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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第2章 勇者イオリ、謎の悪魔に立ち向かう。
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悲哀の騎士


「そういう事だったのか、姫はお前等のせいで……」


 突然背後から聞こえてきた低く恨みの籠った声。驚いて振り返ると、いつの間にか長身男が立っていた。いつから目を覚ましていたのだろうか。


「少し前から話は聞いていた。よくも面倒事に姫を巻き込んでくれたな……ただでは済まさぬぞ」

「仕方ないだろ! アイツの記憶が蘇ってしまったらもっと取り返しのつかない事になる。それこそ姫もお前も死ぬんだぞ?」

 ゼルさんの必死な言葉に長身男は呆れた様な顔をして見せる。矢神の事がそれほど大切だってことは痛いほど分かった。でも問題はそんなに簡単じゃない。


 ――そうだ!


「あの男を言いくるめるのはどうですか?」


 そうだ、事実を捏造して、俺達を味方だと思わせておけばいいんだ。記憶を失っている以上、捏造した話を吹き込むことで善人にも悪人にもできる。そうすればアンジュも矢神も守れるはず……


「俺達が封印を解いた、俺達は味方だ……そう言いくるめて真実を捏造するんです。アスタロトさんの言葉をあの男は疑いもせず信じた。だから試してみる価値はあります!」

「そうか……流石イオリ! 名案だな!」


 ゼルさんがニカッと笑うとアンジュの皆は納得したような表情を見せた。だがディア―ブルのお二方は中々気が乗らないようだ。なんせ「殺してやる」だとか言ってたからな。どうしても力で解決したいようだ。


「あの男を倒したい気持ちも分かります。でも現実的に考えて今の力じゃ無理……とりあえず矢神とこの世界を守りましょう。それが出来ないと元も子もない」

「アンジュの奴の意見に賛同するのは気が引けるが仕方がない」

 長身男が溜息を付きながら述べると、ガキもソワソワしながら頷いた。


「だが俺は必ずアイツを殺す。姫を危険にさらした借りはきっちり返さなくてはな」

 相変わらず恨みの籠った眼で長身男は語ってみせた。どれだけ矢神の事を大切に思ってるんだ、ここまで来ると逆に怖いくらいだ。あんな化け物みたいな男に怖気づく事もせずに絶対に矢神を守ろうとする……

 長身男はもしかしたら矢神の事が好きなのか? それも恋愛対象として。何だか主従関係を通り越した関係のように見える……そう、一種の愛情の様な。全て納得いくし辻褄が合う……矢神の事を少しでも悪く言うと睨みつけられたり、少しでも触れる者は殺す、命令には絶対に従う。そして……命の捧げてもいいと言う程の揺るぎない信念……


 コイツらは一体どんな関係なのか、分からなさすぎて気になる。


 さっきから鋭い視線で俺の方を見てくる長身男。俺の案に賛同できないのは分かるがこうも敵意剥き出しにされると反応に困る。


「あの……どうしてそこまで矢神……姫に忠実になれるんですか?」

 耐えかねて質問を投げかけると、長身男はそんな事も分からないのかと言うような顔をした。


「ディア―ブルは絶対的悪魔信仰の国。俺達使い魔は主である姫に命をささげるために生まれてきた……ただ使命を全うしているだけだ」

 気持ち悪い程の違和感……未来が異常なだけでこの時代では普通の事なんだろうか。だが俺からしたら考えられない、命を懸けてまで忠誠を誓うなんて……


 それはそうと長身男の考えと想いは伝わった。このままでは何だか放っておけない。俺に出来る事なんてないってツッコミが来そうだけど気持ち的な問題でどうしてもこの件はスルー出来ない。かと言ってこいつらの方針には全くと言っていい程納得できないけどな。


「前から思っていたが貴様は何故姫を“ヤガミ”と呼ぶ?」

 長身男が厳しい目つきで問いかけてきた。やっぱり皆最初はそう思うよな……「あいつは未来で俺のクラスメイトで、名前は矢神で……俺は実は未来の人間で、それで……」なんて言っても信じてもらえないよなぁ。


「知り合いに似てるからそう呼んでしまうんだ。申し訳ない」

 長身男やガキからは不思議そうな顔をされ、アンジュの皆からは心配そうな顔をされた。嘘を付くのは心が痛むし、絶対間違った選択肢だったのは明白だが、これ以上場を治められそうな嘘を思いつけなかった。


「セレモニーの時から貴様は姫の事を深く知っているように見えたが全て勘違いだったと言うのか」

「あ、ああ……」


 セレモニーの時に矢神の両端に居たフリューテッドアーマーのような物を纏っていた騎士はこいつ等だったのか? あの時から俺は目を付けられて……だからこのガキに弓で狙われた……全て納得いった。

 あの時は感情に身を任せ過ぎた、もう少し冷静に対処できたはずだ、背後から回って殺すだとか、情報だけ集めて後日暗殺するだとか……あの時の俺は何であんな事したんだろう。ゼルさんに怒られる羽目になったしな。


「……っ!?」

 突然食いつくように自分のMPMの画面を操作し始める長身男、今度は何だって言うんだ……


「姫の魔力が大幅に消耗されている……あの男の仕業か……」

 矢神の魔力を何に使っているんだ……既にアンジュへの攻撃を始めた……? いや、あの男は記憶を失っている、アンジュの存在自体覚えていないはずだ、矢神が余計な事を言っていなければ。

 だとしたら一体何の為に……


 「おい! その魔力の出所は?!」


 ゼルさんも食いつくように長身男に迫る。突然間近に寄せられたゼルさんの顔に驚きながらも静かに口を開いた。


「こ、この城だ……出所はこの城になってる……何故だ? どういう事なんだ……」


 長身男は声を震わせながら呟いた。まさかと思いMPMの画面を覗き込む。長身男とガキを寝かせるためにこの城中駆け、部屋中を見て回った。それが本当ならとっくに矢神達を発見できてるはずだ。

 

 ――いや、これは……嘘じゃない、本当にこの城から異常な程の魔力反応がある。一体どこにいたんだ? 見つけられなかったはずがない、何処に隠れて……


「祭壇だ! ついて来い!」

 ゼルさんはそれだけ言い残すと勢いよく部屋を飛び出した。状況を飲み込めずにいながらも、ゼルさんの言うとおりにするしかないと皆も後を追った。

 ゼルさん、貴方は一体どこまで……いや、何を知っているんですか? 過去に何があったんですか……俺達は一体どうすれば……――


「ゼルさん! 城の中は一通り見ました、祭壇もです! きっとMPMはバグってます!」

「違う……祭壇には仕掛けがある……絶対解いてはいけない仕掛けがあるんだ!」


 ゼルさんから返ってきたのは驚愕の事実だった。嘘だ、俺が見た時は何の変哲もない西洋風の祭壇だった。未来とさほど変わらない十字架と装飾の施された黒の大理石に囲まれた空間……真ん中には天使と悪魔の石像があって周りには沢山の深紅の薔薇……違和感はなかった。あれの何処に細工が? 長身男もその仕掛けの存在を知らなかったのか、不意打ちに合ったような驚愕の色が見える。


 どうしてディア―ブルの姫の側近でも知らない事をゼルさんは知っている? 俺の中でだんだんとゼルさんへの謎が深まっていく。解決されない謎はやがて疑惑へと姿を変える。

 駄目だ、こんな気持ちで集中できない、ゼルさんの事を信じないと。ついて行くって決めたんだ……大丈夫、ゼルさんが俺達を裏切るなんて事……


「イオリ……」

「大丈夫だ、フルル。今はゼルさんを信じるしかないんだ……大丈夫だって、きっと」

 やっぱりフルルも不安なようで曇った笑顔を見せた。今から何が起こるのか分からないんだ、そりゃ不安にもなる……こういう時に俺がしっかりしてないと。いつもフルルに助けられてる分俺が守らないと……


 廊下の角を曲がるとやはりさっき見た通りの祭壇。何の変哲もない普通の祭壇だ。


「貴様……姫の側近である俺でも知らない機密情報を知っているとは……何者だ?」

「今はそんな事説明しなくてもいいだろ? 急が…………イオリ……?」


 俺はゼルさんの腕を掴み話を遮った。こればかりは長身男と同じだ。ちゃんと説明してもらえるまでゼルさんの事を信用できない。疑ってるわけでも怪しいと思ってる訳でもない。ただ、この状態でゼルさんの指示に従うのが本当に正しいのか分からない。説明をしてもらった上で自分の意思でゼルさんについて行く。

 これから何が起こるのかも、過去に何があったのかも、ゼルさんがディア―ブルの機密事項を知っていることも……全てが謎に包まれている、フルルが……皆が不安になっているのは目に見えて分かる。それを放って黙ってついて行くなんて俺にはできない。


「ゼルさん、説明してください。これから何が起こるのか、何があったのか……そしてゼルさんは何者なのか」

「イオリ……お前俺を疑ってるのか?」

「そうじゃありません、ただ……何も知らずについて行くだけじゃなく、全てを知ったうえで戦わせてください。こんなに皆が不安な状態で戦うなんて無謀すぎます」


 少しも逸らす事のない真っ直ぐな俺の目に、折れるしかないと思ったのかゼルさんは大きなため息をついて口を開いた。



「分かった。詳しく話す……俺の過去と正体を」




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