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俺を殺したクラスメイトが魔王だったので喜んで討伐させてもらいます。  作者: 蒼龍
第2章 勇者イオリ、謎の悪魔に立ち向かう。
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悪魔の国に悪魔が舞い降りる


 ディア―ブルに足を運ぶのは二度目、前回はセレモニーの時……俺が矢神を見つけた日。その日はこんな物なかったはずだ。いや、無かった。


 ――……城に向かって一直線に伸びた凄まじく大きな地面の亀裂なんて。


「一体何があったんだ!」


 ゼルさんは緊迫した表情で街の人間に声を掛ける。だがこの状況を把握している人は誰一人いなかったようで、皆「何が起こってるのかこっちが聞きたいくらいだ」というような表情だ。

 この亀裂、もしかしなくてもあの男の仕業か。こんな心配したくはないが矢神は無事なのか? アイツには生きててもらわないと困る。


「俺、見たんだ……白い髪の男が道を歩いていた。ただそれだけで……こんな亀裂が出来ちまったんだ……」

 一人の男が声を震わせながら語った。ただ歩いただけでこの有様。長身男とガキが居ても矢神の無事は確信できなくなってきたな……


「早く向かわなくては、手遅れになってしまうぞ!」

「ああ、分かってる!」


 城に向かって走り出した白露さんとゼルさんの後を必死に追う。一体城で何が起こってるのか……矢神は生きているのか、それだけを確認しに。


 そんな事を考えていると、大きな城の扉にぽつりと投げ出された物が見えた。

 あれは……? ――……っ! 大量の血……死んでる、死体だ。あの男、関係ない国民にまで手を出しやがったのか?


「此奴だけではない、死体の気配が多数ある。恐らく城の中の騎士全員殺されておる……」

 悲しげな表情の白露さんが呟いた。この調子だとあの長身男とガキも……? つい最近、一瞬で二十以上の盗賊を葬ったあの長身男が殺されているかもしれない、あんなに強い奴でも敵わない相手……。


「クッソ……! もう痺れ切らした。窓ぶち破って行くぞ」

「何を考えておる! お主は馬鹿か?」

「その方が手っ取り早いだろ?! ほら、行くぞ!」


 その瞬間ゼルさんは恐らく矢神やあの男がいるであろう一番大きな窓に突っ込んでいった。いつの間に剣を取り出したのか、さらに既にそれは炎を纏っていた。途端に聞こえるガラスの割れる音と爆発音。ここに俺も突入しなくちゃいけないと思うと気が重い。こんな強行突破あんまりすぎる……。


 そんな甘えたことは言ってられず、続けて割れて跡形もない窓から侵入した。


「テメェの自由な時間もそこまでだ。大人しく封印された場所に戻ってもらうぜ?」


 焔を纏った剣を構えたままのゼルさん。その先には恐怖に満ちながらも驚愕した矢神と笑顔でゼルさんを見つめるあの男。傍には倒れた長身男とガキがいた。

 やっぱり長身男でもあの男に敵わないのか? それどころか男は無傷……一体どれほどの魔力を持っているんだ。


「それよりも先に……お願いだからこの二人を……助けて! お願い……っ!」

 今まで見た事が無い程悲痛な声で泣き叫ぶ矢神。あんな残虐非道な性格でもこの二人の事は大事にしてたんだろう、その涙は偽物じゃなく本当の涙の様な気がした。


「何が目的で周りを巻き込むのじゃ、いくらなんでも殺す事はないであろう!」

「……? そうかな? サリーに会わせてくれないから殺しちゃった、それだけで理由としては十分だろう?」


 何か可笑しいことした? とでも言いたそうなキョトンとした表情で言ってのける男に矢神は怒り震えた。

「アンタ……一体何なのよ。何でわたしの大切なものをそんなくだらない理由で……殺してやる、アンタだけは許さない……!!!!」

 涙を流しながら男に訴える。そんな姿を見ても男はニコニコと笑顔で矢神を見つめていた。


「それにまだ()()()()()()は生きてるよ。殺しちゃってもいいけどね……」

「何が望みなのよ、この二人は殺さないで……」

 瞳に涙を浮かべながら懇願する矢神に男は笑顔のまま続けた。


「僕と一緒に新しい世界を作ろう。君が僕の事を、僕が君の事を思い出すまで」


 男はそっと矢神に手を差し伸べた。俺たちが一番恐れていた事が起こっている。矢神と男が手を組むこと、それはアンジュの終わりを意味する。幸いお互いの事を覚えてないみたいだが、もし記憶が戻ったとしたら……


「ダメだ! 乗るな……そいつは国を潰しかけたんだぞ?! 今だって外を見てみろよ、そんな奴のもとに行くなんてダメだ!」

 矢神は傍で倒れている二人を見て強く目を閉じた。きっと矢神にとってこれは辛い選択なのかもしれない。ゼルさんの言っている事は正論で、俺もそうするのが最善だと思う。だが俺が矢神だったら……? フルルやアスタロトさんが殺されそうになってるのに自分を守るために二人を見捨てられるのか?



「……ごめんなさい。二人を見捨てる事はできないわ」



 矢神は涙を流しながら申し訳なさそうに呟いた。


 矢神が零した言葉に誰もが同情した。本当だったらゼルさんもあんな事は言いたくなかっただろうに。でも、危険すぎる。俺らにとっても矢神にとっても……。

 ゼルさんの言うとおりこの男について行かない道を選んでもきっとこの男はただでは食い下がらない。男について行く道を選んだらこれから先ずっと恐怖と戦わなくちゃいけない。それに矢神が男と手を組んだ場合はアンジュの皆まで被害が及ぶかもしれない。


「姫、なりません……その男について行っては駄目だ」


 唇から血を流しながらも傷だらけの長身男がゆっくりと起き上がる。コイツ、まさかまだやり合うつもりじゃ……

「お願いだから動かないで……このままじゃ貴方は死んでしまう」

「姫を守れるのなら俺の命など惜しくも無い」


 いつもに増して真剣な表情で矢神を見つめる長身男。こいつらは残虐非道な悪魔、心なんてない。そう思っていたのに……何故か心が揺らぎそうになる。俺が殺された時を思い出すんだ、そしたらこんな同情心なんて軽く消え去るはずだ。

 それなのに俺はどうして泣きそうになってるんだ? あんな酷い事をされたのにどうして……


「早く、わたしは貴方について行くから……ここを出ましょう? ……早くして頂戴」

 瞳に涙を浮かべながら零した矢神の言葉に男は笑顔で頷いた。駄目だと言ってはいけないのに……その言葉は喉元まで込み上げてくる。


『生贄の血を全て捧げる、我の剣へ憑依し命を刈り取れ……』

 一本の刀を取り出して、目を閉じ静かに詠唱を始める長身男。本気でまだ戦うつもりのようだ。この前盗賊と戦った時はこんな詠唱はしていなかったはずだが……これが長身男の命と引き換えに放つ一撃なのか?


「状態異常、睡眠効果を付与。……ハッ!」

 突然白露さんが長身男めがけて弓を放った。その手があったか! これで長身男の命だけは守れる。だが俺たちが変な真似でもしたらいつ殺されてもおかしくない、慎重に行動しなくてはならない。

 ここにきてもう矢神が助かる道は無い事に気が付いた。どの選択をしても矢神が男の元に居ないといけなかったり、矢神含め俺たち全員消されたり……


 一体どんな選択をするのが最善なんだ?


「……貴様、何を…………っ」

 足元を崩しながら倒れ込み静かに目を閉じる長身男。ゼルさんが慌てて駆け寄り肩を支えるが、眠りは深いようでぐっすりと眠っている。


「……これで満足か?」

「ええ、ありがとう。……この二人の事は頼んだわ」


 矢神は無理矢理作った笑顔でそれだけ言い残すと、男の手を取り一瞬で消え去った。

 憎たらしいはずなのに、殺さなきゃいけない相手なのに……なんでこんなに心が空しいんだ、なんでこんなに涙がこみ上げてくるんだ……


 あの後俺達は落ち着く間もなくベッドのある部屋を探し回り長身男とガキを寝かせた。幸い白露さんが救命用の回復魔法を覚えていたので二人の容態はすぐに良くなったようだ。


「……あれ、僕なにして……。――……っ!! ねぇ! おねぇちゃんは?!」


 一足先に目を覚ましたガキは慌てて周りを見回した。一体なんて説明すればいいんだ? 矢神をあの男に渡してしまった。そんな事正直に言える訳がない、大体コイツは小さい子供だ。

 そして隣で寝ている長身男を見つめてガキは呟いた。

「ああ、お兄ちゃんまで…………殺す、あの下衆野郎……」

 なんだコイツ……表情を変えるでもなく真顔のまま……こんなに小さいガキなのにどれだけの闇を抱えているんだ。


「冷静になれ、今の戦力じゃ正直言って無理だ。……戦略を練るんだ」

 珍しく冷静にゼルさんは提案した。驚いた、ゼルさんの口から戦略って言葉が出るなんて。事態はそれほど深刻だという事だな……

 戦略を練るにしてもどうするんだ? 大体矢神が何処に居るかも分からないしこれ以上俺たちが踏み入ってもいいのか? 余計な事をしてあの男が怒りでもしたら……

 かと言ってこのままなのも絶対に良くない。あの男、何を企んでる……


「アイツに勝つには一体どうすりゃいいんだ……どれだけ考えても思い浮かばねぇ……」

 ゼルさんは頭を抱えて呟く。あの男と一度戦ったゼルさんが言うんだ、きっと想像もできない程の強さを持っているんだろう、そんな奴に勝つ方法なんてあるのだろうか。

 少なくとも俺はまだまともに魔法を使いこなせない、きっとハルに全部任せることになるだろう。そして魔力の少なさから召喚していられる時間もわずか……この前の特訓の時でさえ少し息が上がる程きつかった。そんな短時間であの男を倒さなきゃいけない……


「無理っすよ……俺達には早すぎます」

「だけど命を懸けてでもアンジュを守らないといけないんだ」


 俺だってアンジュを守りたいって思うし叶うのならずっとこの平和な日常が続けばいいなって思ってた。いきなり過去の時代に飛ばされて、訳も分からないまま魔法を覚えて戦って。少し落ち着いたと思ったら今度は世界崩壊の危機……神様は一体俺にどんな恨みを持ってるのか。

 そう思ったって事態は変わらない、だったら少しでも皆の役に立てるように何かできる事はないだろうか、


「僕たち四方の王の力があればなんてことないよ。それに、アンジュにもいるんだよね? 四人の天使と伝説の一人が」


 澄ました顔でゼルさんを見るガキ。アンジュの四大天使? そんな話は聞いたことが無い。もし鍵になるのなら勝算はあるんじゃないか? デイアーブルの四人の悪魔とアンジュの四人の天使と伝説の一人……力を合わせることが出来たら……!

 そんな希望は一瞬で引き裂かれる。ゼルさんは申し訳なさそうに言い放った。


「その中の二人はもういない……残る天使を司る者は俺と白露と王子。残念なことに王子も生まれつき魔力を持ち合わせていないんだ」


 王子が戦闘についてこない理由……それはただ単に王子であるから外に出る事を禁じられているのかと思っていたんだが、まさか魔力を持ち合わせてないなんて……

 そしてあとの二人って誰だったのか、もういないって……? そんな様々な疑問が俺の脳内に押しかけてきた。



「イオリ、俺には昔相棒が居たって言ったよな、そいつともう一人が命を懸けてあの男を封印したんだ。少なくともそれだけの魔力が必要な程強い封印じゃないと駄目なんだよ……」


 突然ゼルさんは俺の顔を真っ直ぐ見て告げた。もしかして今回はゼルさんが犠牲になるつもりじゃ……そんなの違う、第一また封印が解かれるかもしれない。その時は? その度に誰かが犠牲になっていたらキリがない。そんな事でゼルさんを犠牲にするなんて絶対に出来ない。かと言って他に策がある訳でもないが。


「それでは埒があきません、もっと別の方法を考えましょう?」

「俺の考えに気付いたか……得策だと思ったんだけどな」


 少なくともゼルさん白露さん、ディア―ブルの四人の力でどうにかできないか……俺やフルル、リリアン、アスタロトさんは出来る限り補佐をしよう。今回は相手が悪すぎる、不本意ではあるがディア―ブルと手を組むしかなさそうだ。

 だが、長身男は未だに目を覚まさない。白露さんの睡眠魔法が効いているのか、それとも過度な負傷が原因か……復帰はしても戦闘に出すのか危険か? となると更に人数が減る。


「ゼル……ここまでの事態になったのじゃ。もう隠してはおけぬぞ?」

「そう、だよな……」


 二人のただ事ではない重苦しい雰囲気、更にまだ言っていない事があるのだろう。その事実は明白でゼルさんは更に口を開いた。もうお腹いっぱいだ、あとどれほどの闇を見なくてはいけないんだ、これ以上のどんな事件が待ち構えているんだ……聞きたくない、でも聞かなくては。


「きっとあの男が探してるのはあの姫じゃない。」


 ゼルさんは真剣な顔でハッキリと述べた。その嘘偽りのない表情に少し戸惑う。矢神じゃなかったのか……だとしたらどうして男は気付いていないんだ? それをちゃんと伝えていれば矢神とあの男が手を組むことは無かったんじゃ……


「ディア―ブルは昔から姫の名前は“サリー”で統一されている。……だよな?」


 チラッとガキの方を見て問いかけると、何故知ってるのかとでも言いたげな顔でコクリと頷いた。


「俺の知ってるサリーはもうこの世には存在しない。きっとあの男が探してるサリーも俺が知ってるサリーだ……白露と俺にしか分からない。アンジュが崩壊しかけた時に俺の相棒と一緒にアンジュを守ってくれた……だからもう……いないんだ。」


 瞳に涙を浮かべながらゼルさんは語った。あの男を命がけで封印したもう一人は矢神が現れる前のディア―ブルの姫だったって事か……? 情報量が多すぎて頭が追い付かない。結局矢神は人違いで連れ去られたって事になる。


「だけど言っちゃ駄目なんだ。さっきアスタロトが記憶喪失について教えてくれた時に詳しくMPMで調べたんだが……」

「記憶を封じられた際の様子が明かされる時……対象の記憶は蘇り封印魔法の耐性がついてしまう。……そうよね?」

 静かに口を開くアスタロトさん。成程、そういう事か……だからあの男がいる時に真実を告げることが出来なかったのか……

 

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