表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/74

誰の声で喋ってる

――「それ、本当にお前か?」

 最初にそう言ったのは、俺じゃなかった。

 なのに、口は動いた。

「それ、本当にお前か?」

 言ったあとで気づく。

 今の声、少しだけ違う。

 トーンが、ズレている。

 まるで誰かの声を借りて喋ってるみたいに。

 目の前の“俺”が、ゆっくり首を傾げる。

「……いいね、それ」

 にやりと笑う。

「もう始まってるじゃん」

 何がだよ。

 そう言おうとして――止まる。

 頭の中で、また声が重なる。

「違う」

「そいつは違う」

「お前が違う」

 誰だ。

 どれが俺だ。

 思考が分裂する。

 だが、体は止まらない。

 ナイフを握り直す。

 踏み込む。

 同時に、あいつも来る。

 ぶつかる。

 火花。

 だが今度は違う。

 ――ズレが大きい。

 俺の方が速い。

「っ……!」

 切り裂く。

 浅いが、確実に当てた。

 血が飛ぶ。

 コメント欄が一瞬止まり、次の瞬間に爆発する。

『今の主人公速くね?』

『さっきより動き変わった』

『え、急に上手くなった?』

『なんで???』

 俺も思う。

 なんでだ。

 だが、答えはある。

 頭の中で、誰かが笑う。

「そこは踏み込みすぎだ」

 違う動きが流れ込む。

 別人の戦い方。

 別人の癖。

 五人分。

 それが混ざる。

 そして――

 俺じゃない動きになる。

「……なるほどな」

 向こうの俺が、少しだけ眉を上げる。

「混ぜたか」

 理解している。

 同じことをしてるから。

「でもさ」

 ナイフを弾く。

 距離を詰める。

「それ、崩れるよ」

 次の瞬間。

 視界が二重になる。

 右に行こうとする体。

 左に行こうとする体。

 ズレる。

「っ……!」

 遅れる。

 斬られる。

 脇腹。

 深い。

 血が熱い。

『やばいやばい』

『崩れてる』

『制御できてない』

『だから言ったのに』

 うるさい。

 分かってる。

 だが。

 ――それでも強い。

 俺は笑う。

「でも、お前もだろ」

 あいつを見る。

 一瞬だけ。

 ほんの一瞬だけ。

 動きが、鈍る。

 その瞬間を、見逃さない。

「やっぱりな」

 踏み込む。

 刺す。

 今度は深い。

 あいつの肩に突き刺さる。

「ぐっ……!」

 初めて、苦しそうな声。

 コメント欄がさらに荒れる。

『当たった!!』

『どっちもボロボロ』

『これもう人間じゃない』

『通報した』

 あいつが距離を取る。

 息を荒げる。

 だが笑う。

「……いいね」

 血を舐める。

「やっぱりお前、面白いよ」

 ぞくり、とする。

 その仕草。

 その言い方。

 ――完全に俺だ。

 でも違う。

 もっと、壊れてる。

「なあ」

 あいつが言う。

「今、何人入ってる?」

 答えない。

 答えたくない。

 だが、勝手に口が開く。

「……六」

 言ってしまう。

 違う。

 俺は言おうとしてなかった。

 なのに。

 勝手に。

 コメント欄が凍る。

『今勝手に喋った?』

『おかしくね?』

『誰の声???』

『怖い怖い怖い』

 あいつが、目を細める。

「もう、半分だな」

「……は?」

「容量だよ」

 笑う。

「それ、全部で“十人”までだろ?」

 心臓が止まる。

 なんで知ってる。

 そんなの、誰にも言ってない。

「超えたらどうなるか」

 一歩踏み出す。

「知ってるか?」

 知らない。

 いや。

 ――知ってる。

 頭の奥で、誰かが囁く。

「溢れる」

「壊れる」

「入れ替わる」

 ぞわっとする。

 背筋が冷える。

 コメント欄がざわつく。

『容量って何?』

『やばい設定出てきた』

『10人ってマジ?』

『超えたら終わりじゃん』

 あいつが笑う。

「俺は、もう超えてる」

 静かに言う。

「だから分かる」

 その瞬間。

 あいつの目が、揺れる。

 一瞬だけ。

 別人の目になる。

 老人。

 女。

 子供。

 何人もの“視線”が混ざる。

 ぞくり、とする。

 ――あれは、人じゃない。

「お前も来いよ」

 手を広げる。

「楽しいぞ」

 狂ってる。

 でも。

 少しだけ。

 理解してしまう。

 その強さ。

 その情報量。

 その“完成形”。

「……いいね」

 俺は笑う。

 自分でも分かる。

 今の俺の笑い方。

 完全に、あいつと同じだ。

「じゃあさ」

 一歩踏み出す。

「試してみるか」

 死体に向かう。

 もう一体。

 まだ触ってないやつ。

 本来なら。

 まだ使える。

 だが。

 今の俺は。

 もう限界に近い。

 それでも。

 手を伸ばす。

『やめろ』

『絶対やばい』

『これ超えたら終わりだろ』

『見るけど』

 触れる。

 その瞬間。

 ――静かになる。

 音が消える。

 コメント欄も。

 戦いも。

 全部。

 止まる。

 そして。

 声がする。

 一つだけ。

 今までと違う。

 はっきりした声。

「やっと会えた」

 心臓が止まる。

「お前が“器”だな」

 冷たい。

 確信している声。

「俺たちの」

 視界が割れる。

 世界が歪む。

 そして。

 目の前の“俺”が、笑う。

「な?」

 言う。

「入れ替わるだろ?」

 その瞬間。

 俺の視界が、外に出る。

 ――あれ?

 俺、どこだ?

 カメラが見える。

 自分が見える。

 ナイフを持ってる“俺”。

 違う。

 あれは。

 俺じゃない。

 コメント欄が絶叫する。

『今入れ替わった!?!?』

『動き変わった!!』

『誰だよ今の』

『終わっただろこれ』

 “俺だったもの”が、ゆっくり笑う。

「配信、続けようか」

 カメラに向かって。

 俺の声で。

 でも。

 ――中身は、違う。

 その瞬間。

 理解する。

 遅すぎる理解。

 このスキルは。

 情報を得るものじゃない。

 違う。

 ――受け入れるものだ。

 死者を。

 中に。

 そして。

 入れ替わる。

 俺は。

 どこに行った?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ