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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第3章 勇者イオリ、光の王を従えたい。
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思わぬ再会


 いつもは賑やかなはずの噴水広場、今は天気のせいかどんよりしていて静かだ。フルルと兵たちが国民を避難させたのだろう。

 

 そして俺は必死にゼルさんを探した。鮮やかで濃い赤髪に、この上ない程ガッシリとした体格。

 ……いた。


「ゼルさん!」

「おお、おかえり。見つかったか?」

「はい。ゼルさん、一つ聞きたいことがあります」

 ただ事ではない、真剣な表情の俺を戸惑いながらもじっと見つめるゼルさん。そして俺は静かに問いかけた。


「"幻影の暗殺者”とは何者ですか?」

 問いかけると、ゼルさんの表情は戸惑いに染まる。どうしてそれを知っているんだ? と言いたげな表情。やっぱりゼルさんはアークと知り合いなのか? アークの過去も、全部知っているんだ。


「どうしてそれを……まぁ、今は関係ないか。そいつはこの間の悪魔の数少ない被害者だ……」

 数少ない被害者……という事はあの悪魔に深く関わっている人間。だが、その頃アークはまだ子供……。ゼルさんがアークを知っている理由が分からない。


「詳しく話してください! それじゃ何も分かりません……俺は本当の事が知りたいんです」

「この話は今じゃなくてもいいだろ?! 今は国民と王子の安全が第一だ!」


 ……っ! そうだ、だけどアークが何者なのか分からないまま無暗矢鱈に戦うなんて無理だ……

 何も分からないのに戦いに参加してもいいのか? 確かにアークがやろうとしている手段は間違ったやり方だ。でも気持ちは分かる、俺でも同じ道を辿ると思う……こんなモヤモヤした状況で、何が正しいのか分からないのにアークと戦ってもいいのか?


「ゼル殿!」

 背後から聞こえてきた男性の声、俺達二人は咄嗟に振り返る。そこには重い金属の甲冑を装備した兵の姿が。


「どうした!」

「我々はフルル殿から“国民を安全な場所に避難させて欲しい”と伝令を受けました。ですが、謀反を働いた兵がいるようで国民が数百人ほど城に避難してしまったのです! このままでは……!」

「何だと! 城はダメだ! 敵は絶対城に来る、何としてでも避難させてくれ!」

「それが……国民がパニックを起こしておりまして、気絶で倒れた国民や押し合いによる怪我を負った国民も出てきております! 我々でどうにか運び出して避難させますので、どうか……敵を城へ入れぬようお願い致します!」


 それだけ告げると兵は走り去った。こんな時に謀反を働く兵がいるなんて……


「クソっ……!! ここから城まで三百メートルもない、ここで迎え討つぞ」


 いつもに増して真剣な表情のゼルさん。

 こうなったら国民を守るために戦うしかない。アークに復讐を辞めろなんて俺に言う権利は無い。だが、俺はアンジュの国民を守りたい。だから……俺はアークを止める。


 薄々気づいていた予感は的中したようで、カツカツとヒールの音が鳴り響く、一人の物では無い足音は次第に近づいてくる。



「わざわざ忠告してやったというのに……愚かなものだ」



 アークはボソリと呟いた、その両端にはガキとイズン。今回は三人と戦わなきゃいけないようだ。


「絶対に王子は護る」

「何かを護る力がいかに軟弱か証明してやる」


 激しく睨み合う二人。大丈夫、ゼルさんならアークにだって勝てる。復讐心だけじゃどうしようもないときだってある、俺もそうだ。


「だがここで無駄な魔力を使うのは煩わしい。お前らは帰れ」


 アークがそう告げると、精霊二人は姿を消した。



「ふーん、だったら無理やりにでも戦わせるしかねぇな?」


 アークの戯言にパキポキと指を鳴らすゼルさん。魔力を無駄にしたくないという事はかなり魔力が低いんだろう。段々と勝算が見えてきた。




「全てを打ち消せ、幻影縛鎖(げんえいばくさ)




「な……っ!」

 アークの静かな囁きと共にゼルさんはピタリと動かなくなった。文字通り、影の鎖に縛られているように見える。ゼルさんの身体を這う無数の黒い鎖は段々と数を増していき……



 ゼルさん……! そう思った瞬間、燃え盛る炎が辺りを包んだ。その炎は強く、影をも包んで鎖を解かしてみせた。


「ゼルさ「おい!その魔法、一体どこで……!」

 俺がゼルさんに駆け寄るよりも早く、ゼルさんはアークへ詰め寄る。アークの魔法……そんなに珍しい魔法なのか? それとも禁忌魔法とやらを使っているとか?


「これは俺の家系に代々伝わる暗黒魔法の一種だ」


 もしかして、アークの亡き父からの……

 それに薄々感じていた一つの可能性。ゼルさんが知っているのはきっとアークじゃない。再会したとは思えないし、何よりもアークの魔法を見た時の反応……


「お前……ネビアルの……」

「……っ?! 貴様……俺の父を知っているのか?!」


 やっぱり。ゼルさんが知っている"幻影の暗殺者”はアークの父の事だったのか……


「ああ、アイツは俺達の仲間だった。だが嫁さんと結婚すると聞いて、戦いとは無縁の辺境の地へ越させたんだ。もう何十年も会ってないな……元気か?」

 ゼルさんの哀愁を含んだ問いかけにアークは憎しみを込めて放った。


「父は殺された。勿論母もだ」

「なっ……! どいつに!」

「サタンだ。貴様もサタンの一件に関わっていたんだろう。それで知らないなど……ほざけ!」

 ゼルさんは信じられないと言うような表情で俯いた。まさか仲間の犠牲者が二人だけではないなんて考えもしなかったんだろう。


「俺達がもっと早くサタンに手を打ってたら……」

「――何故あの悪魔を隠していた? そのせいで俺の両親は……!!」


 憎しみを込めた眼で問い、訴えた。

 その負の気迫に一歩後ずさるぜルさん、同じ数だけ詰め寄るアーク。


 この空気……まずい。ぜルさんが完全に圧されている。こんな状態で戦いなんて……



「だから俺はグリモワールの力でサタンに復讐する。そのためなら犠牲さえ惜しくもない、たかが十人の犠牲で未来は救われる」


 確かにあの悪魔がこの世から消えたら最大の脅威はなくなる。だがその為に人を殺すのは間違ってる。

 さっきまでアークを倒す気でいたはずのぜルさんは黙りこくって反論さえしなくなってしまった。こうなったら俺がどうにかするしかないのか?


 俺がどうにかしないとぜルさんが絶望に呑まれてしまうのも、王子が殺されてしまうのも分かってる。だけど俺にアークを止める資格があるのか? 俺だって矢神に復讐を……いや、矢神を殺そうとしてる。ただ殺された恨みを晴らすために。アークは両親の恨みだけじゃなく、この世界のために人を殺そうとしてる。


 俺なんかがアークを止められるのか……? この穢れた俺が。




「だから僕を探していたんだね」




 突如背後から聞こえてきた声。

 ――……っ! この声は……


「王子! 何故……」

 それまで人形のように固まっていたぜルさんも、王子自らの登場により我に返ったらしく、王子を庇うように前に出た。


「大丈夫さ。ぜル、少し離れていてくれないか?」

「……分かりました」


 王子の真剣な表情に、ぜルさんは一歩下がる。

 それにしても王子が出てくるなんて……



「贄が自ら殺されに来るとはな」

「久しぶりだね。アーク=ナベリウス。……と言っても前に会ったのは君が赤ん坊の時だったな」


 殺意に溢れた視線を送られても尚、にこやかに微笑む王子。この人は一体どれほど危機感が無いというか危なっかしいというか……



「僕には魔力がない。だから僕を殺してもグリモワールへ返還されないんだ」


 グリモワールには王の犠牲ではなく王の魔力の犠牲が必要だったのか……? ということは、王子を殺してもグリモワールは手に入らなきという事。アークもこれで引いてくれるはず……



「だけど、僕を殺して君の気が少しでも晴れるなら……どうせ僕には魔力がない。生きていても何も王として出来やしないんだ」

「そんなっ! 駄目です王子!」


 駆け寄ろうとしたぜルさんに首を振る王子。一体何を考えているんだ? まさか、本当に殺されに行くつもりじゃ……



「…………」


 目を閉じて動かない王子の首元に静かに添えられた刃。長くて短い時間が過ぎてゆく……

 ここにいる誰もが息を呑んだ、王子が自ら命を捧げるなんて思いもしなかったから。


 アークがナイフを握る手に力を込めると、俺は反射的に目を閉じていた。





 ……カラン





 石畳と金属のぶつかる様な音で、俺は目を開いた。

 そこには膝をついて俯くアークと、変わらず目を閉じたままの王子が……



「君は父親に似た優しい人間だ、魔力を持たない人間を殺すことができない優しい人間だ」

「……戯言を」

「君の父親も僕を殺せなかった。……優しいからさ」


 そう言ってゆっくりと目を開き、微笑む王子。それだけ言い残して立ち去って行った。

 ぜルさんが慌てて王子の後を追う。取り残された俺はアークと二人きりに……


「俺は絶対に諦めない。誰に何と言われようが、あの悪魔を殺してみせる」


 そう言い残すと、アークも煙と化し、消えてしまった。



 王子……そこまでの覚悟があったなんて……



 きっとアークが王子を殺せなかった一番の理由は優しかったからじゃない。


 ……空気に圧されて動けなかったからだ。




 俺でも感じた、魔力ではない強い何かを。

 きっと王子に魔力がないのは本当だろう。でもその代わりに〝強すぎる何か”を持っている気がする。


 俺はまだこの国のことを一ミリも分かっていないみたいだ。




 ◆◇◆



 紫の霧が溢れる怪しい森。

 ここに足を踏み入れたものは二度と戻れない。

 ……なんて昔話を小さい頃よく聞かされたものだ。

 



 でもその昔話は本当みたい。



「ねぇ、ここの森に入ると二度と帰れないっていう昔話、知ってる?」

 

 問いかけてみたはいいものの、返事が返ってこない事なんて分かってる、だって首を絞めてるんだもの。喋れるわけないかー。


「あはは、これで昔話がノンフィクションだって証明できるね」

 最期に見えるのがあたしの顔なんて、ツイてるね!


 そう言って落ちていた紙を手に取る。



 一切れ、そしてまた一切れ……ただの紙切れを集めていく。



 こんなものを集めるだけで、あたしは救われる。姫様の仲間だって実感できる。



「またルルのお手柄~」


 すぐ後ろで爆発音が鳴り響く。

 鼻についた火薬と香ばしさの混ざった匂いに、溢れんばかりの笑みを抑えながら城門を出ようとしたその時。




「……ぐっ……?!」


 突如背後から首を締めあげられた、その力は尋常じゃない。

 まさか、あの男……生きて……いや、絶対に仕留めたしダイナマイトまでプレゼントしたのに……


 遠のきそうな意識の中、締め上げられた腕に爪を立てると簡単にその腕から解放された。



「……っ……貴様……」

 荒い息遣いで振り返る。危うく死ぬところだった、絶対に殺してやる。



「なっ……!」

 さっきの男なんかじゃない。嫌というほど見覚えのあるその姿に思わず腰が抜けた。

 血が流れる腕を抑えるその眼は、痛いはずなのに冷めきっていて、恐怖すら感じた。

 


 全く予想もしてなかった、まさか……そんな……


「どうして生きて……っ!」


 その答えを聞く事もなく、まっすぐと差し出された手……あたしの首を迷うことなく締め上げる。

 極度の苦しみで次第に視界が狭くなったところでその手は離された。でももう遅い……




 〝紫の霧が立つ森に足を踏み入れてはいけない。

 そこには不死身の悪魔がいる。

 二度と帰れなくなるの。”


 小さい頃、ママが読んでくれた童話の話。






 遠のいていく意識、自分の意志とは反対に閉じてゆく目。

 


 あたしが最後に見た光景は、悪魔が笑いながら紙切れを数える姿だった。




お久しぶりです。

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