選んだ死、残した一手
――選ぶしかない。
無数の“俺の死”が、視界いっぱいに広がっている。
喉を裂かれる死。
焼かれる死。
潰される死。
裏切られて刺される死。
どれもリアルで、どれも“起こり得る”。
「……どれだ」
俺は歯を食いしばる。
選ばなければ、全てに飲まれる。
だが。
選べば――それが“確定する”。
耳元で、あいつの声が囁く。
「ほら、選べよ」
楽しんでいる。
完全に。
「お前の未来だ」
コメント欄が荒れ狂う。
『無理ゲー』
『どれ選んでも死ぬ』
『詰んでる』
だが。
違う。
全部見たからこそ、わかる。
――“違和感”。
◇
俺は、一つの映像に集中する。
ナイフで喉を刺される死。
さっき見たやつだ。
自分で刺しているように見えて――違う。
背後に、影がいる。
「……これだ」
小さく呟く。
コメント欄がざわつく。
『それ選ぶの?』
『一番ヤバそう』
『自殺ルートじゃん』
違う。
これは。
――“他殺ルート”。
つまり。
“敵が干渉する死”。
俺は、ゆっくりと目を開ける。
「それ、選ぶのか」
あいつが笑う。
「ああ」
短く答える。
そして。
ナイフを握る。
手が震えている。
怖いに決まっている。
だが。
これしかない。
◇
「……来いよ」
低く呟く。
その瞬間。
世界が、切り替わる。
目の前に、もう一人の俺。
ナイフを持っている。
同じ構え。
同じ呼吸。
そして。
――同じ目。
「……なるほど」
そいつが呟く。
「それを選んだか」
俺は、構えたまま答える。
「お前が来るルートだろ」
一瞬。
そいつの動きが止まる。
コメント欄が爆発する。
『当たり!?』
『読んだ!?』
『やばいぞこれ』
そう。
この死は。
“あいつが関与する死”。
つまり。
必ず現れる。
◇
「……面白いな」
そいつが笑う。
そして。
一歩踏み出す。
「なら、やってみろ」
次の瞬間。
消えた。
気配が消える。
だが。
わかる。
来る。
――背後。
俺は、振り返らない。
そのまま。
ナイフを、自分の喉に向ける。
『は!?』
『また自殺!?』
『やめろ!!』
コメント欄が叫ぶ。
だが。
構わない。
俺は、突き立てる。
――ギリギリで、止める。
その瞬間。
背後から、手が伸びる。
ナイフを押し込もうとする。
だが。
俺は、待っていた。
「捕まえた」
低く呟く。
その手を、逆に掴む。
空気が、震える。
そいつの姿が、露わになる。
「……っ」
初めて。
そいつが、驚いた。
コメント欄が爆発する。
『うおおおお』
『逆手に取った!』
『天才かよ』
◇
「お前、いつもこうやってるんだろ」
俺は、腕をねじりながら言う。
「死を“確定させて”から、介入する」
そいつは、黙っている。
だが。
抵抗が強くなる。
「でも今回は違う」
さらに力を込める。
「俺が“選んだ”」
その一言。
動きが、止まる。
“支配権”が揺らぐ。
コメント欄が騒ぐ。
『主導権奪った?』
『どういう理屈!?』
『バグってる』
そう。
今までは。
“見せられていた”。
だが、今回は違う。
――“選んだ”。
その差。
それが。
この状況を変えている。
◇
「……いいね」
そいつが、低く笑う。
「やっと、“こっち側”に来た」
背筋が冷える。
嫌な予感。
「じゃあ、これはどうだ?」
次の瞬間。
視界が、歪む。
無数の“死”が、再び流れ込む。
だが。
今度は違う。
――全部、同時。
「っ……!」
頭が割れそうになる。
情報が多すぎる。
処理できない。
『やばい』
『耐えられないだろ』
『これ終わった』
膝が、崩れる。
手が離れそうになる。
だが。
離したら終わりだ。
俺は、歯を食いしばる。
そのとき。
耳元で、別の声が囁いた。
「……一つに絞れ」
静かな声。
今まで聞いたことのない声。
「全部見るな」
理解する。
俺は、目を閉じる。
そして。
――一つだけ、選ぶ。
さっきの“他殺”。
その一点に集中する。
すると。
ノイズが消える。
視界が、安定する。
◇
「……なるほど」
そいつが呟く。
少しだけ、楽しそうに。
「使い方、分かってきたな」
俺は、息を整える。
そして。
そいつを睨む。
「次は、お前だ」
低く言う。
コメント欄が爆発する。
『逆転きた!?』
『ここから勝てる?』
『熱すぎる』
俺は、ナイフを構える。
だが。
そいつは、笑ったまま。
「まだだよ」
その一言。
次の瞬間。
背後から――気配。
ありえない。
掴んでいるはずなのに。
俺は、振り返る。
そこに。
もう一体の“そいつ”がいる。
「……分裂?」
理解が追いつかない。
コメント欄が騒ぐ。
『増えた!?』
『チートすぎ』
『無理だろこれ』
最初に掴んでいたやつが、囁く。
「“残留思念”って、そういうもんだろ?」
背筋が凍る。
そう。
こいつは。
――一体じゃない。
◇
前と後ろ。
挟まれる。
逃げ場はない。
俺は、息を吸う。
そして。
小さく笑った。
「……上等だ」
コメント欄がざわつく。
『まだやるのか』
『主人公メンタル強すぎ』
『でも詰みじゃね?』
俺は、ナイフを構え直す。
そして。
心の中で、呟く。
――一つに絞れ。
なら。
やることは一つ。
“殺される未来”を選ぶんじゃない。
――“殺す未来”を選ぶ。
次の瞬間。
視界に、新しい“ログ”が浮かぶ。
それは。
――“俺が、あいつを殺す死”。
俺は、息を吐いた。
そして。
笑った。
「……見つけた」
その瞬間。
世界が、書き換わる。




