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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第2章 勇者イオリ、謎の悪魔に立ち向かう。
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二人に与えられた使命

 

 消えた……精霊は数えきれないほどの謎を残して消えてしまった。名前を思い出して契約したってもう俺の前には現れてくれないんだろ? だったら何の為に契約なんて……


「ルシファーさん」

「何も言うな、誰にだって言えない事の一つや二つはある、それがただ大きすぎただけの事。アイツは全て一人で抱え込むつもりらしい、それがアイツの意思だ」


 こんな大きな闇を一人で……いや、俺が知らないだけでこの世界にはもっと大きな闇があるんだ、俺達を巻き込まないためにあの精霊は……

 存在してはいけない、バレたら全てが壊れる……一体何なんだ? あの精霊は何者なんだ、全てを壊すことができる程高貴な存在だという事は分かる。でもそれが俺にも影響するって事はきっと他人事ではない、俺も知ってる誰か……

 元の時代の人間か? それともどこかですれ違ったか……? そんなの覚えているはずがない。


「貴様は生きなければならない、アンジュの皆を守るのだろう?」

「そう……ですね」

「……強くなれ」


 真剣で真っ直ぐな目でそう告げるとルシファーさんは消えてしまった。ふと辺りを見回すと、消えていたはずの皆が丁寧に寝かされていた。きっと二人が手当てをしてくれたんだろう、ゼルさんの傷も癒えていた。

 どうしてあの精霊はここまでして俺達、アンジュの皆を守ろうとしてくれるんだ……


「ん……あれ……俺、寝てたのか……?」


 ゆっくりと目を開き起き上がろうとするゼルさん。それに続いて皆の意識も戻り始める。よかった……皆生きている、いつもと変わらない。本当にあの戦いがなかったかのようだ。


「何故……私たちは生きているんじゃ、彼奴はどうなったのだ?!」

「そうだ俺達……!! イオリ……大丈夫だったのか?」


 これは何て答えたらいいんだ? あの精霊のおかげなんて口が裂けても言えない、約束は破りたくない……だってあの精霊は命の恩人だから。



「イオリのおかげでござるね」



 フルルがニコニコと告げた、俺は何もしていないのに……罪悪感で胸がチクリと痛む。それでも何も言えなくて、俺は「はは……」と小さく笑った。

「でも、一時的に再封印しているだけなので安心とは言えません。いつ封印が解けるか……」

「そうか……でも助かった、本当にありがとな……イオリ」


 ゼルさんは深く頭を下げた。本当は今すぐあの精霊のおかげだって言ってしまいたい、皆を救ったのは俺じゃないんだ……だから俺に感謝しないでくれ、辛くなる……


「姫、危ない目に合わせてしまって本当にすみませんでした、斬首でも何でも受け入れます」

 長身男は矢神の前で跪いて頭を下げた。コイツ……せっかく助かった命を……


「え、ええ……大丈夫よ……大丈夫……」

 明らかに動揺し始める矢神、余程あの男が怖かったのだろう。それに、俺と同じで未来から来た矢神にも多分暗黒魔法の耐性がない、少なくとも一度は転生したはずだ。


「矢神、少し二人で話せないか?」


 俺が静かに口を開くと、皆一斉に此方を向いた。そりゃそうだよな、あれだけ矢神に敵対心向き出だしで復讐する気満々で、そして矢神は俺を殺した張本人。でも今は復讐とかそんなの関係なしに転生の仕組みについて知りたい、矢神も俺と同じような転生をしたのか、どんな感じだったのか……元の時代に戻るための手掛かりになるかもしれない、少しでも何か分かればそれでいい。



◆◇◆



 皆といた場所から少し離れたディアーブルの一室。俺と矢神はお互い無言を貫いていた。最初の一言を出せずに、もう十分は経っただろう。殺意に満ちた眼で俺を睨んだ長身男とガキを矢神は説得してくれて、俺は心配そうに見つめるアンジュの皆に「大丈夫だ」と一言告げてここに来た。


「単刀直入に聞く、一度死んだか?」


 率直な質問に矢神の瞳孔が少し開いた。転生の事を矢神に話すのは初めてだ。「何でその事を知っているの?」と言いたげな矢神。俺の考察は当たりか、やっぱり矢神も俺と同じで……


「……いいえ」

「なっ……! 死ななかったのか? あんな膨大な魔力の前で!」


 矢神は恐怖と悲しみの混じった表情でいて、本当に死ななかったんだと信じざるを得なかった。一体どうやって、あの悪魔は矢神を「死ねない」と言っていた、それなのに死んでないって……訳が分からない。



「精霊が助けてくれたの……わたしの知らない精霊が……」



 静かに告げられた矢神の一言。俺は大きく息を呑んだ。

 矢神のところにもあの精霊が……?


「それって一体!」

 俺は食い付くように矢神に詰め寄った。転生の仕組みどころかあの精霊についても聞けるかもしれない、なんて好機なんだ。


「わたし、本当はディアーブルの人間じゃないのかもしれない……」

 矢神は涙を流しながら告げた。そんなの今更かよ……なんて言える訳もない。矢神、もしかしたら記憶を失ってるのか? それか俺の知ってる矢神とは別人なのか……分からない、矢神が全く分からない。


「その精霊は未来の事を知っていた、だからきっと本当にわたしは……」

「それでもお前を命に代えてでも守りたいと思ってる物好きもいるんだ。俺だってアンジュの人間じゃない、でも幸せだ。それだけでいいだろ」


 何で俺は殺すつもりの奴にこんな説教じみた事してるんだ、放っておけばいいのに。今だって矢神の喉に刃を突き付けたくて堪らない。でも、矢神のか細く涙を流す姿、小さく震える肩を見るだけで、どうしようもなく可哀そうに思えてくる。



「わたしに世界を滅ぼせと教えてくれた、そうしなければ大切なものを失うと……」



 あの精霊がそんな事……そんな訳、どうして、俺達を守ってくれるんじゃなかったのか? それなのに矢神を唆すなんて……

 あの時「皆を……頼んだ」って本気で言ってくれてたと信じてた。あの目は強く、真っ直ぐで真実だけを映していると思って一瞬たりとも疑った事はなかったのに。


「だからわたしはルプスやリンクスを守りたい。世界を滅ぼさなきゃいけない」

「世界が滅びたらそいつらも消えるんだぞ? 分かってんのか?!」

「分からないわよ……! どうすればいいか分かんない……世界を滅ぼせば大切なものを守れる、そう教えてもらった、だからわたしは信じるしかない!」


 コイツ……完璧に混乱していて自我を失ってる、冷静な判断が出来なくなってるんだ。

 矢神は気を失っていて夢でも見たんじゃないか? あの精霊がそんな事を言う訳がない、俺達を守ってくれた、自分の魔力を犠牲にしてまで……自分の立場を危なくしてまで俺達を……


 だから矢神が何と言おうと俺はあの精霊を信じる、助けてくれたお礼なんて大層な事はできない、信じる事くらいしかできないけど……俺にできる唯一のお礼だ。


「俺は彼を信じてる、この世界は滅ぼさせない」


 真剣な瞳できっぱりと放つ俺に矢神は不思議そうな表情を浮かべた。


「彼……? わたしを助けてくれたのは女の精霊だったわよ?」


 あの精霊とは違う精霊が矢神を……? あの男から守れるくらい強い精霊……一体誰だ?


 矢神を唆している女の精霊、しかもあの悪魔から矢神を守れるほど強い……きっとあの精霊と何か関係があるはずだ。かと言っても矢神は混乱していてまともに話せる気がしないし……ここにルシファーさんを呼ぶか? それも何か違う気がする。


「俺を助けてくれた精霊は名前を思い出したら契約してくれると言った。もしかして矢神もそうか?」

「……! そうよ、わたしもそう言われたわ。あの精霊は一体……」


 俺には皆を守ろうとする精霊、矢神には皆を滅亡させようとする精霊。やっぱり過去の時代に飛ばされた俺と矢神には何か重大な役割があるんじゃないか? ただの平凡な国民じゃなくて、きっと何かが……


 そうだ、先生は “バグ” だと言っていたMPMの謎のステータス、あれが怪しいんじゃないか? もしその予想が正しかったら矢神にも……


「なあ、矢神のMPMにも×で囲まれた謎の文字は無かったか?」

「……これの事?」


 矢神はMPMの画面をこちらに向ける。恐る恐る覗き込むと、やはり予想通りの文字が……


 ××を×ぶ×


「いや……俺のとは違う。何だこれ……」

「わたしにも分からないわ、これが何なのか」


 俺のは確か……×××××す××だったはず……


「……?! 文字が変わってる……」


 違う、正しくは×だった文字が変わってる。×××××す××だったものは××を××す××に変わっていた。だからと言って何の手がかりにもならなさそうだ、さっぱり分からないまま。


「わたし達は何か特別なものを持ってるって事?」


 矢神は理解が追い付いていないのか声を震わせながら問いかけた。俺だって理解できない、神様が何を考えてるかも、何がしたいのかも。


「俺はアンジュの人間じゃないって言ったよな? 矢神に殺されたって……それで転生してこの世界に来たんだ、矢神もそうなんだよ、記憶がないのか?」

「そんな……わたしはディア―ブルの人間よ……? 生まれた頃から姫としてこの国を見守って、処刑して、魔法を使って……だってそう言ってたもの……ねぇ、ルプス……そうよね?」


 矢神は涙を流しながら呟いた。こいつ、やっぱり記憶を失くしてる。あの長身男にいいように扱われているって事か。記憶を失った状態でこの世界に飛ばされて右も左も分からない矢神を姫としてディア―ブルに連れて帰って沢山の嘘を詰め込まれた。もしくは記憶を意図的に消されたか……


 だから俺を殺した事も本気で覚えていないのか。やっと繋がった、モヤモヤが一気に晴れた。こいつの曖昧な態度と記憶……全部記憶を失っていたからだったのか。


「俺は本当の矢神を知ってる、もうこんな事やめろよ……お前を許す気はない、でも闇に染まるのを放ってはおけない」

「お人よしなのね、でもわたしは大切な人を守るために足を踏み入れないといけない」

「ただの同情だ。俺はお前を止める、絶対に」


 矢神が世界を滅ぼすというのなら俺はそれを全力で止める、それが俺の復讐だ。記憶を失ってる矢神を殺したって復讐にならない、ちゃんと俺を殺した事を思い出してほしい。こんな状態で殺したって意味がない、心の蟠りだって解けやしない。


「矢神がこの世界の闇になるなら俺は光になる」


 俺は真っ直ぐと矢神を見た。戦うのは今じゃない、でもこの瞬間はどんな時よりも緊張した。




 そして俺達は一言も会話を交える事無く皆の元へと戻った。

 お互い黙りこくって、まるでたった今別れたカップルかのような姿にアンジュの皆は俺達に他人行儀な視線を送る。皆が遠慮がちにしているのが痛いほど伝わり、俺も言葉を発すに発せない状況に陥った。さて、どうしたものか。矢神と話した内容を皆に言った方がいいのか、言わない方がいいのか……俺だけの問題じゃないから安易に喋れないな。でも矢神は世界を滅ぼそうとしている訳で……


「イ、イオリおかえりでござるっ!」


 俺の元に駆け寄ってきて遠慮がちに口を開き不自然に微笑んだフルル、その勇気に少しだけホッとした。俺も「ただいま」と微笑んで、助かった。とフルルの頭を撫でた。実際フルルの言葉が無ければずっと沈黙の空気が続いていただろう。尻尾をブンブンと振って喜ぶフルルにまた微笑した。こうやって見るとフルルも可愛い。属性が詰め込まれ過ぎていて疲れはするが中身は普通の女の子なんだって、ふと感じる。


「何はともあれ、一件落着だな。ディア―ブルの皆も助かって良かったぜ」

「安心できるのも束の間じゃが、私達は帰るとしよう。王子にも報告せねばならぬ」


 城を出ようとするゼルさんと白露さんの背中を追いながら、ふと後ろを振り返ると俺達を眺めていたのか矢神と目が合った。気まずそうに目を逸らしながらも矢神はゆっくりと口を開いた。


「あの、ありがとうね……助かったわ」


 矢神の予想外の発言にアンジュの皆は振り返った。隣にいる普段感情を出さない長身男も信じられないと言いたげな表情を見せた。あのお礼なんて絶対に言わない矢神が、しかも俺達に感謝するなんて……一体どんな風の吹き回しなんだ?


「国や思考は違えど、ディア―ブルとアンジュは一時の短い間でも協力してた仲間なんだ。まあ、上手く言えねぇけど頼ってくれ」


 立ち止まってキッチリと告げるゼルさん。ディア―ブルの事を根から嫌ってると思っていたけど実際そうでもないのか? 盗賊討伐のあの森でも自己紹介を持ちかけたり、よくよく考えたらディア―ブルとアンジュの関係を修復したいのかもしれない、俺と矢神の関係は置いておいて、俺もそうなるのが一番いいと思う。こんなに近くて強い魔法を使える人間が沢山いる二つの国が手を組むのは得策だとは思う、ディア―ブルの過激な思考は考え物だが、上手くいけばこの世界を纏められるような気がするんだ。

 まあ、例え二つの国が友好関係を結んだとしても矢神を許す事は出来ないし仲良くする事も出来ないけどな。でもそれでアンジュが少しでも良くなるなら……



「ディア―ブルとアンジュが協力していた時期なんて前にもあったんですか?」

 馬車に乗りながら夕焼け空を見つめているゼルさんに向かって問いかけると、少し悲しげな何とも言えない表情で口を開いた。


「ああ、ディア―ブルの王が死んでからあの悪魔を封印するまでの間、二つの国は協力していた。どちらもあの悪魔を倒したいという意見が一致していたから」

「それも束の間、目的を果たしてしまえば次第に交流は薄れ、いつしか見かければ戦闘が始まって……そんな日々が続いておったのじゃ」

 最初に俺がディア―ブルに忍び込んだ時も、アンジュの騎士の処刑をしている最中だった。その騎士が何をしでかしたのかは分からないが、あれを見れば仲が良いどころか悪いのは一目で分かる。


「今の状況を相棒が見てたら……きっと悲しむだろうな」


 ゼルさんは夕日に視線を戻し、ポツリと呟いた。こればかりはゼルさん一人じゃどうにもならない、きっと俺達数人の力でも何も出来ない。仕方ないと言えばそれまでだが、ゼルさんは諦められないんだろう。その相棒さんと何か約束でもしたのか、申し訳なさそうな気持ちが目に表れていた。


「その相棒さんの為にも頑張ってこの世界を守らないといけませんね」

「ああ、相棒たちが命を懸けて守ったんだ、俺も死ぬ覚悟で守る」


 ゼルさんのその瞳には一筋の迷いも無かった。


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