表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/74

まだ死んでない声

 ――それは、“死んでいないはずの声”だった。


 頭の奥で、鮮明に響く。


 ――やめろ。

 ――そこに行くな。

 ――お前が、殺される。


 「……誰だ」


 思わず呟いた。


 今までの声とは違う。

 温度がある。

 生きている“意志”が混ざっている。


 残留思念は死者の記憶だ。

 なのに、これは――


 「未来……?」


 口にした瞬間、吐き気が込み上げた。


 コメント:

 「今なんて言った?」

 「未来?」

 「やばい方向いってるぞ」

 「設定じゃなくてガチっぽいの怖い」


 視界が歪む。


 目の前では、まだ斬り合いが続いている。


 男と男。

 さっきまで仲間だったはずの二人が、互いに殺意を向けている。


 血が床に広がる。


 ぐちゃ、ぐちゃ、と嫌な音。


 なのに俺は、それを“遠く”感じていた。


 頭の中の声の方が、ずっと鮮明だ。


 ――そのままだと、お前が刺される。

 ――避けろ。

 ――右じゃない、左だ。


 「……っ」


 反射的に体を動かす。


 次の瞬間。


 横から飛んできた剣が、空を切った。


 「っ!?」


 男の一人が目を見開く。


 「なんで避けた!?」


 コメント:

 「今の見えてた?」

 「完全に背後からだったぞ」

 「こいつマジでなんなんだ」


 俺は息を吐く。


 「……聞こえた」


 「は?」


 男が眉をひそめる。


 「死体じゃない声が」


 その言葉に、空気が一瞬止まった。


 コメント:

 「意味わからん」

 「死体じゃないって何」

 「ガチで壊れてきてる?」


 ◇


 斬り合いはすぐに決着がついた。


 一人が、倒れる。


 喉を切られ、血を噴き出しながら。


 「……は、は……」


 もう一人は、息を荒げて立っていた。


 勝者。


 だがその目は、狂気に染まっている。


 「……全部、お前のせいだ」


 俺を睨む。


 「余計なこと言いやがって……!」


 コメント:

 「来るぞ」

 「これ主人公狙われるやつ」

 「逃げろ」


 逃げる?


 違う。


 頭の中の声が、違う選択を指示する。


 ――動くな。

 ――そのまま見ろ。

 ――次が来る。


 「……次?」


 俺はその場に立ったまま、動かなかった。


 男が踏み込む。


 剣を振り上げる。


 その瞬間。


 背後から、音。


 ぐちゃ。


 振り返る間もなく。


 「がっ……!?」


 男の胸から、刃が突き出た。


 さっき倒れたはずの死体。


 そいつが、背後から剣を突き立てていた。


 コメント:

 「えええええ!?」

 「また動いた!」

 「ゾンビじゃん!」


 男が崩れ落ちる。


 完全に沈黙。


 ダンジョンに、静寂が戻る。


 ◇


 俺はその光景を、ただ見ていた。


 頭の中の声が、静かになる。


 代わりに、別の感覚が広がる。


 理解。


 「……そういうことか」


 残留思念。


 それは単なる“記憶の再生”じゃない。


 強い未練。

 強い感情。


 それが、現実に影響を及ぼす。


 条件が揃えば――


 “動く”。


 「ふざけてるな」


 思わず笑った。


 コメント:

 「笑うなよ」

 「普通に怖いだろ」

 「倫理とかもう次元違う」


 ◇


 だが問題はそこじゃない。


 俺は自分の頭に手を当てる。


 さっきの声。


 あれは――


 まだ死んでいない。


 「……どこにいる」


 思わず呟く。


 すると。


 また、声が響く。


 ――上だ。

 ――次の階層。

 ――お前を待ってる。


 背筋が冷える。


 待ってる?


 誰が。


 コメント:

 「また独り言」

 「やばいな完全に」

 「でもなんか核心っぽい」


 俺はカメラを見た。


 「……この先、行く」


 コメント欄が一瞬で加速する。


 コメント:

 「行くのかよ」

 「やめとけ」

 「いや行け」

 「配信神回確定」


 アンチと信者がぶつかる。


 いつもの構図。


 でも今は――


 そのどちらでもない視線を感じる。


 “見られている”。


 ダンジョンの奥から。


 ◇


 俺は歩き出す。


 階段へ向かって。


 一歩ごとに、頭が重くなる。


 声が増えていく。


 死者の声。


 そして――


 まだ死んでいない“誰か”の声。


 「……ふざけんなよ」


 小さく呟く。


 自分で分かる。


 これ以上使えば、壊れる。


 でも。


 止める気はなかった。


 「どうせもう、引き返せねぇ」


 コメント:

 「開き直った」

 「終わってるな」

 「でも見たい」


 階段の前に立つ。


 暗闇が口を開けている。


 その奥から。


 はっきりと、声が聞こえた。


 ――やっと来たな。


 心臓が止まりかける。


 この声は。


 今までのどれとも違う。


 冷たい。


 そして、知っている。


 「……誰だよ」


 震える声で問いかける。


 沈黙。


 そして。


 ――お前だ。


 世界が、歪んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ