聖なる水
私達は、ザルード大公以下捜索隊に守られ無事パルバク王国に入り、その後丸一日かけてザルード大公の屋敷まで案内されます。
赤い騎士は、道中ザルード大公と何やら話をしていましたが、もう大丈夫と言い、指輪の中にするりと消えて行きます。
翌日の午後、私は大公殿から助勢の感謝を伝えられます。そして・・・、
「お疲れの所申し訳ない。本日夕刻、我が孫息子の婚姻の儀に参列して頂けないか・・・」
再び妨害されぬよう、婚姻の儀式を関係者だけで急ぎ行うとの事。私は、否応もなく承諾しました。
婚姻の儀式の説明で興味を引いたのが、近くにある神聖な井戸から、神官が水をくみ上げ結婚する二人に与えるとか。私は、神聖な井戸という場所を見学させて欲しいと伝えます。
「ちょうど良い、襲撃があったという事で、巫女を同道させておらん。補助をお願いできるかな?」
私は、了承を頂き聖なる井戸に案内してもらいました・・・。
訪れたのは、屋敷から離れた場所にある古い小さな井戸でした。癒しの水場ではなさそうですが、きっと何か謂れがあるのでしょう。
「では、始める故、儂が水を入れる間、この器を持っていて欲しい・・・」
と言われ年季の入った革袋を持たされます。
神官殿は、注意深く革袋に水を入れ始めます。すると、先ほどまで何も感じなかった水が、キラキラと溢れんばかりの輝きを放ちます。
「おお、水が喜んでおる。御身をお気に召したらしい・・・」
神官殿は、微笑みながら私にそう告げ、水を入れた革袋を抱え屋敷に戻りました。
邸内では国境で襲撃を受けたシュマさんの随身や護衛達、そしてアルージュ卿の護衛達がちょうど戻ってきたところです。
負傷している者もいますが命に別条はないとのこと。若い二人はそれを聞いて安堵し、はぐれた二人を案じていた随身や護衛達と、邸内で涙の再会を果たします。
「ああ、花婿殿、花嫁殿、こちらへ!」
神官殿は、革袋に入れた水を杯に入れ二人に飲ませます。アルージュ卿とシュマさん、恐る恐る水を口にします・・・。
「おお、これはすごい!」
「元気が溢れてきます!」
神官殿、二人の喜びの声をうれしそうに聞くと、今度は随身や護衛達に水を分け与えます。すると、水を口にした途端、皆が叫び始めます。
「え? 傷が治っていく・・・」
「信じられない、痛みが消えました・・・」
その言葉を聞くと、私は井戸に思いを馳せながら感謝の言葉を口にしました・・・。
一方、神官殿、柔らかな表情で皆の様子を満足気に眺めておられました・・・。




