いざ、アトランティス帝国へ
目撃情報を元に、俺たちはアークが向かうアトランティス帝国を目指していた。
半蔵さん達、そして陽葵さんとの共闘。出来れば二人を最後まで見届けたかったが、俺たちはアークを止めなくてはならない。
「フルル達は大丈夫なんでしょうか? 俺たちと合流する前にアークと鉢合わせたら……」
「気にするでない。鉢合わせぬよう、海路を指示しておる」
とは言っても、あの三人組の事だ、道に迷ったりしかねない。かなり不安だ。
「アトランティス帝国か……あんまり長居はしたくねぇな」
「治安の悪い国なんですか?」
ゼルさんが嫌がるほど何かあるのだろう。魔物だらけだとか、盗賊だらけだとか……
「いや、ごく普通の国だ。だけど……なーんか臭うんだよな」
「臭う……とは?」
「やばい臭いがすんだよ。うまく言えねぇけどな」
「野生の勘、じゃな?」
ごくごく普通の国か……そこを目指すアークの意図が分からない。攻略しやすそうだからか? それとも、ゼルさんの感じてる事と何か関係が……
あの二人の精霊が厄介だが……こっちはあの林檎を持っている。一人は封じたも同然。
問題はあのロリ。あいつが魔法を使っているところを見た事がない。どんな精霊なのか見当もつかない……。
「あの島がアトランティス帝国だ」
ゼルさんが指さす方に視線をやる。とても帝国とは言い難いほど小規模な島。
島は、岩でできた山のような形状で、崖の傾斜を利用した建物の数々、山頂に聳える城で形成されていた。
ここが帝国……か。ただの小規模な島にしか……とても国とは言い難い。
「かなり小さいですね」
「ああ、人口も少ない小規模な国だ」
港に降り立つ。賑やかさはどこにもない静かすぎる港。
どうしてアークはこんな国に……
「あら? 貴方達も来ていたなんて……奇遇ね」
嫌というほど聞き覚えのある声が背後からした。振り返ると、やはりそこには矢神の姿が。ほくそ笑むその顔に殺意を感じる。
「なんでお前らまで……」
「その言い方……他にも目当てがいたの?」
面倒な事になった。アークだけでなく矢神までいるとなると……あの二人に手を組まれたりしたら……
「お前らもグリモワールを探しに……」
「ご名答。……って事はわたし達以外にもグリモワールを狙ってる連中がいるのね」
矢神は、ゼルさんの問いかけで完璧に察したようだ。
お互いグリモワールを狙う者。ここで戦ってくれたら助かるんだが……
「姫、こんな奴等と喋っているのは時間の無駄です。他の連中がいるのなら急がなくては」
「それもそうね。ふふ……また会いましょう」
矢神はそう言い残すと、ルプスの腕を引いて去っていった。
そういえば、いつも矢神にべったりなリンクスがいない……何かあったのか?
「矢神の後を追いましょう! そし……」
「あの……」
俺の提案を遮るように聞こえてきた声。その声の主は小さな女の子。年齢はだいたい五歳くらいか? こんな人気のない港に一人でいるなんて……迷子か?
「わたし……迷っちゃって、ママとパパに会いたいよ……うぅ」
「な、泣くでない……ほ、ほら、街まで連れて行ってやろう」
えぇ……白露さんの焦り具合。子供と接するのが苦手なのか? ……意外だな。
「ほらよ! 肩車! 見つけたらおっきな声で呼ぶんだぞ!」
ゼルさんは女の子を肩に乗せた。先程まで泣いていた女の子も笑顔になり、泣き止んでいた。見た感じゼルさんの方が父親っぽいというか、兄貴っぽいというか……
「あ! イオリ!!」
遠くから聞こえてきた声。きっとこの声は……はぁ、タイミング悪い。
「フルル?」
「やっと会えたでござるー……って、お二人はいつの間に子供が……?!」
「えっ?! 二人の子供だっていうの?! えっ? えええ?!」
ゼルさんの肩に乗る女の子を見るなり腰を抜かすフルルとアスタロトさん。ほら、やっぱりめんどくさい事に。
「な、な、な……何を言っておるのじゃ! この女児は迷子で決して私達の子供では……にゃいじょ!……っ!」
顔を茹蛸のように真っ赤にして声を荒げる白露さん。動揺しすぎだし噛んでるし……。いつもの冷静さは何処へ……
「迷子でござるか……どうするでござるか?」
「わぁ! わんわんだ!」
「わっ! フルルは犬じゃないでござるよ~……うぅー……」
フルルは、女の子に耳を触られ困惑している。そんなことを言いながら、まんざらでもないようで、しっぽをブンブン振っている。
「……コホン。とりあえず街の方までこの女児を連れて行くのじゃ」
「街はね、この道をまっすぐ行くんだよ!」
俺たちは女の子の指さす方へと向かった。
これじゃ矢神達を見失ってしまう。まぁ、もう手遅れだろうがな。
◆◇◆
人気のない道をしばらく歩くと、開けた場所に出た。そこに広がる景色は、まさに港町。レトロな野外バルのような場所はとても賑わっており、沢山の酒場や店が並んでいる。
そこから少し離れたところに建つ、街並みにそぐわない豪勢な城。矢神とアークはきっとこの城へ向かっているのだろう。
「昼間なのにすげー賑わいだな、俺も混ざりてー!」
「馬鹿言うでない。この任務が無事に終われば……少しくらいは許してやろう」
「それよりも、街並みと城の格差が凄いですね。街は、なんていうか……レトロなアメリカンスタイルというか……」
「あめりかん……?」
フルルが呟くのと同時に、皆首を傾げた。
あ、この世界にアメリカは存在しない。伝わるはずもないか。
「いや、何でもないです。とりあえず、違和感が……」
「だがよ、城の中はごく普通だぜ?」
そんな話をしながら歩いているうちに、いつの間にか城への大通りへ入っていた。真っすぐと城へのびる一本道。その脇には先程とは違って綺麗な街並み。港町の様なレトロさは何処にも無くなっていた。
「ママたちに、会えるかな……?」
不安そうに呟く女の子。街に出れば、親らしき人が探しているだろうと思っていたが……まだ出会えていない。正直この子の親を探している暇はないんだが……このまま放置していくなんてできない。困ったものだ。
「大丈夫! きっと会えるでござるよ」
「わんわんとも?」
「え……も、もちろん! きっとまた、会えるでござるよ!」
女の子は寂しいような表情で、ゼルさんの肩から降りてフルルの袖にしがみ付く。
少し戸惑いながらも、嬉しそうに女の子の頭を撫でるフルル。
完璧に懐いているようだ。女の子も、フルルも。
「じゃあ、城に行く前にあっちの通りに行ってみっか」
ゼルさんが指さした方を見てみると、大通りから少し外れた通りがあった。街の人に尋ねてみながら探そうという作戦だろう。
「え……?」
突然、フルルが驚きの声をこぼす。
「どうしたんだ? …………っ?!」
女の子が、消えた。
俺たちがゼルさんの指さした方を見た一瞬、たった三秒ほどの間に女の子は居なくなっていた。
ここは城へとのびる一本道。前にも後ろにも女の子の姿は見当たらない。
文字通り〝消えた”んだ。




