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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第3章 勇者イオリ、光の王を従えたい。
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紫月と夜を統べる神


 フルルから聞いた昔話通り、森全体が紫の煙に覆われていた。毒ガスかと警戒したがどうも違う、本当にただの霧のようだ。


「あまり急ぐと迷ってしまいそうですね」

 ここは慎重に進まなくては……本当に迷って出られなくなってしまう。まるで富士の樹海のよう。



「あの……さ、イオリ」

 アスタロトさんは遠慮がちに訪ねてきた。どうしたんだ、いつものアスタロトさんらしくない。


「どうしたんですか?」

「最近変な夢を見るの。最初は〝誰か大切な人を守るために強くならなきゃいけない。でも、その大切な人に触れたいのに触れられない”って夢で……そこから一週間に一度のペースで、あたしじゃない誰かが主軸の夢を見るの……だんだん怖くなって」


 自分じゃない誰かが主軸の夢か……誰かの不安を読み取っている? 何かの暗示か?


「自分じゃない誰かの夢を見る……か。その主軸は誰なのか分かりますか?」

「それが、分からないの……出てくる人も、その主軸もぼんやりしていて見えないわ」


 かなり不思議な夢だな。今までそんな事例聞いたことがないし見た事もない。それが何かの暗示なのか、それともただの夢なのか……。何かの暗示だった場合、安易に見過ごせない。一度アンジュに戻ったら先生に相談してみよう。あの先生ならオカルト系統は得意だろう。


「ねぇ、あれって……」


 アスタロトさんの指さす方に視線をやる。

 十名ほどの騎士が何かを持ち上げて運んでいるのが見える。


「棺桶……?」

「みたいだな」


 俺たちは騎士の元へ駆け寄った。この棺桶の中に、あの怪盗がいたら……


「あの、これから誰の葬儀を行うんですか?」

「……君たち、この国の人間ではないな?」


 ……っ! 迂闊だった。国民なら誰の葬儀を上げるか知っているはず。それに、今はディアーブルとの戦争中、警戒されないわけがない。くそ……そこまで考えていれば!



「これを見て頂戴、あたしたちはアンジュの国民よ」



 アスタロトさんは服の袖を捲って天使の羽のような刻印を見せた。



「これは、アンジュ国民の証……失礼した」


 騎士は深く頭を下げる。アンジュ国民の証か、そんな物があったなんて今まで知らなかった。こんな、青の光を放つ天使の羽の刻印……



「今から国王の葬儀を行うんだ。聞いてないか? ディアーブルの人間に殺されたんだ」

「なっ……! アイツの言ってる事と違う……」

「違うと思うなら葬儀に来るといい。この棺桶に入っているのが国王だと証明できる」


 やっぱり俺の思った通り、あの怪盗は王を殺して、何者かに敵討ちされたって事か……

 にしても黒く跡が残るほど首を締めあげるなんて相当な筋力を持った人間がいるという事。穏やかな国とは聞いていたが……侮れないな。


「その……これからどうするんですか?」

「どうするとは?」

 騎士は真顔で問いかけてくる。

 それは勿論「王が亡くなった次の後継者はどうなるのか」という事だが……こうも何食わぬ顔で返されると聞きたい事も聞けない。


「いえ、何でもないです」

「そうか、ならば失礼する」


 騎士は俺たちに一礼すると棺桶の元へと駆けていく。その途中、騎士は何故かこちらを振り返った。



「もうじき儀式が始まる。早くこの国を出た方が良いぞ」



 それだけ言うと、再び騎士は棺桶めがけて走り去って行った。


「儀式って……?」

 アスタロトさんは不思議そうに問いかけてきた。

 そんな事を聞かれても、俺が知るはずはない。だが引っかかる……ただの儀式をするのに「早くこの国を出た方が良い」と忠告をするなんて……国王の葬式と何か関係があるのか?


「MPMに保存している魔法の歴史書物を探してみるわ」

「助かります。俺たちがもうここにいる理由は無くなりました、戻りましょう!」


 俺たちは来た道を戻るために振り返ると、そこには赤と黒の甲冑を装備した騎士の姿が。

 赤と黒……恐らくディアーブルの騎士だな。甲冑があの二人組とは違う。ただの雑魚兵か? にしても、こんなところで一体何を……


「…………」

 ディアーブルの騎士は俺たち二人を見つけるなり短剣を構えた。その構えに揺るぎはなく、今にも襲い掛かってきそうな様子だ。


「待ってくれ! 俺たちは、アンジュの人間だ。やが……姫に頼まれてここの国王を探していたんだが……」

「…………」


 慌てて説得すると、騎士は無言で短剣を下ろした。今は戦争中だ、かなり警戒心が強いようで、信用してくれたかも定かではない。が、ひとまず安心してよさそうだ。


「貴方はどうしてここへ?」

「……奪われたグリモワールを探している」


 ディアーブルの騎士はそれだけ言い残すと立ち去って行った。幸いにもさっきの遺体を運んでいた騎士たちとは別の方向へと行ってくれた。だが、万が一鉢合わせたら……


 まずい、早く矢神達と合流して戦争をやめてもらわないと。




 ◆◇◆




「フルル! リリアン!」

 矢神達の居る場所へ戻る前に、俺たちが使用していた馬車を見つけた。その中にはフルルとリリアンの姿が。

 フルルは俺たちの姿を確認すると、リリアンを引きずって馬車から降りてきた。


「イオリ! アスタロト様! お帰りなさいでござる!」

「ただいま。それで、戦況は?」

「それが……ディアーブルの騎士たちが城門を破壊しようが威嚇射撃をしようが、全く反応を示さないんでござる……」


 ガン無視って事か……相手にするまでもないと思っているのか、本当に温厚な国で争いをする気はないという表明なのか……どちらにせよ、無視され続けるとこいつらは……



「だから、姫たちは城に乗り込む準備を始めてるでござる……」


 ……やっぱり。あいつらがこのまま引き下がる訳ないよな。ソルシエールの国民がどういう意図でガン無視をしてるかは分からない。だが、それは矢神達にとって煽りでしかないって事は確かだ。罪のないソルシエールの国民を助けるためにも矢神を止めないと。




「矢神っ!」


 二人組を引き連れてMPMを見ていた矢神。呼びかけると顔を歪めた。


「だから、わたしはサリーよ。それで、何?」

 溜息をついて問いかけてきた。こいつ……本当にあの怪盗が王を殺してないと思ってるのか? 


「やっぱり、ここの王を殺したのはあの怪盗で間違いないみたいだ。だから、戦争をやめてくれ」

「何故? けれどあの子を殺したのもここの国民でしょう?」


 こんな事をしたって何の解決にもならないし負の連鎖が起こるだけだ。こんな戦争、何も生み出さない。戦争をしたらソルシエールの国民だけじゃなくてディアーブルの国民だって死ぬかもしれないんだ。戦争なんて間違ってる。


 とはいえこの時代に法律はない。一体どうすれば……



「それは……」


 俺の言葉を遮る用に、視界は段々と暗くなってゆく。

 ――そう、一瞬で太陽が沈み、夜になったかのように。


「ちょっと、これは……――っ?!」


 鬱陶しそうに呟くアスタロトさんは突然血相を変えた。俺たちはアスタロトさんの視線の先に目をやる。



「なんだ……あれ……!」


 夜空には紫色の月が昇っていた。その月は光を纏うように輝いている。


「さっきまで昼だったでござる……なんでこんな……」

「……見て、霧が晴れてる」


 呆然と立ちすくむ俺たちにリリアンは呼びかけ、森の方を指差した。

 さっきまで確かにあった、あの紫色の霧がない。あの月と何らかの因果関係があるのは確かだが……冷静に推測してる暇はないだろうな。


「あ……」


 そうだ、ソルシエールの騎士が言っていた〝儀式”ってもしかしてこの事だったのか……だとしたら危険な可能性がある、俺たちに害があるかもしれない。尚更早く退かないと……!


「ソルシエールの国民は何らかの儀式を始めてる。この国から出るよう忠告するほど危険なものという可能性が高い……だから、早く退くんだ!」

 そう叫ぶと、明らかに顔色を変える矢神。

 即急に兵に指示を出して退却しなくては……ディアーブルの騎士たちの命も危ない。


「矢神! 早く兵に指示を!」

「……っ! 分かったわ……!」

「グリモワールを探しに行ってる奴らにも早く集合をかけるんだ。早くしないと!」




「え……? 兵にグリモワールを奪われた事は話していないわよ……? それに、兵は全員この駐屯地にいるはず」



 ――……?! 何だと? それならさっきの赤と黒の甲冑の騎士は何者だ? あの騎士は確かに「奪われたグリモワールを探している」と言っていた。あの騎士の顔に見覚えもない、ごく普通の国民みたいだった。


 あいつは一体誰だ……?



「イオリっ! 月が……っ!!」

 フルルの声でハッと我に返り、指された方を見る。先程見た時に比べて、確かに月は大きく姿を変えていた。


 こんなの……めちゃくちゃだ。

 一体何が起きようとしてるんだ? こんな現実離れした光景……予想すらできない。



 幸いディアーブルの騎士たちは矢神の指示に従って撤退の準備を始めている。俺たちも早くここから出ないと……


「サリー様! この国の出口が……ありません」


 ディアーブルの騎士は、矢神の前に跪いた。その額には冷汗がダラダラと流れている。

 出口がない……? 俺たちは確か南の森から抜けてきたはず。ただ来た道を戻れば……


 南の森……どこから見て南だったのか? この国、よくよく見てみたら森に囲まれている。さっきアスタロトさんと入った森も、俺たちを囲っている森も全て、繋がっているのか分かれているのかさえ見分けがつかない。


「足を踏み入れると二度と帰れない……」


 静かに呟いたリリアンの言葉に皆の表情は凍り付いた。

 まさかあんな子供だましだと思っていた昔話が本当だったなんて……


「この月……大きくなっているんじゃない。満月に近づいている」

 長身男が言う。最初に紫の月を見たときは三日月だった……それが今となってはほぼ満月と言っても過言ではない。


「まさか……月の神を召喚しているんじゃ」

 アスタロトさんはMPMの画面を差し出してきた。そこには〝夜を統べる神は新月に姿を現す”という表記が。



「――神の名は……」



 アスタロトさんの言葉と同時に、視界は闇に包まれた。

 月があった場所だけが金色の光を放っている。どうやら召喚に成功してしまったらしい。要するに、この神も精霊だろ……?


 雪のように白い肌、お雛様のように着飾られた十二単に、自身よりも長く艶めかしい黒髪……。

 そして閉じられた瞳はゆっくりと開く。



『……我ハ夜ヲ統ベル神ツクヨミ』



 その眼は紫に光っている。それに……アルテミスのように反響するような声。やっぱり精霊に似ている。



「大丈夫よ、ツクヨミが危害を加えてくる事はないわ! ここはあたしに任せなさい!」


 アスタロトさんは皆を諭すように言う。突然起きた数々の事で気が動転していたが、よくよく見てみると確かに敵には見えない。

 だったら何のために召喚されたんだ……?


「おい! 俺たちを国に返してくれよ!」

 ディアーブルの一兵士がツクヨミに向かって叫ぶ。


「ちょっと貴方、無礼にもほ――……ひっ?!」


 その兵の首は一瞬で消え、矢神の足元にゴトリと音を立てて落ちた。

 ……なっ?! 一瞬の間に一体何が……俺はこの兵を見ていたはず、いつの間に首を……?!


「この者の無礼をお赦し下さい……っ」


 俺は土下座をし、無我夢中で頭を下げた。コイツに逆らったら俺まで……

 それに、この魔力の量……絶対に勝てっこない。




『我ハ夜ヲ統ベル神ツクヨミ。……悪ヲ滅スル』

 その言葉が響き渡ると同時に、辺りは、文字通り血の海と化した。


「え……?」


 矢神は何が起こっているのか分からないといった表情で辺りを見渡している。

 さっきので怯え、逃げまどっていた兵士は皆、首が無い。



「いやぁぁあああああっ!!!!」



 シャワーのように断面から噴き出す血をツクヨミが照らす。鼻につく嫌な錆の臭いに吐き気すら覚えた。

 


 ――ここはまさに〝地獄”だ。



「ど……して? ツクヨミはこんな事する筈がない……人間の味方のはず……何で……?」

 唖然としながら膝をつくアスタロトさん。俺だって信じられない、純粋無垢な見た目をしていながらこんな事をするなんて……夢であって欲しいと願う。



「これは……操られてるんじゃないかな?」


 今まで黙っていたガキが突然口を開いた。こんな子供の言う事信じられる訳がないが、何があってもおかしくない状況……そう思うしかないのか?


「リンクス……どういう事?」

「僕の束縛魔法と少し似てるんだ。あの目を見て? 不自然に光ってる。普通はあんな風に光を放ったりしない。これは操られてる証拠だよ」


 ソルシエールの国民は何らかの儀式でツクヨミを召喚し、操っているという事か……。何が戦いを好まない温厚な国、だ。

 まあ、国王が殺されたんだ、そんな事考えてられないんだろう。



「呪いを解くにはどうすればいいの?」

 必死に問いかける矢神に向かって、ガキは苦笑いを浮かべる。




「倒して月に返すしかなさそうかなぁ」



 こんな規格外の魔力を持った神と戦う? 冗談じゃない。同じ土俵に立つことすらできないような相手なのに倒すなんて……一生かけても無理な話だ。



 だが……あのサタンよりは……



 こんな時あの精霊がいたら……いや、そんな事考えたってどうにもならないよな。動きを止めるだけでも出来ないか? このままだと全滅させられるのも時間の問題だ。




『煩ワシイ、一掃スル』




 一番聞きたくなかった言葉が反響する。こうしちゃいられない、何としてでもコイツを止めないと……


「もたもたしている時間はなさそうだな……」



『……深紅の血を欲する者、我の声に応え地獄から姿を現せ! ザガン!』


 矢神は目を閉じて詠唱を始めた。

 この詠唱と名前……聞いたことある。盗賊たちとの戦闘で血をワインに変えたあの……!


「矢神! 今はそんな事してる場合じゃ……」

「黙れ」


 詠唱を止めようと矢神に掴みかかろうとするが、長身男に遮られてしまう。

 クソッ……一刻を争うって言うのに……何を考えているんだ……!



「祝杯ですねぇ! 姫様!」

「えぇ……」

 矢神は俯いて小さく呟いた。




「キャハハッ!!! 血を私に……!!! 新鮮な血をッ!!!!」




 あの時と同じように、無数の首の断面から吸い取られていく真っ赤な鮮血。この光景を見るのは初めてじゃないが、慣れたものじゃない、俺は口元を抑えた。





「全ての命に……乾杯」




 首を刈り取られたディアーブル兵の亡骸に向かってワイングラスを掲げる矢神。

 涙を流しながら口元へと運んだ。



 あの時と様子が違うのは見て分かる。わざわざこんな事……どうして。



「姫は魔力を供給してらっしゃる。邪魔をするな」


 長身男は耳元で呟くと乱暴に俺を突き飛ばした。


「くっ……!」


 それならばあの時説明しておけよ……

 だが、この精霊の能力は分かった。




「よくもうちの国民を……許さない……」




 ギロリとツクヨミを睨みつけるその眼には憎しみしか見えない。

 いつも偉そうで冷酷な矢神でもこんな顔をするのか、と不覚にも驚いた。



「姫、なりません。あの精霊を使うのは……! 魔力が」

「ルプス、黙ってなさい! ――わたしは……ッ!!」



 矢神に駆け寄ろうとする長身男を冷たく突き放す。

 それから静かに目を閉じ、口を開いた。





『汝は罪を裁く闇の執行者、我は汝に魔力を捧げる者。我の声に応え地獄から姿を現せ! ――メタトロン!!』







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