表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/74

三人目は誰だ

――三人いる。


 視界が割れたみたいに揺れる。


 正面の“俺”。


 背後の“俺”。


 そして。


 今ここに立っている“俺”。


「……は?」


 喉が乾く。


 呼吸が浅い。


 理解が追いつかない。


 だが。


 配信は止まらない。


『は?????』

『増えた???』

『三人目きたぞ』

『意味わからん怖すぎ』

『これ演出じゃないだろ』


 コメント欄が爆発する。


 当然だ。


 俺も同じ反応をしてる。


 背後の“俺”が、ゆっくりと口を開いた。


「遅かったな」


 声。


 同じ。


 だが。


 ――一番、落ち着いている。


 正面のあいつが笑う。


「やっと出てきたか」


 こっちを見る。


 まるで“俺じゃない何か”を見るみたいに。


「なあ」


 背後の“俺”が一歩踏み出す。


「どっちが本物か、まだ迷ってる?」


 ゾクッとする。


 その言い方。


 “答えを知ってる側”の声だ。


「……誰だよ、お前」


 俺は振り返る。


 ナイフを構えたまま。


 だが。


 手が震える。


 正面と背後。


 挟まれてる。


「質問が違うな」


 背後の“俺”が首を傾げる。


「“いつの俺か”って聞けよ」


 ――心臓が跳ねる。


『は???』

『いつの俺???』

『時間軸系きた?』

『いやもう怖いって』


 理解が、一気に歪む。


 時間。


 結果。


 可能性。


「俺は」


 背後の“俺”が言う。


「“最後まで行った俺”だ」


 空気が凍る。


 一瞬で。


 完全に。


「……は?」


 声が漏れる。


 意味が分からない。


 だが。


 頭のどこかが理解している。


 ――最深層。


 ――到達。


 ――帰還。


 それを、こいつは“知っている”。


 正面のあいつが笑う。


「便利だろ?」


 軽く肩をすくめる。


「俺は“全部聞いた俺”」


 顎で背後を指す。


「あいつは“全部見た俺”」


 視線が俺に戻る。


「で、お前は」


 にやりと笑う。


「“途中の俺”」


 言葉が刺さる。


 そのまま。


 何もかも。


 否定できない。


『えぐい設定きた』

『三段構造かよ』

『主人公詰んでね?』

『いやこれどうなるんだ』


 コメントが震えている。


 俺の代わりに。


 俺は笑う。


 無理やり。


「……じゃあさ」


 ナイフを握り直す。


「なんで殺し合ってんだよ」


 シンプルな疑問。


 だが。


 二人は同時に答えた。


「必要だから」


「選別だ」


 ズレた。


 言葉が。


 意味が。


 背後の“俺”が続ける。


「この層はな」


 ゆっくりと。


「“残留思念”を持つやつを、増やす」


 ぞわっとする。


 嫌な予感が形になる。


「増やす?」


「そうだ」


 正面のあいつが笑う。


「量産だよ」


 軽く言う。


 当たり前みたいに。


「死者の声を使うやつは、最終的にこうなる」


 周囲を指す。


「分裂する」


 頭が痛む。


 さっきから。


 ずっと。


 だが今のは。


 別の意味で痛い。


「じゃあ」


 俺は言う。


「勝ったやつが本物?」


「違う」


 背後の“俺”が即答する。


「勝ったやつが“次に進む”」


 沈黙。


 意味は同じだ。


 だが。


 重みが違う。


『デスゲームやん』

『人格選別か?』

『倫理終わりすぎ』

『これもう人間じゃない』


 コメントが荒れる。


 当然だ。


 俺も同じこと思ってる。


「なあ」


 正面のあいつが言う。


「選べよ」


 ナイフを構える。


「どっちにつく?」


 は?


「二対一でもいいし」


 笑う。


「三人で殺し合いでもいい」


 背後の“俺”は何も言わない。


 ただ。


 じっと見てる。


 観察するみたいに。


 俺を。


「……はは」


 笑いが漏れる。


 乾いた。


「選べってか」


 頭の中で声が響く。


「右だ」

「後ろだ」

「殺せ」

「従え」


 うるさい。


 全部うるさい。


 だが。


 その中で。


 一つだけ。


 妙にクリアな声があった。


「信用するな」


 誰の声だ?


 分からない。


 だが。


 直感的に分かる。


 ――これだけは、本物だ。


「……いいよ」


 俺は言う。


 ナイフを構え直す。


「選ぶ」


 二人の視線が刺さる。


「でも」


 一歩踏み出す。


「お前らじゃない」


 沈黙。


 一瞬。


 完全な静止。


『え???』

『どういうこと?』

『第三勢力?』

『いや一人しかいないだろ』


 コメントが混乱する。


 当然だ。


 俺も、半分しか理解してない。


「“俺”を選ぶ」


 言い切る。


 その瞬間。


 頭の中で、何かが弾けた。


 声が止まる。


 一瞬だけ。


 完全な静寂。


 そして。


 次の瞬間。


 “声”が一つにまとまる。


「そこ、踏むな」


 体が勝手に動く。


 横に飛ぶ。


 直後。


 地面が崩れる。


 穴。


 深い。


 見えない底。


『罠!?!?』

『今の何で避けた!?』

『やっぱおかしいってこいつ』

『神すぎる』


 俺は笑う。


 荒く息を吐きながら。


「……なるほどな」


 分かってきた。


 全部じゃない。


 でも。


 一つ。


「“全部聞く”のが正解じゃない」


 正面のあいつが顔を歪める。


 初めて。


 明確に。


「“全部信じない”のも違う」


 背後の“俺”が目を細める。


「“選ぶ”」


 ナイフを構える。


「それだけだろ」


 静寂。


 空気が変わる。


 少しだけ。


『主人公覚醒した?』

『いやでもまだ不利』

『でも流れ来てる』

『これ逆転あるぞ』


 コメントが再び熱を帯びる。


 俺は踏み込む。


 まずは。


 正面のあいつへ。


 ――速い。


 だが。


 読める。


「っ!?」


 あいつが驚く。


 初めて。


 完全に。


 刃が届く。


 肩を裂く。


 血が飛ぶ。


「な……」


「それ」


 俺は言う。


「“間違った記憶”だろ」


 あいつの動きが止まる。


 一瞬。


 その隙を逃さない。


 連撃。


 押し込む。


『当てまくってる!!』

『逆転きた!!』

『やばいやばいやばい』

『でも後ろいるぞ!!』


 そのコメント。


 分かってる。


 背後。


 もう一人。


 そいつが動く。


 気配。


 来る。


「……来いよ」


 俺は振り返らない。


 正面を押し切る。


 決める。


 その覚悟。


 だが。


 その瞬間。


 背後から。


 声がした。


「正解だ」


 次の瞬間。


 ――正面の“俺”の首が、落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ