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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第3章 勇者イオリ、光の王を従えたい。
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笑顔のスープ


 その頃、アンジュから遠く離れた僻地、エル・ドラードにて。


「くだらん魔術書だな、今回もハズレだ」

「興味をそそる物はこの世になさそうですわね」

 薄暗い地下の一室。閉鎖された空間に呆れを含んだ男の声と透き通った女の声が響く。その他にパチパチと暖炉の薪が燃える音、本のページをゆっくりと捲る音が聞こえる。

 そして男は溜め息をついて、机に置いてある果実を齧った。狭い地下室に果実の爽やかな香りと暖炉からの香ばしい臭いが混ざり鼻につく。


「何見てんのー?」

 無邪気な子供のような声が聞こえてくる。少女は男の膝にちょこんと座り、男が読んでいた本に視線を落とした。

「邪魔だ」

「ぶー! いいじゃん、意地悪だなぁ」

「ふふっ、仲のよろしい事」

 男はまた一つ溜め息をついて立ち上がった。それに合わせて少女もピョンと床に降りる。


「また行くの?」

「ああ、お前らもついて来い」

 少女は「はーい」と面倒くさそうに腕を組んで男の後に続いた。女はクスリと微笑し姿を消した。



 ◆◇◆


 城に帰ってきて三日ほど経過した。久しぶりの休暇にリラックスしきっていた。よく考えると暫くこんなにゆっくり一日を過ごす事なんてなかったな……。あのメガネっ子……いや、ビオレットもアンジュに馴染んできているみたいだし、一件落着ってとこか。一つ問題があるとしたら、アルテミスが大の男嫌いだという事。ビオレットがいるときだけしか姿を出してくれない。これでは困る……どうした事か。


 ん……? この香りは……何だ? トマトを煮込んだような爽やかな香りの後からツンとニンニクのアクセント。何だか懐かしい気持ちになる。誰かが料理をしてる、白露さんか? ドアをコンコンとノックした。


「イオリ、どうしたでござるか?」

 ドアを開けてひょこりと顔を覗かせたのはフルル。驚いた、まさかドジっ子の代名詞フルルが料理をするなんて……いや、そういえば俺が初めてアンジュに来た時にシチューを作るとか言ってたっけ? 結局ディアーブルに潜入したり、なんだかんだ食べる事が出来なかった。


「いきなりごめんな。何作ってるんだ? 手伝うよ」

 ドアの中に入り、火にかけられた鍋の元に向かう。これは、トマトスープか? それも具がたっぷり入った。お世辞抜きで美味しそうだ。

「これはミネストローネでござる! 後は今パンを焼いている途中でござるよ。あ、ミネストローネっていうのは……」

「未来にもあったから分かるよ、俺の母親もよく作ってくれた」

 フルルはにっこりと笑うと、ふつふつと煮込まれた鍋をゆっくりとかき混ぜた。そこで「あっ!」っと何かを思い出したかのような素っ頓狂な声を上げるフルル。


「肝心な塩と胡椒を切らしてたでござる……」

 塩と胡椒を切らすなんて……フルルらしいな。なんて思いたら一気に笑いがこみあげてきて、クスクスと口元に手を当てた。


「俺が買って来るよ。パンを焦がさないように気を付けるんだぞー」

「助かるでござる! ……って、そんなヘマしないでござるよっ!」

 プンプンと腹を立てるフルルを置いて俺はキッチンを出た。はいはい、とか言ってどうせ焦がすんだろ、それか他のミスをするか。どっちかに決まってる。




 アンジュの城下町はいつも賑わっている。歴史で習った中世の城下町の様でなんだか慣れないが、店通りを眺めているだけで満足してしまう。今度時間がある時にゆっくりと見てみよう。

 色とりどりの野菜や果実。もちろん未来に比べたら種類が劣るが……どれも新鮮で美味しそうだ。胡椒は一種類しかなかったが、塩は塩でも色々種類があるみたいで……ほう、ざっと二十種類はあるな。親の手伝い程度の料理しかした事のない俺にとっては難問だった。一体どれを選べばいいんだ?


「あら、迷ってらっしゃるのかしら?」

 背後から話しかけられ振り返ると、白い肩の出たワンピースとベールを身に纏い、にっこりと微笑む女性の姿が。日焼け対策か、顔の大半がベールに隠れているがアンジュの国民だろう。何はともあれ助かった。


「あ、はい……ミネストローネを作るにはどの塩が良いかなって迷ってて」

「それだったらこの塩はどうかしら? トマトの香りを消さずに素材のうま味を引き出せると思いますわ」

 そう言って笑顔で岩塩を差し出してくれた。ここの店員ではなさそうだが……詳しいな。ここまで的確なアドバイスをくれるなんて。この女性の言うとおり、この岩塩を買えば間違いないだろう。きっとフルルも喜んでくれる。


「ありがとうございます、助かりました!」

「いえ、お役にたてて光栄ですわ」

 俺は女性に深く頭を下げ、走って城へと向かった。そろそろパンが焼けているころかな、どうせ食べるなら焼き立てが良い。急いでこの岩塩と胡椒を渡さないとな。




「フルル! ただいま!」

「イオリ、お帰りなさいでござる!」

 ドヤ顔で手渡した岩塩を不思議そうな顔で受けとり、そのまま鍋の中に入れようとするフルル……


「待ってくれ!」

 勢いよくフルルの手を取り、岩塩を救出する。あっぶねー……こんな塊入れたらひとたまりもない。しょっぱさだけの塩スープになるところだった。

 勢いよく岩塩を取った反動で、キッチンの台の上に岩塩が落下し砕けた。あ、これを少量入れれば完璧じゃないか? ナイスタイミングだ。


「これは塩の塊だ、細かく砕くか削るかして少量入れるとちょうどいい感じになる」

「ほうほう……初めて見たでござる~」

 興味津々に尻尾をブンブンと振りながら鍋の中を覗き込むフルル。器に注いで仕上げに胡椒を振りかければ……完璧だな。


 焼き立てのパンと、沢山の湯気が立つミネストローネの並ぶテーブル。久しぶりにこんなまともな食事ができた。ここに来てから食べるのはいつもドライフルーツやビーフジャーキーのような保存食。あと、俺は偏見で断固拒否していたが、皆は道端に生えている食用の草を食べてたな……。

 そんな事をを考えながら、ミネストローネを掬ってスプーンを口に運んだ。……うまい、それに心から温まる。こんな本格的な料理を食べたのが久しぶりで何だか懐かしく感じた。


「美味しい。フルルは料理が上手なんだな」

「小さい頃、家族に料理を教えてもらったでござる。フルルが作れるのはそれだけでござるけどね……」

 フルルはどこか悲しけな表情でお皿に視線を落とした。そっか……フルルの一族はもう……


「悪い……」

「でも悲しくないでござる、思い出すのは楽しかった時の記憶だけだから……」

 強がるようにニコッと笑う、でもその口角は少しだけ震えているような気がした。そんな何年かで忘れられるような物じゃない。家族が全員殺されたなんて、一生忘れられないはずなのにどうしてそんな無理をして……


「今は俺達がいるだろ? 過去の事が忘れられなくても……辛いときは頼ってくれな?」

「もう……イオリは力になってくれてるでござるよ……」

「え? 何だ?」

「何でもないでござる! また……フルルと食事してくれるでござるか?」

 心配そうに俺の顔を見上げるフルル、そんなの決まってる。毎日だってフルルと一緒に食事したいさ、色んな話をして……


「勿論だ、いつでも誘ってくれ!」


 俺は不安そうな表情でこちらを見つめるフルルの頭を撫でた。すると何かが解けたかのようにくしゃりと笑顔になって、下がっていた尻尾も次第に上がり、ブンブンと振り始めた。


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