死体が立ち上がった理由
――それは、生きている動きじゃなかった。
ぎこちない。
遅い。
だが確実に、“意志”がある。
さっきまで壁に寄りかかっていた死体が、ゆっくりと首を持ち上げた。
「……は?」
俺の口から漏れた声は、完全に素だった。
コメント:
「は?????」
「今の見た?」
「いやいやいや無理無理」
「ゾンビきた?」
「演出じゃないよな?」
違う。
こんなの、聞いてない。
残留思念は“記憶”だ。
動かす力なんて、ないはずだ。
なのに。
死体は、ゆっくりとこちらを向いた。
目が――合う。
空洞のはずの瞳に、妙な“焦点”があった。
ゾクッとした。
――逃げろ。
頭の中で声が響く。
だが、足は動かない。
「……おい」
後ろの男が低く言う。
「これ、お前の仕業か?」
「違う」
即答した。
本気で違う。
コメント:
「信じていいのか?」
「いやこいつならやりかねん」
「でも今の予想外っぽい」
死体が、一歩踏み出す。
ぐちゃ、と音がした。
腐りきっていない肉が、まだ動く。
「……やめろ」
思わず呟く。
その瞬間。
死体の口が、わずかに動いた。
「――に、げ……」
空気が凍った。
コメント:
「喋った!?」
「え、今の声?」
「これマジでやばい」
◇
俺は一歩下がる。
頭が痛い。
嫌な予感がする。
これはただのモンスターじゃない。
“残留思念”が――現実に干渉してる。
「ありえねぇだろ……」
呟いた瞬間。
頭の奥で、声が爆発する。
――助けて。
――殺される。
――裏切るな。
違う記憶が混ざる。
視界が歪む。
俺は一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなった。
コメント:
「顔色やばい」
「また来てるだろこれ」
「精神削れてるやつだ」
「っ……静かにしろ……!」
叫ぶ。
誰に向けてか、自分でも分からない。
だがその瞬間。
死体が、こちらに向かって走り出した。
「来るぞ!」
後ろの男が叫ぶ。
反射的に剣を抜く。
遅い。
だが、動きは単純だ。
「右に振るな」
口が勝手に動く。
声が、導く。
俺は左に回避。
死体の腕が空を切る。
そのまま、膝を蹴り落とす。
ぐらりと崩れる体。
「終わりだ」
首に刃を当てる。
その瞬間。
「――し、ぬな」
死体が、はっきりと喋った。
手が止まる。
コメント:
「今完全に言葉だった」
「怖すぎる」
「これ倫理とかの話じゃなくね?」
◇
「……なんなんだよ」
思わず吐き出す。
男の一人が舌打ちした。
「気持ち悪ぃな……さっさと壊せ」
もう一人も頷く。
「そうだな。情報持ってるなら利用して終わりだろ」
その言葉。
胸に引っかかる。
――利用してるのは、俺も同じだ。
分かってる。
でも。
「……こいつ、まだ喋ってる」
耳の奥で、声が続いている。
――あいつだ。
――あいつが裏切る。
――殺される。
視線が、自然と後ろの男たちに向く。
さっき見た記憶。
背中から刺す瞬間。
「……なあ」
俺は静かに言う。
「お前ら、前に誰か殺したか?」
一瞬の沈黙。
コメント:
「は?」
「直球すぎる」
「空気やば」
男の顔が歪む。
「……何言ってんだ?」
だが、その目。
わずかに揺れた。
確信に変わる。
「やっぱりな」
その瞬間。
死体が、最後の力で叫んだ。
「そいつらだ!!」
空気が、割れた。
◇
次の瞬間。
剣が振り下ろされる。
だがそれは、俺じゃない。
男が――仲間に向けて振った。
「は?」
仲間が驚く。
「お前、何して――」
言い終わる前に、斬撃が入る。
血が飛ぶ。
コメント:
「内ゲバ!?」
「え、どういうこと」
「操った?」
「こいつのせいだろ絶対」
違う。
俺じゃない。
でも――
引き金を引いたのは、俺だ。
「……クソが」
男が叫ぶ。
「なんで今それ言うんだよ!!」
「……知らねぇよ」
本当に、知らない。
ただ。
死体の声を、伝えただけだ。
それだけなのに。
状況は、最悪に転がる。
◇
斬り合いが始まる。
混乱。
怒号。
血。
コメント:
「カオスすぎる」
「これ配信していいのか?」
「通報案件だろ」
「でも見ちゃう」
俺はその場に立ち尽くす。
頭が痛い。
声が止まらない。
――次はお前だ。
――逃げろ。
――いや、残れ。
矛盾。
混濁。
自分の意思が、削れていく。
「……これが、代償かよ」
小さく笑う。
配信は、まだ続いている。
数字が跳ね上がっていく。
炎上。
バズ。
全部、同時に来ている。
コメント:
「こいつやばい」
「でも本物だ」
「倫理終わってる」
「だから面白い」
その中で、また一つ。
異質なコメント。
「次は“お前が喋る側”だ」
背筋が凍る。
その瞬間。
頭の奥で、知らない“記憶”が流れ込んできた。
それは――
まだ死んでいない誰かの、“未来の記憶”だった。




