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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第3章 勇者イオリ、光の王を従えたい。
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狩猟と貞潔の女神


 嵐のような生暖かい風が俺達に向かって吹きかかり、爆発した時に木端微塵になったコンクリートの欠片やら砂やらが目に入る。こんな台風みたいな風、もう体験することないって思ってたのにな。……なんて悠長な事考えてられない、

 俺にはもう魔力がない、戦える時間は僅か数分。紅玉を召喚したとしても一斬りで決めなくては体が持たない……。ここで俺が脱落して絶対に女王に勝てそうなゼルさんに託すのも一つの手だ。


 ようやく視界がハッキリし始めた、そこに佇むのは二つの人影。今度の相手は二人か……ますます不安になってきた。

 いや、何かがおかしい。相手が二人だとしたらどうして俺達が到着する前にここを爆破した? 威嚇にしてもこんな捨て身の爆発……そしてこのガス濃度。もしかしてコイツら戦ってる……?


「やっと来たんだね! ほら、手伝ってよ。そしたら君たちにも少しだけ分けてあげるから」

 灰色の煙からゆらりと姿を現したのは……間違いなく俺を助けてくれた怪盗。先程よりも体に煤のような物が付いていて傷だらけだ。それ程爆発が大きかったんだろう、だがその少女の表情はどこか楽しげで好奇心に満ち溢れているようだった。


「なっ……イオリの知り合いか?!」

「さっき俺の事を助けてくれた人です、ただそれだけで……」


 その少女の前には服がボロボロで血だらけになったメガネっ子。一体何が起こってるんだ……

 この爆発を起こしたのはこの怪盗、メガネはとてもじゃないが戦闘を続けられそうにない。これは試練どころじゃない。


「やっぱりどこか変だと思ったんです。先程の試練、一つだけ絶対に攻略不能な魔神ハーデスがいたはず……やはり怪盗さん達の方が上手でしたね……すみません」

 メガネのレンズも割れ、髪も煤まみれ。そしてあの憎たらしい笑みを見せていた顔も生傷が沢山……そんな状態になりながらもメガネっ子は言葉を続けた。



「でも、すみませんがここから先には行かせません。諦めてください、怪盗さん達」



 こんなボロボロで傷だらけでこれ以上どう戦うっていうんだ。それほど女王の宝物を守りたいって気持ちは痛いほど伝わった。だが俺はこいつを殺してまで鍵を奪いたいなんて思っていない、だから……



『貞潔と狩猟を司りし者、掟を破り理を乱す者を制裁し、消しなさい』


 ニヤリと口角を上げながら詠唱を始めるメガネっ子。最終奥義でも放つ気か……?! いや、待てよ……この詠唱のしかた……精霊魔法だ!

 何でコイツが精霊魔法を? 女王の指示で覚えたのか、こんなドジな奴がどうして……? そんな事よりもこの不気味な笑み……まさか……


『アルテミス!!!』


 な……っ?! やっぱり……コイツが五大精霊の一人を持つ人間だったのか、こんな時に……


「……制裁」

 機械のようなエコーのかかった声と共に姿を現したのはクレオパトラの様な古代エジプト民族衣装に身を包み、鼻から下をベールで隠した女性だった。瞳にはガラス玉をはめ込まれたかのような水色の眼球に、真っ白の角膜。この世界に来て初めて見るいかにも人外の()()に言葉を失った。人というより、機械人間と言った方がしっくりくる。


「俺が欲しかったのはコイツだ、この精霊だ……」

「……厭らしい」

 淡々と機械口調で俺の前に佇む精霊。そういう意味で言ったんじゃないのに誤解され厭らしいだと?! 不憫だ。


「だったらここで戦いましょう、すみませんが手加減はしませんよ」

 さっきの表情とは一変してまたもや腹立つ笑みを見せるメガネっ子。そうだ、喧嘩を売ってきたのは最初からそっちだ。だったら俺がコイツをボコボコにしたって文句はないよな?



 受けて立つ。


 

 そうは言ったもののどうやってコイツを倒すんだ? 俺の魔力はほぼ無い、紅玉に一発で決めてもらうほか策はない。相手は五大精霊の一人……困ったな。

「イオリ、私が紅玉を召喚する! お主は魔力を温存するのじゃ!」

 白露さん……俺の魔力が枯渇しかけている事に気付いていたのか? やっぱり鋭い。ここは有難く白露さんに紅玉を召喚してもらって、俺はハルで支援しよう。

『花曇りを斬り晴天を魅せる剣士、召喚に応じ我に使えよ、紅玉!』

 白露さんが唱えると、途端に桜吹雪が舞った。そして現れた桜色に髪を結った精霊、紅玉は白露さんの元で跪く。この高貴な紅玉が誰かに跪くなんて……。それほど白露さんは慕われているのだろう。


「主様、御命令をどうぞ」

「私の今有るだけの魔力を授ける。此奴を倒すのじゃ」

 紅玉は「畏まりました」とだけ残し、背負っていた二本の刀を構えた。紅玉の実力を見る事ができる……白露さんの魔力に比べたらこのメガネっ子の魔力なんて脅威でもなんでもない。そうだ、どんなに強い精霊を持っていても魔力が無ければ意味がないじゃないか。……まあ、俺も人の事言えたもんじゃないが。この勝負、貰ったな。


「この一撃で……朧月!」

 玲瓏たる声と共に一瞬で間合いを詰め、アルテミスの腹を突いた。そして息をつく間もなくもう一方の刀で足元を切り払う。何と綺麗で無駄のない連撃なんだ、たった五秒もかからないうちにこんな……

 それに紅玉の凄みはこれだけじゃない。なんとこの一連の流れ、抜刀せずに魅せていたのだから。きっと相手のレベルを計るために敢えてそうしたのか、本気を出すに相応しくない相手と見極めてそうしたのか分からないが、紅玉の一撃は効いているようだ。腹を抱え憎らしげに此方を睨み付けるアルテミス。


「……そんな厭らしい者に仕えるなど、何処まで落ちぶれた」

「私の主を侮辱するな、例え同じ精霊であろうと容赦せぬ」

 お互い睨み合う時間が暫く続いた。これからどうなるんだろう、こちらの先手がかなり堪えているみたいだが、アルテミスの力がどれくらいなのか俺達は知らない。だがこちらにはゼルさんやリリアンだっている、きっと大丈夫だ。


「……乱舞せよ、月下桜!」

 これは、豹と戦った時の技……あの時よりも力強く、その刀は一直線にアルテミスを狙い、打ち上げ……二本の刀を乱舞させる。今回は相手が精霊という事もあり、先程とは比べ物にならない程達者な剣捌きだ。


 ……何故コイツは紅玉の攻撃を避けないんだ?それにずっと斬られるがままで反撃すらしない。不気味というより何か企んでいるように見えるが……

 これには流石に紅玉や白露さんも怪しく思ったのか表情を顰めた。五大精霊の一人であろう物が無抵抗に攻撃を喰らい続けるなんて異常だ。

 それに……これだけの斬撃を受けたというのにアルテミスの体には傷一つ付いていない。コイツ不死身か? 機械人間のような見た目をしているが本当に傷一つ付かないとはな……紅玉が剣を抜かないとずっとこの状況が続くだろう。

 そうだ、これこそ怪盗の爆弾を使うのはどうだろうか、どうにかしてアルテミスだけを孤立させて爆破する。いくら機械とはいえあの爆発を喰らったら無傷ではいられない。


 ここまで見ていて解析できた事を纏めると……

 ・メガネっ子がアルテミスを召喚して十分が経過した。この事から俺よりもはるかに魔力が高い。

 ・紅玉がどんなに斬ってもアルテミスは無傷。魔法を使って防御しているのか?

 ・どれだけ攻撃を喰らっても一度も反撃をしないどころか回避すらしない。相手も俺達の事を分析しているのか?


 ここから疑問を一つ一つ解決していかないといけない、それも時間に余裕はない。だがコイツ……一瞬たりとも隙を見せない。表情だって変わらない、それどころか視線すら動かさない。どうやってコイツの能力を見極めるんだ。勝算が見えない……


「傷一つ付かぬとは不気味な奴じゃの……」

「本当だな、どうするか?」

 目を細めながら会話するゼルさんと白露さんを眺めながら、作戦を練っていた。そんな俺の目の前を一瞬で何かが通り過ぎた。……これ、前に何処かで……! 


「ヘッド、ワン当て」

 ライフルの銃口から煙を出しながら小さく呟いた少女。そう、リリアンだ。真剣な眼差しでアルテミスの頭にできた穴を睨み付ける。

 凄い、一発で敵の命を奪う部分を的確に打ち抜いている。それに……俺がアルテミスから目を離してゼルさんと白露さんの会話に耳を向けた僅か三秒ほどの間でこんな精密射撃ができるなんてありえない。



 それなのにどうしてコイツは微動だにしない?


 間違いなくリリアンが抜いた穴は一瞬の光と共に再生され何事もなかった事になっていた。俺の見間違いなんかじゃない、絶対に頭にぽっかりと穴が開いていた。何故塞がってる? 血が出ていない? コイツは一体何者なんだ? 化け物だ、こんな射撃を喰らっても表情一つ変えずに平然と立っていられるなんて。


「何で死なないの? ……睡眠の邪魔だから早く消えて」

 リリアンは多少イライラした口調で次々と銃弾を放つ。何度も何度も頭をブチ抜かれてもアルテミスは表情すら変えない。流石のリリアンも違和感を感じたのか「……気持ち悪い」と小言を零した。


「すみません、時間を取らせてしまって。もうそろそろですかねぇ? アルテミス」

「……準備完了」

「こんな射撃や斬撃ではこの子を倒すことはできませんよ、すみません」

 メガネっ子の「こんな射撃」に反応したのかリリアンの身体がピクリと動いた。あ……これはまさか、いや、まだ早いか。もう少しリリアンのゲージを溜めないと。いいぞ、このまま墓穴を掘ってくれ。

 そんな作戦も儚く、どうやら時間切れのようだ。アルテミスの身体が強く光り始めた。異常なほどの強い光に恐怖さえ感じた。今まで微動だにしなかったコイツが何か仕掛けてくる。攻撃か? 俺達への弱体魔法か? どっちにしろ不味い、何が来るか分からなければ防御のしようがない。


「……不純ナ者ヲ制裁スル。消滅ノ罪状」

 アルテミスの声と共に辺りが一層強く光を放った。これは、攻撃か? だがこんな強い光を当てられたら視界が……


「まずい、これはっ!」

 紅玉の叫び声と共に強い光は消えた。一瞬何が起こったのか分からなかった、何も起こっていない? ならさっきの光は一体……


「お主の能力、見極めた。……全ての攻撃をはね返すカウンターだな?」

「……見事」

「だがそのカウンターにも制限がある。恐らく最初の三十分しか効果がない……」

 紅玉の問い詰めで、見る見るうちにアルテミスの顔が青ざめる。きっと図星なんだろう。三十分の間どうにか凌いだら後はアルテミスにダメージを与えられる。


「さっきの攻撃はどうやって防いだんだ……? 紅玉が俺達を守ってくれたのか?」

「イオリ様、カウンターをくらう直前に私の刀の斬撃で打ち消しました」

 紅玉は得意げな笑みを見せた。流石五大精霊の一人、アルテミスみたいに特化した能力はないが、剣の腕、頭脳、解析能力はかなり高い。この戦い、紅玉の方が上手だったな。


「……まだ最終奥義がある」

「うふふ……やっちゃってください、アルテミス。怪盗さん達すみませんー」


 怪しく不気味な笑みを見せるメガネ。やっとコイツの弱点を見い出せたと思ったのに、次は最終奥義か……相手の情報が分からなさすぎて次の手を迂闊に考えられない。


 一体どうすれば……

余談ですが、友人に頼んで設定画を描いて貰う事になりました。選ばれし一人目は花魁人妻の白露さんです。(その友人の推しだそうで)登場人物の白露さんの所に貼っていますのでよろしければ見てください。フルルの設定画もUPしました!

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