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その声、誰のものだ

 ――違う。


 斬り結んだ瞬間、確信した。


 こいつの中にいる“声”は、俺が今まで聞いてきた残留思念と質が違う。


 軽くない。


 重い。


 底なしに沈むような、圧。


「……ッ!」


 刃が交差する。


 火花が散る。


 同時に、頭の中で声が重なる。


『右だ』『下がれ』『遅い』『刺せ』『嘘だ』『違う』『そいつは――』


 多すぎる。


 情報が、濁っている。


 俺は一歩退く。


 呼吸が荒い。


 視界が、わずかに歪む。


「どうした?」


 向こうの俺が笑う。


「もう限界か?」


「……まだだよ」


 口では強がる。


 だが内側は違う。


 さっき無理やり引き出した“二度目の思念”。


 あれが、まだ残っている。


 頭の奥で、誰かが喋り続けている。


 止まらない。


 コメント欄が流れる。


『顔色やばくね?』

『さっきの無理使用のせいだろ』

『あれ絶対アウトだった』

『でも強くなってる』

『いや負けそう』


 俺は笑う。


「見てろよ」


 再び踏み込む。


 今度は俺が先。


 斬撃。


 だが。


 止められる。


 完全に読まれている。


「だから言ったろ」


 向こうが囁く。


「情報量の差だって」


 カウンター。


 腹に浅い傷。


 血がにじむ。


『うわ当たってる』

『差ついてきたな』

『偽物の方が強いとか草』

『どっちが本物かもわからん』


 本物。


 その言葉が、引っかかる。


 頭の中の声が、ふっと揃う。


『本物?』


 ゾクッとした。


 今の。


 誰の声だ?


 今まで聞いてきた探索者の声じゃない。


 もっと近い。


 もっと、俺に似ている。


「……なあ」


 俺は問いかける。


「お前、本当に“俺”か?」


 向こうが笑う。


 ゆっくり。


「逆だろ」


 一歩近づく。


「お前が、俺の“後”なんだよ」


 その瞬間。


 映像が、ブレた。


 ほんの一瞬。


 だが確実に。


 カメラ越しの映像で。


 俺の位置が、ズレた。


『今なんかズレたぞ』

『ラグ?』

『いや違う』

『位置おかしくね?』


 心臓が跳ねる。


 まさか。


 入れ替わり。


 あの言葉が蘇る。


「次は、お前が入れ替わる番だ」


「……ふざけんな」


 俺は一気に距離を詰める。


 斬る。


 連撃。


 止められる。


 だが構わない。


 無理やり押す。


 思念が叫ぶ。


『そこ罠だ』『違う』『押せ』『下』『刺せ』『今だ』


 情報が、ぶつかる。


 矛盾する。


 だが。


 ――一つだけ、妙に鮮明な声。


『その左肩、斬れる』


 迷わず振る。


 当たる。


 深く。


 向こうの俺の肩が裂ける。


『当たった!!』

『初めてちゃんと入った』

『流れ変わった?』


 俺は息を吐く。


「……なるほどな」


 わかった。


 全部の声を聞く必要はない。


 選べばいい。


 “当たり”だけを。


 向こうの俺が舌打ちする。


「器用だな」


「そっちこそ」


 構え直す。


 だがその時。


 頭の中で、別の声。


 低い。


 冷たい。


『それ、俺の声だよ』


 動きが止まる。


「……は?」


『さっきの斬撃。俺の記憶だ』


 血が冷える。


 そんなはずない。


 俺はもう、その死者を使っている。


 一度きりのはずだ。


『でも今、お前はもう一度使った』


 確かに。


 ルールを破った。


『だから“混ざった”』


 理解する。


 背筋が凍る。


 俺の中に。


 複数の人格が、混ざり始めている。


「……やばいな、これ」


 笑いが漏れる。


 止まらない。


『壊れてきたぞ』

『目おかしい』

『これ配信続けていいの?』

『いや神回』


 向こうの俺が笑う。


「いい顔してるじゃん」


 一歩踏み出す。


「それだよ」


 刃を構える。


「それが“俺たち”だろ」


 その言葉。


 妙にしっくり来る。


 俺たち。


 単数じゃない。


 複数。


 今の俺は、もう一人じゃない。


 ゾクッとする。


 だが同時に。


 ――強い。


 明確に。


 判断が速い。


 動きが読める。


 未来が、ほんの少し見える。


「……最高だな」


 俺は笑う。


「これが、限界突破ってやつか」


 踏み込む。


 速い。


 自分でも驚くほど。


 向こうの俺の目が、初めて揺れる。


 斬撃。


 当たる。


 二撃。


 三撃。


 押す。


『うおおおお』

『逆転きた!?』

『バケモンになってる』


 だが。


 その瞬間。


 視界が、反転した。


 ぐにゃりと。


 世界が、裏返る。


「……え?」


 立ち位置が変わる。


 俺が、あっちにいる。


 向こうの俺が、こっちにいる。


 カメラの位置が、逆。


『は???』

『今何起きた?』

『入れ替わった??』


 呼吸が止まる。


 手を見る。


 違う。


 違和感。


 重さ。


「……は、はは」


 笑い声が漏れる。


 だがそれは。


 俺の声じゃない。


 向こうの声だ。


「やっと来たか」


 目の前に。


 “俺だったもの”が立っている。


 ゆっくり笑う。


「遅いんだよ」


 理解する。


 遅すぎた。


 俺は。


 “そっち側”に来た。


 コメント欄が崩壊する。


『どっち!?』

『声違う!!』

『入れ替わってるだろこれ』

『終わった』


 俺はカメラを見る。


 笑う。


 ――どっちの笑顔だ?


「なあ」


 問いかける。


「今、配信してるのは……誰だ?」


 沈黙。


 そして。


 頭の中で、全員が同時に囁く。


『お前じゃない』


 ――じゃあ、俺は誰だ?

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