俺が殺す未来を選ぶ
――“俺が、あいつを殺す死”。
そのログが、はっきりと見えた。
他の死とは違う。
鮮明で、濃い。
まるで“確定に近い可能性”。
「……これだ」
俺は、迷わず選ぶ。
次の瞬間。
世界が、切り替わる。
◇
目の前にいる。
あいつが。
一体だけ。
さっきまでの分裂はない。
空気が、静かすぎる。
「……選んだな」
そいつが、ゆっくりと笑う。
だが。
どこか違う。
余裕が、少ない。
俺は、ナイフを構えた。
「お前を殺す未来だ」
はっきり言う。
その瞬間。
コメント欄が爆発する。
『きたああああ』
『攻めに出た!』
『主人公覚醒してる』
『いや無理だろ』
『相手チートすぎ』
『死亡フラグ』
賛否が割れる。
だが。
関係ない。
俺は、一歩踏み出す。
◇
「……面白い」
そいつが、低く笑う。
「でも、それ“だけ”見てるんだろ?」
一瞬。
違和感。
だが。
無視する。
迷えば、終わる。
俺は、踏み込む。
ナイフを振る。
一直線。
迷いなし。
そいつは、避ける。
だが。
――遅い。
刃が、かすめる。
「っ……!」
初めて、血が出る。
コメント欄が爆発する。
『当たった!!』
『いけるぞ!』
『これ勝てる!!』
俺は、さらに踏み込む。
次。
もう一撃。
だが。
その瞬間。
そいつが、笑った。
「甘い」
視界が、歪む。
◇
景色が変わる。
また、別の“死”。
今度は。
――俺が、転ぶ。
足を滑らせる。
一瞬の隙。
その瞬間。
背後から刺される。
心臓を貫かれる。
終わり。
「……っ!」
現実に戻る。
だが。
体が、動かない。
足元が、崩れる。
「……な」
バランスを崩す。
転びそうになる。
コメント欄が騒ぐ。
『今の何!?』
『未来割り込み!?』
『やばいやばい』
そいつが、後ろに回る。
ナイフを構える。
――さっき見た通り。
「っ……!」
俺は、無理やり体勢を立て直す。
間一髪。
刃が、かすめる。
血が飛ぶ。
だが。
致命傷じゃない。
◇
「……なるほどな」
俺は、息を整える。
「未来、見せてくるのか」
そいつが、笑う。
「お前が見てるのは、“一つ”だけ」
「でも俺は」
一歩踏み出す。
「“全部”見てる」
コメント欄がざわつく。
『情報量の差か』
『勝てなくね?』
『チート対チート』
そう。
こいつは。
俺より“上”だ。
同じ能力。
だが、使い方が違う。
俺は、一つを選ぶ。
こいつは、全部を操る。
◇
「……なら」
俺は、ナイフを握り直す。
「やり方、変える」
小さく呟く。
そして。
目を閉じる。
『え?』
『何してる?』
『また何か来るぞ』
コメント欄がざわつく。
だが。
構わない。
俺は、集中する。
今までの“死”。
全部。
一つずつじゃない。
――まとめて、見る。
頭が、軋む。
痛い。
吐きそうになる。
だが。
止めない。
「……っ!」
叫びそうになるのを、抑える。
そして。
――見えた。
共通点。
◇
「……お前」
目を開ける。
そいつを睨む。
「“決め打ち”してるだろ」
一瞬。
そいつの動きが止まる。
コメント欄が爆発する。
『気づいた!?』
『弱点!?』
『来るぞ!!』
俺は、続ける。
「全部見てるって言ったな」
「でも」
一歩踏み出す。
「結局、最後は“選んでる”」
その一言。
空気が変わる。
そいつの表情が、わずかに歪む。
◇
「だから」
俺は、ナイフを構える。
「そこを叩く」
一気に踏み込む。
今度は、違う。
さっきの“未来”じゃない。
あえて外す。
軌道をずらす。
予測を崩す。
そいつが、反応する。
だが。
遅れる。
――一瞬だけ。
その隙。
俺は、踏み込む。
ナイフを、振り抜く。
「っ……!」
深く入る。
肩口。
肉を裂く感触。
血が飛ぶ。
コメント欄が爆発する。
『入ったあああ』
『読み勝ち!』
『やべええええ』
そいつが、後退する。
初めて、大きく。
「……いいな」
低く呟く。
だが。
笑っている。
まだ、余裕がある。
◇
「でも」
そいつが、手を上げる。
次の瞬間。
空間が、歪む。
無数の“俺”が現れる。
全部、本物。
全部、違う死の分岐。
「どれがお前だ?」
そいつが笑う。
コメント欄が騒ぐ。
『分身!?』
『無理ゲー再来』
『詰みだろこれ』
俺は、息を吐く。
そして。
ゆっくりと、構える。
――一つに絞るな。
さっき、学んだ。
なら。
やることは一つ。
全部、見る。
全部、受ける。
そして。
――全部、否定する。
◇
「……来い」
小さく呟く。
その瞬間。
無数の“俺”が、一斉に動く。
攻撃。
回避。
罠。
全部。
同時。
コメント欄が絶叫する。
『無理無理無理』
『耐えろ主人公!!』
『ここが山場だ!!』
俺は、動く。
考えない。
感じる。
そして。
――選ばない。
全部を、ずらす。
紙一重で。
避ける。
流す。
捌く。
◇
「……っ!」
そいつの声が、初めて揺れる。
予測が、追いついていない。
俺は、踏み込む。
一瞬。
全ての分身が、重なる。
その“中心”。
そこに。
――本体。
俺は、迷わず突っ込む。
「終わりだ」
ナイフを、突き出す。
そいつの胸に。
深く。
確実に。
刺さる。
◇
静寂。
全てが、止まる。
分身が、消える。
コメント欄が、一瞬止まり。
そして。
『勝った!?』
『マジで!?』
『主人公えぐい』
爆発する。
だが。
俺は、動かない。
ナイフを握ったまま。
そいつを見ている。
そいつが、ゆっくりと笑う。
「……やっと、ここまで来たか」
嫌な予感。
胸騒ぎ。
「これで」
そいつが、囁く。
「“次”に進める」
その瞬間。
俺の視界に、新しい“ログ”が浮かぶ。
それは。
――“俺が、俺に乗っ取られる死”。
息が止まる。
コメント欄が凍る。
『え?』
『なにそれ』
『終わりじゃん』
そいつが、笑う。
そして。
崩れながら、言った。
「次は、お前が“こっち側”だ」
その瞬間。
意識が、引きずり込まれる。
深く。
暗い場所へ。
俺は、理解する。
――まだ、終わっていない。
むしろ。
ここからが、本番だ。




