十傑のひとり、喰らえるか?
──地下区画、第十三層。
リードに案内された先は、
腐臭と魔素が入り混じる薄暗い回廊だった。
壁が脈動している。
床には魔術式と呪詛の痕。
ここは明らかに“都市の表面”とは違う。
「ここが裏十傑の一角が陣取る区画──“歪牢”だ」
リードがつぶやく。
「奴はめったに人前に姿を見せねぇ。
でもお前が現れたことで、少しだけ興味を持ったらしい」
(……監視されてたか)
当然だ。
あの魔獣を潰した時点で、
この街の“下”に響かないわけがない。
◇
扉が音もなく開いた。
中にいたのは、
玉座のような椅子に斜めに座る一人の人物。
──全身を黒布で包み、
顔は仮面。
片手にはカップ、もう片手には杖。
喋らない。動かない。
ただ、こちらを“見ている”。
(……こいつが?)
リードが小声で言う。
「“断罪者ハリエット”。裏十傑・第六位。
罪を喰らい、呪いを喰らい、今や何を喰っても飢えが満たされねぇ」
沈黙が落ちる。
やがて──
ハリエットが口を開いた。
「……“喰らう者”、リュカ」
「お前の名前、聞いてないが?」
仮面の奥から
カラカラとした笑い声。
「私たちの世界には、名前の届く範囲がある。
“喰らった痕跡”が多すぎて、君の名はもう、ここまで届いてきたのさ」
「──それで? 会いに来たのは俺だが、あんたは何がしたい」
「試すだけだよ。
君が“こっち側”の怪物になれるのか、ね」
その瞬間。
空間が歪んだ。
呪詛。封印。再生。毒。精神干渉──
あらゆる属性の“スキル”が、部屋中に重なって襲いかかる。
(ッ──!)
俺は右手をかざし、
魔素吸収を展開。
一部は喰らい、一部は跳躍で躱し、
強化骨格で突破。
だが、全部は対処できない。
視界が、揺らぐ。
「──そうそう、君はまだ“まとも”だった」
ハリエットの声が遠くなる。
「だから、“こっち側”に来るには……もう一段、喰らわないとね」
ズズズ……
床が消える。
世界が反転する。
俺の身体は、
重力も空間も無視して、黒い底へ落ちていった。
(落ちる──?)
違う。
これは“落とされた”んじゃない。
──“試されてる”。
こっから先が、“裏十傑”の世界だ。
まともな奴なんて、一人もいない。
(面白ぇ)
落下しながら、俺は拳を握った。
「なら──その底ごと、喰らってやるよ」




