表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりの天下びとー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第丗一章・雲州尼子大包囲【天文廿四年四月廿三日(1555年5月13日)~】
302/314

雲州尼子大包囲2-1

ー2ー



 端的に書いて良いのであれば、備前国天神山の主・浦上宗景が激怒することは決してなかった。


 ただ、彼は毛利の使者の言葉に面食らい、使者の前で平静を取り繕うのに苦心していた。


 毛利家の使者が備前国、浦上宗景のもとに訪れたのは同月晦日(1555年5月20日)頃。


 天神山山麓にある宗景の屋敷において、使者のほうから、隣国の播磨赤松惣領家に協力を取り付けるの日にちを要し、さらに今回の備中三村氏との取り決めに対する事後報告の詫びの品として、毛利家より和泉国堺(現・大阪府堺市)より新機軸の火縄銃と弾丸に使用される鉛、それに火薬の原料となる硝煙を用意するのに時間を要してしまったのだとの報告を受けた。


 鉄砲伝来より十余年。新機軸の火縄銃は、もとは毛利家が船戦を想定して考案したものとなる。


(……果たしてこれは、どう受け取ったものか。)


 銃身を木枠で密に覆い、船上における波飛沫、あるいは鉄の天敵であるところの潮風から銃身を守りつつ、さらには脇に構えることで安定感を求めて射撃精度を高めることもできるという。


 実際、使者から差し出された鉄砲を手に取ってみると、宗景自身が事前に入手していた従来型と比べ、やや重量は重くなっていたものの、重心を手元側に移動させる工夫が施してあり、これならば左腕の負担が軽減が見込め、同じ姿勢でより長い時間敵に狙いを定めることができる。


(それに、持ち手の木が大きくなった分、熱の遮断に秀でておる。射撃で腕を焼かず、さらにもう一度弾を放った後も続けて使用することを想定しておるかも知れん。)


 実際には、射撃後の放熱の関係でしばらく時を置かねば発射時の発熱で暴発する可能性があるのだろうが、その時間くらいは城内の弓や投石で間を持たせることもできる。


(……船戦を考えて、と使者は申しておったが、恐らく雨や湿り気なども視野に入れておる。そうでなければここまで銃身を密閉する理由が見つからぬ。)


 宗景は毛利の使者に感謝を言葉を述べて部下に屋敷の外に送らせた。 

 弾薬用の鉛と硝石の量について秘中の秘。当時の記録や文献には残されていないが、まず間違いなくそれなりの分量であったことは間違いはない。


「……御屋形様」

「なんだ」


 宗景が振り向くと、そこには浦上家重臣・大田原長時の姿があった。


 長時は備前和気郡出身の豪族で、宗景の旗上げ時からの宗景の支持者であり、よき理解者であろうとしていた。


「御屋形様、どうなされたのですか。先ほど、使者殿より詫びの品をお受け取りになってから、一層顔色が曇っておいでのようですが……」


 確かに、宗景の顔に、新式銃や大量の鉛、高価で希少な硝石に対する喜びの色は一切ない。むしろ冷徹に現状を見極め、事態の分析を行おうと苦悩の色が滲んでいた。


「……そちの目にはお見通しか。儂もまだまだよな」


 自嘲気味に宗景が笑うと、長時は非常に心配した様子で主君を見上げていた。


「これらの献上物と使者殿の言葉、そっくりそのまま素直に受け取って良いものかどうかを悩んでおる」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ