表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第3章 勇者イオリ、光の王を従えたい。
29/54

二つ目の試練と思いきや


 長い長い階段を死に物狂いで登り終えると、五個のドアがあった。

 赤、青、緑、紫、ピンク。このドアに一体何があるんだ? それに、ご丁寧に俺らの人数分用意されている。最初から全て仕組まれていた事に改めて気付かされた。更に扉が丁度五個、どうせ一人一つ別々の部屋に入れという事なのだろう。自分の察しの良さに嫌気がさしてきた。


「それで、どうしますか?」

「全員で入る事できねーのか? ……できねぇみたいだな」


 ゼルさんが赤のドアノブをガチャガチャと鳴らす。鍵がかかってるのか? それとも何か仕掛けがあるのだろうか。


「皆でせーので開けないと開かないでござるか? 有名な仕掛けでござるね」

 全員で別のドアを一斉に開けないと開かない仕組みか……。となると問題はこの先に何があるのか。魔物やドラゴンが待ち構えていたら……?


 いや、あのメガネっ子は“戦闘をしていただく訳ではありません”と言っていた。それを信じてもいいのか分からないが、このドアを開けて進まないと皆殺しにされてしまう。大丈夫、戦闘はない。俺一人でも……


「とにかくここで時間を費やすわけにもいかねぇ、俺はこのまま赤のドアに入る。イオリは青、白露は緑、リリアンは紫、フルルはピンクだ。いいか?」

 正直ドアの見た目で中が分かるわけもない、ただゼルさんの指示に頷く事しか出来なかった。あのメガネっ子の様子だと、メガネっ子に従ってさえいれば俺達を殺す気はないらしい。ここで転生を使うことはなさそうだ、大丈夫。


「じゃあ、皆。……無事でな! せーの!!」

 ゼルさんの掛け声で同時にドアノブに手をかける。先ほどとは打って変わってカチャリと音を立てて開いた。ドアの先は真っ暗、一体何が待ってるのか。誰が欠けてしまうのか、もしかしたら俺かもしない。そんな不安を抱きながら暗闇の中を進む……背後でドアが閉まる音がした。


 その音と共に明かりが灯った。急に視界に強い光が差し込み、思わず目を閉じた。


「……っ?!?!」

 途端襲ってきた引き裂かれるような足の激痛。そのまま倒れるように足を抱えながら座り込む、一体何が起こったんだ。

 痛みのあまり溢れた涙を拭いながらゆっくりと目を開くと、まさに対決姿勢むき出し、獲物を逃さないとでも言うような眼をした豹が目の前に。その強靭な口からは鋭利な牙が見える。そして血の混じった唾液がぽたぽたと滴り落ちていた。

 コイツ……俺の足を……! 明らかにコイツの口から滴り落ちているのは俺の血だ。痛みが増していく足をゆっくりと見ると、やはり噛まれたような跡。


「あのクソメガネ……戦闘はないって言ったよな……?」

 これが戦闘じゃないにしても売られた喧嘩は買うもの。百倍返しでこの豹をぶちのめす。悪いが容赦はしない……


「我の魔力に値する精霊。汝、我の元に姿を現せ……紅玉!!」

 五大精霊の一人、その力を見てみたかった。動物虐待になりかねないが、俺の実験台になってもらうぜ!


「イオリ様、御命令をどうぞ」

「コイツをぶちのめしてくれ! 紅玉の力を見せてほしい」

「コレ……ですか?」


 信じられないという目で豹を指さす紅玉。そりゃそうだよな……五大精霊と言われ崇められている貴重な精霊が動物一体の為に呼び出されるなんて。だが俺の足をこんなにしてくれたお礼だ、きっちり返させてもらう。


「はぁ、承知致しました。……乱舞せよ、月下桜!」

 面倒くさそうに抜剣した紅玉。豹を一本の刀で打ち上げた。ふわりと宙に浮く豹、なんだか時間が止まったみたいだ。

 それもつかの間舞うように素早く二本の刀で切り刻む。ボトボトと落ちてきたのは豹だったものの肉塊。何とも惨い光景だが妖艶な刀捌きに見惚れていた。


 そして何故か体全体が熱くなって、いつの間にか汗が……何で……


「イオリ様! どうされましたか! そんな、これは魔力の枯渇……」

 あ……そうだ、紅玉は五大精霊の一人。魔法は強力だがその分莫大な魔力を必要とする……そんな大切なことを忘れていたなんて誤算だった。




「君、大丈夫?」



 背後から聞こえてきた女子の声。しまった、敵か?! 魔力が枯渇しているせいかすぐに振り向けず、ゆっくりと振り返る。

 灰色の毛先がぴょんと視界に映りこむ。ツインテールの少女は誰が見てもその場に相応しくなかった。健康的な肌色は埃を浴びたかのように汚れていて、頬には星形の大きなペイント。くりっとした青色の目は俺を不思議そうに見つめている。 


「あ、あたしは女王の宝物を奪いに来たんだぁ! だから君の仲間だよ、安心してね!」

 にっこりと微笑む少女。


 まさかコイツ、メガネっ子が言ってた怪盗……?!


「イオリ様、私がいるだけで貴方の魔力を消費してしまいます、早く私をMPMの中へ!」

「悪い、助かった。紅玉」

 俺は必死の思いでMPMの画面に手を触れた。心配そうな表情のミカと目が合う。ミカ、お前は機械なのに俺の心配してくれているのか……? 


「豹を倒したってことは試練クリアよ、あたしが担いであげるからここを出ましょ?」

 ニコッと微笑み俺を担ぐ怪盗。こんな俺よりか細い女の子に担がれるなんて……情けないこと極まりない。何故こんな馬鹿な事をしたのか、たかが豹一匹の為に。ここでこんなに魔力を消費してはこれから先持たないだろう。何食わぬ顔で戦闘はないという約束を破ってきたメガネの事だ。きっとここから先も戦闘が続くんだろう。


 そうだ、ゼルさん達と合流したらこの状況をどう説明しよう、こんな俺よりも小柄な女子に担がれている正当かつ不自然でない言い訳を考えなくてはならない、と必死で頭を回転させた。俺にとってこの状況はかなり不味い。だが……ここを出ると誰か一人減っている可能性がある。いや、皆があんな豹に負けるか?


「あ……」


 この試練、そういう事か。五個の扉のどれかに桁外れに強い魔物、もしくは絶対に突破できないギミックが施してあって、一人減らす仕組みになっている……二つ目の試練読めたぞ。

 となると戦闘が苦手というか戦闘用の魔法を使えないフルルが危ない……無事でいてくれ、頼む……


 ドアを開ける音と共に、視界に広がる見慣れた城内の景色。生き残る事ができた、その安心感でどうにかなってしまいそうだ。だがこれがまた続く……最後の一人になるまで。

 誰もいない……辺りを見渡してもゼルさん達の姿はなかった。そうだ、忘れていた。あの怪盗にお礼を……


「なっ……!」


 お礼を言おうと振り返ると、怪盗の姿はなかった。いつの間に、何処に消えたんだ……全く気付かなかった。きっと数秒だったのに……一体何処に消えた?

 まさかもう女王の元へ……! あいつに精霊を盗まれてしまう、早くあいつの後を追わないと!


「イオリ……?」

 聞きなれた声に呼ばれ振り返ると、荒く息を切らしたゼルさんの姿が。俺が残った事に驚いているのか目を大きく見開いた。そしてその後に続いて白露さんが溜息をついた。


「いつまで奴の戯れに付き合わなくてはならぬのじゃ……」

 面倒くさそうに腕を組む白露さん、明らかに不機嫌だ。きっとこの調子じゃ女王に対しても冷酷な口調でいつものようにぴしゃりと正論を放つんだろう。そうしてくれた方が逆に助かるがな。


 あとはリリアンとフルル……二人とも無事でいてくれ、そんなの我儘だって分かっ


「邪魔邪魔邪魔邪魔!!!! おら雑魚、貴様の全身の血を見た感想はどうや、あ゛ぁ゛?!」

 ゲシゲシと肉塊を蹴り飛ばしながら扉から出てきたのは、恐らく返り血であろうものを浴びたリリアン。まだ幼い彼女の華奢な足でグチャグチャにされた肉塊は残念ながら原形をとどめておらず、一体何にそこまで怒り散らしてるのか、俺達に知る由もなかった。

 まあ、きっと睡眠を邪魔されてキレたんだろうな。だが……正直そこで寝てたらリリアンが脱落させられてただろうし……魔物には悪いがよくリリアンを怒らせてくれた、ナイスだ。


 という事は……ここで脱落させられたのは……



「あれ、皆いる! どういう事でござるか……?」



 扉からふらふらとこちらに近付いてくるのは間違いなくフルルだ。何が起こっているのかわからないと言いたげで不安そうな表情。いつもブンブン振っている尻尾は下がっている。

 

「あれ……落ち着け。イオリ、白露、リリアン、フルル……四人。大丈夫だ一人減ってる!」

 皆を一人一人指差して確認し一人で勝手に安堵し始めるゼルさん。って、あれ……自分は? そんな事を考えていると、すかさず白露さんがその指を叩く。

「馬鹿者、自分を数え忘れてどうするのじゃ。ともあれ一人も減っておらぬが……これも奴の策略か?」

 呆れと苛立ちの混じった声でゼルさんを叱る白露さんをよそに、俺は一人で思考を張り巡らせた。何故一人減っていない? これもまた試練か? だがあのメガネは「最後の一人になるまで試練をして頂きます」と言った。それならここで一人脱落していないとおかしい。あのメガネの誤算か? あんな用意周到なメガネがそんなヘマをする訳……


 いや、違う。真逆の発想だ。メガネがミスをしたんじゃない……俺達がメガネの計算外な事をしたんじゃないか? 例えばハズレ部屋のギミックに偶然慣れた人間が入った。もしくは規格外の強さの敵を倒した……そのギミックの内容や敵がどんな物かは想像がつかないが、ありえる。なんせこちらにはアンジュ一の騎士がいる、どんな時も冷静に物事を判別できる女性も、銃を的確に扱い獲物を逃さない少女だっている。

 俺とフルルが安全な部屋を引いたとして、この三人なら例えハズレ部屋でも……!


「あの!」

 自分の推理を聞いてもらおうと口を開いたその矢先、城を壊してしまう程の轟音が響き渡り、激しく揺れた。安全だった足元にひびが入り、慌てて避ける。今度は何が起こったんだ、これが次の試練……


「音が遠い……恐らく城の最上階じゃ!」

「これじゃ城が持たねぇ、急ごう!」

 階段に向かって走り出した二人を追う。放っておくわけにもいかない。第一アスタロトさんを預けている……置いて逃げるなんてできない、端からそんな事考えてすらない。

 最上階で何があってるんだ、そもそも俺達にどうこう出来る問題なのか? そして俺を助けてくれたあの怪盗は無事なのか……。クソ、考えることが多すぎて手一杯だ。


 嫌な臭いが鼻につく。これは……強いガスか? ということは、この爆発音の正体は……

 まずい、一刻でも早くこのガスの出所を突き止めないと俺達諸共、瓦礫の破片と化してしまう。あのメガネ……ゼルさん達の強さに怖気づいたのかこんな策に出るなんて……


「わっ、何の匂いでござるか?!」

「くんくん……グレネードのにおい……」

 皆もこの異様な臭いに気付いたのか眉を潜めた。グレネードではないんだが同じくらい……いや、それ以上ヤバいものだ。まだこの時代にはガスは普及していないのだろう、誰もこの臭いの正体を理解していないようだ。少しでも火が付いたとしたらこの城は……


「あーもう! くっせーな、この天井突き破るか?!」

 ゼルさんは面倒くさそうに拳を構えた。この人はいつも極端だ。常識はずれな事しか思いつかない。ディアーブルの城に入るときだって炎で窓を……炎……? 


「待ってください!!!」


 俺は必死の勢いでゼルさんに飛び掛かった。危ない、少しでも気付くのが遅かったら俺達はひき肉になっていただろう。全身汗だくで飛びついてきた俺に嫌悪感たっぷりの視線を送りつけてくるゼルさん。まあそうなるよな。


「すみません……この臭いの正体、ガスという物で濃度が一定の割合に達すると大きな爆発を引き起こします。恐らくこの城は余裕で吹き飛びます」

 皆は驚きと不安の混じった表情に一変した。やっぱりこの時代には普及していなかったか。それなら何故こんな濃度の高い可燃性のガス、一体何処から……

 疑問は沢山浮かび上がってくるが、まだ話を理解できていないであろう皆に向かって言葉を続けた。


「そのガスが爆発を引き起こす物。それは静電気、そして……火です。なのでゼルさん、絶対に魔法を使わないようにしてください! でないとここにいる皆が木端微塵になります」

 半信半疑で黙り込む皆。理解できないのも無理はない、だが信じてもらわないと困る……ゼルさんの炎で全員が死ぬ。それは絶対に避けたい。


「皆、今はイオリを信じる他ない。ゼルは絶対に魔法を使わぬように細心の注意を払うのじゃ。魔法を使えば皆死ぬ。全てお主にかかっておるのじゃ」

「ああ、分かった」


 そうしているうちに階段の終わりが見えてきた。さっきの爆発のせいか煙がかっていて視界が不自由だ。この先にきっと爆発の原因が……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ