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ふたりの天下びとー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第廿九章・西播怪談実記草稿十四【天文廿三年十二月十一日(1555年1月13日)~】
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33・西播怪談実記草稿十四4-2


 それゆえであろうか。


 一定の功績を上げたと見た赤松惣領家は、義祐に高砂の陣から撤退するよう促し、三好勢からも播磨撤兵の許可を取るように使者を送り、これ以上政治的に深入りすることを避けた。


 このふた月の間、最前線における赤松軍の窮状を見てきた三好側はさすがに憐れに思ったのだろう。三好義賢は西と南側の封鎖線を独力で維持する算段が付いた時点で赤松家の役割を終わったものと判断し、義祐に参陣に対する感謝を述べ、赤松軍全軍の播磨撤退に特に条件を付けることもなく同意したという。

 

 さて、七条政範が去り、三好勢との同盟関係を維持したまま、赤松軍が無事に帰国した後の東播磨戦線について、筆者としてはあまり多くを記載することはない。


 残った三好勢は、当主長慶出陣の手前、一旦は別所方の籠る諸城に攻め寄せようと画策している。しかしながらかつて出雲尼子三万の猛攻を凌ぎきった別所方の城は巧みに連携を取りながら応戦し、三好軍のそれ以上の侵攻を許さなかった。


 二月に入り、攻め手に欠く三好軍と後詰めの見込みのない別所方の間で和睦に向けた動きが俄に見られ始め、しばらくして両者の間には停戦が結ばれ、三木別所一族は三好勢と行動を共にすることになる。


 三好軍の播磨撤退は同二十七日。


 阿波、淡路、塩飽諸島から明石一帯を支配下に置いて、畿内への道中の後顧の憂いを絶った三好軍は悠々とそれぞれの拠点へと帰り、播州にはしばしの平穏が訪れた。


 少し付記するのであれば、この東播戦役においてもう一つ、赤松家内部で人知れず小さくも大きな陰の戦いと呼ぶべき政争あった。


 それは得平一族の所領問題。このとき赤松義祐の軍勢には、得平源四郎(とくひらげんしろう)得平左馬助(とくひらさまのすけ)の二人の得平一族が従軍していたことが記録の上で判明している。


 源四郎の父で赤松記の作者・得平定阿(とくひらじょうあ)の言葉が正しいのであれば、左馬助は定阿・源四郎親子の所領を晴政の腹心の祝融軒光慶(しゅくゆうけんこうけい)の力添えを得て横領し、あれこれ理由をつけて知らんふりを決め込んでいた。

 

 源四郎と左馬助。非常に微妙な関係の二人を同じ軍に入れる判断を下した赤松家の剛毅さにやや疑念を覚えるが、ある時点において左馬助は陣中から行方をくらませる。原因は分からない。ただ、左馬助の失踪を幸いとして、赤松軍帰国後の三月十七日、定阿・源四郎親子は元の領地を取り戻し、本来の筋である得平惣領家を再び名乗ること許された。


 長年の所領問題に相手から終止符を打ってくれたものとして、定阿親子の喜びもひとしおのものだったに違いない。


 ただ一点、『左馬助が二度と播磨に足を踏み入ることが許されぬ』といった旨を伝える左馬助の国外追放の命令書が、晴政の手で定阿・源四郎親子に渡されていることが気に掛かる。筋から言えば、左馬助本人か左馬助に関連する『めし殿(洞松院)』にゆかりのある人物に託けられるべきものとなる。


 だが、その筋を曲げて、晴政はわざわざ政争相手の得平親子に渡している。


 得平左馬助が本当に自分の意思で戦場から失踪したのかどうか。前述の通り、今回の高砂出陣は赤松軍は非常に困窮する中で長陣が行われた一方で、実は戦らしい戦は発生していない。


 穿った見方かもしれないが、得平左馬助はこれ以降の歴史に登場することはなく、他に史料はなにもない。この物語を平成年間まで伝え続けて来た歴代の語り部達は疑問にも思わず、ただ定阿・源四郎親子の手に元の領地が戻った事だけが事実だけを伝えている。


 相変わらず歴史の闇は深く赤松家の周りを覆い隠し続けている。

【赤松記】

・天正十六(1588)年、八十路を超した赤松一族の得平定阿が書き上げた赤松家の歩み。後期赤松家の歴史を語る上では重要な書。


天文廿四年正月の段階において、政争に敗れて得平惣領家を追い落とされた定阿は西播磨を脱し、東播磨の三木近くの小河(おうご)村に居を構えていたが、晴政からの要望で再度置塩に召喚されていた。


息子の源四郎は高砂の義祐の陣に参戦していたが、定阿本人は置塩に詰めており枝吉城攻めには参加していなかったことが記されている。

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