番が見える

「……次は、左から来る」

 口に出した瞬間、自分の声がやけに軽く聞こえた。

 まるで、ただの実況みたいに。

 だが、その一言で――空気が変わる。

「は?」

 怪我を負った男が、顔を上げた。

「なんでわかる」

 当然の反応だ。

 俺は答えない。

 答えられない。

 その代わり、視線だけを通路の奥へ向ける。

 ――来る。

 耳元で、声が囁く。

「三秒後」

 カウントが、頭の中で始まる。

 三。

 二。

 一。

 影が、現れる。

 左から。

「来た!」

 俺が叫ぶより早く、女が動いた。

 剣が振られる。

 火花。

 敵が弾かれる。

『うおおお』

『また当てた』

『なんでわかるんだよ』

 コメント欄が加速する。

 だが、俺の中では別の音が鳴っていた。

 ――カチ。

 また、ひとつ。

 何かが“はまった”。

 ◇

「……お前」

 後ろの男が、低く言う。

「見えてるのか?」

 問いの意味は、わかる。

 未来か。

 それとも。

 俺は、少しだけ考えてから答えた。

「見えてるわけじゃないです」

 嘘ではない。

「ただ、知ってるだけで」

 その言葉に、三人の視線が揃って刺さる。

 コメント欄も止まる。

『知ってる?』

『何を?』

『怖いこと言うな』

 男が一歩近づく。

「何をだ」

 圧が強い。

 だが、引かない。

「ここで何が起きるか、です」

 言い切る。

 沈黙。

 次の瞬間、コメント欄が爆発する。

『ネタバレ配信www』

『未来確定演出』

『チート確定だろ』

 だが、三人は笑わない。

 理解している。

 これは冗談じゃない。

 “危険な何か”だと。

 そのとき。

 耳元で、また声がした。

「次、右のやつが死ぬ」

 ぴたり、と時間が止まった気がした。

 右。

 視線が、自然と向く。

 そこにいるのは――軽い調子の男。

 さっき話しかけてきたやつ。

「……やめろ」

 思わず呟く。

『え?』

『今なんて?』

『誰に言ってる?』

 男が眉をひそめる。

「何がだ」

 言えない。

 言えば、どうなる。

 信じるか?

 避けられるか?

 それとも――。

「……なんでもない」

 飲み込む。

 その瞬間。

 声が、笑った。

「見てろよ」

 嫌な予感が、膨れ上がる。

 ◇

 通路を進む。

 さっきより、明らかに緊張が増している。

 三人も気づいている。

 “何かがおかしい”と。

「この先、何がある」

 先頭の男が聞く。

 俺は、一瞬だけ迷った。

 そして。

「……広間です」

 無難な答えを選ぶ。

 嘘ではない。

 だが、本当でもない。

 声は、別のことを言っている。

 ――“死ぬ場所”だと。

 コメント欄が流れる。

『さっきも広間だったな』

『またボスか?』

『さっきの予言なんだったんだ』

 やがて、通路が開ける。

 広い空間。

 天井が高い。

 中央に、何もない。

 静かすぎる。

「……来るぞ」

 誰かが呟く。

 その瞬間。

 床が、光る。

 魔法陣。

 さっきと同じ。

 だが。

 違う。

 ――速い。

 影が、出現する。

 数が多い。

 三体。

 同時に動く。

「散開!」

 男が叫ぶ。

 全員がバラける。

 俺も距離を取る。

 耳元で、声が重なる。

「左」

「右」

「前」

「後ろ」

 ノイズ。

 選べない。

 だが。

 ひとつだけ、はっきりした声があった。

「“右のやつ”だ」

 ぞくりとする。

 視線が、そいつに向く。

 軽い男。

 今、背後を取られている。

「……後ろ!」

 叫ぶ。

 だが、遅い。

 影が振る。

 刃が走る。

 血が飛ぶ。

「がっ……!」

 男が崩れる。

 肩から腹にかけて、大きく裂けている。

『うわああああ!?』

『やばい』

『当たった』

 コメント欄が爆発する。

 だが、俺の耳には別の音が響いていた。

 ――的中。

 その事実が、重くのしかかる。

「……くそ!」

 先頭の男が敵を叩き伏せる。

 女がもう一体を斬る。

 残り一体。

 俺は動けなかった。

 ただ、見ていた。

 ――知っていた。

 それなのに。

 防げなかった。

「おい!」

 怒鳴り声。

 我に返る。

 敵が迫る。

 ナイフを振る。

 かろうじて防ぐ。

 だが、遅い。

 完全に、遅れている。

『どうした?』

『動き悪くね?』

『さっきと違うぞ』

 コメント欄がざわつく。

 俺は歯を食いしばる。

 ――集中しろ。

 声を聞け。

 だが。

 声が、多すぎる。

 混ざる。

 歪む。

 正解が、わからない。

「落ち着け!」

 女の声。

 その一言で、少しだけ視界が戻る。

 敵の動き。

 呼吸。

 音。

 全部を、もう一度拾い直す。

「……ここだ」

 低く呟く。

 踏み込む。

 ナイフを突き出す。

 手応え。

 影が崩れる。

 静寂。

 戦闘が終わる。

 ◇

「……はぁ……」

 荒い呼吸。

 視線を向ける。

 軽い男が、床に倒れている。

 まだ息はある。

 だが、浅い。

 明らかに、重傷。

「応急処置!」

 女が叫ぶ。

 先頭の男が動く。

 包帯。ポーション。

 手際がいい。

 助かるかもしれない。

 だが。

 耳元で、声が囁く。

「無駄だ」

 低く、静かに。

「そいつ、ここで終わり」

 心臓が、強く鳴る。

 俺は、目を逸らした。

 コメント欄が流れる。

『大丈夫か?』

『助かるよな?』

『さっき予言してたよな』

 視線が、集まる。

 俺に。

 男が、顔を上げる。

「……お前」

 血に濡れた顔。

 だが、目は鋭い。

「知ってたな」

 言葉が、突き刺さる。

 否定できない。

 沈黙。

 コメント欄が止まる。

『答えろ』

『どうなんだよ』

『まさか』

 俺は、口を開いた。

「……可能性の話です」

 曖昧な言葉。

 逃げ。

 だが、それしか言えない。

 男は、笑った。

 苦く。

「ふざけんな」

 短い言葉。

 その奥にあるのは――怒りだ。

 当然だ。

 知っていて、助けなかった。

 そう見える。

 実際、その通りだ。

 俺は、目を逸らした。

 そのとき。

 倒れていた男が、かすかに動いた。

「……おい」

 呼びかける。

 だが。

 次の瞬間。

 その体が、ぴたりと止まる。

 完全に。

 動かなくなる。

 静寂。

 コメント欄が、ゆっくりと流れる。

『……え』

『今』

『死んだ?』

 耳元で、声がした。

 さっきまでの“生きていた男”の声。

「……あーあ」

 軽い調子。

 だが、どこか遠い。

「やっぱりな」

 背筋が凍る。

 俺は、ゆっくりと顔を上げた。

 そこにはもう、“生きている男”はいなかった。

 代わりに。

 ――“新しい声”が増えていた。

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